【個人事業主と株式会社の違い】どっちを選ぶべき?税金・お金・信用の差を税理士が徹底解説

いよいよ、自分の事業を立ち上げる。その決意を胸に、あなたは今、起業家としての人生の、まさにスタートラインに立っています。そして、すべての起業家が最初に直面する、一つの根源的な問いがあります。

「自分の事業を、どのような『器』で始めるべきだろうか?」

この選択は、事業という長い旅に出るための「乗り物」を選ぶことに似ています。

手軽に始められ、小回りも利く「自転車(個人事業主)」で、まずは近所を散策してみるのか。
それとも、免許やメンテナンスは必要だが、より遠くへ、より速く、そしてより安全に到達できる「自動車(株式会社)」を、最初から手に入れるのか。

どちらが良い、悪いという話ではありません。あなたの旅の「目的」と「目的地」によって、最適な乗り物は変わってきます。この最初の選択が、あなたの事業の成長スピード、社会的信用、そして万が一の時のリスクまで、あらゆる未来を左右するのです。

この記事では、新宿で数多くの起業家の「最初の乗り物選び」をサポートしてきた私たちが、個人事業主と株式会社の決定的な違いを、あらゆる角度から徹底的に比較・解説します。この記事を最後まで読めば、あなたの旅に最適な一台が、必ず見つかるはずです。

第1章:すべての違いを生む「たった一つ」の根本的な違い

これから解説する税金や信用の違いは、すべて、たった一つの根本的な違いから生まれています。それは、あなたと事業との「法的な関係性」です。

個人事業主:あなた「=」事業 (一心同体)

法律上、個人事業主と事業との間に、人格の区別はありません。事業の売上は、そのままあなたのポケットマネーに繋がり、事業の借金は、そのままあなたの個人的な借金となります。事業とあなたは、法的に「一心同体」なのです。

株式会社:あなた「≠」事業 (別人格)

株式会社を設立するということは、法律上、あなたとは全くの別人格である「法人」を誕生させることを意味します。あなたはその法人の「社長(役員)」という役職に就き、法人から給料をもらう立場になります。会社の財産とあなたの個人資産は、明確に区別されます。

この「一心同体」か「別人格」か、という根本的な違いが、これから解説する全てのルールの違いを生み出します。まずは、その全体像を一覧表で確認しましょう。

【全体像】個人事業主と株式会社の比較一覧表

比較項目 個人事業主 株式会社(法人)
① 法人格 なし(個人と一体) あり(個人とは別人格)
② 設立手続き 税務署に開業届を提出するだけ。簡単。 定款の作成・認証、法務局への登記など、複雑で時間がかかる。
③ 設立費用 ほぼ0円。 法定費用だけで約20~25万円が必要。
④ お金の扱い 事業用資金と生活費の区別が曖昧になりがち。利益は自由に引き出せる。 会社のお金と個人のお金は厳格に分離。社長は会社から「役員報酬」を受け取る。
⑤ 税金 利益(所得)に所得税(累進課税)がかかる。 会社の利益に法人税、社長の給与に所得税がかかる。
⑥ 社会保険 国民健康保険・国民年金に加入。 健康保険・厚生年金に強制加入。保険料負担は増えるが保障は手厚い。
⑦ 責任の範囲 無限責任。事業の負債は、個人の全財産で返済する義務がある。 有限責任。原則として、出資した資本金の範囲内で責任を負う。
⑧ 社会的信用力 法人に比べると一般的に低い。 高く、融資・取引・採用など、あらゆる面で有利に働く。

第2章:【深掘り解説①】お金のルールは、こう変わる

日々の経営に最も直接的な影響を与えるのが、「お金の扱い方」のルールの違いです。これは、単なる経理処理の違いではなく、あなたの事業の資金繰りと、金融機関からの信頼性を大きく左右します。

個人事業主のお金:「自由」だが「曖昧」

個人事業主の最大の魅力は、お金の自由度です。事業用の口座に入金された売上から、いつでも生活費を引き出したり、個人的な支払いに使ったりすることができます。会計上は、生活費として引き出したお金を「事業主貸」、個人的なお金を事業用口座に入金した場合を「事業主借」として処理します。

この自由さは、急な出費が必要な時などに非常に便利です。しかし、その裏返しとして、事業の利益と個人の生活費がごちゃ混ぜになる「どんぶり勘定」に陥りやすいという、致命的な欠点を抱えています。

