【創業融資の資金使途】設備資金と運転資金の最適なバランスとは?税理士が徹底解説

創業融資の申請準備、そのクライマックス。あなたは今、事業計画書の最も重要な項目の一つである「7 必要な資金と調達方法」の欄を前に、ペンが止まってしまっているかもしれません。

「いったいいくら借りるのが正解なんだろう?」
「設備資金と運転資金。このバランスはどう考えればいいのだろうか?」
「運転資金はとりあえず3ヶ月分と書いておけば大丈夫だろうか…?」

もしあなたがこの「資金使途」の項目を単なる「欲しいものリスト」だと考えているとしたら。それはあなたの融資の成否、そしてそれ以上にあなたの事業の未来の生存確率を著しく危険に晒す致命的な誤解です。

金融機関の融資担当者がこの「資金使途」の欄から読み取ろうとしているのは、単なるお金の使い道ではありません。彼らはその数字の「バランス」から、あなたの経営者としての「リスク管理能力」と「事業を継続させる覚悟」そのものを見抜こうとしているのです。

この記事は、そのあまりにも多くの起業家が見過ごしてしまう資金計画の「黄金比」をあなたに伝授するための究極の戦略ガイドです。会社の「骨格」となる設備資金と「血液」となる運転資金。その本質的な役割の違いから、金融機関が「これなら貸せる」と確信する最適なバランスの考え方、そして業種別の具体的なシミュレーションまで。新宿で数えきれないほどの企業の「生命線」である資金計画を設計してきた私たちが、その全ての知識と実践的なノウハウをここに公開します。

第1章:【本質理解】会社の「骨格」と「血液」― 設備資金と運転資金の決定的な役割の違い

まず、この2つの資金があなたの会社にとってどのような全く異なる役割を担うのか、その本質を正確に理解しましょう。

「設備資金」と「運転資金」の決定的な違い

項目 ① 設備資金 ② 運転資金
役割(例え) 会社の「骨格」 会社の「血液」
性質 一回限りの投資(固定資産) 日々消費される流動的な費用
具体例 保証金、内装工事費、厨房機器、PC 仕入代金、人件費、家賃、広告宣伝費
審査官の視点 「見積書」があり使途が明確。
(=リスクが低く理解しやすい)
「将来の予測」であり不透明。
(=本当に売上に繋がるか厳しく審査)

① 設備資金 ― あなたの事業の「骨格」を創る、一回限りの投資

設備資金とは、事業を開始し運営していくための物理的な「器」や「道具」を手に入れるための資金です。これらは一度購入すれば長期間にわたってあなたの事業の基盤を支え続ける「固定資産」となります。まさにあなたの会社の頑丈な「骨格」です。

具体的な内容

  • 不動産関連:店舗やオフィスの保証金(敷金)、礼金、仲介手数料
  • 内外装工事費:店舗のデザイン・施工費、事務所のパーテーション設置費など
  • 機械・備品:飲食店の厨房機器、美容室のシャンプー台、IT企業の高性能サーバー、事業用の自動車、パソコン、デスク、椅子など

金融機関からの見え方
設備資金は、その使い道が業者からの「見積書」によって1円単位で明確に証明できます。また、購入した資産は万が一の場合売却して換金できる可能性があるため(担保価値)、金融機関にとっては比較的リスクが低く、理解しやすい資金と言えます。

② 運転資金 ― あなたの事業の「血液」を流し続ける、生命維持装置

運転資金とは、あなたが商品やサービスを顧客に提供し、その代金が実際に入金されるまでの間、会社の活動を維持し続けるために日々消費されていく流動的な資金です。たとえ事業が黒字でも、この運転資金が底をつけば会社は倒産します(黒字倒産)。まさにあなたの会社の全身を巡る「血液」であり、生命維持装置なのです。

具体的な内容

  • 仕入代金:商品を販売するための商品の仕入費用、あるいは飲食店における食材の仕入費用。
  • 人件費:あなた自身への役員報酬や従業員への給与、そして社会保険料の会社負担分。
  • 地代家賃:店舗やオフィスの毎月の賃料。
  • その他経費:水道光熱費、通信費、広告宣伝費、消耗品費など、事業を運営するためのあらゆる日々の経費。

