【法人成りのメリット・デメリット】株式会社設立で得する事・損する事を税理士が徹底解説

個人事業主として着実に事業を成長させてこられた、あなたへ。

次のステージとして「株式会社の設立」、いわゆる「法人成り」が、現実的な選択肢として視野に入ってきたことでしょう。それは、あなたのビジネスが順調であることの、何よりの証です。

しかし、法人成りは「片道切符」です。一度法人化すれば、簡単に個人事業主の身軽な状態に戻ることはできません。その選択は、あなたの事業にとって、そしてあなた個人の人生にとっても、後戻りのできない、極めて重要な経営判断となります。

インターネット上には、「法人化は節税になる」「信用が上がる」といったメリットを強調する情報が溢れています。しかし、その輝かしい「光」の裏には、見過ごすことのできない「影」、すなわちデメリットや新たな負担も、確実に存在します。

この記事では、新宿で数多くの法人成りに立ち会ってきた私たちが、単なるメリットの紹介に終わらない、法人成りの「光」と「影」のすべてを、公平な視点から8,000字を超えるボリュームで徹底的に比較・解説します。この「比較検討の決定版」を最後までお読みいただくことで、あなたは感情論や噂に流されることなく、ご自身の事業にとって本当に最適な選択を、自信を持って下せるようになるはずです。

第1章:法人成りの「光」 ~経営を加速させる5つの戦略的メリット~

まず、法人化によって、あなたのビジネスとあなた自身が手に入れることができる、強力なアドバンテージについて詳しく見ていきましょう。これらは単なる手続き上の変化ではなく、あなたの事業の未来を大きく左右する、戦略的な武器となります。

メリット1:税金面での優位性 ― 戦略的な節税の扉が開く

法人成りによって得られる最も分かりやすく、かつ強力なメリットが、税負担をコントロールし、軽減できる可能性です。個人と法人では、税金の計算方法や経費の範囲が根本的に異なります。

消費税が最大2年間免除される可能性

これは、法人成りのタイミングを計る上で、極めて重要な節税テクニックです。個人事業主は、2年前の課税売上高が1,000万円を超えると、その年から消費税の納税義務が発生します(課税事業者)。

しかし、その課税事業者になるタイミングで法人成りを行うと、法律上は「新しい会社(法人)」が誕生したことになります。新しく設立された法人は、原則として資本金を1,000万円未満にすれば、設立から最大2年間、消費税の納税が免除されるのです。

【具体例】
個人で青果店を営む田中さんの2年前の売上が1,200万円だったとします。このまま個人事業を続けると、今年は消費税を納税しなければなりません。今年の売上が1,650万円(税込)だった場合、納税額は大まかに約80万円にもなります(簡易課税の場合)。

しかし、もし田中さんが昨年末の時点で法人成りしていれば、新会社「株式会社田中フルーツ」は、今年と来年の2年間、消費税が免除されます。つまり、この戦略一つで、年間数十万~百万円以上のキャッシュが手元に残る計算になり、その資金を新たな設備投資や広告宣伝に回すことができるのです。これは、資金繰りが厳しい創業期において、絶大なインパクトを持ちます。

所得税(累進課税)から、より低い法人税率へ

個人事業の利益(所得)にかかる所得税は、稼げば稼ぐほど税率が高くなる「累進課税」です。一方、法人税は比較的安定した税率です。一般的に、所得が800万円~900万円あたりを境に、所得税・住民税・事業税を合計した税率が、法人税等の税率を上回る「逆転現象」が起こり始めます。

【税率比較のイメージ】

課税される所得金額 所得税率 法人税率(中小法人)
~800万円 5%~23% 15%
800万円超~ 23%~45% 23.2%

この表だけ見ると、所得が低い場合は個人事業主の方が有利に見えます。しかし、次に解説する「経費にできる範囲の拡大」を組み合わせることで、法人は戦略的に会社の利益をコントロールし、トータルの税負担を最適化することが可能になるのです。

