創業融資の申し込み準備が大詰めを迎えています。完璧な事業計画書、自己資金を証明する通帳のコピー、設備の見積書…。
そして、金融機関の「必要書類リスト」の最後に当たり前のように記載されている2つの項目。
「代表者個人の印鑑証明書」
「法人の印鑑証明書」
「はいはい、役所で取ってくればいいんでしょ」。
多くの起業家が、この2種類の「紙切れ」を単なる事務手続きの一つ、あるいは「本人確認のための書類」程度にしか認識していません。
しかし、もしその「たった一枚の紙切れ」があなたの数百万、数千万円の融資の成否を左右する法的な「鍵」であり、その準備の段取りを間違えるだけであなたの貴重な時間が何週間も無駄になるとしたら…?
この記事は、そのあまりにも軽視されがちな「印鑑証明書」という書類の本当の「重み」をあなたに理解していただくための、究極の「戦略的準備マニュアル」です。
なぜ金融機関は「会社」の融資であるにも関わらず、あなた「個人」の実印と証明書を要求するのか。その審査の裏側にある「あなたの覚悟」を問う法的な理由とは。
そして、設立前、設立後、申し込み時、契約時…と混沌とするプロセスの中で、この2種類の証明書をいつ、何通、どのタイミングで取得するのが最も賢明な選択なのか。その完璧なロードマップを、新宿で数えきれないほどの会社の「鍵」の発行に立ち会ってきた私たちが徹底的に解説します。
第1章:【個人の印鑑証明書】― あなたの「覚悟」の法的な証明
まず最大の疑問点。「なぜ会社の融資なのに、社長個人の実印と印鑑証明書が必要なのか?」
その答えは、創業融資の契約書に隠されています。
「代表取締役」と「連帯保証人」という2つの顔
あなたが創業融資の金銭消費貸借契約書に押すハンコは、一つではありません。あなたは、その一枚の契約書の上で「2人の人物」として署名・押印することを求められます。
- 「株式会社〇〇 代表取締役 鈴木太郎」として押す「会社の実印」
これは、「会社として正式にお金を借ります」という法人の意思表示です。 - 「連帯保証人 鈴木太郎」として押す「あなた個人の実印」
これこそが、金融機関があなたの「個人の印鑑証明書」を要求する本当の理由です。
「連帯保証人」とは、「万が一会社が倒産し返済ができなくなった場合は、私、鈴木太郎の個人資産の全てを使ってでも、その借金を代わりに返済します」という法的な誓約です。
このあまりにも重い誓約が、確かにあなた本人の自由な意思によってなされたという事実を法的に証明する唯一無二の手段。それが「個人の実印」の押印と、その印鑑が本人のものであると市区町村が証明する「個人の印鑑証明書」の添付なのです。
つまり「個人の印鑑証明書」を提出する行為は、あなたの経営者としての「覚悟」を法的に完成させるための神聖な「儀式」なのです。(※近年は「経営者保証を外す」融資も増えていますが、その場合でも申込人本人であることの証明として個人の印鑑証明書は求められます)
第2章:【法人の印鑑証明書】― あなたの「会社の意思」を証明する公式な鍵
では、なぜそれだけでは不十分で「法人の印鑑証明書」も必要なのでしょうか。
「会社の実印」は誰でも作れてしまうというリスク
極端な話、誰かがあなたの会社の名前で勝手にハンコを作り、それを使って銀行で融資契約を結ぼうとするなりすましのリスクもゼロではありません。
そこで国(法務局)は、会社が設立された時点で、その会社の公式な実印(代表者印)を登録させ、その印影をデータとして管理します。
