会社設立は、単に事業を開始するだけでなく、最初の段階でまとまった資金と費用がかかる重要なイベントです。
この費用を適切に会計処理し、節税対策も兼ねることが会社経営の安定につながります。
本コンテンツでは、新宿で会社設立を検討されている経営者の方向けに、「創立費」と「開業費」の違い、会計および税務上の取り扱い、費用計上の具体的な方法と注意点について詳細に解説します。
1. 会社設立時の費用は大きく2つに分けられる
会社設立にかかる費用は、「創立費」と「開業費」に大きく分けられます。
どちらも会社の初期費用に該当しますが、発生するタイミングや内容、会計処理のルールが異なります。
正しく区別して計上しないと、会計帳簿や税務申告で誤りが生じる恐れがあるため、事前に理解しておくことが重要です。
1-1. 創立費とは?
創立費とは、会社設立前の準備段階で発生した費用を指します。
具体的には、会社の定款作成や認証費用、設立登記の登録免許税、司法書士や行政書士への報酬、発起人会費用や議事録作成費用、会社実印作成費用などが該当します。
これらは会社法や商業登記規則に基づき、会社成立前にかかった費用であるため、法的にも明確に区別されています。
1-2. 開業費とは?
開業費は、会社設立登記完了後の営業開始前までにかかる準備費用です。
具体的には、営業活動に必要なパンフレット作成費用、広告宣伝費、店舗の内装費用、立地調査費用、社員の研修費用や出張旅費、取引先との打合せにかかる飲食費用(交際費と区別が必要)などが含まれます。
また、販売促進のためのサンプル作成費用やウェブサイト制作費用も含まれますが、土地・建物の賃借料や給与、光熱費や通信費などの継続費用は含まれません。
これらは実際の営業開始に向けた準備活動に使われる費用です。
2. 創立費・開業費の会計上の取扱い
創立費も開業費も、発生した年度に全額経費として処理するのではなく、「繰延資産」として資産計上し、数年かけて償却していくことが一般的です。
これは費用の性質上、発生年度だけでなく将来にわたり利益を生むと見なされるため、収益と費用の対応の原則に基づいています。
区分 | 内容 | 償却期間 | 会計処理 |
---|---|---|---|
創立費 | 会社設立前の費用(定款認証、登記費用、司法書士報酬等) | 5年以内(任意償却も可能) | 繰延資産として資産計上 → 定額法による償却が基本 |
開業費 | 営業開始前までの準備費用(広告費、研修費、内装費用等) | 5年以内(任意償却も可能) | 繰延資産として資産計上 → 定額法による償却が基本 |
なお、税務上は「任意償却」が認められており、任意の償却期間・償却額で処理できます。
これにより、利益が多い年度に多く償却して節税対策を行うことも可能です。
3. 創立費・開業費の具体的な費用例
創立費・開業費に該当する費用は多岐にわたります。以下はそれぞれの具体例です。
3-1. 創立費の主な費用例
- 定款作成・認証費用:公証人役場での認証にかかる費用
- 登録免許税:設立登記申請時に法務局に納付する税金
- 司法書士・行政書士報酬:設立登記手続きの専門家報酬
- 印鑑作成費用:会社実印・銀行印など
- 発起人会費用:会場費用や資料作成費用
- その他書類作成費用:登記関連書類の取得費用など
3-2. 開業費の主な費用例
- 営業案内パンフレットの作成費用
- 広告宣伝費用:新聞広告、チラシ、ウェブ広告など
- 店舗・事務所の内装工事費用
- 販売促進用サンプルの制作費用
- 営業開始前の準備目的に関わる交通費・宿泊費・飲食代
- 社員教育研修費用
- 市場調査費用や立地調査費用
- ウェブサイト制作費用
これらの費用は、実際に営業開始前の活動にかかっていることが条件です。
例えば、賃借料や給与は営業開始後の継続費用にあたるため、開業費には含まれませんので注意が必要です。
4. 創立費・開業費の会計処理の流れ
創立費・開業費は、まず発生時点で費用として計上せずに一旦「繰延資産」として資産計上します。
その後、数年に分けて「償却」という形で費用化していきます。
この処理は、会計上の「収益と費用の対応の原則」を反映したもので、発生年度だけに費用を集中させず、将来にわたって利益を生む費用として扱うためです。
会計処理の具体的な流れは以下の通りです。
- 創立費・開業費を発生した年度の資産として「繰延資産」に計上
- 決算時に、繰延資産を「償却」して費用に振り替え
- 基本的には5年以内に均等償却(定額法)が原則
- ただし、任意償却により任意の期間や額を設定可能(税務上)
下記は会計処理のイメージ図です。