「今月は儲かっているように見えるけど、一体いくらが本当の事業の利益で、いくらが生活費なのか分からない…」。このような状態では、正確な経営判断は不可能です。金融機関も、この公私混同の状態を「経営管理能力が低い」と見なし、融資審査において大きなマイナス評価とします。

株式会社のお金:「不自由」だが「明確」

一方、株式会社では、会社のお金と社長個人のお金は、法律上も税務上も、厳格に区別しなければなりません。会社の口座にあるお金は、たとえ社長が100%株主であっても、社長個人のものではなく、あくまで「会社」という別人格の財産です。

社長は、会社から給料(役員報酬)を受け取ることで、初めてそのお金を個人的に使うことができます。そして、この役員報酬は、「今月は儲かったから100万円にしよう」「来月は赤字だから20万円にしよう」といったように、毎月自由に変更することはできません。

税務上、会社の経費として認められる役員報酬は、原則として、事業年度の開始から3ヶ月以内に決定した金額を、毎月定額で支払い続ける「定期同額給与」でなければなりません。事業年度の途中で報酬額を下げると、会社の資金繰りは楽になりますが、上げた場合は、上げた分の金額が会社の経費として認められないという厳しいペナルティがあります。

この「不自由さ」は、一見デメリットに思えるかもしれません。しかし、このルールが、強制的に会社の財務規律を生み出します。毎月決まった給与を支払っても、会社が問題なく運営できるような、緻密な資金繰り計画を立てるようになります。この明確で規律の取れた財務状況こそが、金融機関からの高い信頼を獲得し、円滑な資金調達を実現するための、強力な武器となるのです。

第3章:【深掘り解説②】税金と社会保険のルールは、こう変わる

おそらく、あなたが最も関心のあるのが、この「税金」と「社会保険」の違いでしょう。ここでの選択が、毎年あなたの手元に残るお金、すなわち「手取り額」に、数十万円、時には百万円単位の差を生み出します。

なぜ法人化で「節税」が可能になるのか?

その最大の理由は、個人事業主が利益(所得)の全額に対して、稼げば稼ぐほど税率の上がる「所得税」(累進課税)を支払うのに対し、法人は、利益を「会社の利益」と「社長個人の給与(役員報酬)」に分散させ、それぞれに異なる税率(法人税と所得税)を適用できるからです。

この「所得の分散」と、法人ならではの幅広い経費計上を組み合わせることで、トータルの税負担を最適化することが可能になります。

ケーススタディ:利益800万円の場合、手取り額はどちらが多い?

それでは、40歳未満・独身・新宿区在住のWebデザイナー佐藤さんが、年間800万円の利益(所得)を上げたケースで、具体的なシミュレーションを見てみましょう。

個人事業主のままの場合:

利益800万円全体に、高い税率の所得税(累進課税)と、国民健康保険料・国民年金保険料が課せられます。

  • 所得税・住民税・事業税: 約215万円
  • 国民健康保険料・国民年金保険料: 約100万円
  • 税金・社会保険料 合計: 約315万円
  • 最終的な手取り額: 800万円 - 315万円 = 約485万円

一人会社を設立し、役員報酬を月40万円(年収480万円)に設定した場合:

利益800万円を、会社の利益320万円と、社長個人の給与480万円に分散します。

【会社側の負担】

  • 法人税等(利益320万円に対して): 約75万円
  • 社会保険料の会社負担分: 約70万円
  • 会社側の負担合計: 約145万円

【個人側の負担】

  • 所得税・住民税(給与480万円に対して): 約55万円
  • 社会保険料の個人負担分: 約70万円
  • 個人側の負担合計: 約125万円

全体の税金・社会保険料 合計: 145万円 + 125万円 = 270万円
最終的な手取り額: 800万円 - 270万円 = 約530万円

このシミュレーションでは、法人化することで、年間約45万円も手取り額が増える結果となりました。もちろん、これはあくまで一例です。最適な役員報酬の額は、あなたの利益水準や家族構成によって全く異なります。この「最適解」を見つけ出すことこそ、私たち税理士が提供する専門的なサービスなのです。

※税額・保険料は各種控除等を簡略化した概算値であり、実際の金額とは異なります。

第4章:【深掘り解説③】事業上の「責任」のルールは、こう変わる

お金の問題と同じくらい、いや、それ以上にあなたの人生を左右するのが、「責任」のルールの違いです。これは、万が一事業が失敗した時に、あなたとあなたの家族を守るための、極めて重要な知識です。

