【登記簿謄本と履歴事項全部証明書の違い】会社の謄本、その全知識

会社を設立し、事業を運営していく中で、あなたは様々な場面で、ある書類の提出を求められます。

「恐れ入りますが、貴社の『登記簿謄本』のご提出をお願いできますでしょうか?」

銀行での法人口座開設、融資の申し込み、事務所の賃貸契約、補助金の申請、重要な取引先との契約…。会社の信用を証明するために、この「登記簿謄本」は、まるで運転免許証のように、あらゆる場面で必要不可欠です。

しかし、いざ法務局へ取得しに行くと、申請書には「登記簿謄本」という言葉が見当たらず、代わりに「履歴事項全部証明書」「現在事項証明書」といった、見慣れない言葉が並んでいます。「一体どれを取得すればいいんだ?」「そもそも、場所を間違えたのだろうか…?」多くの経営者様が、この最初のステップで、同じ混乱と不安に直面します。

ご安心ください。その混乱は、今、このページで完全に解消されます。この記事では、新宿で数多くの会社設立に立ち会い、日々これらの書類を扱っている私たちが、その分かりにくい専門用語の背景から、具体的な書類の種類、そして実用的な取得方法と注意点まで、あなたの疑問のすべてに答える、会社の登記に関する「完全ガイド」をお届けします。

第1章:結論。「登記簿謄本」は、もはや存在しない?言葉の謎を解き明かす

まず、あなたの混乱の根源となっている、最も重要な結論からお伝えします。

現在、法務局で発行される書類に、厳密な意味での「登記簿謄本」というものは、ほとんど存在しません。
私たちが普段「登記簿謄本」と呼んでいるものは、正式名称「登記事項証明書」の「通称(ニックネーム)」なのです。

なぜ、このような分かりにくい状況になっているのか。それは、登記制度の歴史的な変化に理由があります。

「紙」の時代:登記簿謄本(とうきぼとうほん)

かつて、コンピュータが普及する前、会社の登記情報は、法務局に備え付けられた「登記簿」という、分厚い紙のバインダーに、手書きやタイプライターで記録されていました。そして、その登記簿のページの全てをコピーし、「これは原本と相違ありません」と法務局が認証した証明書が、「登記簿謄本」と呼ばれていました。「謄本」とは、「原本の全部の写し」という意味の法律用語です。

「データ」の時代:登記事項証明書(とうきじこうしょうめいしょ)

その後、行政のデジタル化が進み、現在では、全ての会社の登記情報は、コンピュータの磁気ディスク(登記記録ファイル)に、データとして記録されています。

そして、私たちが現在、法務局の窓口やオンラインで請求して受け取るのは、このコンピュータ・データの中から必要な情報をプリントアウトし、「これは登記記録に記録されている事項の全部(または一部)に相違ないことを証明する」と認証された書類です。これが、「登記事項証明書」と呼ばれます。

つまり、昔の「紙の登記簿のコピー」が「登記簿謄本」、今の「コンピュータ記録のプリントアウト」が「登記事項証明書」なのです。中身に記録されている情報(会社名、住所、役員など)は同じですが、その成り立ちが全く異なります。

しかし、長年の慣習から、今でも多くの人が、ビジネスの現場では「登記事項証明書」のことを、昔ながらの愛称である「登記簿謄本」と呼んでいる。これが、混乱の正体です。

第2章:4種類の「登記事項証明書」― あなたが必要なのは、どれ?

「なるほど、登記簿謄本=登記事項証明書なのか」と理解したあなたに、次の疑問が浮かびます。「では、なぜ申請書には複数の種類があるのか?」と。

登記事項証明書は、記載される情報の範囲によって、主に以下の4種類に分けられます。これを理解することが、無駄な手間と費用を省くための、最も重要な知識です。

種類1:履歴事項全部証明書(りれきじこうぜんぶしょうめいしょ)

【通称:会社の「戸籍謄本」】

記載内容:
現在効力のある登記事項の全てに加えて、請求日の3年前の年の1月1日から請求日までの間に抹消された事項(辞任した役員、移転前の本店所在地、変更前の商号など)の履歴が記載されます。

どんな時に使う?:
これが、ビジネスシーンで最も一般的に使用される、オールマイティな証明書です。金融機関での法人口座開設、融資の申し込み、不動産の契約、重要な許認可の申請など、会社の身分を厳密に証明する必要がある場面では、ほぼ間違いなくこの書類が求められます。なぜなら、取引相手は「今の会社の姿」だけでなく、「どのような経緯で、今の姿になったのか」という履歴も確認したいからです。

プロの結論:
取引先や役所から「会社の登記簿謄本をください」と言われたら、99%、この「履歴事項全部証明書」のことを指していると考えて間違いありません。迷ったら、これを取得しましょう。

種類2:現在事項証明書(げんざいじこうしょうめいしょ)

