創業融iscの承認が下り、あなたの会社の口座に数百万、数千万円という未来を切り拓くための貴重な資金が振り込まれたその瞬間。あなたは大きな安堵と希望に胸を膨らませることでしょう。
しかし、その安indoも束の間、その翌月からあなたの会社には容赦なく毎月の「返済」という重い、そして長い道のりが始まります。
事業の立ち上げ期は、売上がまだ一本も立っていないかもしれない。あるいは計画通りに顧客が来てくれないかもしれない。それでも事務所の家賃は、従業員の給料は、そして融資の返済は一日も待ってはくれません。
この、最もキャッシュフローが厳しく、最も精神的に追い詰められる
創業直後の「魔の期間(デスバレー)」を、
もし返済のプレッシャーから解放される特別な「猶予期間」があったとしたら…?
その、あなたの会社の生存確率を劇的に引き上げる、まさに「命綱」とも言える知る人ぞ知る制度。それが創業融資における「据置期間(すえおききかん)」です。
この記事は、そのあまりにも多くの起業家がその重要性を知らず、あるいは活用方法を知らずに見過ごしてしまっている最強のセーフティネットの完全マニュアルです。据置期間とは一体何なのか。それがあなたの会社のキャッシュフローにどれほど絶大なインパクトを与えるのか。そして、金融機関にその必要性を認めさせるための正しい使い方まで。その全ての知識をここに公開します。
第1章:【本質理解】「据置期間」とは、元金の返済だけを待ってもらうこと
まず、「据置期間」という言葉の正確な意味を理解しましょう。
毎月の返済額は「元金」と「利息」でできている
あなたが金融機関に毎月支払う返済額は、大きく分けて2つのパーツから構成されています。
- 元金(がんきん):あなたが実際に借りたお金そのものの返済部分。
- 利息(りそく):あなたが借りているお金に対する金融機関へ支払うレンタル料。
そして、「据置期間」とは、このうち金額の大きい「元金」部分の返済を一定期間ストップしてもらい、その間は「利息」部分の支払いだけで済むという特別な期間のことです。
決して「返済が完全にゼロになる」わけではないという点を、まず正しく理解してください。
【シミュレーション】600万円を金利2%、返済期間5年(60回)で借りた場合
| プラン | 創業1ヶ月目~6ヶ月目 | 7ヶ月目以降 |
|---|---|---|
| 据置期間「なし」 | 元金:100,000円 利息: 10,000円 【合計 約110,000円】 |
元金:100,000円 + 利息(徐々に減少) |
| 据置期間「6ヶ月」 | 元金: 0円 利息: 10,000円 【合計 約10,000円】 |
元金:約111,111円 + 利息 【合計 約121,111円】 |
→ 創業直後の半年間、毎月のキャッシュアウトが10万円も圧縮される!
このケースでは、据置期間を設けることで、創業後最も苦しい最初の半年間の毎月のキャッシュアウトを11万円からわずか1万円へと、10万円以上も圧縮することができるのです。
第2章:【絶大なメリット】なぜ据置期間はあなたの会社の「命綱」なのか?
このキャッシュフロー上の劇的な改善は、あなたの事業に3つの計り知れない戦略的なメリットをもたらします。
メリット1:【生存確率の向上】創業直後の「死の谷(デスバレー)」を乗り越える
事業は始めた瞬間から黒字になるわけではありません。顧客を獲得し、売上が安定し、そして実際にお金が入金されるまでにはどうしても数ヶ月単位のタイムラグが発生します。
この、売上がない、あるいは極めて不安定な創業直後の数ヶ月間。それこそが、毎年数多くの有望なスタートアップが資金ショートによって倒産していく「死の谷」です。
据置期間は、この最も危険な「死の谷」をあなたが安全に渡りきるためのまさに「命綱」です。元金の返済という最も重い固定費を一時的に切り離すことで、あなたの会社は貴重な手元の現金を温存し、事業が自らの足で立ち上がるまでの貴重な「時間」を稼ぐことができるのです。
メリット2:【成長への集中】「守り」ではなく「攻め」の経営に集中できる
創業期の経営者が最も集中すべきことは、ただ一つ。「どうすれば一人でも多くの顧客を獲得し、最高の商品・サービスを提供できるか」という事業の根幹を創り上げる活動です。
しかし、もしあなたが毎月の重い返済のプレッシャーに常に苛まれていたらどうでしょうか。「来月の返済、大丈夫だろうか…」。そのネガティブな思考(守りの経営)が、あなたの創造性や大胆な挑戦への意欲(攻めの経営)を確実に蝕んでいきます。
