「会社を設立したら、社会保険に入らないといけないの?」「社長1人だけの会社でも、加入は必須?」新宿で法人を設立された起業家の皆様から、私達税理士が最も多く受ける質問の一つが、この社会保険に関するものです。多くの方が「社会保険料は高い」というイメージから、できれば加入したくない、とお考えになるのも無理はありません。
しかし、結論から申し上げますと、法人を設立した場合、社長1人の会社であっても、役員報酬を受け取る以上、社会保険への加入は法律で定められた義務です。これは選択の余地がない、絶対的なルールとなります。
ですが、社会保険を単なる「コスト」として捉えるのは非常にもったいないことです。実は、社会保険は会社の信用の礎であると同時に、社長ご自身の将来を守る、非常に強力な「セーフティネット」であり「投資」でもあるのです。このページでは、社会保険の基本から、具体的な手続き、保険料の決まり方、そして個人事業主時代の国民健康保険・国民年金と比べていかに有利であるかまで、専門家の視点で徹底的に、そして圧倒的な情報量で解説します。
第1章:「法人」と「個人事業主」の社会保険 – 決定的な違いとは?
社会保険の義務を正しく理解するためには、まず法人と個人事業主の立場的な違いを知る必要があります。
加入義務の違い
- 個人事業主:従業員が5人未満の場合、社会保険(健康保険・厚生年金)への加入は任意です。そのため、ほとんどの個人事業主は、市区町村が運営する「国民健康保険」と「国民年金」に加入しています。
- 法人(株式会社など):業種や従業員数、売上規模にかかわらず、設立した瞬間に「強制適用事業所」となり、社会保険への加入が義務付けられます。なぜなら、法人は社長個人とは別人格であり、社長は「法人に使用され、報酬を受ける従業員」という立場になるためです。
保障内容の比較 – なぜ法人の社会保険が圧倒的に有利なのか?
「義務」と聞くとネガティブに聞こえますが、その保障内容は、国民健康保険や国民年金とは比べ物にならないほど手厚く、経営者にとって大きな安心材料となります。
健康保険 vs 国民健康保険
比較項目 | 法人の健康保険 | 個人事業主の国民健康保険 |
---|---|---|
扶養家族 | 「扶養」の概念あり。 被保険者の収入で生計を立てる配偶者や子は、追加保険料なしで加入できる。 |
「扶養」の概念なし。 世帯の人数や所得に応じて保険料が増加する。 |
傷病手当金 | あり。 業務外の病気やケガで4日以上働けない場合、給料の約2/3が最長1年6ヶ月支給される。 |
なし。 働けなくなると収入が途絶えるリスクがある。 |
出産手当金 | あり。 産休中に給料の約2/3が支給される。 |
なし。 |
保険料負担 | 会社と個人で半分ずつ負担(労使折半)。会社負担分は経費になる。 | 全額自己負担。 |
特に「傷病手当金」の有無は決定的です。万が一、病気や事故で長期間働けなくなっても、収入がある程度保障されるという安心感は、事業に集中するための強力な基盤となります。
厚生年金 vs 国民年金
日本の公的年金制度は「2階建て構造」になっています。
- 1階部分:国民年金(基礎年金)
20歳以上60歳未満の全国民が加入する、基礎となる年金です。 - 2階部分:厚生年金
会社員や公務員などが、国民年金に上乗せして加入する年金です。
個人事業主は1階部分の国民年金にしか加入できませんが、法人の役員は1階と2階の両方に加入することになります。保険料は高くなりますが、その分、将来受け取れる年金額は、国民年金のみの場合と比較して2倍、3倍、あるいはそれ以上になるケースも珍しくありません。ご自身の豊かな老後を築くための、最も確実な積立投資と言えるでしょう。
第2章:社会保険料の徹底解剖 – いくら、どうやって決まる?
起業家にとって最も気になるのが、「いったい、いくら払うのか?」という点でしょう。社会保険料は、あなたの「標準報酬月額」を基に計算されます。
保険料の算出基盤「標準報酬月額」とは?
