「取引先の倒産や不況の影響で、今月の売上がガクンと落ちた…」
「災害の影響で客足が遠のき、資金繰りが急激に悪化している…」
予期せぬ事態で売上が減少した時、経営者が真っ先に頼るべき制度。それが「セーフティネット保証(経営安定関連保証)」です。
通常、信用保証協会付き融資には「無担保8,000万円」という枠(限度額)があります。 しかし、セーフティネット保証の認定を受けると、この通常枠とは「別枠」で融資を受けることが可能になります。 つまり、すでに借入がいっぱいで「もう借りられない」と思っていた企業でも、追加融資を受けられるチャンスが生まれるのです。
特に有名なのが「4号(突発的災害)」と「5号(業況の悪化)」ですが、この2つには「保証割合(100%か80%か)」や「売上減少要件」に決定的な違いがあります。 ここを理解せずに申し込むと、有利な条件で借り損ねたり、審査で不利になったりします。
この記事では、セーフティネット保証の仕組みから、4号・5号の使い分け、市区町村での認定手続きの裏ワザ、そして銀行審査を確実に通すためのポイントまで、プロの税理士が徹底的に解説します。
- セーフティネット保証は「別枠」で借りられる緊急融資制度。
- 「4号」は売上20%減で100%保証(災害時のみ)。
- 「5号」は売上5%減で80%保証(不況業種全般)。
- 「認定書」をもらうだけでは借りられない。銀行審査への対策が必須。
第1章:借入枠が倍増?「別枠保証」の仕組み
まず、セーフティネット保証がなぜ「最強の資金調達手段」と呼ばれるのか、その仕組みを解説します。
「一般保証枠」と「別枠」の2階建て
信用保証協会付き融資には、以下の「枠(限度額)」が設定されています。
・無担保:8,000万円
・有担保:2億8,000万円
【2階部分:セーフティネット保証枠(別枠)】
・無担保:8,000万円
・有担保:2億8,000万円
通常は「1階部分」しか使えません。しかし、セーフティネット保証の認定(4号または5号)を受けると、「2階部分(別枠)」が解放されます。 理論上、無担保なら最大1億6,000万円まで融資枠が広がることになります。これが「別枠」の威力です。
どんな時に使えるのか?
「売上が減少していること」が基本条件です。 国(経済産業省)が「緊急事態だ」と認めたケース(災害や不況)において、市区町村長の認定を受けることで利用可能になります。
第2章:災害時の切り札「セーフティネット保証4号」
4号認定は、突発的な災害(地震、台風、感染症など)が発生した地域に対して発動される、最も強力な支援策です。
対象となるケース
・新型コロナウイルス感染症(※指定期間終了済みの場合あり) ・能登半島地震などの自然災害 ・その他、国が指定した突発的災害
※4号は常にあるわけではありません。災害発生時に期間を区切って指定されます。現在指定されているかどうかは、中小企業庁や自治体のHPで確認が必要です。
認定要件:売上高が「20%以上」減少
「最近1ヶ月の売上高」が、前年同月と比較して原則として20%以上減少しており、かつ、その後2ヶ月も減少が見込まれることが条件です。 減少幅が大きい分、支援内容も手厚くなっています。
最大の特徴:「100%保証」
4号の最大のメリットは、信用保証協会が借入金の「100%」を保証してくれる点です。 万が一会社が潰れても、銀行は協会から全額返済してもらえるため、銀行の信用リスクは極めて低くなります。 そのため、銀行審査が非常に通りやすく、プロパー融資を断られた企業でも借りられる可能性が高いです。
第3章:不況時の味方「セーフティネット保証5号」
5号認定は、全国的に業況が悪化している「業種」に対して発動されます。 特定の災害がなくても、不況時であれば多くの企業が利用できる、最もポピュラーな制度です。
対象となるケース:指定業種
国が指定する「不況業種」に該当している必要があります。 飲食店、建設業、小売業、製造業など、その時々の経済情勢に合わせて数百〜千以上の業種が指定されています。 自分の会社が指定業種に入っているか、日本標準産業分類と照らし合わせて確認します。
認定要件:売上高が「5%以上」減少
「最近3ヶ月の売上高」が、前年同期と比較して5%以上減少していることが条件です。 4号(20%減)に比べてハードルが低く、少しの売上ダウンでも利用できるのが特徴です。
特徴:「80%保証」
5号の場合、保証協会が保証するのは借入金の「80%」です。残り20%は銀行がリスクを負います(責任共有制度)。 銀行にもリスクがあるため、4号に比べると審査は少し慎重になりますが、それでも通常のプロパー融資よりは圧倒的に借りやすいです。
第4章:4号と5号の徹底比較表
違いを一目で確認しましょう。
| 項目 | 4号認定(突発的災害) | 5号認定(業況悪化) |
|---|---|---|
| 発動条件 | 災害・感染症などの指定時 | 指定業種の業況悪化時 |
| 売上減少要件 | 前年比 ▲20%以上 | 前年比 ▲5%以上 |
| 保証割合 | 100%保証 (銀行リスク極小) |
80%保証 (銀行リスクあり) |
| 借入枠 | 一般枠と別枠 | 一般枠と別枠 |
| 信用保証料 | 優遇あり(安くなる傾向) | 通常よりやや高い場合も |
どっちを使うべき?
