【融資の有利不利】個人事業主vs法人、銀行が見るポイントを税理士が徹底比較・診断

これから起業するという大きな決意を胸に、あなたは今、事業の成功を左右する、最初の重要な岐路に立っています。それは、あなたのビジネスという船の「船体」そのものを決める選択です。

「将来、融資を有利に進めるためには、
『個人事業主』『法人(会社)』、どちらの『器』を選ぶべきなのだろうか?」

インターネットで調べたり、知人に相談したりすると、「結局は経営者本人を見るのだから、どちらも大差ない」という声を聞くことが多いかもしれません。その言葉に、少し安心している自分もいるのではないでしょうか。

しかし、起業支援の最前線に立つ専門家として、私たちは断言しなければなりません。その考えは、半分正解で、半分はあなたのビジネスの未来の可能性を見過ごしてしまう、危険な誤解です。

確かに、創業直後の「最初の創業融資」においては、その差は比較的小さいかもしれません。しかし、事業が成長し、更なる飛躍を目指す「事業拡大期の追加融資」のフェーズにおいては、個人事業主と法人の間には、融資の受けやすさにおいて明確な、そして決定的な差が生まれてきます。その差を知らずに事業形態を選んでしまうと、数年後に「あの時、法人にしておけば、もっと大きな挑戦ができたのに…」と、取り返しのつかない後悔をすることになりかねません。

この記事では、新宿で数多くの個人・法人の資金調達をサポートしてきた私たちが、その「大差ない」と言われる理由と、数年後に「決定的な差」が生まれる理由のすべてを、金融機関の審査担当者の本音(審査の視点)から、8,000字を超えるボリュームで徹底的に解き明かします。この選択が、あなたのビジネスの「最高速度」と「到達高度」をどう変えるのか、ぜひご理解ください。

第1章:【共通の土俵】融資審査の根幹は、個人も法人も同じ

まず、「大差ない」と言われる理由です。金融機関、特に創業者にとって最大の味方である日本政策金融公-庫は、融資の可否を判断する際、事業の「器」の形よりも先に、その「中身」、すなわち事業の本質的な価値を見ています。具体的には、以下の3つの柱が、審査の絶対的な土台となります。

審査の柱1:経営者の経験と能力

融資は、最終的には「経営者である、あなた個人」への投資です。金融機関は、あなたのこれまでのキャリアを通じて、事業成功の確度を測ります。

  • 同業種での経験の重要性:これから始める事業と全く同じ、あるいは関連性の高い業界での勤務経験は、最も高く評価されます。経験年数が長く、具体的な実績(営業成績など)や役職(マネジメント経験)があれば、それは事業の成功確率を裏付ける強力な証拠となります。例えば、イタリアンレストランで10年間シェフとして働き、店長経験もある方が、イタリアンレストランを開業する場合、金融機関は「この人なら、事業を軌道に乗せるノウハウを持っているだろう」と高く評価します。
  • 経験を「強み」として伝える技術:これらの経験は、ただ職務経歴書に羅列するだけでは不十分です。事業計画書や面談の場で、「前職で培った新規顧客開拓のスキルが、今回の事業の立ち上げ期の集客において、具体的にこのように活かせます」「5人のチームをマネジメントし、売上を前年比120%に成長させた経験が、今後の従業員採用と組織運営に役立ちます」と、未来の事業行動と結びつけて、ストーリーとして語れるように準備することが重要です。

審査の柱2:事業計画の質と実現可能性

あなたの事業が、いかに魅力的で、そして儲かる見込みがあるかを、客観的なデータと論理的な数値で証明する設計図、それが「事業計画書」です。これは融資審査の心臓部と言えます。

  • 情熱とロジックの融合:「なぜ、この事業が社会に必要か」という情熱的なストーリーと、「だから、これだけの売上と利益が見込める」という冷静な数値計画の両方が必要です。
  • 金融機関が「唸る」数値計画とは:特に重要なのが、売上計画、費用計画、そしてそれらを基にした収益・資金繰り計画です。希望的観測を排除し、すべての数字に「なぜ、そうなるのか」という明確な根拠(見積書、市場調査データ、類似店舗の事例など)が示されている必要があります。例えば、売上計画であれば、「席数15席 × 客単価3,000円 × 満席率70% × 1日2回転 × 営業日数25日 = 月商2,625,000円」といったレベルまで、分解して説明できる緻密な計画が求められます。

