「ネット記事の通りに役員報酬を月額10万円・賞与1,000万円にしたら、年金事務所から『総合調査』の通知が来ました。どうすればいいですか?」
これは、実際に私が渋谷区のIT企業経営者様から受けた緊急相談の第一声です。 近年、「社会保険料削減スキーム」の情報がネット上に溢れています。「月給を下げてボーナスに偏らせれば、手取りが数百万増える」という理論は、厚生年金保険法上の上限規定(キャップ)を利用した、計算上は正解と言える手法です。
しかし、その裏側にある「行政実務上の激しいリスク」については、ほとんど語られていません。 私は税理士として、新宿・渋谷・港区を中心とした高収益企業の税務顧問を務める中で、この「役員報酬の最適化」に数多く立ち会ってきました。
その経験から断言できるのは、「単に数字をいじっただけの安易な設定は、日本年金機構の事務取扱要領に照らして否認され、多額の追徴を受ける」という現実です。
本記事では、教科書的なシミュレーションだけでなく、「実際に調査官とどのような問答が行われるのか」「固定的賃金の仮装とみなされるのはどのようなケースか」といった、私の実体験に基づく一次情報(Experience)を中心に、年収1,500万円前後の経営者が知っておくべき役員報酬戦略の全貌を、16,000字超の圧倒的な情報量で公開します。
- 事務取扱要領に基づくリスク: 健康保険法第41条(随時改定)の条文そのものより、年金事務所が「実態」で判断する固定的賃金該当性の基準。
- 生々しい調査対応録: 「賞与ではなく月々の報酬の仮装」という疑いを晴らすために提出した、具体的なエビデンス。
- 上限規定(キャップ)の限界: 厚生年金法24条の「150万円上限」を形式的に当てはめることが、なぜ「臨時性」の否定を招くのか。
- マイクロ法人の失敗事例: 資格取得が認められず、遡って取消し処分を受けた資産管理会社の実態。
第 1 章:【実録】年金事務所は「月額10万円」をこうして狙い撃つ
まず、理論的な計算の話をする前に、私が実際に立ち会った「調査の現場」の実態を共有します。 対象となったのは、渋谷区に拠点を置くIT企業(年商3億円、代表取締役1名)です。
1. 調査官が真っ先に確認した「実態判断の急所」
その企業は「月額報酬10万円、事前確定届出給与1,500万円(年1回)」という設定に変更していました。調査当日、年金事務所の調査官は、単なる数字の確認にとどまらず、以下の「実態」を執拗に確認しました。
- 会社から社長への資金移動(貸付金・仮払金): 毎月の生活費を補填するような、定期的かつ実質的な給与としての払い出しがないか。
- 報酬決定の合理性: 職責や拘束時間に対し、月10万円という設定に客観的な必然性(新規投資への資金集中など)があるか。
- 生活原資の疎明資料: 「月10万円でどう生活を維持しているのか」の具体的な根拠。
2. 「固定的賃金の仮装」という指摘の重み
調査官の指摘は次のようなものでした。
「形式上は年1回の賞与ですが、実態として毎月の役務提供の対価を後払いにしているだけではないですか? これは日本年金機構の事務取扱要領に照らせば、固定的賃金の仮装にあたります」
これは「健康保険法第41条(随時改定)」の要件条文そのものの判断というより、その背後にある「固定的賃金該当性」を実態で判断するという行政実務に基づく指摘です。 もし「月給の仮装」と認定されれば、当初から毎月支給されるべき報酬であったとして、標準報酬月額そのものを遡って再決定(再算定)されることになります。その結果、削減したはずの保険料を数年分一括で追徴され、さらには延滞金の負担も重くのしかかります。
3. 専門家が介入し、是正を回避した防衛ロジック
このケースでは、私が以下の事実関係を立証することで、最悪の事態を回避しました。
- 貸付金の性格: 会社への資金流出は、過去に社長が個人資産から投入した借入金の「返済(元金返還)」であり、役務の対価ではないことを通帳履歴で証明。
- 賞与の変動性(非固定性): 業績目標の達成度に応じた算出式を議事録に残しており、将来的な不支給の可能性(リスク)も負っていることを明示。
この経験から学べる教訓は、「条文の字面だけを見て設定を変えるのは極めて危険である」という一点に尽きます。
第 2 章:理論上の最適化メカニズムと「上限規定」の正体
リスクを十分に理解いただいた上で、理論上の「社会保険料適正化」の仕組みを解説します。その根拠は、厚生年金保険法第24条にあります。
1. 標準賞与額の「150万円上限」という規定
厚生年金保険料の計算において、以下のキャップが設けられています。
- 標準報酬月額(給与): 月額65万円が上限。
- 標準賞与額(賞与): 同一月に支給された賞与の合計額を基礎とし、1ヶ月あたり150万円が上限。
この規定を形式的に適用すれば、1,380万円の賞与を支払っても、保険料は150万円分(約27万円)に抑えられます。 しかし、行政解釈においては「賞与の臨時性・偶発性」が極めて重視されます。毎期・毎年、決まった時期に同額で支給される賞与は、たとえ年1回であっても「恒常的な報酬」とみなされ、臨時性が否定される(=月額給与として再算定される)リスクがある点に注意が必要です。
2. 年収1,500万円の理論上の比較
東京都・40歳以上(介護保険あり)での概算試算です。
【プランA:毎月均等払い(月125万円)】
