「会社を設立したいけれど、役員って何人必要なんだろう?」「自分ひとりでも社長になれるの?」新宿で起業を志す多くの方から、私達税理士はこのようなご質問を頻繁に受けます。結論から申し上げますと、これから設立されるほとんどの株式会社は、取締役1名から設立可能です。
しかし、会社の役員構成(法律用語で「機関設計」と言います)は、単なる人数の問題ではありません。それは、会社の意思決定のスピード、経営の透明性、社会的信用度、そして将来の成長戦略そのものを左右する、極めて重要な「会社の設計図」の一部なのです。
このページでは、新宿で数々の会社設立をサポートしてきた私達が、2025年現在の会社法に基づき、役員の人数の基本ルールから、あなたの事業モデルに合わせた最適な機関設計の考え方まで、専門家の視点で徹底的に掘り下げて解説します。この記事を読めば、あなたの会社に最適な「操縦室(コックピット)」をデザインするための、明確な指針が得られるはずです。
すべての基本!「株式譲渡制限会社」を理解する
役員の人数を考える上で、まず絶対に理解しなければならないのが、自社が「株式譲渡制限会社」なのか、そうでないのか、という点です。
なぜ、ほぼ全てのスタートアップが「株式譲渡制限会社」なのか?
「株式譲渡制限」と聞くと、何か不自由なイメージを持つかもしれませんが、これは創業者にとって非常に重要な「防衛機能」です。具体的には、「自社の株式を誰かに譲渡(売却)する際には、会社の承認(通常は株主総会の決議)が必要ですよ」というルールを定款で定める会社を指します。
もしこの制限がなければ、創業者の株主が、知らないうちに反社会的な勢力や競合他社に株式を売却してしまい、ある日突然、見知らぬ第三者が「株主だ」と名乗って経営に介入してくる…といった事態も起こり得ます。このようなリスクを防ぎ、信頼できる仲間だけで安定した経営を行うために、これから設立される会社の99.9%は株式譲渡制限会社として設立されます。
株式譲渡制限会社における役員の最低人数
そして、この株式譲渡制限会社(非公開会社)の場合、会社の機関設計を非常にシンプルにできます。法律で定められている最低限の役員は以下の通りです。
- 取締役:1名以上
つまり、ご自身が唯一の株主となり、そのご自身が取締役に就任すれば、たった1名で株式会社を設立できるのです。この場合、その取締役が会社の代表者である「代表取締役」を兼ねることになります。これが、いわゆる「一人社長」の会社の最も基本的な形です。
(参考:もし株式の譲渡制限を設けない「公開会社」を設立する場合は、「取締役会」という機関の設置が必須となり、取締役は3名以上、さらに監査役も1名以上必要となります。これは上場企業などが採用する形態であり、スタートアップが最初から目指すものではありません。)
【実践編】事業モデルで選ぶ、最適な役員構成(機関設計)の3パターン
「1名からでOK」とわかったところで、次に考えるべきは「あなたの会社にとって、本当に最適な構成は何か?」という点です。事業の計画や仲間との関係性によって、ベストな形は異なります。代表的な3つのパターンを見ていきましょう。
パターン1:個人事業主の延長線上で始める「取締役1名」構成
フリーランスや個人事業主から法人成りする場合や、完全に一人で事業を立ち上げる場合に最も適した、シンプルかつ機動的な構成です。
メリット
- 圧倒的なスピード:全ての意思決定を自分一人で行えるため、外部環境の変化に迅速に対応できます。
- 低コスト・シンプル運用:役員会などの会議は不要で、役員報酬も自分一人分を考えれば良いため、管理コストが最小限で済みます。
- 意見対立のリスクゼロ:経営方針をめぐる仲間割れなどの内部対立が起こり得ません。
デメリット
- 属人性の高さ(キーパーソンリスク):社長自身が病気や事故で倒れてしまうと、会社の業務が完全にストップしてしまうリスクがあります。
- 客観性の欠如:重要な経営判断を相談する相手がおらず、独断に陥りやすい側面もあります。
- 社会的信用の側面:非常に稀ですが、伝統的な大企業との取引などでは、役員が1名であることを「小規模な会社」と見なされ、不利に働く可能性がゼロではありません。
税理士視点:役員報酬の戦略的設定
取締役1名の場合、ご自身の役員報酬の決め方が会社の資金繰りと節税の鍵を握ります。役員報酬は、原則として事業年度の開始から3ヶ月以内に決定し、その期中は毎月定額で支給しなければ経費(損金)として認められません。会社の利益計画と、ご自身の所得税・住民税・社会保険料の負担額をシミュレーションし、会社と個人のトータルで手残りが最大になるような、戦略的な報酬額を設定することが、税理士の重要な役割の一つです。
パターン2:仲間と起業する「取締役複数名(取締役会なし)」構成
気心の知れた同僚や友人と、それぞれのスキルや資金を持ち寄って起業する場合の一般的な構成です。
メリット
- 責任と業務の分担:それぞれの得意分野(例:Aさんは営業、Bさんは開発)を活かし、一人あたりの負担を軽減できます。
- 多様な視点:異なる視点から議論を交わすことで、より良い経営判断に繋がる可能性があります。
デメリット
- 意思決定の遅延・対立:経営の根幹に関わる部分で意見が対立し、事業が停滞するリスクがあります。これは共同経営で最も多い失敗パターンです。
- 責任の所在の曖昧化:「誰の責任か」が不明確になり、問題解決が遅れることがあります。
【超重要】「株主間契約」で仲間割れを防ぐ!