標準報酬月額とは、毎月の給料(役員報酬)を、キリの良い金額で区分した等級(東京都の場合は健康保険50等級、厚生年金32等級)のことです。基本給だけでなく、役職手当、通勤手当、住宅手当など、会社から労働の対償として支払われるものは、原則としてすべて報酬に含まれます。
この標準報酬月額は、毎年1回、4月・5月・6月の3ヶ月間の報酬の平均額を基に決定され(定時決定)、その年の9月から翌年8月までの保険料計算に使用されます。また、期中に給与が大幅に変動した場合は、随時改定が行われます。
保険料率の内訳と負担割合(労使折半)
計算された保険料は、全額を個人が負担するのではなく、会社と個人(社長)が半分ずつ負担します。これを「労使折半」と言います。会社が負担する分は、会社の経費(法定福利費)として計上できます。
保険料率は、加入する健康保険組合や都道府県によって異なります。ここでは、中小企業の多くが加入する「協会けんぽ(東京都)」の令和7年度(2025年度)の保険料率を想定して見てみましょう。
- 健康保険料率:約10.0% (※40歳以上65歳未満の方は、これに介護保険料率:約1.8%が上乗せされます)
- 厚生年金保険料率:18.3% (固定)
- 子ども・子育て拠出金率:0.36% (これは全額会社負担です)
【シミュレーション】役員報酬額別の保険料負担早見表(概算)
それでは、実際に役員報酬の額によって、どれくらいの負担になるのかをシミュレーションしてみましょう。
(※40歳未満、協会けんぽ東京支部、2025年度の想定料率での計算例です。端数処理等により実際の金額とは若干異なります。)
役員報酬月額 | 標準報酬月額 | 健康保険料 (個人/会社) |
厚生年金保険料 (個人/会社) |
合計負担額 (個人/会社) |
会社負担総額 (子ども手当拠出金含) |
---|---|---|---|---|---|
200,000円 | 200,000円 | 10,000円 | 18,300円 | 28,300円 | 29,020円 |
300,000円 | 300,000円 | 15,000円 | 27,450円 | 42,450円 | 43,530円 |
400,000円 | 410,000円 | 20,500円 | 37,515円 | 58,015円 | 59,491円 |
500,000円 | 500,000円 | 25,000円 | 45,750円 | 70,750円 | 72,550円 |
このように、役員報酬の額が、社会保険料の負担額に直結します。この負担をあらかじめ資金計画に織り込んでおくことが極めて重要です。
第3章:【実践マニュアル】会社設立直後の手続き完全ロードマップ
社会保険への加入は待ったなしです。登記完了後、速やかに手続きを進めましょう。
健康保険・厚生年金保険の手続き
- 提出先:本店所在地を管轄する年金事務所。新宿区の場合、多くは「新宿年金事務所」が管轄となります。
- 提出期限:会社設立の事実があった日から5日以内と、非常にタイトです。登記完了後、間髪入れずに準備する必要があります。
- 主な提出書類と記載事項:
- 健康保険・厚生年金保険 新規適用届:会社の法人番号、名称、所在地などを記入し、登記事項証明書(登記簿謄本)の原本を添付します。
- 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届:社長自身の氏名、生年月日、基礎年金番号、役員報酬額などを記入します。
- 健康保険 被扶養者(異動)届:配偶者やお子さんを扶養に入れる場合に提出します。扶養に入れる方のマイナンバーなどが必要になります。
労働保険(労災保険・雇用保険)の手続き
こちらは、従業員(パート・アルバイト含む)を一人でも雇用した場合に必要となる手続きです。社長一人の段階では不要ですが、人を雇う際には必ず発生します。
- Step1. 労働保険関係成立届:まず、管轄の労働基準監督署(新宿区なら新宿労働基準監督署)に提出します。期限は雇用日の翌日から10日以内です。これにより「労働保険番号」が発行されます。
- Step2. 雇用保険適用事業所設置届・資格取得届:次に、管轄のハローワーク(公共職業安定所)に提出します。Step1で取得した労働保険番号が必要です。期限はこちらも10日以内です。
第4章:知らないと損する!社会保険の戦略的活用と注意点
専門家コラム:税理士と社会保険労務士(社労士)の役割分担
ここまで解説した社会保険・労働保険の具体的な手続きは、国家資格である社会保険労務士(社労士)の専門分野です。一方で、その保険料の基となる役員報酬の決定や、会社負担分の経費計上といった財務戦略は、私達税理士の専門分野です。信頼できる税理士は、優秀な社労士とのネットワークを持っており、お客様を「司令塔」として、税務・労務の両面からワンストップでサポートする体制を整えています。
Q1. 社会保険に加入しないと、どうなりますか?
未加入が発覚した場合、年金事務所による立入検査が行われ、最大2年分遡って保険料を一括で請求されます。延滞金も課され、設立間もない会社のキャッシュフローに壊滅的なダメージを与える可能性があります。また、融資や補助金の申請、ハローワークへの求人など、様々な場面で社会保険の加入が条件となるため、事業運営上も大きな足かせとなります。
Q2. 役員報酬をゼロにすれば、社会保険に入らなくても良いですか?
はい、役員報酬がゼロ(無報酬)であれば、保険料の算定基礎がないため、社会保険料は発生しません。ただし、その場合、社長個人は国民健康保険と国民年金に加入する必要があり、その保険料は全額自己負担となります。また、社長自身の収入がゼロになるため、生活資金を会社からの貸付金などで賄うことになり、不健全な財務状況に陥りがちです。
終章:適切な加入が、会社の信用とあなたの未来を守る
ここまでお読みいただき、社会保険が単なるコストではなく、会社の信用を築き、経営者と従業員の生活を守るための、不可欠なインフラであることをご理解いただけたかと思います。
「自分の会社の場合、役員報酬はいくらに設定するのが最適なのか?」「手続きが複雑で、何から手をつけていいかわからない」 会社設立後の経営者が抱えるこうした悩みは、専門家にとっては日常的な問題です。一人で抱え込まず、ぜひ私達にご相談ください。あなたの会社の状況を丁寧にヒアリングし、財務的に最も有利で、かつ安心して事業に集中できる体制の構築を、全力でサポートさせていただきます。
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