社会保険料(労使折半合計):約324万円
【プランB:理論上の適正化設計(月10万+年1回賞与1,380万)】
社会保険料(労使折半合計):約131万円
→ 理論上の差額:年間 約193万円
計算上は劇的なメリットが生じますが、実務上は「調査対象となりやすいこと」を前提に、月額報酬を生活給として妥当なライン(月30万〜50万円程度)に設定するなど、リスクヘッジを優先するのが新宿・渋谷エリアの賢明な経営者の選択です。
第 3 章:マイクロ法人(二刀流)スキームの「失敗と成功」の分水嶺
本業とは別に「資産管理会社」等を作り、そこで社会保険に加入する手法も注目されていますが、年金事務所の対応は年々厳格化しています。
1. 【失敗事例】資格取得が遡及して取消されたケース
港区の経営者様が、売上実績のない休眠状態の法人B社から月5万円の報酬を出し、社保加入を申請した事例です。 年金事務所の精査により、「B社には事業実態も外部売上もなく、主たる労務の提供先は明らかに本業A社である」と断じられました。結果、B社での資格取得は遡って取消され、本業A社での高額な保険料負担での加入を強制されました。
2. 成功させるための「実体要件」の定義
マイクロ法人を単なる「社保回避ツール」とみなされないためには、以下の要件充足が極めて重要です。
- 独立した事業性: 不動産賃貸、有価証券運用、別ジャンルのWEBコンサルティングなど、本業とは明確に区分された「時間的拘束の少ない事業」の実態があること。
- 第三者売上の存在: 本業会社からの業務委託費だけでなく、外部顧客からの入金実績があること。
- 手続きの正確性: A社からも少額の報酬を出す場合は、「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を確実に提出し、行政の把握を前提とした運用を行うこと。
第 4 章:【思考実験】年金受給額の減少 vs 現在のキャッシュ確保
「社会保険料を減らすと、将来の年金が減って損だ」という声があります。これを具体的な数値で検証します。
1. 報酬比例部分の減少額試算
40歳から20年間、標準報酬月額を上限(65万円)から最低等級(9.8万円)に下げた場合、将来の老齢厚生年金は年額でおおよそ40万円〜70万円程度減少する可能性があります。 ※これは現在の報酬比例部分の計算式(平均標準報酬額 × 5.481/1000 × 加入月数)等に基づいた概算であり、個人の加入歴や今後のマクロ経済スライド等の制度改正により大きく変動します。
2. どちらが合理的な生存戦略か
【20年間の収支バランス(思考実験)】
- 削減できる保険料: 年間193万円 × 20年 = 約3,860万円(今、手元に残る現金)
- 将来減る年金受給額: 年間50万円減 × 20年(65歳〜85歳) = 約1,000万円(将来の受給減)
単純な総額比較では「今、手元にキャッシュを残す」方がプラスになります。 さらに、手元に残った3,860万円を、新NISA等の非課税枠で年利3%程度で運用できれば、その差は数千万円単位に拡大します。不確実な未来の公的給付に依存するよりも、確実な現在のキャッシュフローを最大化し、自ら資産形成を行う方が、経営者にとってはリスク管理上合理的であるというのが、多くの実務家の見解です。
第 5 章:法人税 vs 所得税|軽減税率の「損益分岐点」
役員報酬の総額をいくらに設定すべきか。その基準は法人税率にあります。
1. 中小企業の特権「800万円以下」の活用
資本金1億円以下の中小企業の場合、課税所得の800万円以下の部分は、実効税率が約23%〜25%に軽減されています。一方、800万円を超えると約33%〜35%まで上昇します。
2. 交差点:年収1,500万円付近の判断
個人の限界税率(所得税・住民税+社保実質負担)が法人税の実効税率(約34%)を上回り始めるのが、概ね「年収1,500万円」ラインです。 「法人利益を800万円程度残し、軽減税率のメリットを享受しつつ、それを超える部分を役員報酬として取り出す」設計が、トータルのキャッシュを最大化する一つのセオリーとなります。
第 6 章:出口戦略|退職金の「3.0倍目安」と弔慰金の相当額判断
会社に溜めた利益を、最後にどう個人に移転するか。その終着点が「退職金」です。
1. 退職金ベースの確保と直前引上げリスク
役員退職金は「最終月額報酬 × 在任年数 × 功績倍率(社長なら3.0倍が目安)」で計算されます。 節税のために月給を下げすぎていると、計算ベース(月額報酬)が低くなり、十分な退職金が取れません。 退職数年前から段階的に月給を引き上げる必要がありますが、退職直前の不自然な急増は、退職金目当ての租税回避とみなされ、否認されるリスクを孕みます。職務内容の変更等の客観的合理性を、数年かけて構築しておく必要があります。
2. 弔慰金の「相当額」に関する行政判断
死亡退職金とは別に、相続税の対象外となる「弔慰金」を支給できます(業務上の死亡:月給36ヶ月分、業務外:6ヶ月分までが目安)。 ただし、これらはあくまで「社会通念上、相当と認められる額まで」が非課税とされる通達ベースの概念です。報酬操作を前提とした過大な支給は、その相当性が争われる可能性がある点に留意が必要です。
第 7 章:厳選FAQ|実務の現場で問われる「7つの重要回答」
Q1. 役員報酬を期中で変更できる例外(臨時改定事由)の正確な範囲は?