経費にできる範囲の劇的な拡大

法人になると、個人事業では経費にできなかったものが、会社の経費として認められるようになります。これが、法人税率の低さと並ぶ、大きな節税効果を生み出します。

  • あなた自身への給与(役員報酬):これが最大のポイントです。会社からあなたへ支払う給与が、会社の経費になります。例えば、会社の利益が1,000万円出そうな場合、あなたへの役員報酬を700万円支払えば、会社の利益は300万円に圧縮され、法人税は低く抑えられます。(もちろん、個人の役員報酬には所得税がかかりますが、給与所得控除というサラリーマンと同様の控除が使えるため、事業所得がそのまま課税されるよりも有利になるケースが多いのです。)
  • あなた自身への退職金:個人事業主には「退職金」という概念はありません。しかし、法人は、将来あなたが引退する際に、会社からあなたへ「役員退職金」を支払うことができます。これは会社の経費になる上、受け取る個人側も、給与所得に比べて税制上非常に優遇された「退職所得控除」という大きな控除枠が使えます。計画的に準備することで、数千万円の退職金にかかる税金を、数百万円単位で圧縮することも可能です。これは、法人ならではの究極の節税策と言えます。
  • 生命保険料の活用:会社を契約者として、あなたを被保険者とする生命保険に加入し、その保険料の一部または全額を会社の経費にすることができます。万が一の保障を確保しながら、簿外に資産を形成し、将来の退職金の原資とする、といった戦略的な活用が可能です。
  • 社宅制度の活用:あなたが住む家を会社名義で契約し、会社からあなたへ貸し出す(社宅)ことで、家賃の大部分(一般的には50%~90%)を会社の経費にすることが可能です。例えば、家賃20万円のマンションであれば、個人事業主の「家事按分」では数万円しか経費にできませんが、社宅制度をうまく活用すれば、15万円以上を経費化できるケースもあります。

赤字の繰越期間が3年から10年へ

事業で出た赤字(欠損金)は、翌年度以降の黒字と相殺して税金を減らすことができます。この繰越ができる期間が、個人事業主(青色申告)の3年間に対し、法人は10年間と、非常に長くなっています。事業の立ち上げ期に大きな先行投資をして数年間赤字が続いたとしても、その後の黒字化した年に、過去の赤字をぶつけて税金をゼロにするといった大胆な戦略が可能になり、事業再生の確度を大きく高めます。

メリット2:社会的信用の向上 ― ビジネスの「格」が上がる

「個人」から「法人」に変わることで、目には見えない、しかし非常に重要な「社会的信用」が格段に向上します。これは、あなたのビジネスの可能性を大きく広げます。

  • 取引先の拡大:大企業や官公庁の中には、与信管理やコンプライアンスの観点から「法人でなければ取引しない」という内規を持つところが少なくありません。実際に、当事務所のクライアントでWEB制作を手掛けるA様は、個人事業主時代に、そのスキルを高く評価されながらも「個人とは契約できない」という理由で、大手広告代理店からの大型案件を断念した経験がありました。法人成りした翌月、その大手広告代理店と正式に契約を結び、事業を大きく飛躍させました。法人化は、これまでアプローチできなかった、より大きなビジネスチャンスへの扉を開く「パスポート」となるのです。
  • 金融機関からの融資:個人事業主よりも、会計の透明性が高く、事業の継続性も見込める法人の方が、金融機関からの信用は高くなります。特に、事業拡大のための追加融仕事や、銀行が直接リスクを取る「プロパー融資」を目指す上では、法人格はほぼ必須とも言えるでしょう。
  • 人材採用の有利性:優秀な人材ほど、安定した雇用環境を求めます。法人として、社会保険(健康保険・厚生年金)を完備していることは、求職者に対する大きなアピールポイントとなります。国民年金に比べて、将来受け取れる年金額が手厚い「厚生年金」に加入できることは、従業員の長期的な生活の安心に直結し、採用競争において有利に働きます。

メリット3:責任の有限化 ― あなたの個人資産を守る「防火壁」

これは、あなたとあなたの家族の人生を守るための、極めて重要なメリットです。個人事業主は、事業の負債に対して、あなたの個人資産(自宅、預貯金など)のすべてで責任を負う「無限責任」です。一方、株式会社の株主(出資者)は、原則として、自分が出資した資本金の範囲内でしか責任を負わない「有限責任」。法人という別人格が、事業のリスクとあなたの個人生活との間に、法的な「防火壁」を築いてくれるのです。事業が大きくなり、取引額や借入額が増えるほど、この防火壁の価値は計り知れないものになります。

第2章:法人成りの「影」 ~覚悟すべき4つのデメリットと負担~

輝かしいメリットの裏側には、必ずコストや新たな負担が存在します。これらを正確に理解し、法人成り後の経営を具体的にイメージすることが、後悔しない選択への絶対条件です。「こんなはずじゃなかった…」と頭を抱える前に、厳しい現実もしっかりと直視しましょう。

