会社設立は事業の発展や信用力向上に繋がる一方で、経営者が見落としがちなデメリットも存在します。中でも、社会保険料や労働保険料といった法定福利費の増加は、創業初期の資金繰りに大きな影響を及ぼすため注意が必要です。
本稿では、会社設立に伴う各種保険料の概要から、負担の実態、経営計画に与える影響、さらに節税対策や法的留意点まで詳しく解説いたします。
1.社会保険料の概要と会社設立後の義務
社会保険とは、「健康保険」と「厚生年金保険」を指し、労働者や経営者を含む会社の構成員が加入しなければならない公的保険制度です。
会社を設立すると、たとえ社長1名のみの小規模法人であっても、労働者(役員含む)全員を対象に健康保険・厚生年金の加入が強制的に義務付けられています(健康保険法第7条、厚生年金保険法第6条)。
これに対し、個人事業主が加入する国民健康保険や国民年金と比較すると、保険料率は高く設定されており、コストが増大する点が法人設立の大きなデメリットの一つです。
1-1. 社会保険料の計算方法と労使折半の仕組み
社会保険料は「標準報酬月額」に基づいて計算されます。これは役員や社員の給与額をもとに算出されるため、給与が高いほど保険料も増加します。
会社は、労働者負担分と同額を会社負担として支払うことが義務付けられており、これを「労使折半」と言います(健康保険法第54条、厚生年金保険法第79条)。
例えば、標準報酬月額が30万円の従業員の場合、健康保険料率約10%、厚生年金保険料率約18%(2025年現在)を合算すると、会社負担だけで月額約8万6400円程度が発生します。
1-2. 社長一人でも加入義務がある理由
法人設立後は、役員であっても労働者とみなされるため、社長個人も社会保険への加入が必要です。
この点は社会保険庁(現在の日本年金機構)や健康保険組合の実務上も明確にされており、社長個人が健康保険・厚生年金に未加入であると、将来的な年金給付に影響が生じる恐れがあります。
また、加入義務を怠ると法令違反となり、追徴金や罰則の対象となる場合もあります(健康保険法第208条、厚生年金保険法第126条)。
2.労働保険料(労災保険・雇用保険)の負担増
社会保険以外にも、会社設立により新たに加入が必要となるのが労働保険です。労働保険は「労災保険」と「雇用保険」を合わせた名称で、労働者の安全衛生と失業時の保障を担います。
労災保険料は事業主が全額負担し、従業員数や業種によって料率が異なります。
一方、雇用保険は従業員と会社が保険料を分担し、加入対象は一定条件を満たす従業員となります。
これらの保険料も社会保険同様、毎月の固定的な支出となるため、設立初期の資金繰り計画に組み込む必要があります。
2-1. 労災保険料の特徴
労災保険料は、業種ごとに料率が細かく設定されており、危険度の高い建設業や製造業は高率となる傾向があります。
また、労災保険料は全額会社負担となるため、特に従業員数が増えると負担が大きくなります。
2-2. 雇用保険料の負担範囲
雇用保険は失業時の給付を目的とするため、一定の労働時間を超える従業員が対象です。
会社と従業員で保険料を分担し、会社負担分は賃金の約0.6~1.2%程度(業種により異なる)となっています。
3.法定福利費の合計と経営に与える影響
社会保険料と労働保険料を合わせたものを法定福利費と呼びます。
法定福利費は人件費の約15~20%を占めることもあり、中小企業の経営において無視できないコストです。
会社設立後はこれらの費用負担が新たに発生するため、収益計画や資金繰りに大きな影響を及ぼします。
特に、法人化直後は売上が安定しないケースが多く、社会保険料等の支払いが経営を圧迫することがあります。
3-1. 顧問税理士や社会保険労務士の報酬
社会保険・労働保険の手続きは専門知識を要し、経営者自身が全てを対応することは困難です。
そのため、税理士事務所や社会保険労務士に顧問契約を結び、給与計算や保険手続きを代行してもらうことが一般的です。
これらの顧問料は月額数万円からとなり、継続的なコストとして発生します。
4.間接的コストと事務負担の増加
法定福利費の負担増だけでなく、会社設立により経理や労務管理の業務量が増大し、人員増強や外注が必要になる場合があります。
これに伴い、給与計算システムの導入費用や会計ソフトの利用料、労務管理ツールの導入費用など、間接的な支出が増加します。
こうしたコストは目に見えづらいものの、長期的な経営コストとして無視できません。
5.節税やコスト軽減のためのポイントと税理士の活用
法定福利費の負担を軽減するためには、適切な給与設定や役員報酬の分散、社会保険料率の低い健康保険組合への加入検討などが考えられます。
ただし、過度な節税は脱税とみなされるリスクがあるため、法律に則った正しい方法で行うことが重要です。
そのため、税理士や社会保険労務士の専門的なアドバイスを受け、リスクを抑えた最適なプランニングをすることが推奨されます。
また、助成金や補助金を活用し、社会保険料の負担軽減や人件費の補助を得られるケースもあります。
6.会社設立時に知っておきたい法令と判例
会社設立後の社会保険料負担は、法律で定められた義務ですが、実務上はその適用範囲や対象者をめぐって疑義もあります。
例えば、役員報酬の社会保険適用に関しては、報酬の実態や役員の勤務状況により加入対象が異なる場合があります。
過去には最高裁判所判例(平成17年3月15日判決)で、報酬のみが支払われ労務提供実態が薄い役員は被保険者として認められないと判断されたケースもあります。
これらの知識を踏まえたうえで、適正な手続きを行うことが必要です。
7.まとめ
会社設立に伴う社会保険料や労働保険料、顧問料などの法定福利費は、経営者にとって避けられないコスト増要因です。
特に設立初期の資金繰りに影響を与え、場合によっては経営の足かせとなることもあります。
しかし、これらを正しく理解し、適切な資金計画や専門家のアドバイスを受けながら対策を講じることで、長期的な企業成長の基盤を築けます。
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