優れたビジネスアイデアと、熱い情熱。そして、誰にも頼らず、自らの力で道を切り拓くという、強い覚悟。
しかし、いざ「会社」という形を考えた時、あなたの頭に、ふとこんな疑問がよぎるかもしれません。
「仲間がいないと、会社は作れないのでは…?」
「確か、取締役は3人以上必要だったような…」
もし、あなたがそのように思い込み、起業への一歩を躊躇しているとしたら、それは非常にもったいないことです。その知識は、もはや過去のものとなりました。
結論から申し上げます。現在の日本では、取締役「一人だけ」で、立派な株式会社を設立することは、完全に可能です。
この記事では、単に「一人で設立できる」という事実を伝えるだけではありません。なぜ、それが可能になったのかという法律の歴史的背景から、一人で設立する場合の具体的な選択肢(株式会社 vs 合同会社)、そして、実際に「一人社長」として会社を経営していくことの、リアルなメリットとデメリットまで、あなたの「一人での起業」に関する、あらゆる疑問と不安を解消するための全知識を、徹底的に解説していきます。
第1章:2006年の革命。会社法改正が、日本の「起業」をどう変えたか
「取締役は3名以上必要」という記憶は、決して間違いではありません。それは、2006年まで施行されていた、古い法律(旧商法)のルールでした。かつての日本では、会社設立は、今とは比較にならないほど、ハードルの高いものでした。
「旧商法」時代の、高い壁(~2006年5月)
かつて、株式会社を設立するためには、以下のような厳しい条件をクリアする必要がありました。
- 取締役3名以上が必須:会社の意思決定と業務執行を担う取締役が、最低でも3人必要でした。
- 監査役1名以上が必須:取締役の業務執行を監査する、監査役が最低でも1人必要でした。
- 最低資本金制度:株式会社には1,000万円、有限会社(旧制度)には300万円という、最低限の資本金が求められました。
つまり、志ある一人の個人が、独力で株式会社を立ち上げることは、制度上、不可能だったのです。起業とは、十分な自己資金と、信頼できる仲間を最低でも3人以上集めることができた、一部の人々だけの特権でした。
「新会社法」が生んだ、新しい常識(2006年5月~)
2006年5月1日に施行された「新会社法」は、日本の起業環境に、まさに革命をもたらしました。個人の能力を活かし、もっと自由に、もっと機動的に事業を始められるように、様々な規制が大幅に緩和されたのです。
- 取締役は1名からOKに:取締役会の設置が任意となり、取締役1名だけでも株式会社を設立できるようになりました。
- 監査役は任意に:株式譲渡制限会社(ほとんどの中小企業が該当)では、監査役の設置も任意となりました。
- 最低資本金制度の撤廃:資本金は、法律上1円からでも設立可能になりました。
この歴史的な法改正により、「一人株式会社」という、新しい時代の働き方が、完全に認められることになりました。これは、優れたアイデアと情熱さえあれば、誰でも、一人からでも、株式会社のオーナー社長として挑戦できる時代の幕開けを意味したのです。
プロの視点:
ちなみに、現在存在する4つの会社形態(株式会社、合同会社、合名会社、合資会社)のうち、唯一、一人で設立できないのが「合資会社」です。これは、会社の負債に対して全責任を負う「無限責任社員」と、出資額の範囲内で責任を負う「有限責任社員」の、最低でも2種類の社員が必要となるためです。しかし、現在では、無限責任という大きなリスクを伴う合資会社が、新たに設立されるケースは、極めて稀です。
第2章:【徹底比較】「一人株式会社」と「一人合同会社」、あなたに最適なのはどっち?