据置期間は、あなたをその精神的な「重力」から一時的に解放します。返済への過度な不安から解放されることで、あなたは本来経営者が最もエネルギーを注ぐべきプロダクトの開発やマーケティングといった、未来の売上を創るための「攻め」の活動に100%集中することができるのです。
メリット3:【戦略の柔軟性】予期せぬ事態への「バッファ」を持つ
事業は決して計画通りには進みません。予期せぬ追加の設備投資が必要になるかもしれない。あるいは想定よりも広告宣伝費がかさんでしまうかもしれない。
据置期間によって手元に残された潤沢なキャッシュは、これらの予期せぬ事態に柔軟に対応するための貴重な「バッファ(緩衝材)」となります。このバッファがあるおかげで、あなたは目先の小さなトラブルに動揺することなく、長期的な視点でどっしりと構え経営の舵取りを行うことができるのです。
第3章:【代償と注意点】据置期間の知っておくべき「デメリット」
これほどまでに強力なメリットを持つ据置期間ですが、もちろんそれは完全に「無料」のサービスではありません。あなたが支払うべき小さな「代償」と、理解しておくべき注意点も存在します。
デメリット1:利息の総支払額はわずかに増加する
据置期間中も借入元金は1円も減りません。そのため、元金の返済が据置期間がない場合と比べて後ろ倒しになる分、返済期間全体で支払う利息の総額はわずかに増加します。
前述の600万円のケースでは、据置期間を6ヶ月設けることで支払う利息の総額は約3万円増加します。
しかし、このわずか3万円の追加コストで、創業期の倒産リスクを劇的に低減できるのであれば、それは極めて費用対効果の高い「保険料」であると言えるでしょう。
デメリット2:据置期間終了後の毎月の返済額は増加する
据置期間が終了し7ヶ月目から元金の返済が始まると、残りの返済期間(このケースでは54ヶ月)で元金の全額を返済しなければなりません。そのため、据置期間がない場合(60回払い)と比べて、毎月の元金の返済額は少しだけ増加します。(例:100,000円 → 111,111円)
これは事業計画書の「事業の見通し」や「資金繰り表」において、据置期間終了後の返済額の増加をきちんと織り込んだ上で、それでも十分に利益で賄えるという収支計画を立てておく必要があります。
【最重要】据置期間は「権利」ではなく「交渉」で勝ち取るもの
据置期間は、あなたが申し込めば自動的に付与されるものではありません。それは、あなたが金融機関の担当者に対して「なぜあなたの事業には据置期間が必要なのか」を事業計画書の中で論理的に、そして説得力をもって説明し、交渉して初めて勝ち取れるものなのです。
第4章:【実践ガイド】融資担当者を納得させる据置期間の正しい使い方
では具体的に、どのようにすればあなたは希望する据置期間を認めさせることができるのでしょうか。
STEP 1:あなたの事業の「収益化までのリードタイム」を正確に把握する
まず、あなたの事業が安定的に黒字化しキャッシュフローがプラスに転じるまでに、現実的に何か月かかるのか、その「リードタイム」を算出します。
- 飲食店・小売店:店舗がオープンし地域に認知されリピート客が付き始めるまでの期間(一般的に3ヶ月~6ヶ月)
- Webサービス・ソフトウェア開発:プロダクトの開発が完了しベータテストを終え、最初の有料顧客を獲得するまでの期間(一般的に6ヶ月~1年)
- コンサルティング・BtoBサービス:最初の大型案件を受注しその検収が完了し、実際に入金があるまでの期間(一般的に3ヶ月~6ヶ月)
STEP 2:その「リードタイム」を事業計画書に明確に反映させる
算出したリードタイムに基づき、事業計画書の「事業の見通し」や、添付する「資金繰り表」で、開業当初の数ヶ月はあえて売上を低く保守的に設定し、営業キャッシュフローがマイナスになる計画を正直に描きます。
そして、「この計画的な初期投資期間(キャッシュフロー赤字期間)を乗り越え、事業を確実に軌道に乗せるために、〇ヶ月の据置期間がどうしても必要です」と、その論理的な必要性を明確に主張するのです。
この現実的なリスク認識と、それに対する具体的な対策の提示こそが、あなたの経営者としての計画性を何よりも雄弁に証明します。
第5章:【FAQ】「据置期間」に関する一歩進んだ疑問
最後に、据置期間の活用を具体的に検討されている起業家の皆様から、私たちが特によくお受けする専門的なご質問とその回答をQ&A形式でまとめました。
Q1. 据置期間は最大でどのくらいの期間設定できますか?
