【融資実行後の「試算表」】なぜ銀行は提出を求める?その本当の理由と未来の追加融資を勝ち取る戦略的活用術

創業融資の審査を見事に突破し、あなたの会社の口座に数百万、数千万円という待望の資金が振り込まれたその日。

あなたは人生で最大級の安堵感と達成感に包まれることでしょう。「これで戦いは終わった」「いよいよここからが本当のスタートだ」。

しかし、その感動も束の間。数週間後、あるいは数ヶ月後。融資を実行してくれた金融機関の担当者から一本の電話、あるいはメールが届きます。

「社長、お世話になっております。早速ですが、
先月分の『試算表』をご提出いただけますでしょうか?

「試算表(しさんひょう)…?」

「決算書じゃダメなのか?」「まだ事業が始まったばかりで数字もまとまっていないのに」「何より、もうお金は借りたのに、なぜ今さらそんな面倒な書類を…?」

もしあなたがそのように、この担当者からのリクエストを単なる「面倒な事務手続き」あるいは「うるさい監視」だと捉えてしまったとしたら。

その瞬間から、あなたはあなたの会社の未来の可能性を自らの手で閉ざし始めているのです。

この記事は、そのあまりにも多くの経営者が見過ごしてしまう、「融資実行後」から始まる本当の「試験」の意味をあなたに徹底的に解説するためのものです。

「試算表報告」は決して「過去」の義務ではありません。それは、あなたの会社の「未来」の追加融資や、より有利な条件変更を勝ち取るための最も重要で、そして最も強力な「コミュニケーション・ツール」なのです。

なぜ銀行はあなたのその一枚の試算表にそれほどまでに執着するのか。その本当の理由と、そのツールを戦略的に使いこなし、金融機関をあなたの「最強の応援団」に変えるためのプロの技術の全てをここに公開します。

第1章:【本質理解】「試算表」とは何か?― あなたの会社のリアルタイムな「健康診断書」

まず、この重要な書類の正体を正確に理解しましょう。

一言で言えば、「試算表(Trial Balance / T/B)」とは、「決算書(年一回の本番の健康診断書)」の作成途中のドラフトであり、「月次(毎月)の簡易的な健康診断書」のことです。

それは、あなたの会社の、

  • 現時点で、どれくらいの資産(現金、売掛金など)を持っているか(貸借対照表 / B/S)
  • 現時点で、どれくらいの売上と経費が発生し、どれだけ儲かっている(損している)か(損益計算書 / P/L)

という、最も基本的で最も重要な財務状況をリアルタイムで把握するためのものです。

「決算書」じゃダメなのか?― なぜ「月次」で求められるのか

「年に一度の決算書だけではダメなのか?」

考えてもみてください。もしあなたの健康診断が1年に一度だけだとしたら。その診断の前日に風邪を引いて高熱を出していても、そのたった一日のデータだけで「この人は一年中高熱だ」と判断されてしまうかもしれません。

金融機関が知りたいのは、年に一度のその一瞬の切り取られた姿ではありません。彼らが知りたいのは、あなたの事業の「健全な脈拍(キャッシュフロー)」と「平熱(平均売上)」なのです。

「決算書」と「試算表」の違い

項目 決算書 (Kessansho) 試算表 (Shisanhyou)
目的 1年間の最終的な「経営結果」の確定報告 リアルタイムな「経営状況」の把握
提出頻度 年1回 月1回
銀行の視点 過去のスナップショット(静止画) 現在の脈拍(動画)

毎月の試算表を提出することは、「私の会社は今月もこのように健全に事業活動を続けていますよ」という、あなたの生存証明であり、信頼の証なのです。

第2章:【審査官の思考】なぜ銀行はあなたの「試算表」をそれほどまでに欲しがるのか?

