街を走る高級外車。そのハンドルを握る経営者を見て、「社長は儲かっているから贅沢をしているんだな」と思ったことはありませんか?
もちろん、純粋に車が好きな方もいます。しかし、多くの賢明な経営者が高級車、特に「4年落ちの中古ベンツ」を選ぶのには、単なる趣味や見栄とは全く別の、極めて合理的な「財務上の理由」が存在します。
それは、この買い方が「法人税法上の減価償却ルールを最大限に活用し、手元のキャッシュを効率よく残すための有効な手段(課税の繰り延べ)」だからです。
しかし、このスキームには多くの誤解があります。「買った瞬間に全額経費になる」という勘違いや、「どんな高級車でも経費になる」という思い込みです。これらを信じて安易に購入すると、税務調査で「役員賞与(社長への個人的なボーナス)」として認定され、多額の追徴課税を受けることになります。
この記事では、多くの経営者が実践する「中古車スキーム」のカラクリを、耐用年数省令、法人税法、そして実際の裁判例(フェラーリ事件等)に基づいて徹底解剖します。
なぜ「4年落ち」なのかという計算ロジックから、税務調査で否認されないための「事業用実態」の作り方、そして最も重要な「売却時の出口戦略」まで。単なる節税テクニックではなく、会社の財務体質を強化するための戦略として解説します。
第1章:なぜ「4年落ち」なのか?減価償却の法的メカニズム
このスキームの核心は、日本の税法における「中古資産の耐用年数」の計算ルールにあります。まずは正しい計算式と法的根拠を理解しましょう。
1-1 「法定耐用年数」と「簡便法」の選択適用
車のような減価償却資産は、購入した年に全額を経費にすることは原則できません。国が定めた「法定耐用年数」に従って、数年かけて少しずつ経費にしていきます。新車の普通自動車の法定耐用年数は「6年」です。
しかし、中古車の場合は「すでに何年か使われているため、残りの使用可能期間は短い」という実態に合わせ、以下の計算式(簡便法)で耐用年数を算出することが認められています(耐用年数省令第3条)。
(法定耐用年数 - 経過年数)+(経過年数 × 20%)
※計算結果の1年未満の端数は切り捨て。
※計算結果が2年未満になった場合は「2年」とする。
※専門家メモ:この簡便法は強制ではなく、納税者の選択適用です。あえて法定耐用年数(6年)で見積もることも可能ですが、早期償却を目的とする実務ではほぼ100%簡便法が選択されます。
1-2 「4年落ち」が最強である数学的理由
この計算式に、「4年落ち(使用開始から4年経過)」の中古車を当てはめてみましょう。
- 法定耐用年数:6年
- 経過年数:4年
計算: (6年 - 4年) + (4年 × 0.2) = 2年 + 0.8年 = 2.8年
→ 端数切り捨てで「2年」
つまり、4年落ちの中古車を買うと、税法上の耐用年数は最短の「2年」になります。
1-3 「定率法」の償却率1.0マジックと「月割計算」の注意点
平成28年の税制改正により、建物付属設備などは定額法に一本化されましたが、車両運搬具については依然として「定率法」を選択することが可能です(法人税法施行令第48条)。
定率法において、耐用年数2年の場合の償却率は「1.000」と定められています(法人税法施行令62条の2、別表第一)。
これは、「期首帳簿価額 × 1.0」がその年の償却限度額になることを意味します。
【誤解厳禁】「即時償却」ではありません
よく「即時償却(買った瞬間に全額経費)」と表現されますが、これは正確ではありません。法人税法上、減価償却費は「事業の用に供した月数」に応じた月割り計算が必須です(法人税法施行令49条、施行規則13条)。
- 期首(1ヶ月目)に購入した場合:
購入額 × 1.0 × 12/12 = ほぼ全額が経費 - 期末(決算月)に購入した場合:
購入額 × 1.0 × 1/12 = 購入額の12分の1しか経費にならない
つまり、このスキームの効果を最大化するためには、「4年落ちの中古車」を「期首(事業年度の初め)」に購入することが絶対条件なのです。
第2章:なぜ「ベンツ」なのか?資産価値と換金性
計算上は、4年落ちであれば軽トラックでもフェラーリでも同じ償却率です。しかし、なぜ多くの経営者が「ベンツ(特にGクラスなど)」を選ぶのでしょうか。
