メインバンクは「信用金庫」にするべき理由|メガバンク・ネット銀行との使い分け戦略【完全版】

「会社を作ったら、とりあえず有名だからメガバンクで口座を作ろう」
「振込手数料が安いから、ネット銀行だけでいいや」

創業時、多くの経営者がこのように銀行を選んでしまいます。 普段の決済(振込や入金)だけなら、それでも問題ありません。 しかし、いざ「事業資金を借りたい(融資)」となった時、その選択が致命的なミスであったことに気づかされます。

断言します。 年商が数億円規模になるまでの中小企業にとって、メインバンク(融資の主力)は「信用金庫」にするべきです。

なぜなら、メガバンクは「晴れの日(好業績)に傘を貸し、雨の日(業績悪化)に傘を取り上げる」傾向があるのに対し、信用金庫は「地域で共に生きるパートナー」として、苦しい時ほど親身になってくれる組織構造だからです。

この記事では、各金融機関(メガ・地銀・信金・ネット)の決定的な違いと、融資に強い「銀行ポートフォリオ(使い分け)」の構築術、そして信金担当者を味方につける泥臭いテクニックまで、プロの税理士が徹底解説します。

【本記事のポイント】
  • メガバンクは「効率重視」。中小企業への少額融資には消極的。
  • 信用金庫は「相互扶助」。会員(地元企業)を守る義務がある。
  • ネット銀行は「決済用」。融資には弱いが、利便性は最強。
  • 「信金で借りて、ネット銀行で回す」のが現代の最適解。

第1章:なぜ「信用金庫」が中小企業の最強パートナーなのか

名前の響きだけで「メガバンクの方が安心」と思っていませんか? 実は、株式会社である「銀行」と、協同組織である「信用金庫」では、存在意義そのものが違います。

1. 「利益」より「地域発展」を優先する理念

銀行(メガ・地銀):株式会社です。株主のために利益を最大化するのが使命です。効率の悪い小規模融資や、リスクの高い赤字企業への融資は、株主への背信行為となりかねないため、シビアにカットします。

信用金庫:会員(地域の人々)の出資による協同組織です。利益追求よりも「地域の繁栄」「相互扶助」が優先されます。 そのため、一時的に業績が悪化しても、見捨てずに支援してくれる可能性が高いのです(※もちろん、事業継続性と改善可能性が前提となります)。

2. 「担当者」が足繁く通ってくれる

メガバンクの場合、年商数十億円以下の企業には担当者がつかない(コールセンター対応)ことも珍しくありません。 一方、信用金庫は「フェイス・トゥ・フェイス(対面)」を重視します。 定期的に会社を訪問し、社長の顔を見て話を聞いてくれます。 この「アナログな関係」こそが、審査の際に「書類には出ない社長の熱意や人柄」を評価してもらうための命綱となります。

3. 信用保証協会との連携が強い

中小企業の融資の要である「信用保証協会付き融資」。 信用金庫は、この制度融資の取り扱い件数が圧倒的に多く、ノウハウが蓄積されています。 「どうすれば保証協会の審査に通るか」を熟知しているため、創業融資や追加融資の際に、強力なアドバイスとサポートをしてくれます。

第2章:各金融機関の「役割」と「攻略法」

もちろん、信金だけですべてが完結するわけではありません。 それぞれの特徴を理解し、使い分けることが重要です。

1. 都市銀行(メガバンク)

【役割】ブランド力・海外取引
三菱UFJ、三井住友、みずほ等。
メリット:対外的な信用力がある。海外送金やデリバティブなど高度なサービスに強い。
デメリット:審査ハードルが高く、時間もかかる。少額融資は相手にされにくい。
攻略法:創業時は「口座開設」だけでもハードルが高いです。まずは口座を作り、実績を積んで、年商規模が拡大してから融資を狙う「将来のパートナー」という位置づけが賢明です。

2. 地方銀行(地銀)

【役割】中堅規模への成長支援
横浜銀行、千葉銀行など。
メリット:メガバンクより柔軟で、信金より貸出余力が大きい。
デメリット:金利競争になりやすく、ドライな面もある。
攻略法:年商が数億円を超え、信金の融資枠(数千万円〜1億円程度)では足りなくなってきた段階で、メインバンクへの昇格を検討すべき相手です。