もし4号の指定地域・期間内であり、売上が20%以上落ちているなら、迷わず「4号」を優先してください。 100%保証の方が銀行が貸しやすく、保証料も安いケースが多いからです。 売上減少が5%〜20%未満の場合や、災害指定がない場合は「5号」を利用します。
第5章:役所に行く前に!認定手続きの具体的ステップ
セーフティネット保証を利用するには、銀行に行く前に、本店所在地の市区町村役場で「認定書」を取得する必要があります。
ステップ1:要件の確認と書類作成
各自治体のHPから「認定申請書」をダウンロードします。
売上台帳や試算表を用意し、減少率を計算して記入します。
※「創業者特例(前年実績がない場合)」などの計算式もあるので、自社に合う様式を選んでください。
ステップ2:市区町村の窓口へ提出
必要書類(申請書、売上を証明する資料、謄本など)を持って、役所の商工課(産業振興課など)へ行きます。
書類に不備がなければ、数日〜1週間程度で「認定書」が発行されます。
※最近は郵送やオンライン申請を受け付ける自治体も増えています。
ステップ3:認定書を持って銀行へ
発行された認定書(有効期限は通常30日)を持って、銀行へ融資を申し込みます。 これで初めて「セーフティネット保証枠」での審査がスタートします。
第6章:認定書があっても断られる?審査突破のポイント
ここが最大の勘違いポイントです。 「認定書」は「融資を受けられる権利」ではありません。「別枠の審査を受ける資格」に過ぎません。 認定書があっても、銀行や保証協会の審査で落ちることは普通にあります。
審査に落ちる理由
×「売上が下がったので貸してください」(後ろ向き)
これだけでは、「返済能力がない」と判断されます。
審査を通すための「回復ストーリー」
〇「売上は下がりましたが、回復の見込みがあります」(前向き)
銀行が知りたいのは「どうやって返すか」です。
・コスト削減で利益を確保する計画
・新規事業や業態転換による売上回復シナリオ
・手元の資金繰り表(向こう1年分)
これらをセットで提出し、「この融資があれば危機を乗り越え、正常に戻れる」ことを証明する必要があります。
第7章:【FAQ】セーフティネット保証の実務Q&A(25選)
現場でよくある質問に、本音で回答します。
Q1. 既存の借入をセーフティネット保証で借り換えできますか?
A. 可能です。「ニューマネー(真水)」の確保に有効です。
既存の一般枠の借入を、セーフティネット枠で借り換えることで、一般枠を空けることができます。あるいは、既存のセーフティネット借入を一本化して返済期間を延ばすことも可能です。
Q2. コロナ特別貸付(ゼロゼロ融資)の返済が始まりますが、借り換えできますか?
A. 「コロナ借換保証」などの制度を使えば可能です。
通常の4号・5号とは別に、借換専用の制度が用意されている場合があります。据置期間を再度設定できるメリットがあります。
Q3. 赤字決算でも審査に通りますか?
A. 通常の融資よりは通りやすいです。
セーフティネットは「業況が悪化した企業」を救う制度なので、赤字であることは前提条件のようなものです。重要なのは「赤字の理由」と「改善計画」です。
Q4. 税金を滞納していますが申し込めますか?
A. 原則として審査に通りません。
認定書は取れても、銀行・保証協会の審査でストップします。納税証明書が出せなければ融資は実行されません。
Q5. 認定書の有効期限が切れました。どうすればいいですか?
A. 再度、役所で取り直してください。
有効期限(30日)内に銀行への申し込みを行う必要があります。期限が切れたら、最新の売上データを持って再申請すれば発行されます。
Q6. 複数の銀行から申し込めますか?
A. 可能ですが、認定書は銀行ごとに必要です。
A銀行とB銀行の両方で申し込む場合、認定書は原本が2枚必要です。役所で「2通ください」と言えば発行してくれます。
Q7. 業種が指定されていない場合、5号は使えませんか?
A. 残念ながら使えません。
ただし、主たる業種が指定されていれば使えるケースや、関連業種として認められるケースもあります。一度、役所の窓口で相談してみてください。
Q8. 売上が前年比プラスでも使えますか?
A. 原則使えませんが、利益率減少などの特例がある場合があります。
売上は上がっているが利益が激減している場合など、自治体独自の認定制度や、別の保証制度が使える可能性があります。
Q9. 保証料はいくらくらいですか?