デメリット1:設立と維持に、確実なコストがかかる

個人事業が、税務署に一枚の開業届を出すだけで、ほぼ無料で始められるのに対し、法人設立には、避けては通れない、まとまった金額の初期費用と、事業を続ける限り発生する維持コストが確実にかかります。

設立時に必要な「初期費用(法定費用)」

株式会社を設立するためには、法律で定められた以下の実費(法定費用)を、国や公証役場へ支払う必要があります。これは、専門家に依頼する手数料とは別に、必ず発生するコストです。

  • 定款認証手数料:約5万円
    会社の憲法である「定款」を、公証役場で認証してもらうための手数料です。資本金の額によって多少変動しますが、概ねこの金額がかかります。
  • 定款に貼る収入印紙代:4万円
    紙の定款を作成した場合に必要となる印紙税です。ただし、これは後述する専門家などに依頼し、「電子定款」という方法で作成すれば、完全に不要になります。
  • 登録免許税:最低15万円
    設立した会社を法務局に登記(登録)するために納める税金です。税額は「資本金の額 × 0.7%」で計算されますが、その金額が15万円に満たない場合は、一律で15万円となります。

つまり、ご自身ですべて手続きを行ったとしても、合計で最低でも24万円程度の初期費用がかかる計算になります。この資金を、資本金とは別に準備しておく必要があります。

会社が存在する限りかかる「維持コスト」

設立費用だけでなく、会社を維持していくためにも、個人事業主時代にはなかったコストが発生します。

  • 法人住民税の均等割:最低でも年間約7万円
    これが最も大きな違いの一つです。法人は、たとえ事業が赤字で利益がゼロであっても、その存在自体に対して課される「法人住民税の均等割」を、毎年必ず納める義務があります。金額は会社の資本金の額や従業員数、所在する自治体によって異なりますが、最低でも年間約7万円の、逃れることのできない固定費となります。
  • 税理士報酬の増加:後述の通り、法人の会計・税務は個人より格段に複雑化します。そのため、税理士に決算・申告を依頼する場合の報酬も、個人事業主の時よりは高くなるのが一般的です。これは、専門家として提供するサービスの質と責任の重さに比例するものとお考えください。
  • 各種の登記費用:株式会社の役員(取締役)には任期があり、最長でも10年に一度は、たとえ同じ人が続ける場合でも、その旨を法務局に登記(役員変更登記)し直す必要があります。この際に、数万円の登録免許税と、司法書士への手数料が発生します。また、本店を移転した場合なども、その都度登記が必要です。

デメリット2:会計・税務・法務の事務負担が激増する

個人事業主時代とは比較にならないほど、バックオフィス業務が複雑かつ煩雑になります。これを甘く見ていると、経営者であるあなたの貴重な時間が、売上を生まない事務作業に奪われてしまいます。

  • 経理の複雑化:法人の会計は、企業会計原則という厳格なルールに基づいて行われます。個人事業主時代のように、どんぶり勘定や現金主義的な処理は許されません。日々の記帳から、年に一度の決算作業まで、専門的な簿記の知識が不可欠です。
  • 税務申告の難易度:法人の税務申告書は、「法人税申告書」本体に、「別表」と呼ばれる十数種類の専門的な内訳書を添付する形式になっており、個人の確定申告書とは比べ物にならないほど複雑です。会計ソフトが算出した利益に、法人税法特有の専門的な調整(加算・減算)を行って税額を計算する必要があり、専門家でなければ作成はほぼ不可能と言えるでしょう。
  • 法務手続きの発生:株式会社は、法律(会社法)に則った運営が求められます。年に一度は株主総会を開催し、その「議事録」を作成・保管する義務があります。たとえ株主があなた一人だけの「一人会社」であっても、この手続きは省略できません。これらの法的な手続きを怠ると、後々、融資の際などに不利に働く可能性があります。

デメリット3:社会保険への強制加入と、保険料負担の増加

これは、法人成りのシミュレーションにおいて、税金の損得以上に、手取り額に大きなインパクトを与える最重要ポイントです。法人は、たとえ社長一人であっても、健康保険と厚生年金(いわゆる社会保険)への加入が法律で義務付けられています。