無限責任 vs 有限責任 ― その言葉が持つ本当の重み

  • 個人事業主=無限責任:事業上の負債(借金や未払金)は、すべてあなた個人の負債となります。事業資金が底をついても、返済義務は消えません。最悪の場合、あなたの自宅や預貯金といった、個人資産のすべてを投げ打ってでも、返済しなければならないのです。
  • 株式会社=有限責任:社長の責任は、原則として、会社設立時に自分が出資した資本金の範囲内に限定されます。会社が倒産し、多額の負債が残ったとしても、その返済義務は法人格である会社自身が負うものであり、社長個人が、自分のポケットマネーや個人資産で返済する義務は、原則としてありません。

この違いがいかに大きいか、具体的なケースで見てみましょう。

ケーススタディ:事業が失敗し、取引先への未払金2,000万円が残った場合

個人事業主Aさんの場合:
事業用の資産をすべて売却しても、この2,000万円の未払金は、そのままAさん個人の「借金」として残ります。取引先は、裁判を通じて、Aさん名義の自宅不動産や、個人の預金口座を差し押さえることができます。事業の失敗が、家族の住む家までをも奪ってしまう、という事態に直結するのです。

法人経営者Bさんの場合(資本金100万円):
会社の未払金2,000万円の返済義務は、あくまで法人格である「会社」にあります。会社の財産が底をつけば、それ以上の返済は、原則として行われません。Bさんの責任は、最初に出資した資本金100万円が返ってこない、という範囲に限定され、Bさん個人の自宅や預貯金が、この件で差し押さえられることはありません。会社という「防火壁」が、事業のリスクから、あなたの個人生活を完全に守ってくれるのです。
※金融機関からの借入で経営者自身が連帯保証人になっている場合は、その借入金については個人も返済義務を負いますが、上記のような取引先への未払金など、保証契約のない債務に対する責任は明確に分離されます。

第5章:【戦略的選択】あなたのための「最適OS診断」

さて、ここまで見てきた違いを踏まえ、あなたの事業に最適な「OS」はどちらか、簡単な診断でチェックしてみましょう。

法人成り・最適診断チェックリスト

以下の質問に「はい」「いいえ」で答え、最後に「はい」の数を数えてみてください。

  1. 今年の事業利益(所得)は、800万円を超えそうだ。
  2. 2年前の課税売上高が、1,000万円を超えている。
  3. 今後、大企業や官公庁と取引をする可能性がある。
  4. 近い将来、従業員を雇用し、チームで事業を拡大したい。
  5. 数千万円単位の、大きな銀行融資をいずれは受けたい。
  6. 事業のリスクから、自分の家や家族の預金は、絶対に守りたい。
  7. 将来的に、事業を誰かに譲ったり、売却したりすることも視野に入れている。

診断結果

  • 「はい」が0~2個の方:現時点では、個人事業主のままが、コストや手間の面で有利な可能性が高いでしょう。事業の成長に合わせて、改めて法人成りを検討するのが賢明です。
  • 「はい」が3~4個の方:あなたは、まさに法人成りの「検討時期」にいます。詳細なシミュレーションを行い、メリットがデメリットを上回るか、慎重に判断すべきタイミングです。
  • 「はい」が5個以上の方:あなたは、今すぐにでも法人成りすべき段階にある可能性が非常に高いです。法人化を先延ばしにすることで、毎年、多額の節税チャンスや、大きなビジネス機会を逃しているかもしれません。

結論:あなたの事業の未来を、最適な「器」で始めよう

個人事業主と株式会社。それは、どちらが優れているか、という話ではありません。あなたの事業の「現在地」と、あなたが目指す「目的地」によって、最適な「乗り物」は変わってくるのです。

そして、その最も重要な選択を、感覚や、誰かから聞いた不確かな情報だけで決めてしまうのは、あまりにも危険です。

私たち荒川会計事務所は、この記事で解説したすべての要素を、あなたの具体的な数字に落とし込み、客観的なデータに基づいて、あなただけの「最適解」を導き出すプロフェッショナルです。

「私の場合は、本当に法人化した方が得なのだろうか?」その答えは、詳細なシミュレーションを行えば、驚くほど明確になります。

あなたの事業に最適な「OS」はどちらか、無料で診断します。

その最初の選択が、数年後のあなたの手取り額と、ビジネスの可能性を大きく変えます。
まずは無料相談で、あなたの状況を私たちにお聞かせください。

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