【会社名の決め方】登記前に必須の商号調査ガイド|商標権で失敗しない方法を税理士が解説

何日も、何週間もかけて考え抜いた、あなたのビジネスへの想いが詰まった渾身の会社名。いざ、法務局へ登記申請しようとしたら「その名前は使えません」と突き返されてしまう…。

あるいは、もっと恐ろしいのは、無事に登記を終えて事業が軌道に乗り始めた頃、突然、見知らぬ法律事務所から分厚い封筒が届き、「貴社の名称は当社の商標権を侵害しています。直ちに使用を中止し、損害賠償を請求します」という警告書が入っていたとしたら…。

これらは、決してドラマの中だけの話ではありません。会社名(商号)の決定前の「調査」を怠った起業家が、実際に直面しうる悪夢のシナリオです。

会社名は、単なるビジネス上の記号ではありません。それは、あなたの会社の「顔」であり、顧客や取引先からの信用を蓄積していく、最も重要な「無形資産」です。そして、その大切な資産を守るための、最初の、そして最も重要なステップが、設立前の「商号調査」なのです。

この記事は、単に検索サイトの使い方を紹介するだけのハウツー記事ではありません。新宿で数多くの会社設立を支援してきた私たちが、法務、ブランド戦略、そして「創業融資」の観点から、あなたが考えた会社名を法的に、そして戦略的に「使える」ものにするための「完全防御マニュアル」です。

【大前提】なぜ、会社名の事前調査が絶対に必要なのか?見過ごせない3つの深刻なリスク

具体的な調査方法に入る前に、まずは「なぜ、こんな面倒な調査をしなければならないのか?」という根本的な問いにお答えします。その理由は、調査を怠ることで、あなたの会社が設立直後から深刻なリスクを背負うことになるからです。

リスク1:登記できない、または事業変更を余儀なくされるリスク

会社の登記には、法律上のルールがあります。まず、「同一の本店所在地に、同一の商号の会社は登記できない」と定められています。例えば、あなたが登記しようとしているレンタルオフィスの一室に、既に同名の会社が存在すれば、あなたの会社は登記できません。
さらに重要なのが「不正競争防止法」です。たとえ登記ができたとしても、ソニーやトヨタといった誰もが知る著名な企業名と紛らわしい商号を使い、その知名度にただ乗りするような行為は、後から商号の使用差し止めを請求される可能性があります。

リスク2:商標権侵害による損害賠償・差止請求のリスク【最重要】

これが、起業家が陥る最も深刻で、最も多いトラブルです。ここで絶対に理解していただきたいのは、「法務局に登記できる会社名」と「事業で合法的に使えるブランド名」は全くの別問題だということです。

・商号(会社名):会社の戸籍上の名前。法務局の管轄。
・商標(ブランド名):商品やサービスの目印となる名前やロゴ。特許庁の管轄。

あなたの会社名が、たとえ登記できたとしても、もし他社がすでに同じような名前を、あなたの事業と類似の分野で「商標登録」していた場合、あなたはその他社の商標権を侵害していることになります。その結果、

  • 使用の差止請求:その会社名が入った看板、ウェブサイト、名刺、商品などをすべて破棄・変更するよう求められる。
  • 損害賠償請求:相手方が被った損害(あるいは、あなたが侵害によって得た利益)を金銭で賠償するよう求められる。
  • 信用の回復措置:謝罪広告の掲載などを求められる。

事業が大きくなればなるほど、その損害額は計り知れません。あなたの会社を守るため、商標権の調査は必須中の必須です。

リスク3:ブランド構築の機会損失と信用の失墜

法的なリスクをクリアできたとしても、ビジネス上の障壁が待ち受けています。

  • デジタル上の陣地が取れない:考えた会社名で、ウェブサイトのドメイン(.com.co.jpなど)や、X(旧Twitter)、InstagramなどのSNSアカウントが既に取得されていては、効果的なWebマーケティングが展開できません。
  • 後から社名変更する甚大なコスト:もし問題が発覚し、後から社名を変更するとなれば、登記変更の費用だけでなく、ウェブサイト、名刺、パンフレット、契約書、銀行口座など、すべての変更に膨大な費用と時間がかかります。何より、それまで築き上げてきた顧客からの信用やブランドイメージを、ゼロから再構築しなければならないのです。

【実践編】会社名の調査方法 - 3つのステップで徹底チェック

リスクの大きさを理解したところで、いよいよ具体的な調査方法です。以下の3つのステップを踏むことで、リスクを網羅的に洗い出すことができます。

STEP 1:【登記の可否】同一商号がないか調べる

まずは、そもそも法務局に登記できる名前かどうかを確認します。

  • 調査ツール:国税庁 法人番号公表サイト
    最も手軽で便利なのが、国税庁が提供するこの無料サイトです。
    1. サイトにアクセスし、「商号又は名称」の欄に、あなたが考えた会社名を入力します。
    2. 「本店又は主たる事務所の所在地」の欄に、登記を予定している市区町村名まで(例:東京都新宿区)を入力します。
    3. 検索ボタンを押し、同一または類似の商号を持つ会社が、あなたの登記予定地周辺に存在しないかを確認します。特に、同じビル内や同じ町丁目に類似商号がないかは注意深く見ましょう。
  • 調査ツール:登記・供託オンライン申請システム
    法務省が運営するこのシステムの「かんたん商号調査」機能を使っても、オンラインで調査が可能です。より正確な情報を求める場合は、本店所在地を管轄する法務局へ直接出向き、「商号調査簿」を閲覧する方法もあります。