融資を実行した後。金融機関の担当者があなたの試算表を見るその視線は、融資審査の時とはまた別の意味を帯びています。

彼らの頭の中には、大きく分けて3つの問いがあります。

銀行が「月次試算表」を欲しがる3つの本当の理由

問い(審査官の思考) 目的
①「貸した金はどうなっている?」 リスク管理(資金使途が守られているか)
②「計画と比べてどうか?」 計画との比較(ズレを把握し、対策を打てているか)
③「この会社は次も応援できるか?」 未来への投資判断(=追加融資の検討)

問い1:【リスク管理】「貸した金は今、どうなっている?」

審査官の心の声:「融資した1,000万円。あの時彼らが言っていた通り、きちんと内装工事費や仕入れ代金に使われているだろうか。まさか社長個人の高級車やギャンブルに消えていたりしないだろうな…?」

試算表の「資産の部」や「費用の部」を見ることで、担当者はあなたが融資申請時に約束した「資金使途」を守っているかどうかを厳しくチェックしています。これは彼らにとって最も基本的なリスク管理です。

問い2:【計画との比較】「あの時の約束(事業計画)は守られているか?」

審査官の心の声:「あの素晴らしい創業計画書。そこには『開業3ヶ月目には月商100万円を達成する』と書かれていた。今提出された3ヶ月目の試算表の売上は…80万円か。計画を下回っているな。なぜだ?その原因は何か?そして経営者はこの事実を把握し、何か対策を打っているのだろうか?」

担当者は必ずあなたの創業計画書を手元に置き、それと試算表の数字を見比べます。

ここで重要なのは、「計画とズレていること」が問題なのではありません。事業が計画通りに進まないことなど、彼らが一番よく知っています。

彼らが本当に見ているのは、そのズレに対してあなたがどのような「分析」と「対策」を講じているかという、あなたの経営者としての「問題解決能力」なのです。

問い3:【未来への投資】「この会社は次も応援できるか?」

審査官の心の声:「計画を下回ったとはいえ、社長からはすぐにその原因分析と対策案が送られてきた。そしてこの6ヶ月目の試算表では見事にV字回復し、計画を上回る利益を出してきた。…この経営者は信頼できる。彼がもし来年、『2号店を出したいから追加の融資を』と言ってきたら、今度はうちの銀行もプロパー(保証協会なし)で支援してあげよう。」

これこそが、「試算表報告」が持つ最大の、そして最も戦略的な価値です。

あなたの毎月の誠実な報告は、金融機関の内部に「この会社は信頼できる」という目に見えない「信用」のポイントを着実に積み上げていきます。

そして、そのポイントが一定のレベルに達した時、金融機関はあなたを「一見の創業者」から「生涯を通じてサポートすべき優良なパートナー」へと格上げするのです。試算表報告は、あなたの未来の「追加融資」への扉を開く唯一の鍵なのです。

第3章:【致命的なNG行動】なぜ「試算表を出さない」経営者は信用を失うのか?

では、逆に、もしあなたが担当者からのこのリクエストを、「忙しいから」「まだまとまっていないから」と無視し、提出を怠ったらどうなるでしょうか。

その小さな怠慢が、あなたの信用を回復不可能なレベルまで破壊します。

試算表を提出しない経営者が抱かれる「3つの不信感」

不信感(審査官の本音) 結果
①「赤字を隠しているのでは?」 経営が悪化していると疑われる。
②「数字を管理する能力がないのでは?」 どんぶり勘定の経営者と見なされる。
③「私たちをパートナーと見ていない」 「不誠実な経営者」の烙印を押される。

融資担当者が抱く3つの致命的な「不信感」

  • 不信感1:「この会社は赤字を隠しているのではないか?」
    「試算表が出てこない。それは決まって経営がうまくいっていない時だ。きっと計画を大幅に下回り、赤字を垂れ流しているに違いない。それを私たちに隠そうとしている。」
  • 不信感2:「この経営者は数字を管理する能力がないのではないか?」
    「あるいはもっと悪い。社長自身が、自社の先月の売上も利益も把握できていないのではないか。そんなどんぶり勘定の経営では、いつ資金ショートしてもおかしくない。」
  • 不信感3:「この経営者は私たちをパートナーとして見ていない」
    「お金を借りる時だけ頭を下げて、借りた後は何の報告もない。この人は私たち金融機関を単なる『ATM』としか思っていない。こんな不誠実な経営者と二度と取引などするものか。」

