「会社の資本金は、いくらに設定すれば良いのでしょうか?」これは、新宿で会社設立を目指す起業家の皆様から、私達税理士が必ずと言っていいほど受けるご質問です。2006年の会社法施行により、法律上は「資本金1円」から株式会社を設立できるようになりました。しかし、この「法律上可能」ということと、「ビジネス上、現実的か」ということは全く別の話です。
資本金は、単なる会社設立時の運転資金ではありません。それは、あなたの会社の「財務的な体力」を示す指標であり、取引先や金融機関、そして未来の従業員に対する「信用力の証」です。さらに、創業融資の成否や、設立後の税金額にまで、直接的な影響を及ぼす、極めて重要な経営判断なのです。
この記事では、資本金1円起業の現実から、あなたの事業に最適な資本金額を導き出すための具体的な計算方法、そして融資や節税を有利に進めるための戦略まで、新宿で数多くの創業を支援してきた専門家の視点から、徹底的に解説していきます。
第1章:資本金を決定するための4つの戦略的視点
「資本金はいくらがベストか?」という問いに、万人共通の正解はありません。しかし、以下の4つの視点から検討することで、あなたの会社にとって最適な金額を導き出すことができます。
視点①:事業の安定性 – 運転資金の確保
資本金の最も基本的な役割は、事業が軌道に乗るまでの運転資金を賄うことです。売上が安定して入金されるまでの数ヶ月間、会社を支える体力がなければ、どんなに素晴らしい事業アイデアも実現できません。まずは、以下の計算式で必要額を算出してみましょう。
資本金の目安 = 初期費用 + 運転資金の3~6ヶ月分
- 初期費用(イニシャルコスト):
- 会社設立費用(登録免許税、定款認証料など):約22万円~
- 事務所の敷金・礼金、保証金
- PC、机、複合機などの設備費
- Webサイト制作費 など
- 運転資金(ランニングコスト):
- 事務所家賃
- 役員報酬、従業員給与
- 水道光熱費、通信費
- 広告宣伝費、仕入費 など
例えば、初期費用が100万円、毎月の運転資金が50万円だとすると、最低でも「100万円+(50万円×3ヶ月) = 250万円」程度の資本金があると、安心して事業をスタートできる、という計算になります。特に、新宿などの都心部では家賃などの固定費が高くなるため、この運転資金のバッファはより一層重要になります。
視点②:社会的信用力 – 取引先・金融機関からの見え方
資本金の額は、登記簿謄本(会社の戸籍)を見れば誰でも確認できます。取引先は、あなたの会社と取引を始める前に、この資本金の額を見て「この会社は、どれくらいの体力があるのか?」を判断します。
資本金が1円や10万円といった極端に低い金額だと、「事業に対する本気度が低いのではないか」「すぐに資金繰りが悪化するのではないか」といった、ネガティブな印象を与えかねません。実際に、大企業の中には、与信管理の観点から「資本金〇〇万円未満の会社とは原則取引しない」という内規を設けているところもあります。最低でも100万円、できれば300万円程度の資本金があると、一定の信用を得やすくなるでしょう。
視点③:資金調達(創業融資)–「自己資金」としての絶大な役割
これは、起業家にとって最も重要な視点かもしれません。日本政策金融公庫の新創業融資制度などを利用する場合、「自己資金(創業者自身が準備したお金)がどれだけあるか」が審査における最重要項目の一つとなります。そして、この自己資金の核となるのが、まさしく資本金なのです。
融資担当者は、資本金を「覚悟の証」と見る
融資担当者は、「この事業のために、創業者自身がどれだけリスクを負い、真剣に準備してきたか」を見ています。その最大の指標が、時間をかけてコツコツ貯めてきた自己資金(資本金)です。一般的に、融資希望額の1/3から1/2程度の自己資金が求められることが多いと言われています。
例えば、300万円の自己資金(資本金)があれば、600万円程度の融資が視野に入ってきます。逆に、自己資金が10万円しかないのに「1,000万円貸してください」と言っても、説得力はありません。資本金の額が、あなたの資金調達能力の天井を決めると言っても過言ではないのです。
視点④:許認可の取得 – 事業に必要な最低ライン
特定の業種で事業を行うためには、国や都道府県から「許認可」を得る必要があります。そして、その許認可の中には、財産的基礎として一定額以上の資本金(または自己資本)を要件としているものがあります。
- 建設業許可(一般建設業):自己資本が500万円以上であること。
- 有料職業紹介事業:資産総額から負債を引いた額が500万円以上であること。
- 一般労働者派遣事業:資産総額から負債を引いた額が2,000万円以上であること。
