「リスケジュール(返済猶予)」のリアル|銀行交渉の手順と、その後の信用の行方【完全版】

「毎月の返済が重すぎて、給料や仕入れ代金が払えない…」
「追加融資を断られた。もう資金ショートまで時間がない…」

万策尽きた時、会社を守るための最後の砦となるのが「リスケジュール(通称:リスケ)」です。 これは、銀行と交渉して、毎月の借入金返済額を一定期間(半年〜1年)、減額またはゼロ(利息払いのみ)にしてもらう手続きのことです。

「リスケをしたら銀行に見放されるのでは?」と恐怖を感じる経営者も多いでしょう。 確かに、リスケ中は「新規融資」が原則ストップします。しかし、「返済のために高金利のノンバンクに手を出す」ことや「夜逃げ・倒産」を選ぶよりは、遥かにマシで健全な選択です。

銀行も、貸した先が倒産して貸倒れになるよりは、リスケをしてでも生き残り、少しずつ返してもらう方を望みます。 つまり、リスケは「敗北宣言」ではなく、「会社を立て直すための前向きな契約変更」なのです。

この記事では、リスケの現場で何が行われているのかというリアル、交渉を成功させるための準備、そしてリスケ後にどうやって信用を取り戻すかというロードマップまで、プロの税理士が徹底的に解説します。

【本記事のポイント】
  • リスケは「現金が尽きる3ヶ月前」に動き出すのが理想。
  • 「全金融機関」に対して、足並みを揃えて依頼する必要がある。
  • 口頭依頼はNG。「経営改善計画書」がなければ銀行は動けない。
  • リスケは「一生」ではない。計画通り改善すれば正常取引に戻れる。

第1章:リスケジュールの「効果」と「代償」

まずは、リスケという劇薬の効果と副作用を正しく理解しましょう。

メリット:資金繰りが劇的に改善し、倒産リスクが消える

例えば、毎月200万円の元本返済がある会社の場合。 リスケで元本返済をストップ(利息のみ)にすれば、毎月200万円の現金が手元に残ります。 年間で2,400万円の資金調達をしたのと同じ効果があり、資金繰りの悩みから一時的に解放されます。この間に本業の立て直しに集中できるのが最大のメリットです。

デメリット:新規融資が止まり、厳しい監視下に置かれる

1. 新規融資の停止:
リスケ中は、原則として追加融資は受けられません。「返済を待ってもらっている身」なので当然です。自力で資金を回す覚悟が必要です。

2. 信用格付けのダウン:
銀行内の債務者区分が「要注意先(要管理先)」以下に下がります。これにより、銀行は貸倒引当金を積む必要が出るため、経営者に対する視線は厳しくなります。

3. 定期的な報告義務:
毎月(または四半期ごと)に試算表を持って銀行を訪問し、計画通り改善が進んでいるか報告する義務が生じます。

第2章:決断のタイミングは「現預金が月商の1ヶ月分」を切る前

多くの経営者が、リスケの決断を遅らせすぎます。 「来月の返済が落ちない!」となってから銀行に駆け込んでも、手続きが間に合いません。

理想のタイミング:資金ショートの「3ヶ月〜6ヶ月前」

リスケの交渉には、資料作成から合意まで最低でも1ヶ月、長いと3ヶ月かかります。 その間の返済資金が必要です。

デッドライン:現預金残高 < 月商1ヶ月分

手元資金が月商の1ヶ月分を切ると、正常な精神状態で経営判断ができなくなります。 このラインを割る見込みが立った時点で、迷わず専門家(税理士・弁護士)に相談し、リスケの準備に入ってください。 「最後のお金」を返済に使ってはいけません。それは会社を再生させるための運転資金(種銭)です。

第3章:銀行交渉の具体的な手順(5ステップ)