年度 | 処理内容 | 会計上の仕訳例 |
---|---|---|
創立費・開業費発生年度 | 例:定款認証費用50,000円を繰延資産に資産計上 | (借)繰延資産 50,000円 / (貸)現金・預金 50,000円 |
決算年度(毎年) | 償却費用計上(5年均等償却の場合) | (借)償却費 10,000円 / (貸)繰延資産 10,000円 |
実務上は、税務の取り扱いを踏まえて適切な償却方法を選択することが求められます。
償却期間を短縮することで「税負担の軽減」や「課税所得を圧縮」し、節税効果を高めることも可能です。
5. 創立費・開業費の税務上の取り扱い
税務上、創立費および開業費は繰延資産として計上した後、任意償却が認められています。
これは、会計処理とは異なり、税務署に対して「いつ・どの程度償却するか」を自由に設定できるため、利益が出ている年度に集中して費用を計上し、節税に活用することが可能です。
5-1. 任意償却のメリットと注意点
- メリット:利益が多い年度に償却費用を増やして課税所得を圧縮できる
- 注意点:任意償却は税務調査で詳細な説明を求められる場合があるため、合理的な理由を用意することが必要
- 償却期間の上限は特に定められていないが、税務署に認められる範囲で計画を立てることが重要
5-2. 具体的な税務申告上の処理方法
税務申告の際には、繰延資産の償却費を「損金」として計上します。
申告書の添付資料として繰延資産明細書を作成し、経費に含める根拠を示すことが一般的です。
また、税務署への相談や税理士との連携で適切な償却計画を立てることが推奨されます。
6. 創立費・開業費と節税対策
会社設立初期は収益が不安定な場合が多く、節税対策として創立費・開業費の償却方法を工夫することが重要です。
特に任意償却を活用して利益が出る年に多めに償却費を計上することで、税負担を軽減できます。
ただし、長期間にわたって計画的に償却することで将来的な資金繰りの安定も図る必要があります。
6-1. 節税効果を最大化するためのポイント
- 設立年度および設立翌年度に償却費を多めに計上し、利益圧縮を図る
- 事業の成長段階に応じて償却額を調整し、キャッシュフローと税負担のバランスを最適化する
- 税理士と連携し、最新の税制改正や特例措置を活用する
6-2. 注意点
節税を目的として創立費・開業費の償却を過剰に行うと、税務署の指摘を受ける可能性があります。
合理的かつ客観的な根拠を持って計画的に償却を行うことが必要です。
また、事業が順調に進まない場合、償却を急ぎすぎると資金繰りが悪化するリスクもあるため慎重な対応が求められます。
7. 創立費・開業費の計上に関する判例・実務上のポイント
会社設立に関する費用の計上方法は、過去の税務調査や判例で実務上のガイドラインが示されています。
特に「何が創立費・開業費に該当するのか」という点は重要な争点となることがあります。
7-1. 判例の概要
過去の判例では、会社設立前の準備段階に直接必要な費用であれば「創立費」として認められやすいとされています。
一方で、設立後の営業活動に直接関連しない費用や、継続的に発生する費用は開業費や販管費として別途処理されるべきと判示されています。
具体例としては、調査費用や企画費用、役員報酬の一部が争点になるケースがあります。
7-2. 実務上の対応
- 費用の発生時期や用途を明確に記録し、根拠資料(例:領収書、契約書、議事録)を保存することが重要
- 税務署の指摘を受けにくいよう、費用の区分を明確にし、会計帳簿に適切に反映する
- 専門家のアドバイスを受けながら費用計上の方針を策定する
8. その他の関連費用と注意点
会社設立にかかる費用には、創立費・開業費以外にも多様な費用が存在します。
例えば、法人税申告書作成費用や社会保険加入に伴う手続き費用、営業許可申請費用(例:飲食業の保健所手数料、建設業の許可申請費用)などです。
これらは通常、設立後の経費または販管費として処理されるため、創立費・開業費との区別(例:設立前か後か、準備行為か営業行為か)が必要です。
9. まとめ
会社設立時の費用を適切に経費計上することで、税務上のメリットを享受しつつ、会計の透明性を高めることができます。
創立費・開業費は繰延資産として資産計上し、任意償却を活用することで節税対策にもつながります。
ただし、費用の区分や償却計画は慎重に行うことが必要であり、税務調査対策として証拠資料の整備が欠かせません。
新宿の荒川会計事務所では、会社設立から経費処理、節税対策まで専門的にサポートしております。
費用計上に関してお悩みがあれば、お気軽にご相談ください。

