【定款とは?】会社の憲法の作り方を税理士が解説|絶対的記載事項も網羅

家を建てるときに、寸分の狂いもない「設計図」が必要なように。
国を治めるために、揺るぎない「憲法」が必要なように。

あなたの会社が、この厳しいビジネス社会で生まれ、生き残り、そして成長していくためには、その羅針盤となる、たった一つの絶対的なルールブックが必要です。

それが、「定款(ていかん)」です。

「定款」と聞くと、多くの起業家の方は、「会社設立の時に、役所に提出しなければならない、何やら難しくて面倒な書類」というイメージをお持ちかもしれません。

その認識は、半分は正解ですが、半分は、定款が持つ本当の重要性を見過ごした、危険な誤解です。

定款は、単なる手続き上の提出物ではありません。それは、あなたの会社の事業内容、組織のあり方、利益の分配、そして未来の成長戦略まで、会社のありとあらゆる活動を律する、最高規範となる法的な文書なのです。この最初に作成する一通の定款の内容が、数年後、数十年後のあなたの会社の運命を、良くも悪くも縛り付けることになります。

この記事では、新宿で数えきれないほどの会社の「憲法」作りをサポートしてきた私たちが、ただ「定款とは何か」を説明するだけではありません。その条文の一つひとつに隠された、あなたが下すべき「経営判断」を解き明かし、あなたの会社を未来の成長へと導く、強固で、しなやかな「憲法」を創り上げるための、プロフェッショナルな知識と戦略のすべてを、ここに公開します。

第1章:定款が果たす「3つの重要な役割」

定款は、会社のステージに応じて、主に3つの重要な役割を果たします。

役割1:会社の「設計図」としての役割(設立時)

会社は、自然に生まれるものではなく、法律(会社法)のルールに従って、人為的に創り出される存在です。定款は、その会社の基本的な構造(目的、商号、所在地、資本金など)を定めた、法務局に提出するための、まさに「会社の設計図」です。この設計図がなければ、あなたの会社は、法的な存在として、この世に誕生することさえできません。

役割2:会社の「運営マニュアル」としての役割(運営時)

会社が設立された後、定款は、その会社を運営していく上での、最も基本的なルールブックとなります。例えば、「株主総会は、いつ、どのように開催するのか」「取締役は何名まで置けるのか」「株式を、他人に譲渡することはできるのか」といった、会社の重要な意思決定プロセスは、すべてこの定款の定めに従って行われます。

役割3:会社の「公式プロフィール」としての役割(対外的)

定款は、社内だけのルールブックではありません。金融機関から融資を受ける際、重要な取引先と契約を結ぶ際、あるいは許認可を申請する際など、あなたの会社が何者であるかを、外部の第三者に対して公的に証明する、「公式プロフィール」としての役割を果たします。金融機関や取引先は、あなたの会社の定款を見て、「この会社は、どのような事業を行い、どのようなルールで運営されている、信頼に足る組織なのか」を判断するのです。

第2章:定款の解剖学 ― 3種類の「記載事項」を完全理解する

では、この重要な定款には、具体的にどのようなことを記載するのでしょうか。記載される事項は、その法的な重要度に応じて、3つの種類に分類されます。この分類を理解することが、定款作成の第一歩です。

① 絶対的記載事項 ― 会社の「心臓」。一つでも欠ければ、定款は無効

これは、会社の設立にあたり、必ず定款に記載しなければならないと、法律(会社法第27条)で定められている最重要項目です。もし、この中の項目が一つでも欠けていると、作成した定款そのものが法的に無効となり、会社の設立登記は受理されません。まさに、会社の存在を支える「心臓部」です。

  1. 目的(事業目的):その会社が、何をして利益を上げるのかという事業内容。
  2. 商号(会社名):会社の正式名称。
  3. 本店の所在地:会社の公式な住所。
  4. 設立に際して出資される財産の価額又はその最低額:いわゆる「資本金」の額。
  5. 発起人の氏名又は名称及び住所:会社を最初に創る人(創業者)の情報。
  6. 発行可能株式総数:その会社が将来発行できる株式の上限数。