ご自身の事業が許認可を必要とする場合は、必ず事前にその要件を確認し、それを満たす額の資本金を設定する必要があります。
第2章:資本金の額が税金に与える影響【税理士の視点】
資本金の額は、税金の支払いにも直接影響します。特に「1,000万円」という数字は、税務上の重要なボーダーラインです。
最重要!資本金1,000万円の壁と「消費税」
これは、法人設立における最も有名な節税ルールです。原則として、資本金を1,000万円未満に設定して会社を設立すると、設立1期目と2期目の消費税の納税が免除されます。
消費税は、売上にかかる消費税から、仕入や経費にかかった消費税を差し引いて納付します。例えば、年間売上が2,200万円(うち消費税200万円)、経費が1,100万円(うち消費税100万円)だった場合、本来は100万円(200万-100万)の消費税を納める必要があります。この納税が最大2年間免除されるのですから、設立間もない会社にとっては、極めて大きなメリットです。
あえて信用力を示すために多額の資本金で設立する、といった戦略的な理由がない限り、資本金は1,000万円未満に抑えるのが賢明な選択と言えます。
意外な盲点「法人住民税の均等割」への影響
法人住民税は、会社の利益に応じて課税される「法人税割」と、赤字でも必ず支払わなければならない「均等割」の2つから構成されています。そして、この「均等割」の額は、資本金の額と従業員数によって変動するのです。
例えば、東京都23区内に事業所があり、従業員数が50人以下の場合、
- 資本金が1,000万円以下の場合:均等割は 年額7万円
- 資本金が1,000万円を超え1億円以下の場合:均等割は 年額18万円
資本金が1,000万円を超えるだけで、毎年支払う固定費が11万円も増加します。これも、資本金を1,000万円未満に抑えるべき、もう一つの重要な理由です。
第3章:資本金にまつわる手続きとQ&A
資本金の払込手続き【通帳コピーの作り方】
資本金は、定款の認証を受けた後に、発起人(創業者)の代表者個人の銀行口座に振り込みます。この時点ではまだ法人口座は存在しないため、必ず個人口座を使用します。
- 発起人全員が、それぞれの出資額を代表者の口座に振り込む。(代表者自身も、自分の口座に「振り込む」形で履歴を残すのが望ましい)
- 振込履歴が記帳された通帳を、以下の3つのページをコピーする。
- 通帳の表紙
- 見開き1ページ目(支店名、口座番号、名義人が記載されているページ)
- 振込履歴が記載されているページ
- これらのコピーと、会社が作成した「払込証明書」という書類をホチキスで綴じ、会社の実印を押印する。これで登記申請に必要な証明書類が完成します。
資本金に関するよくある質問
Q1. なぜ「1円会社」はダメなのですか?
A1. 法律上は可能ですが、ビジネス上は「信用ゼロ」と見なされるためです。法人口座の開設を断られたり、融資が受けられなかったり、取引を敬遠されたりと、デメリットしかありません。事業への本気度を示すためにも、現実的な金額を設定すべきです。
Q2. 借入金を資本金にすることはできますか?
A2. 非常にデリケートな問題です。親族などから「贈与」ではなく「借入」として個人的にお金を借り、それを資本金とすること自体は可能です。しかし、創業融資の審査では、その資本金が「どうやって作られたか」という源泉を厳しく見られます。通帳に、コツコツ貯めた形跡ではなく、設立直前に第三者から多額の入金(見せ金)があると、自己資金とは見なされず、評価が著しく低下します。
Q3. 設立後に資本金を増やす(増資)ことはできますか?
A3. はい、可能です。株主総会で決議し、法務局で変更登記を行うことで、資本金を増やす(増資)ことができます。ただし、その際には登録免許税(増加した資本金額の0.7%、最低3万円)がかかります。そのため、設立時の初期費用と、将来の増資コストを天秤にかけて、最初の金額を決めることも重要です。
終章:資本金は、あなたの事業の未来を映す鏡
ここまで見てきたように、資本金の決定は、単に「お金をいくら用意するか」という話ではありません。それは、事業計画、信用戦略、資金調達戦略、そして税務戦略が交差する、極めて高度な経営判断なのです。
新宿で成功を目指す起業家にとって、最適な資本金額はいくらか。それは、あなたの事業への情熱と、それを裏付ける具体的な計画の中にこそ答えがあります。一人で悩まず、ぜひ一度、私達専門家にご自身の事業構想をお聞かせください。あなたの会社の体力となり、未来を切り拓く武器となる、最適な資本政策を共に考え抜きます。
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