会社の設立を決意した、あなた。しかし、その輝かしい未来への設計図を描く中で、一つの、あまりにも現実的な壁に、頭を悩ませているかもしれません。
「手元の現金(自己資金)が、どうしても足りない…」
「もっと資本金を大きく見せて、銀行からの信用を得たいのに…」
その一方で、あなたの手元には、これまで事業で使ってきた、あるいは、個人的に所有している、価値のある「モノ」があるはずです。高性能なパソコン、事業用の自動車、あるいは、親から相続した不動産…。
もし、これらの「モノ」を、現金と同じように、あなたの会社の「資本金」として、法的に認めてもらえるとしたら、どうでしょうか?
その、現金の不足を補い、あなたの会社のスタートラインを、劇的に引き上げる、魔法のような手法。それが、「現物出資(げんぶつしゅっし)」です。
しかし、この魔法には、極めて専門的で、複雑な「呪文の詠唱法(法的な手続き)」と、使い方を誤れば、あなた自身を破滅させかねない、強力な「副作用(税務上のリスク)」が、隠されています。
この記事は、その、強力でありながら、あまりにも危険な魔法「現物出資」の、完全な取扱説明書です。その戦略的なメリットから、最大の難関である「価格証明」の具体的な方法、そして、99%の起業家が知らない、恐ろしい「税務上の罠」まで。新宿で、数多くの企業の資本政策を設計してきた私たちが、その全ての知識と、実践的なノウハウを、ここに公開します。
第1章:【本質理解】「現物出資」とは、一体何か?
具体的な手続きに入る前に、まず、「現物出資」という言葉の、法的な意味と、その対象となる「モノ」の範囲を、正確に理解しましょう。
「モノ」で出資する、ということ
会社の資本金は、通常、「金銭」で出資されます。しかし、会社法は、金銭以外の「財産」を、資本金として出資することを、例外的に認めています。これが「現物出資」です。
つまり、あなたは、現金100万円に加えて、「私が所有する、この時価300万円の自動車も、会社の財産として提供します」と宣言することで、あなたの会社の資本金を「400万円」として、スタートさせることができるのです。
現物出資の対象となる「財産」とは?
現物出資の対象となるのは、「貸借対照表に、資産として計上できるもの」です。具体的には、以下のようなものが挙げられます。
- 動産:パソコン、サーバー、事務机、椅子、店舗の内装設備、事業用の自動車、機械装置など。
- 不動産:土地、建物(事務所、店舗、工場など)。
- 有価証券:上場企業の株式、国債など。
- 知的財産権:特許権、商標権、著作権(ソフトウェアのプログラムなど)。
- 債権:あなたが、第三者に対して持っている、売掛金などの債権。
現物出資の対象に「できない」もの
一方で、どんなものでも出資できるわけではありません。特に、以下のものは、現物出資の対象とはなりません。
- 個人の信用、労働、ノウハウ:「私が、この会社で働くこと」自体を、資本金にすることはできません。
- ローン(借金):自動車ローンが残っている自動車を、現物出資する場合、出資できるのは、その自動車の時価から、ローン残高を差し引いた、純粋な価値の部分だけです。
- リース資産:あなたが、リース契約で借りているだけのコピー機などを、現物出資することはできません。
第2章:【戦略的メリット】なぜ、あなたは「現物出資」を検討すべきなのか?
現物出資は、単に「現金が足りないから」という、消極的な理由だけで行われるものではありません。それは、あなたの会社の、未来の成長を、戦略的に後押しする、3つの強力なメリットをもたらします。
メリット1:【資金繰りの緩和】手元の「現金」を、運転資金として温存できる
これが、最大のメリットです。創業期の会社の存続を、最も左右するのは、日々の支払いに充てる「運転資金」、すなわち、手元の「現金(キャッシュ)」の厚みです。
もし、あなたが、事業に必要な、時価300万円の機械を、すでに所有している場合。現物出資を使わなければ、あなたは、自己資金から300万円を、資本金として会社に入れ、その会社のお金で、改めて、自分自身から、その機械を買い取る、という手続きが必要になります。結果として、あなたの会社の、自由に使える現金は、その分、減少してしまいます。
しかし、現物出資を使えば、その機械そのものを、資本金として会社に組み込むことができます。結果として、あなたの会社は、設立初日から、事業に必要な機械と、そして、手元の運転資金の両方を、潤沢に確保した状態で、スタートを切ることができるのです。
メリット2:【信用の獲得】「資本金の額」を大きく見せ、融資審査を有利に進める
会社の「資本金の額」は、その会社の「体力」と「信用力」を、外部に示す、最も分かりやすい指標です。
ケーススタディ:創業融資を申し込む、2つの会社
A社:資本金 50万円(現金50万円のみで設立)
B社:資本金 300万円(現金50万円 + 事業用車両250万円の現物出資で設立)
日本政策金融公庫の融資担当者が、この2社の登記簿謄本を見た時、どちらの会社に、より「事業への本気度」と「安定性」を感じるでしょうか。答えは、言うまでもありません。
現物出資を活用し、資本金の額を、法的に、そして、正当に、大きく見せることは、創業融資の審査において、「自己資金が潤沢である」という、極めてポジティブな評価に繋がり、融資の成功確率と、借入可能額を、大きく引き上げる効果があるのです。
メリット3:【チームの組成】多様な「貢献」を、資本政策に反映できる
共同経営で、会社を設立する場合、それぞれのパートナーの、会社への「貢献」の形は、必ずしも、お金だけとは限りません。
- 創業者A(CEO):事業のアイデアと、現金500万円を出資する。
- 創業者B(CTO):現金は出せないが、事業に不可欠な、自ら開発したソフトウェア(時価500万円と評価)を、現物出資する。
このような場合、現物出資という仕組みを使うことで、創業者Bの、金銭以外の、しかし、事業にとって極めて重要な「貢献」を、Aと同等の「株式」という形で、正当に評価し、会社の資本政策に、公平に、反映させることができるのです。
第3章:【最大の難関】「価格証明の壁」と、その3つの突破口
現物出資が、強力な武器であると同時に、専門家のサポートなしでは、極めて危険な「劇薬」となる理由。それが、この「価格証明の難しさ」にあります。
なぜ、「価格証明」は、それほどまでに、厳格なのか?