これらの6項目は、後ほどさらに詳しく、その戦略的な意味を解説します。

② 相対的記載事項 ― 会社の「戦略的な臓器」。記載して初めて、効力が生まれる

この項目は、必ず記載しなければならないわけではありません。しかし、もし、そのルールを会社に適用したいのであれば、定款に記載しなければ、法的な効力が一切認められない、という性質のものです。会社の個性や、将来のリスク管理を決定づける、極めて戦略的な項目群です。

  • 株式の譲渡制限に関する規定:「当会社の株式を譲渡により取得するには、当会社の承認を要する」といった定めです。これを記載しておくことで、あなたの知らない第三者が、いつの間にか会社の株主となり、経営に口を出してくる、といった事態を防ぐことができます。中小企業にとっては、必須とも言える防御策です。
  • 役員の任期の伸長:株式会社の取締役の任期は原則2年ですが、株式譲渡制限会社(ほとんどの中小企業が該当)の場合は、定款で定めることにより、最長10年まで任期を伸長できます。これにより、数年ごとに必要になる役員変更登記の手間と費用(数万円)を節約できます。
  • 現物出資:金銭の代わりに、PCや自動車といった「モノ」を資本金として出資する場合の、その財産の内容、価額、出資者の氏名を記載します。
  • 取締役会の設置:取締役3名以上で設置できる、会社の業務執行の意思決定機関です。設置することで、会社のガバナンスが強化され、社会的信用が高まります。

③ 任意的記載事項 ― 会社の「肉付け」。会社の運営ルールを明文化する

これは、法律上、定款に記載しなくても、その効力が否定されない項目です(会社法に反しない限り)。しかし、会社の基本的な運営ルールとして、あえて定款に記載することで、そのルールを明確にし、将来のトラブルを防ぐ効果があります。

  • 事業年度(決算期):「当会社は、毎年4月1日から翌年3月31日までを事業年度とする」といった定め。会社の会計サイクルを明確にします。
  • 取締役の員数:「当会社の取締役は、1名以上3名以内とする」といった、役員の人数に関するルール。
  • 株主総会の招集時期や議長:年に一度の定時株主総会をいつ開催するかや、誰が議長を務めるか、といった運営ルール。
  • 期末配当の定め:株主への利益分配(配当)に関するルール。

第3章:【実践】定款作成における、6つの最重要経営判断

それでは、会社の心臓部である「絶対的記載事項」の一つひとつについて、その裏に隠された、あなたが下すべき「経営判断」を、詳しく見ていきましょう。ここでの判断が、あなたの会社の未来を創ります。

判断1:「目的」― あなたの会社の「DNA」を設計する

会社の事業目的は、あなたの会社の活動領域を定義する、最も重要な項目です。ここでの設計が、将来の融資や許認可の成否に直結します。詳細は「定款目的、事業目的の記載例」の記事に譲りますが、最低でも「許認可の要件を満たしているか」「融資に有利な、一貫性のある内容か」「将来の事業展開を見据えた、拡張性があるか」という視点が不可欠です。

判断2:「商号」― 会社の「顔」を創る

会社の名前は、法的なルール(同一本店・同一商号の禁止など)を守ることはもちろん、マーケティングの視点も不可欠です。覚えやすく、事業内容が伝わり、そして、WebサイトのドメインやSNSのアカウントが取得可能か、といったデジタル時代のブランディング戦略まで考慮して、決定する必要があります。

判断3:「本店所在地」― ビジネスの「拠点」を決める

どこを会社の公式な住所とするか。自宅、レンタルオフィス、バーチャルオフィス、賃貸オフィス、それぞれにメリット・デメリットがあります。社会的信用、コスト、そして、特定の許認可の要件などを総合的に勘案し、戦略的に決定しなければなりません。