一人で会社を設立できる、と言っても、現実的な選択肢は、大きく分けて2つあります。それは、伝統的な信用力を誇る「株式会社」と、近年、その手軽さから人気が急上昇している「合同会社(LLC)」です。
どちらも一人で設立できますが、その性質は大きく異なります。あなたの事業戦略に合わせて、最適な「器」を選びましょう。
比較項目 | 株式会社(Kabushiki Kaisha) | 合同会社(Godo Kaisha / LLC) |
---|---|---|
設立費用(実費) | 約20.2万円~(定款認証 約5.2万+登録免許税 最低15万) | 約6万円~(定款認証 不要+登録免許税 最低6万) |
社会的信用力 | 非常に高い。知名度・歴史ともに、最も信頼される会社形態。 | 株式会社に比べると、まだ低いと見なされる傾向がある。 |
意思決定機関 | 「株主総会」が最高意思決定機関。法律に則った厳格な運営が求められる。 | 「社員総会」が意思決定機関。定款で、比較的自由にルールを定められる。 |
利益の分配 | 出資比率(持株割合)に応じて、配当を行うのが原則。 | 出資比率に関係なく、定款で自由に分配ルールを定められる。 |
役員の任期 | 最長10年。任期満了ごとに、役員変更登記(費用発生)が必要。 | 任期はない。変更登記は、役員が交代する時のみで良い。 |
資金調達(出資) | 株式を発行して、外部の投資家から出資を受けることが容易。上場(IPO)も可能。 | 外部から出資を受けるには、全社員の同意が必要など、手続きが複雑。上場はできない。 |
プロの視点:
もし、あなたが将来的に、ベンチャーキャピタルなどからの「出資」による資金調達や、「株式上場(IPO)」を目指しているのであれば、選択肢は「株式会社」一択です。合同会社は、その仕組み上、外部からの大規模な資金調達には向いていません。
一方で、「とにかくコストを抑えて、スピーディーに法人格が欲しい」「外部から出資を受ける予定はない」ということであれば、「合同会社」は非常に魅力的で、合理的な選択肢となります。
第3章:【一人社長のリアル】一人会社を経営する、ということ
法的な器が決まったとして、実際に「一人社長」として会社を経営することは、どのようなメリットとデメリットをもたらすのでしょうか。
一人会社の「3つの自由」(メリット)
- 圧倒的な意思決定の速さ:会議も、稟議も、根回しも、一切不要です。あなたが「やる」と決めた瞬間、それが会社の正式な決定となります。市場の変化に、誰よりも早く、そして俊敏に対応できるこの「スピード」は、大企業には決して真似のできない、一人会社ならではの最強の武器です。
- 利益の100%を享受:あなたが株主100%の会社であれば、会社が生み出した利益(税引後)は、すべてあなたのものです。配当として受け取るか、内部留保として会社の成長のために再投資するか、その采配も、すべてあなたが自由に決めることができます。
- 人間関係のストレスからの解放:共同創業者との意見の対立、上司への報告、部下のマネジメント…。会社員時代にあなたを悩ませた、あらゆる人間関係のストレスから、完全に解放されます。あなたは、ただひたすらに、お客様と、そして自らの事業と向き合うことに、全エネルギーを集中できます。
一人会社が背負う「3つの重責」(デメリット)
- 無限の業務範囲:あなたは、輝かしい「代表取締役社長」であると同時に、会社の「営業部長」であり、「経理部長」であり、「総務部長」であり、そして「カスタマーサポート担当」でもあります。売上を上げるためのコア業務から、請求書の発行、税金の計算、社会保険の手続きまで、会社の運営に必要な全ての業務を、たった一人でこなさなければなりません。
- 客観性の欠如という罠:あなたのアイデアに、「それは違うんじゃないか?」と、待ったをかけてくれる人間は、社内に誰もいません。あなたの判断が、常に唯一の正解となります。この状況は、時に、独善的な、あるいは視野の狭い経営判断を招き、気づかぬうちに、会社を誤った方向へ進めてしまうリスクを内包しています。
- 健康リスクの深刻化:もし、あなたが病気やケガで倒れてしまったら、どうなるでしょうか。会社の全ての機能が、その瞬間に、完全に停止します。売上も止まり、請求業務も止まり、お客様への対応も止まる。あなたの健康が、そのまま会社の経営リスクに直結する。それが、一人会社の、最も脆く、そして最も深刻な弱点です。
結論:あなたは「一人」でも、一人で「戦う」必要はない
ここまで見てきたように、現代の日本において、取締役一人で会社を設立し、経営することは、法律的にも、そして現実的にも、完全に可能です。
しかし、一人社長が直面する「無限の業務範囲」と「客観性の欠如」という、重いデメリットを、どう乗り越えるか。その答えこそが、あなたの「一人会社」が、成功できるかどうかの分水嶺となります。
あなたが、売上を上げるための「コア業務」に集中している間、誰が、あなたの会社の面倒で、しかし重要な「バックオフィス業務(経理、税務、労務など)」を、正確に、そして戦略的に行ってくれるのか?
あなたの経営判断が、独善的な罠に陥りそうになった時、誰が、客観的なデータと、多くの会社を見てきた経験から、「社長、こちらの道の方が安全ではないですか?」と、耳の痛い、しかし愛情のある助言をしてくれるのか?
私たち荒川会計事務所は、まさに、そのための存在です。私たちは、あなたの会社の、見えない「もう一人の役員」であり、「社外の経営企画室」です。
あなたは、一人で会社を設立できます。しかし、あなたは、決して、一人で戦う必要はないのです。
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