金融機関からの見え方
運転資金は設備資金と異なり、購入しても形として残りません。日々消費され消えていくお金です。そのため金融機関にとっては、「この運転資金が本当に将来の売上を生み出し、返済の原資へと繋がるのか?」という、より厳しく、そして慎重な審査の対象となります。「いくら必要か」の根拠が曖昧であれば、それは「浪費」や「経営者のどんぶり勘定」と見なされ、即座に審査の評価を下げます。

第2章:【黄金比の探求】運転資金は「何か月分」が本当に最適なのか?

創業計画書を作成する上で、最もあなたの経営者としての「センス」と「リスク管理能力」が問われるのが、この「運転資金を何か月分見込んでおくか」という一点です。

「3ヶ月分」という甘い罠

多くの起業マニュアル本やインターネットの記事には、「運転資金は最低でも3ヶ月分準備しましょう」と書かれています。

これは決して間違いではありません。しかし、これはあくまで生き残るための「最低ライン」です。そして融資のプロである金融機関の担当者の目には、この「3ヶ月」という数字はこう映っています。

金融機関の視点:「この起業家は3ヶ月以内に事業を完全に黒字化させキャッシュフローをプラスに転じさせられるという、非常に楽観的なシナリオを描いているな。もし計画通りに顧客が付かなかった場合、4ヶ月目には資金がショートし私たちの融資も焦げ付くリスクが非常に高い…。」

運転資金の計画期間で分かる「経営者資質」

運転資金の計画 審査官の評価
「3ヶ月分」 「楽観的」「計画が甘い」「リスク管理能力が低い」
→ 4ヶ月目に資金ショートする危険な計画。
「6ヶ月分」 「堅実」「リスク認識が高い」「覚悟がある」
→ 半年間売上がなくても耐えられる体力を持つ安全な計画。

プロが選択する最強の基準:「6ヶ月分」という鉄壁の城壁

私たち起業支援の専門家が、お客様の事業計画を設計する際に強く推奨する基準。それは、運転資金を「6ヶ月分」確保するというものです。

なぜ6ヶ月なのか。それはこの「6ヶ月」という数字が単なる期間ではなく、あなたの経営者としての以下の重要な「資質」を金融機関に対して雄弁に物語るからです。

  • 【現実的なリスク認識能力】:あなたは「事業は計画通りに進まないことが当たり前である」というビジネスの厳しい現実を深く理解している。
  • 【最悪を想定する計画性】:あなたはたとえ半年間売上が計画の半分以下であったとしても会社を存続させることができるという、最悪の事態を想定した堅実な資金計画を立てている。
  • 【事業への長期的コミットメント】:あなたは目先の利益に一喜一憂するのではなく、腰を据えてじっくりとこの事業を育てていくという長期的な覚悟を持っている。

この「6ヶ月」という数字はあなたの事業計画書に何よりも強力な「説得力」と「安心感」を与え、融資担当者に「この経営者になら安心して金を貸せる」と確信させる魔法の数字なのです。

第3章:【実践シミュレーション】「運転資金6ヶ月分」の具体的な計算方法

では実際に「運転資金6ヶ月分」をどのように計算すれば良いのでしょうか。新宿に席数15席の小さなカフェを開業するAさんのケースでシミュレーションしてみましょう。

STEP 1:月々の「固定費」を正確に洗い出す

売上の有無にかかわらず毎月必ず出ていく固定的な経費をリストアップします。

  • 地代家賃:250,000円
  • 人件費:(社長の役員報酬 30万円 + アルバイト1名 15万円)= 450,000円
  • 社会保険料(会社負担分):(社長分 約4.5万円 + アルバイト分 約2.2万円)= 67,000円
  • 水道光熱費:50,000円
  • 通信費(電話・インターネット):15,000円
  • リース料(レジ・食洗器など):30,000円
  • その他(消耗品、雑費など):30,000円