A. 4号は0.8%以下など優遇されることが多いです。
5号は通常の料率に近いですが、自治体の「制度融資」と組み合わせることで、保証料補給(タダになる)を受けられる場合があります。
Q10. 創業1年未満で前年売上がありません。
A. 「創業者特例」を使えば認定可能です。
前年実績がない場合、「直近1ヶ月」と「今後2ヶ月の見込み」などで判定する特例計算式が用意されています。
Q11. 個人事業主も利用できますか?
A. はい、利用できます。
法人・個人問わず、要件を満たせば利用可能です。
Q12. 認定申請書は代行してもらえますか?
A. 金融機関や税理士が代行可能です。
委任状があれば、代理人が役所に行って取得することができます。忙しい経営者は税理士に依頼するのが一般的です。
Q13. 銀行は4号と5号、どっちを喜びますか?
A. 圧倒的に「4号」です。
100%保証なので、銀行の信用リスクがほぼ保証でカバーされるからです。4号が使える状況なら、銀行の方から提案してくることも多いです。
Q14. 融資実行までどれくらいかかりますか?
A. 認定取得から実行まで1ヶ月程度見てください。
認定に数日、銀行審査と保証協会審査に2〜3週間かかります。資金ショートギリギリだと間に合いません。
Q15. 「危機関連保証」とは何ですか?
A. 4号・5号とはさらに別の「3階部分」の保証枠です。
リーマンショック級やコロナ禍など、極めて甚大な危機の際に発動されます。一般枠+セーフティネット枠+危機関連枠で、最大保証額がさらに広がります。
Q16. 認定申請の売上は「税抜」か「税込」か?
A. 決算書(試算表)に合わせるのが基本です。
前年と比較する際、片方が税込で片方が税抜だと計算が狂います。整合性が取れていればどちらでも認められることが多いですが、自治体の指示に従ってください。
Q17. セーフティネット保証を使うと信用情報に傷がつきますか?
A. つきません。むしろ正当な権利行使です。
リスケ(条件変更)とは異なり、正常な融資取引ですので、信用情報に傷はつきません。
Q18. 複数の業種を営んでいる場合はどう判定しますか?
A. 全体の売上で見るか、主たる業種で見るか選べます。
要件が複雑なので、どの計算式を使うのが有利か、税理士や窓口で相談することをお勧めします。
Q19. 銀行に「枠がいっぱいです」と言われましたが、本当に別枠?
A. 本当に別枠ですが、審査上の「借入過多」は別問題です。
制度上の枠は空いていても、銀行が「これ以上貸すと返せない(返済能力不足)」と判断すれば借りられません。別枠=無審査ではありません。
Q20. 返済期間は何年まで設定できますか?
A. 制度によりますが、7年〜10年が一般的です。
据置期間(元本返済なし)も1年〜5年程度設定できる場合があり、資金繰り改善に大きく貢献します。
Q21. 認定が否決されることはありますか?
A. 書類不備や要件未達なら否決(差し戻し)されます。
売上減少率の計算ミスなどで要件を満たしていない場合、認定は下りません。事前チェックが重要です。
Q22. 売上減少の理由は聞かれますか?
A. 役所では聞かれませんが、銀行では聞かれます。
役所は形式審査(数字が合っているか)だけですが、銀行は実質審査(なぜ減ったか)を行います。
Q23. オンライン申請(Jグランツ)は使えますか?
A. 対応している自治体なら可能です。
GビズIDが必要になりますが、窓口に行かずに済むので便利です。
Q24. 代表者保証は必要ですか?
A. 原則必要です。
ただし、経営者保証ガイドラインの要件を満たせば外せる可能性もあります。
Q25. まず誰に相談すればいいですか?
A. 顧問税理士か、メインバンクの担当者です。
特に税理士は、試算表の作成から認定申請の代行までワンストップで頼めるため、最初の相談相手として最適です。
まとめ:売上減は「支援を受ける権利」でもある
売上が下がってしまったことは、経営者にとって辛い事実です。 しかし、日本の公的支援制度は充実しており、その事実を証明(認定)することで、強力な資金調達の道が開けます。
セーフティネット保証は、あなたの会社を守るための命綱です。 「手続きが難しそう」と諦めず、使える制度はフル活用して危機を乗り越えましょう。
「認定申請の書類を作ってほしい」「銀行への説明資料を一緒に考えてほしい」
そのようなお悩みがあれば、ぜひ荒川会計事務所にご相談ください。 迅速な認定取得と、融資獲得に向けたフルサポートを提供いたします。
記事執筆監修者
荒川会計事務所(経営革新等支援機関(認定支援機関))代表税理士・登録政治資金監査人・行政書士の荒川 一磨です。
会社設立と創業融資を得意とし、何でも相談できる話しやすいパートナーであることを心掛けている事務所です。
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