その理由は、「資本充実の原則」という、会社法の、大原則を守るためです。
もし、あなたが、本当は10万円の価値しかない、古いパソコンを、「これは、1,000万円の価値がある」と、偽って現物出資し、資本金1,000万円の会社を作ったとしたら、どうなるでしょうか。その会社の、登記簿謄本上の資本金は1,000万円でも、実際の財産は、わずか10万円しかありません。
この、見せかけの資本金を信じて、お金を貸した銀行や、商品を納品した取引先は、将来、会社が倒産した時に、大きな損害を被ることになります。このような、詐欺的な行為を防ぐため、会社法は、現物出資された財産の「価額(価格)」が、本当に、妥当なものであるかを、厳格にチェックする仕組みを、設けているのです。
原則的な手続き:【コストと時間の壁】裁判所が選任する「検査役」の調査
会社法が定める、原則的な手続きは、会社の設立にあたり、裁判所に対して、「検査役」の選任を申し立てる、というものです。選任された検査役(通常は、弁護士、公認会計士、税理士など)が、現物出資された財産の価額を、専門家として調査し、その妥当性についての、調査報告書を作成します。
しかし、この手続きには、
- 検査役へ支払う、数十万円以上の、高額な報酬が必要になる。
- 裁判所への申し立てから、調査完了まで、数ヶ月単位の、長い時間がかかる。
という、致命的なデメリットがあります。そのため、創業期の、スピードとコストを重視する、中小企業・スタートアップにとって、この原則的な手続きが、利用されることは、まず、ありません。
【3つの突破口】検査役の調査を「不要」にする、例外規定
幸いなことに、会社法は、中小企業の実態に合わせて、この、煩雑な検査役の調査を、省略できる、3つの「突破口(例外規定)」を、用意しています。
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突破口1:【最も使える、王道】現物出資の総額が「500万円以下」である場合
これが、ほとんどのスタートアップが利用する、最もシンプルで、最も強力な突破口です。現物出資する財産の、定款に記載された価額の合計が、500万円を超えないのであれば、検査役の調査は、完全に不要となります。あなた自身が、その財産の価額が妥当であることを、調査し、その結果を記載した「調査報告書」を作成することで、手続きを進めることができます。 -
突破口2:市場価格のある「有価証券」である場合
現物出資する財産が、証券取引所で取引されている、上場株式などである場合。その定款に記載された価額が、市場価格を超えないのであれば、その価格の客観性は担保されているため、検査役の調査は不要です。 -
突破口3:専門家による「価格証明」がある場合
現物出資する財産の価額について、弁護士、公認会計士、税理士といった、専門家による「証明(価額が相当であることの証明)」を受けた場合も、検査役の調査は不要です。不動産の場合は、併せて、不動産鑑定士の鑑定評価も必要となります。ただし、この証明にも、専門家への報酬が発生するため、500万円以下の現物出資であれば、通常は、突破口1を選択します。
第4章:【税務上の罠】「譲渡所得税」という、見えない時限爆弾
法務上の、最大の難関である「価格証明の壁」を、無事にクリアした、あなた。しかし、その先に、99%の起業家が知らない、もっと恐ろしい、税務上の「時限爆弾」が、待ち受けている可能性があります。
税法上の「みなし譲渡」という考え方
あなたが、個人として所有していた資産を、あなたが設立した「会社(法人)」へ、現物出資する。この行為は、税法上、「あなたが、あなたの会社へ、その資産を、その時点の『時価』で、売却(譲渡)したもの」と、見なされます。これを、「みなし譲渡」と呼びます。
そして、もし、その資産の「時価」が、あなたが、その資産を、過去に取得した時の「取得価額」を、上回っていた場合。その差額、すなわち「値上がり益(譲渡所得)」に対して、あなた個人に、多額の「所得税」が、課税されるのです。
ケーススタディ:10年前に購入した土地を、現物出資した場合
Aさんは、10年前に、個人的に、1,000万円で購入した土地を、所有していました。この度、この土地の上に、事業用の建物を建てるため、この土地を、新しく設立する会社の、資本金の一部として、現物出資することにしました。
現在の、この土地の「時価」は、周辺の地価の上昇により、3,000万円に、値上がりしていました。
Aさんは、この土地3,000万円を、現物出資し、無事に、資本金3,000万円の会社を設立しました。しかし、その翌年。Aさんの元に、税務署から、一枚の通知書が届きます。
その内容は、
(時価 3,000万円 - 取得価額 1,000万円) = 譲渡所得 2,000万円
↓
この2,000万円に対して、約20%の譲渡所得税、すなわち、約400万円の税金を、個人として、納付してください
という、悪夢のような、納税通知だったのです。Aさんは、現物出資によって、1円の現金も手にしていません。しかし、税法上は、2,000万円の利益を得た、と見なされ、その利益に対する、多額の税金を、どこかからか、現金で、用意しなければならなくなったのです。
第5章:【FAQ】「現物出資」に関する、一歩進んだ疑問
最後に、現物出資を具体的に検討されている起業家の皆様から、私たちが特によくお受けする、専門的なご質問とその回答を、Q&A形式でまとめました。
Q1. 500万円以下の、PCや自動車の「価額」は、具体的に、どうやって決めれば良いですか?