リスケは、ただ「待ってください」とお願いするだけでは認められません。 銀行内部のルール(金融検査マニュアル等)に沿った手続きが必要です。

ステップ1:現状把握と資料作成

まずは自社の状況を数字で把握します。 ・直近の試算表 ・資金繰り表(向こう6ヶ月〜1年分) ・借入金一覧表(どこの銀行に、あといくらあるか) これらを作成し、「このままだと〇月に資金ショートする」という事実を確定させます。

ステップ2:メインバンクへの事前相談

一番借入残高が多い(または付き合いが深い)メインバンクに最初に相談します。 「誠に申し上げにくいのですが、業績悪化により資金繰りが逼迫しており、約定返済を続けると〇月に資金が尽きます。つきましては、返済条件の変更(リスケ)をお願いしたいと考えております」 と切り出します。 ここで、「経営改善計画書(案)」を提示できるかどうかが勝負です。

ステップ3:全金融機関への「一時停止(モラトリアム)」依頼

メインバンクの了解が得られたら、すべての取引銀行(公庫・信金含む)を回り、同様にリスケを申し入れます。 銀行には「非同盟(ひどうめい)の原則」があります。 「A銀行には返して、B銀行には返さない」は許されません。全行一律で「元本返済ストップ」などの条件を揃える必要があります(※シェアによる按分返済の場合もあります)。

ステップ4:経営改善計画書の提出と説明会(バンクミーティング)

複数の銀行がある場合、一堂に会する「バンクミーティング」を開くことがあります。 そこで社長自ら、経営改善計画(どうやって黒字化し、いつから返済再開できるか)を説明し、全行の同意を取り付けます。

ステップ5:変更契約の締結

全行の稟議が下りたら、金銭消費貸借契約証書(巻替)や変更契約書に署名捺印します。 これで晴れてリスケ開始となります。

第4章:審査の肝!「実抜計画(経営改善計画書)」の書き方

銀行がリスケを認める条件。それは「実現可能性の高い抜本的な経営改善計画書(実抜計画)」があることです。 「3年〜5年で正常先(または要注意先)に戻れる計画」でなければなりません。

計画書に盛り込むべき4つの要素

  1. 窮境要因の分析(なぜ悪くなったか):
    外部環境のせいにするだけでなく、「過剰投資」「コスト管理の甘さ」など、自社の問題を直視しているかが問われます。
  2. 具体的な改善アクション(何をどう変えるか):
    ・不採算店舗の撤退、資産売却
    ・役員報酬のカット(社長の覚悟を示すために必須)
    ・人員削減(最終手段だが、必要な場合もある)
    これらを「いつまでに、いくら効果が出るか」数値化します。
  3. 数値計画(PL・BS・CF):
    向こう5年分〜10年分の予測を作成します。 特に重要なのは「営業利益」と「フリーキャッシュフロー」がいつプラスになるかです。
  4. 弁済計画(いつ返せるか):
    「最初の1年は元本ゼロ、2年目から月〇〇万円、5年後に正常返済に戻る」といった具体的な返済スケジュールを提示します。
【税理士のサポートが必須】
実抜計画(じつばつけいかく)は、銀行の審査基準を満たす高度な整合性が求められます。
自社だけで作成するのは困難なため、認定支援機関(税理士など)のサポートを受け、国の補助金(経営改善計画策定支援事業)を活用して作成するのが一般的です。

第5章:リスケ後の世界と「出口戦略」

リスケはゴールではありません。スタートです。 リスケ期間中(通常1年更新)は、約束通りに改善が進んでいるか、厳しい監視下に置かれます。

定期モニタリング(報告会)

毎月、試算表を持って銀行を訪問します。 計画値と実績値を比較し、「なぜ達成できたか」「なぜ未達か」を報告します。 ここで誠実に対応し、少しでも実績を上げ続けることで、銀行からの信頼は徐々に回復していきます。

正常化への道(出口)

業績が回復し、本来の約定返済額の「8割程度」以上を返せるようになれば、正常化(リスケ解消)が見えてきます。
ステップ1:利益が出てキャッシュが溜まってくる。
ステップ2:一部返済(復元)を開始する。
ステップ3:正常返済に戻す。
ステップ4:格付けが「正常先」に戻り、新規融資が再開される。

このプロセスには、早くて3年、通常は5年〜10年かかります。長い道のりですが、必ず終わりは来ます。

第6章:【FAQ】リスケ交渉の実務Q&A(25選)

不安な経営者のために、現場のリアルな疑問に回答します。

Q1. リスケをお願いして断られることはありますか?