STEP 2:【商標権の侵害】類似のブランド名がないか調べる

STEP 1をクリアしても安心はできません。次は、最も重要な商標権の調査です。

  • 調査ツール:J-PlatPat(特許情報プラットフォーム)
    特許庁が提供する、商標や特許を検索できる無料のデータベースです。
    1. サイトにアクセスし、上部メニューから「商標」を選択し、「1.商標を探す」をクリックします。
    2. 検索窓に、あなたが考えた会社名を入れます。この時、漢字だけでなく「称呼(読み方)」をカタカナで入力して検索するのが非常に重要です。商標の類似性は、読み方が似ているかどうかが大きな判断基準になるためです。
    3. 検索結果で、同一または類似の商標が登録されていないかを確認します。
  • 【最重要ポイント】「区分」の確認
    検索結果を見る際に、必ずチェックしてほしいのが「区分(商品・サービス区分)」です。商標権は、登録された特定の事業分野(区分)においてのみ効力を持ちます。例えば、あなたがITサービス(例:42類)の会社を始めようとしていて、「Phoenix」という商標を調べたとします。もし「Phoenix」が、お菓子(30類)の分野で登録されていても、あなたの事業とは関係ないため、原則として問題にはなりません。しかし、同じITサービスの分野で登録されていれば、それは完全にアウトです。あなたの事業がどの区分に該当するかを意識しながら調査することが、極めて重要です。

STEP 3:【Web上の存在感】ドメイン・SNSを調べる

法務・商標のリスクをクリアしたら、最後の仕上げとして、Web上での「陣地」が確保できるかを確認します。

  • GoogleやYahoo!で検索:考えた会社名で検索し、どのような企業や情報が表示されるかを確認します。同名の会社が既に有名だったり、ネガティブな情報と関連付けられたりしていないかをチェックしましょう。
  • ドメインの空き状況確認:「お名前.com」などのドメイン取得サービスサイトで、希望するドメイン(特に.co.jp.com)が取得可能かを確認します。
  • SNSアカウントの空き状況確認:X(旧Twitter)、Instagram、Facebookなどで、希望するアカウント名(ユーザー名)が使えるかを確認します。

【戦略編】調査結果に応じた、あなたの次の一手

調査を終えたら、その結果に基づいて次の戦略を立てる必要があります。

  • ケース1:【完全クリア】だった場合 → すぐに「商標出願」を!
    理想的な名前が見つかったら、登記を急ぐと同時に、弁理士に相談して「商標出願」を行うことを強く推奨します。商標は「早い者勝ち」の世界です。あなたが事業準備をしている間に、他社が同じ名前を商標出願してしまえば、あなたはその他社の権利を侵害することになってしまいます。会社名という最も重要な資産を法的に守るため、商標登録は最高の投資です。
  • ケース2:【ニアミス】だった場合 → 専門家とリスクを判断
    類似の商号や商標が見つかった場合、素人判断は非常に危険です。「事業分野が違うから大丈夫だろう」と思っても、法的には類似と判断されるケースもあります。会社名の一部を変更する、ロゴデザインで明確な差別化を図るなど、対策が必要です。この段階では、弁護士や弁理士といった法律の専門家に相談し、リスクの度合いを正確に判断してもらうのが賢明です。
  • ケース3:【完全アウト】だった場合 → 潔く、次の名前へ
    著名な企業名や、あなたの事業分野で登録されている商標と重複してしまった場合は、残念ですがその名前は諦めましょう。無理に使おうとすれば、待っているのは法的トラブルだけです。ここで時間を使うよりも、新たな素晴らしい名前を考えることにエネルギーを注ぎましょう。

【税理士の視点】会社名が「創業融資」と「信用」に与える影響

私たち税理士は、商号調査や商標登録の専門家ではありません。しかし、その結果として決まる「会社名」が、お客様の資金調達やその後の経営にどう影響するか、という視点を持っています。

  • 創業融資への影響:金融機関の担当者が融資審査で見るのは、事業計画書の数字だけではありません。「この経営者は、どれだけ周到に準備をしているか」という姿勢も見ています。商号調査をしっかり行い、場合によっては商標登録まで視野に入れたブランド戦略を考えている起業家は、「計画性が高く、信頼できる」というポジティブな印象を与え、融資審査において有利に働く可能性があります。逆に、あまりに奇抜で事業内容と乖離した名前は、堅実な事業運営を期待する金融機関に、無用な不安を与えることになりかねません。
  • 信用という資産:堅実で、事業内容を的確に表す会社名は、それ自体が信用を生み出す資産となります。税務調査においても、事業実態と一致した分かりやすい会社名であることは、調査官に誠実な印象を与えます。

まとめ:会社名選びは、専門家と共に行う最初の「経営判断」

会社名の決定と、その事前調査は、単なるネーミング作業ではありません。それは、法務(登記、商標権)、マーケティング(ブランド、Web戦略)、そして財務(資金調達、信用)が複雑に絡み合う、あなたの最初の、そして極めて重要な「経営判断」なのです。

この複雑なパズルを、起業家が一人で完璧に解くのは至難の業です。だからこそ、専門家の力が必要になります。

私たち新宿の創業支援税理士は、商号調査や商標登録そのものを代行することはできませんが、その結果を踏まえ、あなたの会社の信用力を最大化し、円滑な資金調達に繋げるための最適なアドバイスを提供できます。また、必要に応じて、私たちが信頼する弁理士や弁護士といった専門家と連携し、あなたの会社設立をワンストップでサポートすることも可能です。

「こんな名前を考えているんだけど、どう思う?」そんな漠然とした段階からでも、ぜひお気軽にご相談ください。

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