A1. 検査役の調査が不要な500万円以下の場合でも、その価額は、客観的に妥当な「時価」でなければなりません。万が一、税務署などから、その根拠を問われた際に、きちんと説明できる準備をしておく必要があります。
- 中古のPCや、事務用品の場合:ヤフオク!や、メルカリといった、中古品売買サイトで、同じ型番、同じ状態のものが、いくらで取引されているかを、複数、調査します。その取引画面のスクリーンショットなどを印刷し、それらを基に、妥当な価額を決定した、という証拠を残しておきます。
- 自動車の場合:Goo-netや、カーセンサーといった、中古車情報サイトで、同じ車種、年式、走行距離の車が、いくらで販売されているかを、複数、調査します。あるいは、中古車販売店に、査定を依頼し、「査定書」を発行してもらうのも、非常に強力な証拠となります。
重要なのは、「自分が、これくらいの価値があると思うから」という主観ではなく、「市場で、これくらいの価格で取引されているから」という、第三者が見ても納得できる、客観的な根拠を、必ず、書面で残しておくことです。
Q2. 個人事業主から法人成りする場合、事業で使っていた資産を、まとめて現物出資できますか?
A2. はい、可能であり、それは、法人成りにおける、非常に一般的で、有効な手法です。
個人事業の廃業日時点での、貸借対照表に計上されている、事業用の資産(PC、車両、機械、売掛金など)を、その時点での適正な時価で評価し、新しく設立する法人へ、まとめて現物出資します。これにより、個人事業から、法人への、スムーズな資産の引継ぎと、新会社の、十分な資本金の確保を、同時に実現することができます。
Q3. 現物出資した資産は、会社の「経費(減価償却)」にできますか?
A3. はい、できます。そして、これは、法人設立後の、税務戦略において、重要なポイントです。
現物出資された資産は、その出資時の「時価」が、会社の「取得価額」となります。そして、会社は、その取得価額を基に、その資産の耐用年数にわたって、毎年、減価償却費として、経費に計上していくことができます。
例えば、あなたが、個人で、帳簿価額が1円になるまで使い古したPCでも、もし、その時点での市場価値(時価)が、5万円あると評価されれば、会社は、そのPCを、5万円の資産として受け入れ、将来、経費化することができるのです。
Q4. 「現物出資」と、会社設立後に、会社が、個人から資産を「買い取る」のと、どちらが良いですか?
A4. これは、非常に良いご質問です。どちらの方法にも、メリット・デメリットがあり、あなたの会社の戦略によって、選択が変わってきます。
| 現物出資 | 設立後の買取り | |
|---|---|---|
| メリット | ・資本金を大きくできる(信用力UP) ・会社の現金が減らない |
・手続きが、比較的シンプル ・「みなし譲渡」課税のリスクが低い |
| デメリット | ・手続きが、法的に複雑 ・「みなし譲渡」課税のリスクがある |
・資本金は、大きくならない ・会社の現金が、減少する |
プロの結論:
創業融資を、有利に進めたい、あるいは、会社の信用力を、設立当初から最大化したい、と考えるなら、手続きが複雑でも、「現物出資」を選択すべきです。一方、手元の現金に余裕があり、とにかく手続きをシンプルに、そして、税務リスクを完全に回避したい、と考えるなら、「設立後の買取り」が、賢明な選択となります。
結論:その「魔法」は、専門家という「魔法使い」と共に
現物出資。それは、あなたの会社の、スタートラインを、劇的に引き上げる、強力な「魔法」です。
しかし、その詠唱法(法務手続き)は、あまりにも複雑で、そして、その副作用(税務リスク)は、あまりにも、強力です。
この、高度な魔法を、あなたが、たった一人で、完璧に、そして、安全に、使いこなすことは、不可能に近い、と言えるでしょう。
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「現金」が足りなくても、あなたの「資産」が、未来を創る。
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