A. あります。特に「改善の見込みがない」場合です。

「ただ待ってくれ」だけでは断られます。また、粉飾決算が発覚した場合や、誠意のない対応をした場合も支援を打ち切られます(サービサーへの債権譲渡など)。

Q2. 日本政策金融公庫もリスケに応じてくれますか?

A. はい、応じてくれます。

公庫はセーフティネットの役割があるため、民間銀行より柔軟に対応してくれる傾向があります。「返済猶予申請書」などの書類が必要です。

Q3. 保証協会付き融資でもリスケできますか?

A. 可能です。保証協会の承諾が必要です。

銀行経由で信用保証協会に申し込みます。保証協会がOKを出せば、銀行も従います。ただし、保証料の追徴が必要になる場合があります。

Q4. リスケすると金利は上がりますか?

A. 原則として上がります。

「リスクが高い貸出」になるため、金利引き上げを要請されるのが一般的です。ただし、支払えないほど上げることは現実的でないため、交渉次第です。

Q5. 役員報酬はいくらまで下げるべきですか?

A. 生活できるギリギリまで下げる姿勢が必要です。

経営責任を明確にするため、またキャッシュフローを捻出するため、大幅な減額が求められます。銀行員は「自分たちが貸した金で社長が良い暮らしをしている」ことを最も嫌います。

Q6. リスケ中、税金を滞納したらどうなりますか?

A. リスケが取り消される可能性があります。

税金の差押えが入ると、銀行への返済も止まるため、リスケ合意が破棄される「期限の利益喪失事由」になります。税金と社会保険料は最優先で払ってください。

Q7. 従業員にバレずにリスケできますか?

A. 経理担当者以外には伏せておくことが可能です。

銀行とのやり取りは社長と経理責任者だけで行えば、一般社員に知られることはありません。不安を与えないよう情報管理は徹底すべきです。

Q8. 個人保証をしている社長の自宅はどうなりますか?

A. リスケ中は守られます。

リスケは「返済を待ってもらう合意」なので、合意が守られている限り、担保(自宅)が競売にかけられることはありません。

Q9. リスケの手数料はかかりますか?

A. 銀行に対して変更手数料がかかります。

1件(1契約)あたり数千円〜数万円の手数料がかかります。借入本数が多いと数十万円になることもあるので注意です。

Q10. ノンバンクからの借入がある場合、どうすれば?

A. ノンバンクはリスケに応じないことが多いです。

基本は「銀行はリスケ、ノンバンクは通常返済」または「ノンバンク分は社長個人で借り換えて完済」などの対策が必要です。ノンバンクへの返済を優先すると銀行が怒るので調整が難しいです。

Q11. 一部の銀行だけリスケに応じない場合は?

A. 「他行も条件を揃えています」と粘り強く説得します。

シェアの低い銀行がゴネることがありますが、メインバンクが支援を決めていれば、最終的には従うケースがほとんどです(協調融資の慣例)。

Q12. リスケ期間はどれくらいですか?

A. 通常は1年(または半年)ごとの更新です。

いきなり5年間の猶予はもらえません。1年ごとに計画の達成度を審査され、更新(継続)の手続きを行います。

Q13. 「元本返済ゼロ」と「減額」どっちがいいですか?

A. 最初の1年は「ゼロ」をお勧めします。

中途半端に減額しても資金繰りが楽にならなければ意味がありません。まずはゼロにして止血し、体力を回復させるべきです。

Q14. 専門家報酬(コンサルフィー)はどれくらいですか?