判断4:「設立に際して出資される財産の価額(資本金)」― 会社の「体力」と「信用」を示す

会社法上、資本金1円から会社は作れます。しかし、資本金は、会社の初期の運転資金となる「体力」であり、金融機関や取引先に対する「信用」の証です。資本金が1円の会社に、誰が安心してお金を貸し、取引をしてくれるでしょうか。また、資本金を1,000万円以上にすると、設立初年度から消費税の納税義務が発生するという、致命的な税務上のデメリットもあります。融資審査で有利に働く自己資金額と、税務上のメリットを両立させる、戦略的な金額設定が求められます。

判断5:「発起人」― 会社を「創る人」を定める

会社の設立を企画し、最初に出資をする「発起人」を定めます。あなた一人であればシンプルですが、複数人で起業する場合は、誰が、いくらずつ出資するのかを明確にします。ここで重要なのは、記載する氏名・住所が、個人の印鑑証明書の記載と、完全に一致していることです。

判断6:「発行可能株式総数」― 未来の「資金調達の器」を決める

これは、多くの起業家が意味を理解せず、テンプレートのまま記載してしまう、危険な項目です。これは、「設立時に発行する株式の数」ではなく、「あなたの会社が、将来、定款を変更することなく、最大で何株まで発行できるか」という上限枠を定めるものです。

プロの視点:
この上限枠を、設立時に発行する株式数と同じにしてしまうと、将来、増資による資金調達や、従業員へのストックオプションを発行したいと考えた時に、その都度、定款変更の手続き(費用と手間がかかる)が必要になってしまいます。一般的には、設立時に発行する株式数の4倍から10倍程度を、発行可能株式総数として設定しておくのが、将来の柔軟性を確保するための賢明な設計です。

第4章:株式会社と合同会社、定款に関する決定的な違い

ここまで主に株式会社を念頭に解説してきましたが、もう一つの選択肢である「合同会社(LLC)」では、定款に関するルールが一部異なります。

最大の、そして最も重要な違いは、株式会社では必須である「公証役場での定款認証」が、合同会社では法律上、一切不要である、という点です。

これにより、合同会社は、

  • 設立費用が安くなる:公証役場へ支払う認証手数料(約5万円)が、まるまる不要になります。
  • 設立までの時間が短縮される:公証役場とのやり取りや、訪問の手間が一切なくなるため、設立までのスケジュールを数日間、短縮できます。

なぜ、このような違いがあるのでしょうか。それは、株式会社が、出資者(株主)と経営者(取締役)が別人である「所有と経営の分離」を前提とし、出資者を保護するために、第三者である公証人のチェックを必要とするのに対し、合同会社は、出資者(社員)=経営者であることが基本であり、その必要性が低いと考えられているためです。

結論:会社の「憲法」作りを、テンプレート任せにしてはいけない

定款とは何か。それは、あなたの会社の、過去、現在、そして未来のすべてを規定する、最も重要な「設計図」であり「憲法」です。

その会社の魂とも言えるべき文書を、インターネットからダウンロードした、誰が、いつ、何の目的で作成したかも分からない、無味乾燥なテンプレートで済ませてしまう。その行為が、あなたの会社の未来に、どれほど大きなリスクをもたらすか、もうお分かりいただけたかと思います。

私たち荒川会計事務所は、あなたの会社の「憲法の起草者」です。私たちは、テンプレートを一切使いません。あなたの事業の現在地と、あなたが描く10年後の未来予想図を深くヒアリングし、あなたの会社の成長を縛る「足かせ」ではなく、未来の可能性を無限に広げる「翼」となる、あなただけの定款を、提携する司法書士と共に、オーダーメイドで設計します。

あなたの会社の「憲法」、本当にそのままで大丈夫ですか?

定款を完成させてしまう、その前に。
まずは無料相談で、あなたの会社の「設計図」に、将来のリスクが潜んでいないか、私たちに診断させてください。

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