A1. これは利用する融資制度や金融機関の方針、そしてあなたの事業計画によって異なります。
日本政策金融公庫の多くの創業融資制度(例:新規開業資金)では、設備資金については最大2年、運転資金については最大1年が据置期間の上限として定められています。
しかし、これはあくまで制度上の「最大値」です。あなたが実際に何ヶ月の据置期間を認められるかは、あなたの事業計画書の中で「なぜその期間が必要なのか」をどれだけ合理的に説明できるかにかかっています。
プロの視点:
やみくもに最長の期間を要求するのは得策ではありません。それは「この経営者は自分の事業が軌道に乗るまでに2年もかかると考えているのか?なんと計画性のない…」と、逆にネガティブな印象を与えかねないからです。あなたの事業の収益化までの現実的なリードタイム(通常は6ヶ月~1年程度)に基づき、必要最小限かつ十分な期間を論理的に要求することが最も賢明な戦略です。
Q2. 据置期間を希望すると、融資担当者からやる気がない、あるいは計画に自信がないと見なされ不利になりませんか?
A2. 素晴らしいご質問です。そしてその答えは、あなたの「伝え方」次第で天国と地獄に分かれます。
据置期間の「伝え方」ひとつで評価が変わる
| 伝え方 | 審査官の評価 |
|---|---|
| NGな伝え方(感情論) 「とにかく最初の返済が不安なので、できるだけ待ってください」 |
「覚悟が足りない」「計画が漠然としている」 → マイナス評価 |
| OKな伝え方(戦略) 「最初の6ヶ月は『戦略的投資期間』と位置づけ、本業の顧客獲得に集中します。その間のキャッシュフローを万全にするため、6ヶ月の据置が必要です」 |
「計画性が高い」「リスク管理ができている」 → プラス評価 |
このように、据置期間を単なる「延命措置」ではなく、事業をより大きく成長させるための積極的な「戦略的投資期間」として位置づける。このポジティブなストーリーテリングこそが、あなたの経営者としての高い視座と計画性を担当者に強く印象付けるのです。
Q3. 融資が始まった後から返済が苦しくなりました。後から据置期間を設けてもらうことはできますか?
A3. 一度始まった返済に対して、後から据置期間を設けるということは原則としてできません。
もし返済が著しく困難になった場合に行うのは、「据置」ではなく「リスケジュール(返済条件の変更)」という、全く別の、そしてより深刻な手続きとなります。
【最重要】「据置」と「リスケ」の致命的な違い
| 項目 | ① 据置(すえおき) | ② リスケ(リスケジュール) |
|---|---|---|
| タイミング | 融資実行「前」に交渉 | 融資実行「後」に返済困難となり交渉 |
| 金融機関の評価 | 「堅実な経営計画」(プラス評価) | 「経営破綻寸前」(マイナス評価) |
| 信用情報への影響 | 一切なし | 内部格付が最低ランクに(追加融資が絶望的) |
リスケジュールとは、金融機関との再交渉によって一定期間元金の返済を減額または停止してもらう緊急避難的な措置です。これはあなたの会社の資金繰りが破綻寸前であることを金融機関に対して自ら認める行為であり、あなたの会社の信用情報には極めて大きなマイナスの記録が残ります。
その結果、あなたは、その金融機関からはもちろん、他の全ての金融機関からも今後長期間にわたって新たな融資を受けることが絶望的に困難になります。
だからこそ、最初の融資契約の段階で、あらかじめ将来のリスクを見越した適切な「据置期間」を設計しておくことが、あなたの会社をこの最悪の「リスケジュール」という事態から守るための最強の「予防策」となるのです。
結論:「据置期間」は、あなたの事業への「真剣さ」を示すリトマス試験紙
据置期間を戦略的に活用しようとすること。
それは、あなたが、
- 創業期のキャッシュフローの厳しさを深く理解しているという「現実認識力」の証明であり、
- その最も困難な時期を乗り越えるための具体的な対策を講じているという「リスク管理能力」の証明であり、
- そして目先の返済の楽さではなく、事業の長期的な成功を何よりも優先しているという「経営者としての覚悟」の証明なのです。
私たち荒川会計事務所は、あなたのその事業計画に最適な据置期間の長さを算出し、その必要性を金融機関の担当者が最も納得する形で事業計画書に落とし込む専門家です。
あなたの会社の「命綱」、正しく設定できていますか?
そのたった数ヶ月の据置期間の有無が、あなたの事業の未来の明暗を分けるかもしれません。
まずは無料相談で、あなたの事業にとっての「最適な据置期間」を私たちと一緒に設計しましょう。
記事執筆監修者
荒川会計事務所(経営革新等支援機関(認定支援機関))代表税理士・登録政治資金監査人・行政書士の荒川 一磨です。
会社設立と創業融資を得意とし、何でも相談できる話しやすいパートナーであることを心掛けている事務所です。
事務所所在地 〒160-0022 東京都新宿区新宿2-5-16 霞ビル8F
電話番号 0120-016-356
所属 東京税理士会四谷支部・東京行政書士会新宿支部
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