ケーススタディ:所得480万円の場合の社会保険料負担

例えば、40歳未満の独身、新宿区在住の社長が、役員報酬を月額40万円(年収480万円)に設定したとします。
・個人事業主の場合:国民健康保険料と国民年金保険料の合計は、年間で約60万円程度です。(所得や自治体により変動)
・法人の場合:健康保険料と厚生年金保険料の合計は、年間で約140万円程度になります。このうち、

  • 半分(約70万円)を、会社が「会社負担分」として経費で支払います。
  • 残り半分(約70万円)を、社長個人が「個人負担分」として給与から天引きで支払います。

このケースでは、個人が直接支払う額は10万円増え、さらに会社が新たに70万円を負担することになります。トータルでの社会保険料負担額は、年間で約80万円も増加する計算になります。

もちろん、厚生年金に加入することで、将来受け取れる年金額が国民年金よりも手厚くなるという、非常に大きなメリットはあります。しかし、短期的なキャッシュフローへのインパクトは絶大です。法人化による節税メリットよりも、この社会保険料の負担増の方が大きくなり、結果的に「法人成りしたら、かえって手取りが減った」という事態も十分に起こり得るのです。

デメリット4:お金の自由度が低下する

個人事業主時代のように、事業の利益をいつでも自由に引き出して使う、ということはできなくなります。会社のお金と個人のお金は、厳格に区別しなければなりません。社長は、会社から事前に決められた一定額の「役員報酬」を、給与として受け取ることになります。この役員報酬の額は、原則として事業年度の途中で変更できないため、急に大きな個人的な支出が必要になっても、会社の資金を簡単には動かせません。これを無視して会社の資金を個人的に使うと、「役員貸付金」として扱われ、税務上不利な取り扱いを受けることになります。

第3章:【総括】メリット・デメリット徹底比較一覧表

ここまで詳しく解説してきた法人成りの「光」と「影」を、最後に一覧表にまとめました。ご自身の事業と照らし合わせながら、全体像をもう一度ご確認ください。

比較項目 個人事業主 株式会社(法人)
税金の種類 所得税(累進課税:最大45%) 法人税(最大23.2%) + 役員報酬への所得税
消費税 2年前の売上が1,000万円超で課税 設立後、原則最大2年間は免税
経費の範囲 事業に直接関連するもののみ 役員報酬、退職金、社宅、生命保険料など、範囲が格段に広い
赤字の繰越 3年間 10年間
社会的信用 法人に比べて低いと見なされがち 高く評価され、取引・融資・採用で有利
事業上の責任 無限責任(個人資産もリスクに晒される) 有限責任(出資額の範囲内が原則)
設立コスト ほぼ0円 約20~25万円の法定費用が必要
維持コスト なし 赤字でも法人住民税(最低約7万円)がかかる
社会保険 国民健康保険・国民年金(全額自己負担) 健康保険・厚生年金(会社と個人で折半)。総負担額は増えるが保障は手厚い
お金の自由度 高い。利益は自由に引き出せる 低い。役員報酬として定額を受け取る
事務負担 比較的、簡易 会計・税務・法務すべてにおいて激増する

結論:あなたの事業にとって、メリットはデメリットを上回るか?

ここまでお読みいただいたあなたなら、もはや「利益が800万円を超えたら法人成り」といった単純な経験則が、いかに危険であるかをご理解いただけたはずです。

法人成りの決断は、節税メリットという一面だけで判断してはいけません。それは、社会保険料という大きな負担増、失われるお金の自由度、そして激増する事務負担といった、確実なデメリットと、天秤にかける必要があります。

あなたが下すべき正しい判断は、

「あなたの事業の、現在の利益と将来の売上予測を基に、法人化した場合の税金・社会保険料を具体的にシミュレーションし、個人事業主のままの場合と比較して、どちらが経済的に有利かを、数字で明確に把握すること」

そして、その数字の比較に加えて、「社会的信用」や「事業拡大の可能性」「リスク管理」といった、金額では測れないメリットに、あなたがどれだけの価値を見出すか、という戦略的な視点を持つことです。

私たち荒川会計事務所は、その複雑なシミュレーションと、戦略的な意思決定の、最高のパートナーです。あなたの決算書を基に、法人化した場合の具体的な手取り額の変化を明確にお示しし、あなたの事業の未来にとって、本当に「今」がベストなタイミングなのかを、共に考えます。

「法人成り」、メリットとデメリットを天秤にかけて、一人で悩んでいませんか?

その決断、数字でシミュレーションすれば、答えは明確になります。
まずは無料相談で、あなたの会社の「未来の成績表」を覗いてみませんか?

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