A. 「経営状況の著しい悪化」に限定されます。 単なる利益調整目的の増減は認められません。具体的には、銀行との返済猶予(リスケ)交渉が必要なレベルの資金繰り悪化や、主要取引先の倒産など、第三者に客観的に説明できる証拠資料の完備が必要です。
Q2. 事前確定届出給与を「全額不支給(0円)」にする実務上の留意点は?
A. 法的には可能ですが、「形骸化」を疑われないことが重要です。 不支給自体は届出違反にはなりませんが(経費自体が発生しないため)、毎期繰り返すと制度の悪用とみなされ、スキーム自体の有効性が否定されるリスクがあります。必ず不支給を決定した「臨時株主総会議事録」を作成し、客観的な業績悪化データを添えて保管してください。
Q3. 「月給10万円」で住宅ローンの審査は通りますか?
A. 非常に困難と言わざるを得ません。 金融機関は安定した「月々のキャッシュフロー(給与振込実績)」を重視します。賞与を含めた総額が高くても、月給が極端に低いと「返済能力の継続性に疑義あり」と判断されるケースが多いのが実情です。ローン審査を控えている時期の導入は避けるべきです。
Q4. マイクロ法人(資産管理会社)で「暗号資産」を保有するメリットは?
A. 令和6年度以降の税制改正により、有力な選択肢となりました。 これまで大きな壁だった期末時価評価課税(含み益課税)が、長期保有等の要件を満たせば除外されるようになっています。役員報酬の最適化と資産運用をセットで考える際、非常に有効な箱となり得ますが、法人設立費用や管理コストとのバランス計算が必須です。
Q5. 法人カードの私的利用が「役員賞与」と認定された時のペナルティは?
A. 想像以上に重い制裁となります。 会社側では損金不算入(経費にならない)となる一方、個人側では所得税と社会保険料が追徴されます。さらに、悪質な仮装隠蔽とみなされれば「重加算税(35%〜40%)」の対象となり、一気に信用を失うことになります。新宿・渋谷の税務調査では、デジタルデータの解析も含め、ここが徹底的に洗われます。
Q6. 妻を非常勤役員にして「扶養の範囲内」で払うのは可能?
A. 理論上は可能ですが、年金事務所の精査が非常に厳しい領域です。 妻の報酬を年130万円(月額10.8万円)未満に抑えて家族の扶養に入れつつ現金を移転する場合、まずは「職務内容の対価として妥当か(名ばかりではないか)」が問われます。さらに、本業の指揮命令系統下にあるとみなされると、遡及して扶養削除を求められるリスクがあります。
Q7. 結局、一番安全で効果が高い「落とし所」の配分は?
A. 顧問先には「月額30〜50万円 + 残り賞与」のラインを推奨するケースが多いです。 月額10万円は調査リスクが突出して高いですが、30万円以上あれば「生活費としての実態」を主張しやすく、是正勧告を受ける確率を大幅に下げつつ、社会保険料の削減メリット(厚生年金150万円キャップの活用)も十分に享受できる、攻守のバランスが取れた現実的なラインです。
まとめ:役員報酬は「計算」と「実態」のバランスで決まる
役員報酬の最適化は、パズルに似ています。 「手取り最大化」というピースだけを追い求めると、「年金事務所調査」「税務署調査」「銀行融資」といった他のピースがはまらなくなり、最終的には大きな損失(追徴課税や資金繰り悪化)を招くことになります。
本記事で解説した手法は、理論上は強力ですが、運用を間違えれば経営を揺るがす「諸刃の剣」でもあります。 だからこそ、ネット上の表面的な断定情報を鵜呑みにせず、リスク許容度と経営フェーズに合わせた、あなただけのオーダーメイドな設計が必要です。
「今の税理士は保守的すぎて、こうした提案をしてくれない」
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そのようなお悩みをお持ちの新宿・渋谷・港区エリアの経営者様は、ぜひ一度、荒川会計事務所にご相談ください。 多くの調査現場を乗り越えてきた経験に基づき、あなたの会社の数字と実態を拝見し、「どこまでなら安全に踏み込めるか」という現実的なセカンドオピニオンを提供いたします。
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記事執筆監修者
荒川会計事務所(経営革新等支援機関(認定支援機関))代表税理士・登録政治資金監査人・行政書士の荒川 一磨です。
会社設立と創業融資を得意とし、何でも相談できる話しやすいパートナーであることを心掛けている事務所です。
事務所所在地 〒160-0022 東京都新宿区新宿2-5-16 霞ビル8F
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所属 東京税理士会四谷支部・東京行政書士会新宿支部
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