3. ネット銀行

【役割】決済・効率化(財布代わり)
住信SBI、楽天、PayPay銀行など。
メリット:振込手数料が安い。24時間使える。会計ソフトとの連携がスムーズ。
デメリット:融資(特にプロパー融資)には極めて弱い。対面相談ができない。
攻略法:「融資を受けるための銀行」ではありません。「日常の振込や入金確認を行う銀行」として割り切り、サブバンクとして活用するのが最強です。

第3章:最強の布陣!「口座使い分け」の具体例

では、具体的にどう組み合わせれば良いのでしょうか。 創業〜成長期の理想的なポートフォリオを提案します。

基本戦略:2行〜3行体制

ポジション 銀行の種類 役割・用途
メイン 信用金庫 【融資・相談】
定期預金、納税、給与振込など、銀行が喜ぶ取引を集中させる。
サブ ネット銀行 【決済・振込】
振込手数料を削減する。売上の入金口座として使い、信金へ資金移動する。
リザーブ メガ or 地銀 【信用・将来】
対外的な見栄えのため口座だけ持っておく。実績ができたら融資を打診。

なぜ「信金」に取引を集中させるのか?

銀行は、融資審査の際に「自行での取引ぶり(預金実績)」を非常に重視します。 「いつも口座にお金がある」「給与振込に使ってくれている」「税金を払っている」 こうした日々の取引履歴が、企業の信用情報(スコアリング)を積み上げます。 したがって、融資を受けたいメインバンク(信金)には、意識的にお金を集め、取引を集中させる必要があります。

第4章:信金マンの心を掴む「定期積金」という武器

信用金庫と付き合う上で、絶対に知っておくべき最強のツールがあります。 それが「定期積金(ていきつみきん)」です。

定期積金とは?

毎月決まった日に、決まった金額(例:月1万円)を積み立てる定期預金の一種です。 ネット銀行の自動積立と違い、信金の定期積金は「担当者が毎月集金に来る(または集金のために訪問する口実になる)」という特徴があります。

メリット1:毎月「顔を合わせる」理由ができる

銀行員も忙しいので、用事のない会社には訪問しません。 しかし、積金があれば「集金」という名目で堂々と毎月訪問できます。 そこで「最近どうですか?」「実は新しい機械を入れたくて…」といった雑談から、融資の話が生まれます。 この「接触頻度(ザイオンス効果)」が、いざという時の融資の通りやすさに直結します。

メリット2:融資の「見返り」として機能する

融資をお願いする際、「バーター(交換条件)」として定期積金を契約すると、担当者は非常に喜びます。 銀行員にも「積金獲得ノルマ」があるからです。 「融資してくれたら、月3万円の積金をしますよ」という提案は、担当者にとって強力な援護射撃となり、稟議書を通すモチベーションになります。

メリット3:納税資金が貯まる

毎月積み立てておけば、決算の時期にはまとまったお金になります。 これを法人税や消費税の支払いに充てれば、資金繰りが安定します。

第5章:メインバンクを変える(変更する)時の注意点

「創業時はメガバンクにしたけど、やっぱり信金に変えたい」 あるいは「信金が手狭になったので、地銀に変えたい」 このようにメインバンクを変更する場合、進め方を間違えると「喧嘩別れ」になり、信用を失います。

1. 「肩代わり(借換)」を提案させる

新しい銀行に、「今の銀行の借入を、御行で借り換えてくれませんか(肩代わり)」と相談します。 新しい銀行にとっては「融資残高を一気に増やせるチャンス」なので、好条件(金利引き下げ等)を出してくる可能性があります。

2. 既存銀行には「仁義」を切る

既存のメインバンクに黙って全額返済してサヨナラするのは危険です。将来またお世話になるかもしれません。 「条件面でどうしても他行の提案が良かった。今までお世話になった恩はあるので、一部の取引は残したい」 と伝え、預金口座や少額の融資を残すなどして、関係を完全に断ち切らないのが大人のマナーです。

第6章:【FAQ】銀行選びと付き合い方の実務Q&A(25選)

現場でよくある質問に、本音で回答します。

Q1. 近くに信金が複数あります。どこを選べばいい?