固定費 合計:892,000円 / 月

STEP 2:月々の「変動費」を売上計画から算出する

売上に比例して変動する経費(主に仕入)を算出します。

  • 目標売上高:1,500,000円 / 月
  • 目標原価率:30%
  • 変動費(食材仕入高):1,500,000円 × 30% = 450,000円 / 月

STEP 3:1ヶ月あたりの「運転資金」を確定させる

固定費と変動費を合算します。

固定費 892,000円 + 変動費 450,000円 = 1,342,000円 / 月

STEP 4:「最適バランス」を決定する

  • 「3ヶ月分」の場合:1,342,000円 × 3ヶ月 = 4,026,000円(=危険な計画)
  • 「6ヶ月分」の場合:1,342,000円 × 6ヶ月 = 8,052,000円(=堅実な計画)

この約400万円の差。これがあなたの事業の未来の「生存確率」を大きく左右する決定的な差となるのです。

プロの視点:
創業計画書には「必要な資金」の運転資金の欄に「8,052,000円」と記載し、その根拠として「月々の運転資金 1,342,000円 × 6ヶ月分」と、この詳細な計算内訳を補足資料として添付します。この丁寧で論理的な説明が、あなたの経営者としての計数管理能力を何よりも雄弁に証明するのです。

第4章:【業種別】設備資金と運転資金の最適なバランス

もちろんこの「バランス」はあなたの事業モデルによって大きく異なります。

【業種別】資金使途の最適なバランス

事業タイプ 最適なバランス 審査のポイント
① 設備投資型
(飲食店、美容室、製造業)
設備資金 > 運転資金 「なぜその高額な設備が必要か?」の論理的説明と見積書。
② 知識労働型
(ITコンサル、Web制作)
設備資金 < 運転資金 「なぜその運転資金が必要か?」→「役員報酬(生活費)」の合理的な積算。
③ 在庫型
(小売業、ECサイト)
設備資金 < 運転資金 売れる前に仕入れる必要があるため、「仕入資金」としての運転資金を潤沢に確保できているか。
  • 飲食店・美容室・製造業など(設備投資型ビジネス):
    バランス:設備資金 > 運転資金
    事業の根幹が店舗の内装や高額な機械設備にあるため、設備資金の割合が非常に高くなります。融資審査では、「なぜその高額な設備が必要なのか」「その投資がどのように売上と利益に繋がるのか」を合理的に説明することが最大のポイントとなります。
  • ITコンサルティング・Web制作など(知識労働型ビジネス):
    バランス:設備資金 < 運転資金
    必要な設備は高性能なパソコン程度であり、設備資金は比較的小額です。その代わり、事業の最大の資産はあなた自身の「労働力」です。したがって融資の大部分は、契約が成立し入金があるまでの数ヶ月間のあなた自身の生活を支えるための「役員報酬」や事務所の家賃といった運転資金が占めることになります。
  • 小売業・ECサイトなど(在庫型ビジネス):
    バランス:設備資金 < 運転資金(特に仕入資金)
    店舗の内装費などもかかりますが、それ以上にビジネスの生命線を握るのが商品を仕入れるための「運転資金」です。売れる前に仕入れなければならない。このキャッシュフローの構造的な課題をどれだけ深く理解し、十分な仕入資金と運転資金を確保できているかが審査の最大のポイントとなります。

第5章:【FAQ】「資金使途」に関する一歩進んだ疑問

最後に、資金計画を具体的に作成されている起業家の皆様から、私たちが特によくお受けする専門的なご質問とその回答をQ&A形式でまとめました。

Q1. 運転資金として借りたお金を、急遽予定していなかった設備の購入に使っても良いですか?