「法人の印鑑証明書」とは、法務局が、「この契約書に押されている印影は、確かに私たちが株式会社〇〇の正式な代表者印として登録・受理している印鑑と同一です」と公的に証明するための書類なのです。
「個人」と「法人」印鑑証明書の決定的な役割の違い
| 証明書の種類 | 発行元 | 証明する「意思」 |
|---|---|---|
| 個人の印鑑証明書 | 市区町村の役所 | 「私個人が連帯保証人になることを承諾します」 |
| 法人の印鑑証明書 | 法務局 | 「我々会社(法人)が借入することを承諾します」 |
金融機関は、この「個人」と「法人」、両方の当事者からの法的に完璧な同意の証拠を揃えて初めて、安心してあなたにお金を貸すことができるのです。
第3章:【実践ガイド】創業期に「何通」必要か?完璧な取得タイミングと枚数
この2種類の重要な「鍵」が、いつどこで必要になるのか。その混沌としがちな創業期のプロセスを時系列で完璧に整理します。
創業期の主要手続きと必要証明書
| フェーズ | 手続き | 個人の印鑑証明書 | 法人の印鑑証明書 | 登記簿謄本 |
|---|---|---|---|---|
| 設立「前」 | ① 定款の認証(公証役場) | 必要(発起人全員分) | (まだ存在しない) | (まだ存在しない) |
| ② 設立登記(法務局) | 必要(代表取締役分) | (ここで登録) | (ここで完成) | |
| 設立「後」 | ③ 法人口座の開設 | (身分証でOKが多い) | 必要(原本) | 必要(原本) |
| ④ 融資の「申込」 | 必要(コピー可の場合も) | (コピー可の場合も) | 必要(コピー可) | |
| 契約時 | ⑤ 融資「契約」(金消契約) | 必要(原本) | 必要(原本) | 不要(原本) |
この表が示す通り、あなたは「法人口座開設」と「融資契約」という、会社の生命線を左右する2つの手続きを、同時並行で進めるために、複数の「法人の印鑑証明書(原本)」と「個人の印鑑証明書(原本)」が、同じタイミングで必要になるのです。
第4章:【結論】創業融資を申し込むあなたが準備すべき「最適解」
この複雑なプロセスを見て、もうお分かりですね。
「登記簿謄本1通と印鑑証明書1通あればいいや」という考えがいかに危険か。
創業期の経営者にとって時間は命です。その命を、1通(数百円)の書類をケチったために、「銀行の手続きが終わるまで公庫の契約が進められない」といった無駄な待ち時間で浪費してはいけません。
私たち専門家が強く推奨する「創業期の登記関連書類 最適パッケージ」は以下です。
【プロが推奨する登記完了後の取得パッケージ】
- 「個人の印鑑証明書」: 3通
(内訳:① 融資申込・契約用、② 不動産契約用(必要な場合)、③ 不測の事態への予備) - 「法人の印鑑証明書」: 3通
(内訳:① 法人口座開設用、② 融資契約用、③ 予備) - 「法人の登記簿謄本(履歴事項全部証明書)」: 5通
(内訳:① 法人口座用、② 融資申込・契約用、③ 税務署用、④ 都道府県・市区町村用、⑤ 年金事務所用、⑥ その他許認可・契約用)
会社設立が完了したその瞬間に、これだけの「マスターキー」を手元に揃えておくこと。それこそが、あなたの会社の船出を一切停滞させることなく、最短最速でスタートさせるための最強の「時短戦略」なのです。
第5章:【FAQ】「印鑑証明書」に関する一歩進んだ疑問
最後に、この重要な「鍵」の管理について、さらに深く検討されている起業家の皆様から、私たちが特によくお受けする専門的なご質問とその回答をQ&A形式でまとめました。
Q1. 印鑑証明書には「有効期限」がありますか?
