【定款の作成・認証】会社の憲法の作り方|絶対的記載事項から電子定款まで税理士が解説

会社の設立を決意したあなたが、最初に向き合うことになる、最も重要で、そして最も難解な書類。それが「定款(ていかん)」です。

定款は、しばしば「会社の憲法」と呼ばれます。これは、単なる比喩ではありません。あなたの会社の商号、事業内容、拠点の場所、そして株式や役員に関する根本的なルールまで、会社のありとあらゆる活動を律する、最高規範となる法的な文書なのです。

あなたの会社の未来の融資、許認可の取得、重要な契約、そして株主間のルールまで、すべてが、この最初に作成する一通の定款に、良くも悪くも縛られることになります。

「インターネットで無料のテンプレートをダウンロードして、空欄を埋めれば完成する、簡単な書類でしょう?」

もし、あなたがそのように考えているとしたら、それは、砂上の楼閣を築こうとしているのと同じくらい、危険な考えです。テンプレートは、あなたの独自のビジョンも、事業戦略も、将来のリスクも、何一つ理解してはくれません。

この記事では、単なる手続きの解説に終わりません。定款を構成する条文の一つひとつに潜む「経営者として下すべき、重要な判断」を解き明かし、あなたの会社を未来の成長へと導く、強固で、しなやかな「憲法」を創り上げるための、プロフェッショナルな知識と戦略のすべてを、ここに公開します。

第1章:定款の解剖学 ― 3種類の「記載事項」を理解する

まず、定款がどのような情報で構成されているのか、その全体像を把握しましょう。定款に記載される事項は、その法的な重要度に応じて、3つの種類に分類されます。

① 絶対的記載事項 ― 会社の「心臓」。一つでも欠ければ、定款は無効

これは、会社の設立にあたり、必ず定款に記載しなければならないと、法律(会社法第27条)で定められている最重要項目です。もし、この中の項目が一つでも欠けていると、作成した定款そのものが法的に無効となり、会社の設立登記は受理されません。

  1. 目的(事業目的)
  2. 商号(会社名)
  3. 本店の所在地
  4. 設立に際して出資される財産の価額又はその最低額(資本金の額)
  5. 発起人の氏名又は名称及び住所
  6. 発行可能株式総数

② 相対的記載事項 ― 会社の「戦略的な臓器」。記載して初めて、効力が生まれる

この項目は、必ず記載しなければならないわけではありません。しかし、もし、そのルールを会社に適用したいのであれば、定款に記載しなければ、法的な効力が一切認められない、という性質のものです。会社の個性や、将来のリスク管理を決定づける、極めて戦略的な項目群です。

  • 株式の譲渡制限に関する規定:あなたの会社の株式を、第三者に自由に売買されないようにするための、中小企業にとって必須の防御策です。
  • 役員の任期の伸長:株式会社の取締役の任期は原則2年ですが、非公開会社の場合は定款で定めることにより、最長10年まで伸長できます。
  • 現物出資:金銭の代わりに、PCや自動車といった「モノ」を資本金として出資する場合のルールです。
  • その他、株主総会の招集通知期間の短縮、取締役会の設置など、多数あります。

③ 任意的記載事項 ― 会社の「肉付け」。会社の運営ルールを明文化する

これは、法律上、定款に記載しなくても、その効力が否定されない項目です。しかし、会社の基本的な運営ルールとして、あえて定款に記載することで、そのルールを明確にし、将来のトラブルを防ぐ効果があります。

  • 事業年度(決算期):いつを決算月とするか。
  • 取締役の員数:「当会社の取締役は、1名以上3名以内とする」といった定め。
  • 株主総会の議長:誰が株主総会の議長を務めるか。

第2章:【最重要】絶対的記載事項 ― 6つの項目に隠された「経営判断」

それでは、会社の心臓部である「絶対的記載事項」の一つひとつについて、その裏に隠された、あなたが下すべき「経営判断」を、詳しく見ていきましょう。

判断1:「目的」― あなたの会社の「DNA」を設計する

会社の事業目的は、あなたの会社の活動領域を定義する、最も重要な項目です。ここでの設計が、将来の融資や許認可の成否に直結します。詳細は「定款目的、事業目的の記載例」の記事に譲りますが、最低でも以下の視点が必要です。
・許認可の要件:許認可が必要な事業の場合、法律で定められた特定の文言が、一字一句違わずに入っているか?
・融資への影響:事業の一貫性と専門性が、金融機関に明確に伝わる内容になっているか?
・将来の拡張性:現在だけでなく、将来行う可能性のある事業も、あらかじめ記載できているか?