この一度刻まれてしまった「不誠実」という烙印。それは、あなたの会社が将来どれだけ素晴らしい事業計画を持っていこうとも、その銀行の扉を二度と開くことを許さなくなるのです。

第4章:【プロの流儀】「試算表」を「最強の武器」に変える戦略的活用術

では、この重要なコミュニケーション・ツールをどのように活用すれば、あなたの評価を最大化できるのでしょうか。

戦略1:「月次決算」の体制を構築する

全ての大前提です。担当者から「先月分の試算表を」と言われてから慌てて1ヶ月分の領収書をまとめ始めるようでは話になりません。

事業が始まったその初月から私たち顧問税理士とタッグを組み、毎月月末から数営業日以内にその月の業績が正確に確定する「月次決算」の体制を構築してください。

これにより、あなたはいつでも最新の試算表を金融機関に提出できるという圧倒的なアドバンテージを手にします。

戦略2:「聞かれる前」に「先回りして」報告する

これが担当者の心を掴むプロのテクニックです。

担当者から電話がかかってくるのを待つのではありません。月次決算が完了したその瞬間に、あなた(あるいはあなたの顧問税理士)から担当者へメールで試算表を送るのです。

「〇〇様、お世話になっております。先月(〇月度)の試算表がまとまりましたので、ご報告のためお送りいたします。」

この「proactive(プロアクティブ)な報告姿勢」こそが、「この経営者は数字への意識が極めて高い。そして私たちを重要なパートナーとして扱ってくれている」という絶大な信頼感を生み出します。

戦略3:「数字」と「物語(コメント)」をセットで提出する

無機質な試算表の数字だけを送りつけても、担当者はその数字の裏にあるドラマを読み解くことはできません。

私たちは、お客様の試算表を金融機関に提出する際、必ずA4一枚程度の「経営コメント」を添付します。

【経営コメント(例)】
「〇月度の売上高は120万円となり、事業計画の100万円を上回る結果となりました。これは、新規に開始したInstagram広告からの流入が想定の1.5倍に達したことが主な要因です。
一方、利益面では計画通りの水準ですが、これは売上増加に伴いアルバイト人件費が計画を10万円上回ったためです。来月以降はシフトの最適化を図り、利益率の改善に努めます。」

この「結果」と「原因分析」、そして「次の対策」までを簡潔にまとめたこの「物語」こそが、単なる数字の報告を「経営者との対話」へと変えるのです。

結論:あなたの「未来」は、「過去」の報告書が創る

「試算表報告」。

それは、決して過去を責められるための面倒な義務ではありません。

それは、あなたの現在の誠実な経営姿勢を金融機関に伝え、未来のあなたの事業がさらなる高みへとジャンプするための、より大きな融資(信頼)という名の「トランポリン」を金融機関と共に築き上げていくための、最も重要な共同作業なのです。

私たち荒川会計事務所は、そのあなたの最も重要な共同作業を完璧にエスコートする専門家です。

融資実行後、銀行との「関係構築」、正しくできていますか?

その一本の報告を怠るだけで、あなたの未来の可能性が失われていきます。
まずは無料相談で、あなたの会社の「健康診断書」を私たちと一緒に創り上げ、銀行との最強の信頼関係を築きませんか?

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記事執筆監修者

荒川会計事務所(経営革新等支援機関(認定支援機関))代表税理士・登録政治資金監査人・行政書士の荒川 一磨です。

    

会社設立と創業融資を得意とし、何でも相談できる話しやすいパートナーであることを心掛けている事務所です。

事務所所在地 〒160-0022 東京都新宿区新宿2-5-16 霞ビル8F

電話番号 0120-016-356

所属 東京税理士会四谷支部・東京行政書士会新宿支部

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