A1. これは非常に危険な行為であり、原則として絶対に避けるべきです。

融資はあなたが提出した「事業計画書」と「資金使途明細書」に記載された使い道(資金使途)に基づいて承認されています。その金融機関との「約束」を無断で破る行為は「資金使途違反」という重大な契約違反にあたります。

もしこれが発覚した場合、

  • 借入金の一括返済を求められる
  • その金融機関から将来二度と融資を受けられなくなる

といった事業の存続を揺るがす深刻なペナルティを受ける可能性があります。

正しい対処法
もしどうしても計画を変更する必要が生じた場合は、必ずお金を使う「前」に融資担当者に正直に相談してください。その設備投資の必要性と、それによって事業がどのように好転するのかを合理的に説明し、担当者から事前に了承を得ることが不可欠です。

Q2. 運転資金の見積もりに「予備費」を入れておくことはできますか?

A2. 素晴らしいご質問です。結論から言うと、「予備費」という名目での融資は原則として認められません。なぜなら、それは資金使途が明確ではないと見なされるからです。

しかし、あなたのその「予期せぬ事態に備えたい」というリスク管理の意識は、経営者として非常に正しいものです。では、どうすれば良いか。

プロのテクニック
私たちは「予備費」という言葉は一切使わず、個々の運転資金の項目を少し厚めに見積もるという方法を取ります。

例えば、「広告宣伝費」を当初の計画よりも少し多めに見積もり、その根拠として「開業当初、想定よりも顧客の反応が鈍かった場合に追加のWeb広告を出稿するためのコンティンジェンシープラン(緊急時対応計画)として計上しています」と、明確にその「使途」を説明するのです。

このように、単なる「予備」ではなく「起こりうる具体的なリスクに対処するための計画的な費用」として位置づけることで、あなたの慎重な計画性をアピールしつつ、実質的な予備費を確保することが可能になります。

Q3. 自己資金で、すでに支払ってしまった開業前の経費(例えば店舗の契約金など)も融資の対象になりますか?

A3. はい、一定の条件のもとで融資の対象となる可能性があります。

日本政策金融公庫などでは、融資の申込時点から遡ってある程度の期間内(明確な規定はありませんが概ね3ヶ月~6ヶ月程度が目安)に、あなたが自己資金で支払った創業のための費用についても、今回融資を申し込む「必要な資金」の一部として認めてくれる場合があります。

これを専門用語で「自己資金の補填(ほてん)」と呼びます。これは「すでに支払ったお金を返してもらう」のではなく、「すでに支払った分も創業資金総額の一部と認め、その分も含めて融資を実行することで、結果的にあなたの手元に運転資金が残る」というテクニックです。

重要なポイント
この場合、あなたがその費用を確かに支払ったということを客観的に証明する必要があります。具体的には、

  • 領収書や契約書
  • その支払いがあなたの銀行口座から確かに引き落とされた(あるいは振り込まれた)ことが分かる通帳のコピー

この2つをセットで完璧に提出することが絶対条件です。

結論:あなたの「臆病さ」が、あなたの「信用」を創る

創業融資の資金計画において最も評価される資質。それは「楽観」ではありません。

それは、

  • 事業は決して計画通りには進まないという健全な「悲観」。
  • 最悪の事態をあらかじめ想定し、そのための万全の備えを怠らないという良い意味での「臆病さ」。
  • そして、その最悪の事態を乗り越えるための十分な「体力(運転資金)」を確保しようとする、経営者としての誠実な「責任感」。

運転資金を潤沢に6ヶ月分確保しようとすること。それはあなたのその素晴らしい「臆病さ」と「責任感」を、金融機関に対して何よりも雄弁に物語る最高のプレゼンテーションなのです。

あなたの「資金計画」、楽観的すぎていませんか?

その運転資金の見積もりの甘さが、あなたの会社の未来の命運を分けるかもしれません。
まずは無料相談で、あなたの事業計画を私たち「リスク管理のプロ」に診断させてください。

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記事執筆監修者

荒川会計事務所(経営革新等支援機関(認定支援機関))代表税理士・登録政治資金監査人・行政書士の荒川 一磨です。

    

会社設立と創業融資を得意とし、何でも相談できる話しやすいパートナーであることを心掛けている事務所です。

事務所所在地 〒160-0022 東京都新宿区新宿2-5-16 霞ビル8F

電話番号 0120-016-356

所属 東京税理士会四谷支部・東京行政書士会新宿支部

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