A. 「シェアが高い(預金量が多い)」または「本店が近い」信金を選んでください。

地域でのシェアが高い信金は、情報量も多く頼りになります。また、支店よりも本店の方が決裁権限が強い傾向があるため、本店営業部が近くにあればそこがベストです。

Q2. 紹介なしで飛び込みで口座開設に行ってもいいですか?

A. 可能ですが、断られるリスクもあります。紹介がベストです。

最近はマネーロンダリング対策で口座開設審査が厳しいです。税理士や既存取引先からの紹介があると、スムーズに担当者がつき、融資の話もしやすくなります。

Q3. 信用組合(信組)と信用金庫(信金)は何が違う?

A. 規模と根拠法が違いますが、利用者の感覚はほぼ同じです。

一般的に信金の方が規模が大きいことが多いですが、信組の方がより地域密着で柔軟な場合もあります。どちらも「協同組織」であり、中小企業の味方である点に変わりありません。

Q4. ネット銀行で融資は受けられませんか?

A. 「ビジネスローン」なら可能ですが、メインバンク評価としては限定的です。

ネット銀行の融資(dayta、レンディング等)は、決算書不要で借りられるなど手軽ですが、金利が高く(数%〜10%超)、借入実績としても銀行評価は高くありません。メインの調達手段にはなり得ません。

Q5. 担当者が若手で頼りないです。変えてもらえますか?

A. 原則変えられませんが、上司(支店長・副支店長)を巻き込みましょう。

露骨に「変えてくれ」と言うとクレーマー扱いされます。「重要な相談があるので、席長(上司)も同席してほしい」と依頼し、上司とパイプを作るのが賢いやり方です。

Q6. お歳暮やお中元は渡した方がいいですか?

A. 不要です。受け取れない銀行も多いです。

コンプライアンス上、物品の授受は禁止されていることが多いです。それよりも、試算表を早く出す方が100倍喜ばれます。

Q7. 「出資証券」を買ってくれと言われました。怪しい?

A. 信金と取引するための「会員権」です。実務上は購入が前提と考えてください。

信用金庫から融資を受けるには、出資して「会員」になる必要があります(通常1万円程度)。怪しい投資ではないので安心してください。配当も出ます。

Q8. 投資信託をお願いされました。付き合うべき?

A. 無理のない範囲で付き合うと、貸しを作れます。

銀行員にはノルマがあります。少額の積み立てNISAや投信に協力してあげると、「この社長は協力してくれた」という恩を感じてくれます。ただし、本業を圧迫するような額はやめましょう。

Q9. 事務所を移転したら、支店も変えるべき?

A. 融資があるなら、今の支店との取引を継続するのが無難です。

支店を変わると担当者もリセットされ、関係構築がゼロからになります。遠方でなければ、元の支店と付き合い続けることをお勧めします(移管も可能ですが、手続きが面倒です)。

Q10. 複数行から借りる「分散」と、1行集中、どっちがいい?

A. リスク管理上は「分散」が正解です。

1行だけだと、その銀行の方針が変わった時に資金が詰まります。メイン(信金)+サブ(公庫 or 別信金)の複数体制(マルチバンク)を作っておくのが安全です。

Q11. 融資の金利交渉はしてもいいですか?

A. してOKですが、他行の条件を提示するのが効果的です。

「安くして」と頼むより、「B銀行が〇%で提案してくれている」という事実を見せるのが一番効きます。競わせることで金利は下がります。

Q12. 赤字でも信金なら貸してくれますか?

A. メガバンクよりは可能性が高いですが、条件はつきます。

「一時的な赤字」であり「改善計画」があれば支援してくれます。特に保証協会付き融資であれば、信金のリスクが低いので前向きに検討してくれます。

Q13. 銀行員が来る時、お茶出しは必要?

A. マナーとして出した方が良いですが、飲まないこともあります。

コロナ以降、出されたものに口をつけない方針の銀行もあります。ペットボトルなら持ち帰れるので無難です。重要なのは「歓迎の意」を示すことです。

Q14. 決算書をごまかして(粉飾して)渡してもバレない?