A. 難易度によりますが、月額+成功報酬型が多いです。

計画策定費用(数十万円〜)と、モニタリング費用(月額数万円〜)がかかります。国の補助金を使えば、費用の2/3(最大200〜300万円)が補助されます。

Q15. リスケ中に黒字になったら、すぐ返済再開すべき?

A. 焦らないでください。手元資金の確保が優先です。

少し利益が出たからといってすぐに返すと、また資金不足になります。「現預金が月商の〇ヶ月分溜まるまで」はリスケを継続すべきです。

Q16. リース料もリスケできますか?

A. 原則できません。

リースは「物件を借りている賃料」なので、払わなければ物件を引き揚げられます。リース料は払い続ける必要があります。

Q17. 手形貸付(短期借入)はどうなりますか?

A. 期日に同額で書き換え(ジャンプ)を依頼します。

元本返済を求められず、利息払いのみで継続してもらう形です。

Q18. 会社更生法や民事再生法とはどう違いますか?

A. リスケは「私的整理(話し合い)」、民事再生は「法的整理」です。

リスケは裁判所を通さず、銀行との合意だけで進めるため、事業へのダメージ(風評被害)が最小限で済みます。まずはリスケを目指すのが基本です。

Q19. 第二会社方式とは何ですか?

A. リスケでも再建困難な場合のウルトラCです。

事業の優良部分だけを新会社に譲渡し、旧会社を特別清算する方法です。借金を切り離して事業を守る再生手法の一つです。

Q20. リスケ中に社長が個人的に借入をしてもいい?

A. 生活費のためなら自由ですが、推奨はしません。

会社と個人は別ですが、社長個人の多重債務は会社の経営に悪影響を及ぼすため、銀行は警戒します。

Q21. 経営改善計画書は自分で作れますか?

A. 簡易版なら可能ですが、実抜計画はプロの手が必要です。

銀行が求めるレベルの整合性(PL/BS/CFの連動)を持った計画書を、素人が作るのは困難です。認定支援機関に依頼してください。

Q22. リスケ開始後、売上がさらに落ちたらどうなりますか?

A. 計画の修正(下方修正)を行い、再交渉します。

正直に報告し、追加のリストラ策などを提示して理解を求めます。隠すと信頼を失います。

Q23. 個人事業主もリスケできますか?

A. はい、できます。

法人と同様の手順で可能です。住宅ローンがある場合は、そちらのリスケも検討が必要になります。

Q24. リスケの事実は取引先にバレますか?

A. 自分から言わない限りバレません。

銀行には守秘義務があります。ただし、興信所の評点には影響が出る可能性があります。

Q25. 結局、リスケをして復活できる確率は?

A. 諦めずに計画を実行した企業の多くが復活しています。

リスケは時間を作る魔法です。その時間を無駄にせず、本気で経営改善に取り組んだ社長は、数年後に見事にV字回復を果たしています。

まとめ:リスケは「再生」への希望の切符

リスケジュールは、恥ずべきことでも、破滅への入り口でもありません。 会社と従業員、そして取引先を守るための、経営者としての「責任ある決断」です。

銀行は、再建の意志がある経営者を見捨てることはありません。 手遅れになる前に、勇気を出して一歩を踏み出してください。

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リスケジュールの交渉代行から、経営改善計画書の作成まで。
再生実務に強い税理士が、倒産回避と事業復活の道筋を描きます。

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記事執筆監修者

荒川会計事務所(経営革新等支援機関(認定支援機関))代表税理士・登録政治資金監査人・行政書士の荒川 一磨です。

    

会社設立と創業融資を得意とし、何でも相談できる話しやすいパートナーであることを心掛けている事務所です。

事務所所在地 〒160-0022 東京都新宿区新宿2-5-16 霞ビル8F

電話番号 0120-016-356

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