複数名で起業する場合、設立登記の前に必ず「株主間契約書」という契約を創業者同士で締結してください。これは、法律で定められた定款を補う「創業者間のプライベートなルールブック」です。例えば、以下のような項目を定めます。
- 各役員の役割分担と権限
- 重要な意思決定(多額の借入など)の際のルール
- 役員の一方が会社を辞める場合の、株式の取り扱い(会社や他の株主が買い取る義務など)
口約束だけで始めると、後々のトラブルは避けられません。「最初にルールを決めること」が、仲間との良好な関係を維持し、事業を成功させるための秘訣です。私達は、このような契約書作成のサポートも行っています。
パターン3:信用度と統治を重視する「取締役会設置会社」
よりフォーマルで、強固なガバナンス(企業統治)を求める場合の構成です。
- 設置要件:取締役3名以上 + 監査役1名以上
メリット
- 社会的信用の向上:「取締役会」という正式な意思決定機関があることで、金融機関や取引先からの信用度が格段に上がります。高額な融資や、VC(ベンチャーキャピタル)からの出資を目指す場合に有利です。
- 経営の暴走防止:重要な業務執行の決定を取締役会で行うため、代表取締役の独断による経営の暴走を防ぐことができます。
デメリット
- コストと手間の増大:役員を最低4名集める必要があり、監査役には外部の専門家を招くことも多いため、役員報酬の負担が増えます。また、定期的な取締役会の開催と議事録の作成が義務付けられ、事務的な負担も大きくなります。
- 機動力の低下:重要な決定に取締役会の承認が必要となるため、意思決定のスピードは落ちます。
設立当初からこの構成を選ぶのは、「設立と同時にVCから出資を受けることが内定しており、その条件として取締役会の設置が求められている」といった特殊なケースに限られるでしょう。
取締役以外の役員「監査役」「会計参与」の役割
監査役 – 経営のブレーキ役
監査役は、取締役の職務執行が法令や定款に違反していないかをチェックする、いわば「経営の監視役」です。株主の利益を守るために存在します。前述の通り、取締役会を設置しない限り、監査役の設置は任意(自由)です。
会計参与 – 財務の信頼性を高める専門家
会計参与は、税理士・公認会計士が就任し、取締役と共同で貸借対照表や損益計算書などの計算書類を作成する役員です。会計参与が作成に関与することで、会社の決算書の信頼性が高まります。しかし、これも設置は任意であり、スタートアップで設置するケースは極めて稀です。
【FAQ】役員の人数に関するよくある質問
Q1. 代表取締役を2人以上置くことはできますか?
はい、可能です。「共同代表」として、複数名が会社の代表権を持つことができます。例えば、営業に強い代表と、開発に強い代表がそれぞれの分野を統括するようなケースで採用されます。ただし、対外的にはどちらが最終責任者か分かりにくくなるデメリットもあります。
Q2. 役員の任期は何年に設定すれば良いですか?
役員の任期は、公開会社では最長2年ですが、株式譲渡制限会社の場合、定款で定めることにより最長10年まで伸長できます。任期が満了するたびに役員変更の登記(登録免許税1万円)が必要になるため、メンバーが固定されている場合は、最初から10年に設定しておくことで、登記の手間とコストを削減できます。
Q3. 妻や親族を役員にするメリットはありますか?
実際に業務に従事することを前提に、親族を役員にして役員報酬を支払うことで、世帯全体での所得を分散し、所得税や住民税の負担を軽減できる可能性があります(所得分散効果)。ただし、名目だけで実態が伴わない場合は、税務調査で否認されるリスクがあります。
終章:最適な機関設計は、事業成功への第一歩です
ここまで見てきたように、会社の役員構成は、あなたの事業戦略そのものです。「誰と、どのような体制で、どうやって意思決定していくのか」をデザインする、非常にクリエイティブな作業でもあります。
新宿でこれから事業を始める方の大多数にとっては、まずは取締役1名のシンプルな体制でスタートし、事業の成長に合わせて仲間を加え、組織の形を柔軟に変えていくのが王道と言えるでしょう。
しかし、共同創業者との関係性や、設立当初から大きな資金調達を見据えている場合など、最適な答えは一社一社異なります。会社の設計図作りで迷われた際は、ぜひ一度、私達専門家にご相談ください。あなたのビジョンを実現するための、盤石な組織作りをサポートします。
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