審査の柱3:自己資金の量と質

事業のために、どれだけの資金を、どれだけの期間をかけて、あなた自身のリスクで準備してきたか。これは、あなたの事業に対する「本気度」と「計画性」を測る、最も分かりやすい物差しです。

  • 通帳で見せる「ストーリー」の重要性:自己資金は、タンス預金では全く評価されません。あなた個人の銀行口座に、毎月コツコツと給与から貯蓄してきたことが分かる「通帳の履歴」こそが、最高の証拠資料です。「この事業のために、3年前から毎月5万円ずつ貯めてきました」という通帳が語るストーリーは、面談でのどんな言葉よりも雄弁に、あなたの覚悟を伝えます。逆に、融資申込の直前に、出所不明の大きなお金が一度に入金されているような通帳は、「見せ金」を疑われ、一発で信用を失います。
  • 自己資金と認められないものの具体例:親族から一時的に借りた「見せ金」、消費者金融からの借入、クレジットカードのキャッシングなどは、自己資金とは認められません。これらは、あなたの信用を著しく損なうため、絶対に避けるべきです。親族から返済不要の「贈与」として受け取る場合は、その旨を証明する「贈与契約書」を準備すると、自己資金として認められやすくなります。

これらの3つの柱が盤石であれば、最初の創業融資のステージでは、個人事業主か法人かという形式の違いは、決定的な差にはなりにくいでしょう。これが、「大差ない」と言われる部分の真実です。

第2章:【決定的な差】事業が成長するほど開いていく、法人の「4つの構造的優位性」

しかし、事業が軌道に乗り、2回目、3回目の融資や、より大きな金額の融資を検討する段階になると、話は全く変わってきます。ここでは、法人が持つ「構造的な優位性」が、融資の有利不利に明確な差を生み出します。

優位性1:会計の客観性と信頼性

金融機関が最も重視するのは、返済能力を判断するための「決算書」です。個人事業主の決算書は、事業のお金と生活費が混ざりやすく、良くも悪くも「自己申告」の域を出ません。一方、法人は、法律によって個人とは明確に財産が分離され、複式簿記による厳格な会計処理が義務付けられています。さらに、そこに私たち税理士が作成し、署名・押印した決算書は、「第三者である専門家がその内容を保証した、客観性の高い公式文書」として、金融機関から絶大な信頼を得ることができるのです。この「信頼の証」が、融資審査の土台を強固にします。

優位性2:資産の分離とリスク管理(有限責任の力)

個人事業主は、事業の負債に対して、あなたの家や預貯金といった個人資産のすべてで責任を負う「無限責任」です。一方、株式会社の株主は、原則として、自分が出資した金額の範囲でしか責任を負わない「有限責任」です。この差が、万が一の時にどう影響するか、具体例で見てみましょう。

ケーススタディ:事業が失敗し、2,000万円の取引先への買掛金が残った場合

個人事業主Aさんの場合:
事業上の買掛金2,000万円は、そのままAさん個人の負債となります。事業用の資産をすべて売却しても返済しきれない場合、取引先は裁判を通じて、Aさん名義の自宅や預貯金、生命保険などを差し押さえることが可能です。事業の失敗が、家族の生活基盤そのものを直接的に破壊するリスクがあります。

法人経営者Bさんの場合:
会社の買掛金2,000万円の返済義務は、あくまで会社にあります。Bさんの責任は、原則として会社に出資した資本金の範囲内です。会社の財産がなくなれば、それ以上の返済義務は原則として発生せず、Bさん個人の自宅や預貯金は法的に守られます。このリスクの分離が、経営の安定性、ひいては金融機関からの安心感に繋がり、より大胆な事業展開を可能にするのです。
※金融機関からの借入で経営者自身が連帯保証人になる場合は、Bさんも返済義務を負いますが、上記のような取引先への買掛金など、保証契約のない債務に対する責任は明確に分離されます。