判断2:「商号」― 会社の「顔」を創る

会社の名前は、法的なルール(同一本店・同一商号の禁止など)を守ることはもちろん、マーケティングの視点も不可欠です。覚えやすく、事業内容が伝わり、そして、WebサイトのドメインやSNSのアカウントが取得可能か、といったデジタル時代のブランディング戦略まで考慮して、決定する必要があります。

判断3:「本店所在地」― ビジネスの「拠点」を決める

どこを会社の公式な住所とするか。自宅、レンタルオフィス、バーチャルオフィス、賃貸オフィス、それぞれにメリット・デメリットがあります。社会的信用、コスト、そして、特定の許認可(例えば、人材派遣業や古物商は、独立した事務所スペースが必要)の要件などを総合的に勘案し、戦略的に決定しなければなりません。

判断4:「出資される財産の価額(資本金)」― 会社の「体力」と「信用」を示す

会社法上、資本金1円から会社は作れます。しかし、資本金は、会社の初期の運転資金となる「体力」であり、金融機関や取引先に対する「信用」の証です。資本金が1円の会社に、誰が安心してお金を貸し、取引をしてくれるでしょうか。また、資本金を1,000万円以上にすると、設立初年度から消費税の納税義務が発生するという、致命的な税務上のデメリットもあります。融資審査で有利に働く自己資金額と、税務上のメリットを両立させる、戦略的な金額設定が求められます。

判断5:「発起人」― 会社を「創る人」を定める

会社の設立を企画し、最初に出資をする「発起人」を定めます。あなた一人であればシンプルですが、複数人で起業する場合は、誰が、いくらずつ出資するのかを明確にします。ここで重要なのは、記載する氏名・住所が、個人の印鑑証明書の記載と、完全に一致していることです。

判断6:「発行可能株式総数」― 未来の「資金調達の器」を決める

これは、多くの起業家が意味を理解せず、テンプレートのまま記載してしまう、危険な項目です。これは、「設立時に発行する株式の数」ではなく、「あなたの会社が、将来、定款を変更することなく、最大で何株まで発行できるか」という上限枠を定めるものです。

プロの視点:
この上限枠を、設立時に発行する株式数と同じにしてしまうと、将来、増資による資金調達や、従業員へのストックオプションを発行したいと考えた時に、その都度、定款変更の手続きが必要になってしまいます。一般的には、設立時に発行する株式数の4倍から10倍程度を、発行可能株式総数として設定しておくのが、将来の柔軟性を確保するための賢明な設計です。

第3章:【認証の儀式】公証役場での手続き、完全ガイド

完璧な定款の原案(これを「原始定款」と呼びます)が完成したら、次はその内容が法的に正当なものであることを、国の機関である「公証役場」で証明してもらう、「認証」という手続きに進みます。

STEP 1:準備 ― 認証に必要なものチェックリスト

公証役場へ行く前に、以下のものを完璧に準備する必要があります。一つでも不備があると、認証は受けられません。

  • 原始定款:3通(公証役場保管用、会社保管用、設立登記申請用の3通)
  • 発起人全員の印鑑登録証明書:発行後3ヶ月以内のもの。
  • 発起人全員の実印:書類に押印が必要な場合に備え、必ず持参します。
  • 実質的支配者となるべき者の申告書:会社の真のオーナーが誰であるかを申告する、比較的新しい必要書類です。
  • 収入印紙:4万円(紙の定款の場合のみ)
  • 認証手数料:現金で5万円
  • 謄本交付手数料:約2,000円(ページ数によって変動)
  • 委任状:発起人のうち、誰か一人が代表して手続きに行く場合や、専門家が代理で行う場合に必要です。

STEP 2:公証役場での手続きの流れ

本店所在地と同じ都道府県内にある、都合の良い公証役場へ、事前に電話で予約をしてから訪問します。公証人が、定款の内容に法的な問題がないか、記載事項に漏れがないかなどを最終チェックし、問題がなければ、その場で認証済みの定款(謄本)を受け取ることができます。

【究極の選択】「電子定款」が、時間と費用を劇的に削減する

ここで、あなたの会社の設立コストを大きく左右する、究極の選択肢が登場します。それが「電子定款」です。

電子定款とは、紙ではなく、PDF形式で作成した定款のことです。これを行政書士や司法書士といった専門家が、専用の電子署名を付与して認証手続きを行うことで、紙の定款で必須だった4万円の収入印紙代が、法律上、完全に不要になります。

ご自身でこの電子定款の仕組みを導入するには、数万円の専用ソフトやカードリーダーの購入が必要となり、現実的ではありません。しかし、私たちのような専門家にご依頼いただければ、この電子定款を標準サービスとして利用できます。

結論:会社の「憲法」作りを、テンプレート任せにしてはいけない

定款の作成と認証。それは、会社設立という長い旅における、最初の、そして後戻りのできない、極めて重要な一歩です。

その一歩を、インターネットの無料テンプレートという、誰が、いつ、何の目的で作成したかも分からない、脆く、不確かな土台の上に、踏み出してはいけません。

私たち荒川会計事務所は、あなたの会社の「憲法の起草者」です。私たちは、テンプレートを一切使いません。あなたの事業の現在地と、あなたが描く10年後の未来予想図を深くヒアリングし、あなたの会社の成長を縛る「足かせ」ではなく、未来の可能性を無限に広げる「翼」となる、あなただけの定款を、提携する司法書士と共に、オーダーメイドで設計します。

あなたの会社の「憲法」、本当にそのままで大丈夫ですか?

定款を認証してしまう、その前に。
まずは無料相談で、あなたの会社の「設計図」に、将来のリスクが潜んでいないか、私たちに診断させてください。

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