A1. はい、あります。そしてこれは、創業融資の現場で最も多く発生するトラブルの一つです。
「印鑑証明書」そのものに法的な有効期限はありません。しかし、その証明書を受け取る相手方(金融機関、法務局、行政機関など)が独自のルールとして「発行後3ヶ月以内」のものと定めているケースがほとんどです。
よくある失敗例
会社設立の準備(例:5月)のために取得した「個人の印鑑証明書」。それをそのまま取っておき、3ヶ月以上経過した後(例:9月)の融資の申し込みや契約時に提出しようとして、「この証明書は古すぎます。取り直してください」と突き返される。
対策
印鑑証明書は「必要な手続きの直前に、必要な枚数をまとめて取得する」のが鉄則です。
Q2. 個人の「実印」と法人の「実印(代表者印)」は同じハンコを使っても良いですか?
A2. 法律上は「可能」ですが、私たちは絶対に推奨しません。
あなたが個人として役所に登録する「実印」と、会社として法務局に登録する「代表者印」を物理的に同じ一本のハンコにすることは技術的に可能です。
しかし、これはあなたの会社のガバナンス(内部統制)とリスク管理の観点から最悪の選択です。
「個人実印」と「法人実印」の兼用リスク
| リスク | なぜ危険か? |
|---|---|
| 物理的リスク | その1本を紛失・盗難された瞬間に、「個人」と「法人」両方の権利が危険に晒される。 |
| 金融機関の評価 | 「公(会社)と私(個人)の区別がついていない」=「公私混同」と見なされ、経営者としての信用が低下する。 |
「個人」の人格と「法人」の人格を明確に分離すること。それこそが法人化の最大のメリットの一つです。そのメリットを自ら放棄する行為であり、金融機関からも「この経営者は公私混同のリスクが極めて高い」と見なされます。
Q3. 専門家(税理士・司法書士)に設立を依頼すれば、この面倒な書類取得も全部やってもらえますか?
A3. いいえ、一部はあなた本人にしかできないことがあります。
これが専門家への丸投げの限界です。
- 【専門家が代行できること】
・(設立後)「法人の登記簿謄本」の取得
・(設立後)「法人の印鑑証明書」の取得(※あなたの「印鑑カード」をお預かりする必要があります) - 【あなた本人にしかできないこと】
・(設立前・設立後)「個人の印鑑証明書」の取得。
「個人の印鑑証明書」はあなたのプライバシーの根幹に関わる書類であるため、たとえ専門家であっても委任状なしに取得することはできません。あなたはご自身で市区町村の役所(あるいはマイナンバーカードを使ってコンビニ)で取得していただく必要があります。
プロの役割
私たちの本当の価値は「いつまでに何を何通準備してください」と、あなたの全てのタスクを完璧に管理しナビゲートすること。そして私たちが取得代行できる全ての書類は私たちが代行し、あなたの時間を1秒でも本業に使っていただくことなのです。
結論:あなたの「鍵」は、あなたの「信用」のカタチ
「印鑑証明書」。
それは単なる本人確認のための紙切れではありません。
それは、あなたの、
- 「個人」としての人生を賭けるという法的な「覚悟」と、
- 「法人」としての公的な意思決定を行うという法的な「責任」
を、同時に証明する、あなたの「信用」の物理的なカタチなのです。
その最も重要な「鍵」を、いかに計画的に、そして滞りなく準備し提示できるか。
それこそが、あなたの経営者としての最初の「実行能力」を示す試金石なのです。
あなたの「会社の鍵」、必要な時に必要な数が揃いますか?
そのたった一枚の準備不足が、あなたの会社の全ての扉を閉ざしてしまうかもしれません。
設立直後の混沌とした全ての手続きは、私たち専門家に丸投げして、あなたは本業に集中してください。
記事執筆監修者
荒川会計事務所(経営革新等支援機関(認定支援機関))代表税理士・登録政治資金監査人・行政書士の荒川 一磨です。
会社設立と創業融資を得意とし、何でも相談できる話しやすいパートナーであることを心掛けている事務所です。
事務所所在地 〒160-0022 東京都新宿区新宿2-5-16 霞ビル8F
電話番号 0120-016-356
所属 東京税理士会四谷支部・東京行政書士会新宿支部
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