A. プロにはバレます。絶対にやめてください。

銀行は業界平均値や過去の推移と比較します。不自然な利益や在庫はすぐに見抜かれます。一度でも嘘がバレると、取引停止(出禁)になります。

Q15. 定期積金はいくらから効果がありますか?

A. 月1万円からでも「接点作り」の効果はあります。

金額の多寡より「毎月会うこと」が重要です。もちろん、月5万、10万と増やせば、資金力のアピールにもなります。

Q16. 銀行主催の「ビジネスマッチング」は参加すべき?

A. 銀行へのアピールになるので、参加して損はありません。

実際に成約するかは別として、「銀行の取り組みに協力する優良顧客」という評価がつきます。

Q17. 担保(不動産)がないと信金でも借りられませんか?

A. いいえ、信用保証協会付きなら無担保で借りられます。

創業融資や小規模融資の多くは「無担保・無保証(または代表者保証のみ)」です。不動産担保が必要になるのは、数千万円以上の大口融資やプロパー融資の段階です。

Q18. 税理士を紹介してくださいと言われました。

A. 今の税理士に不満がなければ断ってOKです。

銀行提携の税理士に変える義理はありません。「今の先生とは長いので」と丁重に断れば大丈夫です。

Q19. 試算表は毎月渡すべきですか?

A. 融資を受けているなら、毎月(または四半期)渡すべきです。

「業況を開示してくれる会社」は格付けが高くなります。頼まれなくても持っていくくらいの姿勢が、次の融資をスムーズにします。

Q20. 自宅から遠い信金でも口座開設できますか?

A. 原則としてできません(エリア制限)。

信用金庫は「営業エリア」が決まっています。会社か自宅がエリア内にないと会員になれません。

Q21. メガバンクの法人口座審査に落ちました。再挑戦できますか?

A. 半年あけて、実績を作ってから再挑戦してください。

HPの整備、固定電話の設置、資本金の増額など、落ちた原因をつぶしてから再申請します。それでもダメなら信金で実績を作りましょう。

Q22. 預金残高が少ないと相手にされませんか?

A. 残高より「動き(入出金)」が見られています。

残高が少なくても、毎月売上が入金され、経費が支払われている「生きた口座」であれば評価されます。

Q23. 担当者と飲みに行ってもいいですか?

A. 接待は禁止されていますが、割り勘のランチ程度ならあり得ます。

過剰な接待は逆効果(コンプラ違反)です。ビジネスライクな付き合いに留めましょう。

Q24. 銀行員は「決算書」のどこを見ていますか?

A. 「純資産(自己資本)」と「返済能力(キャッシュフロー)」です。

資産超過か債務超過か。そして、利益+減価償却費で借金を何年で返せるか。この2点が最重要ポイントです。

Q25. 結局、メインバンクを決める一番の決め手は?

A. 「担当者との相性」と「困った時に顔が浮かぶか」です。

金利や手数料の差は微々たるものです。苦しい時に「あいつに相談しよう」と思える担当者がいる銀行こそが、真のメインバンクです。

まとめ:銀行選びは「結婚相手選び」と同じ

調子が良い時だけ寄ってくるイケメン(メガバンク)よりも、病める時も健やかなる時も寄り添ってくれる誠実なパートナー(信用金庫)。 中小企業のメインバンク選びは、まさに結婚相手選びに似ています。

まだ信金の口座を持っていないなら、今すぐ近くの支店に行き、口座開設と定期積金を始めてください。 その小さな一歩が、数年後にあなたの会社を倒産の危機から救う可能性を高めます。

「どこの信金が良いか紹介してほしい」「銀行に提出する試算表を作ってほしい」

そのようなお悩みがあれば、ぜひ荒川会計事務所にご相談ください。 多くの金融機関とパイプを持つ税理士が、あなたの会社に最適な銀行選びと関係構築をサポートいたします。

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記事執筆監修者

荒川会計事務所(経営革新等支援機関(認定支援機関))代表税理士・登録政治資金監査人・行政書士の荒川 一磨です。

    

会社設立と創業融資を得意とし、何でも相談できる話しやすいパートナーであることを心掛けている事務所です。

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