【通称:会社の「住民票」】

記載内容:
過去の履歴は一切記載されず、現在、効力のある登記事項のみが記載されます。非常にシンプルで、スリムな証明書です。

どんな時に使う?:
現在の会社名や代表者名など、最新の状況だけを確認できれば良い、比較的簡易な手続きで使われます。例えば、従業員の社会保険の手続きで、ハローワークや年金事務所に提出する場合などです。

種類3:閉鎖事項証明書(へいさじこうしょうめいしょ)

【通称:会社の「除籍謄本」】

記載内容:
すでに解散・清算して登記記録が閉鎖された会社の情報や、「履歴事項全部証明書」にも載らないような、古い抹消済みの履歴(例えば、合併で消滅した会社の情報や、3年以上前に移転した本店の情報など)が記載されます。

どんな時に使う?:
通常のビジネスシーンで必要になることは、まずありません。過去の取引を法的に調査する場合や、相続手続きなどで、閉鎖された会社の情報を確認する必要がある、といった特殊なケースで利用されます。

種類4:代表者事項証明書(だいひょうしゃじこうしょうめいしょ)

【通称:社長の「在職証明書」】

記載内容:
会社の登記事項の中から、「代表者(代表取締役など)」の資格に関する事項のみを抜き出して証明するものです。会社の目的や資本金などは記載されず、代表者の氏名・住所と、代表者としての資格が記載されます。

どんな時に使う?:
会社全体の証明は不要で、単に「その人が、その会社の正当な代表者である」ことだけを証明すれば足りる場面で使われます。例えば、訴訟手続きなどで、代表者の資格証明書として裁判所に提出する、といったケースです。

第3章:【実践ガイド】会社の謄本の取得方法と、プロが教える注意点

必要な書類の種類が分かったら、次は具体的な取得方法です。3つの方法があり、それぞれにメリット・デメリットがあります。

方法1:法務局の窓口で直接取得する

取得場所:全国どこの法務局・支局・出張所でも、どの会社の証明書でも取得できます。
手数料:1通につき600円
メリット:その場で即時に発行してもらえる。不明な点があれば、窓口の担当者に質問できる。
デメリット:法務局の開庁時間(平日の日中)に行く必要がある。手数料が最も高い。

方法2:郵送で請求する

請求先:取得したい会社の管轄法務局、または最寄りの法務局。
手数料:1通につき600円(収入印紙)+返信用の切手代
メリット:法務局に行く手間が省ける。
デメリット:申請書を自分で作成し、収入印紙と返信用封筒を同封して送る手間がかかる。手元に届くまで数日~1週間程度の時間がかかる。

方法3:オンラインで請求する(登記ねっと)

法務省の「登記・供託オンライン申請システム(登記ねっと 供託ねっと)」を利用する方法です。

請求方法:PCからシステムにアクセスし、申請者情報を登録後、オンラインで請求します。受け取り方法は、「指定の法務局で受け取る」か「郵送で受け取る」かを選べます。
手数料:郵送で受け取る場合 1通500円、法務局で受け取る場合 1通480円。インターネットバンキングなどで電子納付します。
メリット:手数料が最も安い。24時間いつでも申請が可能。
デメリット:初回に申請者情報の登録が必要。PCの操作に慣れていないと、少し戸惑う可能性がある。

プロが教える、最も重要な注意点:「3ヶ月以内の壁」

登記事項証明書そのものに、有効期限というものはありません。しかし、提出先である銀行や官公庁、取引先は、そのほとんどが「発行後3ヶ月以内のものを提出してください」という内規を設けています。

これは、会社の登記情報が、日々変更される可能性があるためです。3ヶ月以上前に取得した古い証明書では、「その情報が、今も本当に最新のものか」を保証できないため、受け付けてもらえません。

したがって、会社の謄本は、必要になった都度、最新のものを取得するのが鉄則です。「念のために」と、何枚もストックしておくのは、無駄になってしまう可能性が高いので注意しましょう。

結論:些細な書類に見えて、会社の「顔」。専門家と共に万全の準備を

「登記簿謄本」と「履歴事項全部証明書」の違い。それは、会社のデジタル化という、時代の変化が生み出した、ほんの少しの言葉の綾でした。そして、その中には、会社の状況に応じて4つの異なる証明書が存在します。

このような、一見すると些細な手続きや書類の一つ一つを、正確に理解し、滞りなく準備すること。それが、あなたの会社の「信頼」の土台を築き、スムーズな事業運営を可能にします。

私たち荒川会計事務所は、お客様が会社を設立される際、これらの証明書の取得を当然の業務として代行します。そして、融資の申し込みや、許認可の申請といった重要な局面で、どの証明書が、いつ、何通必要なのかを的確に判断し、万全の準備でサポートします。

「どの書類を取ればいいの?」といった素朴な疑問から、あなたの会社の未来を左右する複雑な資金調達戦略まで、私たちは、あなたの起業家としての旅路の、あらゆるステップに寄り添うパートナーです。

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