優位性3:事業の継続性と拡張性

個人事業は、事業主の存在そのものに100%依存します。事業主が病気や怪我で働けなくなれば、事業は即座に停止します。一方、法人は、経営者が変わっても存続できる、独立した人格です。この事業の継続性は、長期的なパートナーシップを考える金融機関にとって、非常に重要な評価ポイントです。将来的に事業を子供に継がせる「事業承継」や、会社を売却する「M&A」といった、ダイナミックな成長戦略を描けるのも、法人ならではの特権です。

優位性4:資金調達の選択肢の広がり(融資の天井が違う)

これが最も決定的な差かもしれません。事業ステージごとの一般的な資金調達の選択肢は、以下のようになります。

事業ステージ 個人事業主の主な選択肢 法人の主な選択肢
創業期
(~売上数千万円)
・日本政策金融公庫
・制度融資
・日本政策金融公庫
・制度融資
成長期
(売上数千万~数億円)
・日本政策金融公庫(追加融資)
・制度融資(追加融資)
・(ハードルが高い)民間金融機関
・日本政策金融公庫・制度融資
民間金融機関からのプロパー融資
・リース、ファクタリング
拡大・成熟期
(売上数億円~)
(極めて限定的) ・プロパー融資の増額
ベンチャーキャピタル等からの出資
・社債発行、M&A、IPO

ご覧の通り、事業が成長するにつれて、法人は銀行から直接リスクを取って融資を受ける「プロパー融資」や、株主から資金を集める「出資」といった、より高度で、より大きな金額の資金調達への道が開かれています。個人事業主のままでは、このステージに進むことは極めて困難です。

第3章:あなたの事業戦略に合わせた、最適な「器」の選び方

では、あなたはどちらの「器」を選ぶべきなのでしょうか。それは、あなたの事業が目指す「ゴール」によって変わります。

「個人事業主」が適しているケース

「まずはスモールスタートで、自分の腕一本で勝負したい」「設立コストを抑え、すぐに事業を始めたい」「当面は大きな設備投資や従業員の雇用は考えていない」「自由な働き方を重視したい」

例えば、フリーランスのWebデザイナーである田中さんのようなケースです。田中さんの目標は、会社を大きくすることよりも、自分のスキルを活かして、場所に縛られずに良質な仕事をこなし、家族との時間を大切にすることです。このような、身の丈に合った着実な成長と、ライフスタイルを重視する場合、まずは個人事業主としてスタートし、必要に応じて日本政策金融公庫などを活用するのが、最も合理的でスピーディーな選択と言えるでしょう。

「法人」が適しているケース

「最初から大企業との取引や、公的な事業の受注を目指している」「近い将来、必ず従業員を雇用し、チームで事業を拡大したい」「数千万円単位の大きな資金調達を、いずれは実現したい」「将来的な事業売却(M&A)も視野に入れている」

例えば、独自のスープを開発し、まずは新宿に1号店を、そして3年後には都内に5店舗を展開するという明確なビジョンを持つ、ラーメン店店長の鈴木さんのようなケースです。鈴木さんの目標達成には、多額の設備投資、従業員の採用、そして追加の融資が不可欠です。このような、明確な成長・拡大戦略がある場合、最初から法人としてスタートする方が、遠回りに見えて、結果的にあなたの夢の実現への最短ルートとなります。

結論:最適な「器」選びは、最も重要な経営判断です

湖を渡るのに、豪華客船は必要ありません。小回りの利くボートの方が便利です。しかし、太平洋を横断するという壮大な航海に、小さなボートで挑むのはあまりにも無謀です。

あなたの事業という航海において、最適な「船(事業形態)」を選ぶこと。これは、融資の有利不利を左右するだけでなく、あなたのビジネスの未来そのものを決定づける、最も重要な経営判断の一つです。

私たち荒川会計事務所は、単に融資の申請書類を作成するだけではありません。あなたの事業の夢と、その航海の目的地を深く理解し、そのために最適な「船」はどちらなのか、という最初の、そして最も重要な意思決定の段階から、あなたの最高のパートナーとなります。

あなたの事業に、最適な「器」を選びませんか?

その最初の選択が、未来の資金調達力を大きく左右します。
まずは無料相談で、あなたの事業戦略に最適な形態はどちらか、一緒に考えましょう。

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