それは、これが「節税(税金が消えてなくなる)」ではなく、あくまで「課税の繰り延べ(税金の支払いを先送りにする)」だからです。
「価値が落ちない」車でなければ意味がない
購入時に経費にして税金を減らしても、数年後に売却した時、車の価値がゼロになっていたら、単にお金を使っただけ(浪費)です。
このスキームの真の目的は、「500万円で買って経費にし、数年後に500万円(に近い金額)で売って現金を回収する」ことにあります。つまり、出口(売却時)の換金性が全てです。
高換金性資産としてのベンツ
メルセデス・ベンツ、特にGクラスなどは、以下の理由により中古車市場での価値が驚異的に安定しています。
- 世界的な需要:日本仕様の右ハンドル車は、アジア圏や英国圏などへの輸出需要が高く、相場が崩れにくい。
- 耐久性とメンテナンス:ディーラーの保証制度や部品供給が安定しており、中古車でも高値で取引されやすい。
- 対外信用:経営者のステータスシンボルとして機能し、銀行などへの心証も(スポーツカーに比べれば)悪くない。
税理士がベンツを勧めるのは、車としての好みではなく、会計上の重要性の原則に鑑みても、「換金性の高い金融商品に近い固定資産」として優れているからなのです。
第3章:【税務調査リスク】「社長の趣味」と認定されないための防衛策
高級外車は目立つため、税務調査でも必ずチェックされます。単に「会社名義で買った」だけでは不十分です。実態が伴わなければ否認されます。
リスク1:私的利用による「役員賞与」認定
【東京地裁 昭和57年8月26日判決】
会社名義の車両であっても、実態として役員が個人的な用事(家族旅行やゴルフ等)に主に使用している場合、その車両の減価償却費や維持費は「役員に対する現物給与(賞与)」とみなされます。
役員賞与は損金不算入(経費にならない)であり、さらに社長個人には所得税がかかるため、往復ビンタの重税となります。私的利用と業務利用の按分については、法人税基本通達9-7-15(家事関連費)の考え方が適用されます。
リスク2:車両の「必要性」の否認(フェラーリ事件)
【東京高裁 平成24年12月26日判決(フェラーリ事件)】
同族会社が購入した高級外国車(フェラーリ)について、裁判所は「同社の業務内容において、当該車両の有用性・必要性は客観的に認められない」として、損金算入を否認しました。
「社長の趣味」と判断されないためには、「なぜその車でなければならなかったのか」という合理的な理由(富裕層向けの営業、長距離移動の安全性など)が必要です。
【対策】社用車としての「実態」を作る
否認リスクを避けるためには、以下の証拠作りが必須です。
- 運転日報の作成:「いつ、どこへ、何の業務で、何キロ走行したか」を記録する。
- 私用車との区別:社長個人名義の車を別に所有しておく(「休日は個人車に乗っています」という主張が可能)。
- 車両管理規程の整備:社用車の利用ルールを文書化しておく。
第4章:【出口戦略】売却時の税金をどう消すか?
簿価1円になった車を500万円で売却すると、その500万円は全額「車両売却益(利益)」となり、法人税の課税対象になります。ここで対策を打たなければ、購入時に節税した分を吐き出すだけです。
売却益を相殺する「損金(経費)イベント」をぶつけることが、このスキームのゴールです。
出口1:役員退職金の支給(最強の出口)
社長や役員の勇退時期に合わせて車を売却し、その売却益を原資として「役員退職金」を支払います。退職金は損金算入が可能であり、受け取る個人側も税制優遇(退職所得控除)があるため、最も効率的な出口となります。
【注意点:過大役員退職金の否認(法人税法34条2項)】
ただし、退職金ならいくらでも払っていいわけではありません。不相当に高額な部分は損金不算入となります。「功績倍率法(最終報酬月額 × 役員在任年数 × 功績倍率)」などの合理的な基準に基づいて算定する必要があります(法人税基本通達9-2-32)。
出口2:買換特例の活用(圧縮記帳)
車を売却して、すぐに新しい資産(車など)を購入する場合、一定の要件を満たせば「特定の資産の買換えの場合の圧縮記帳(租税特別措置法第65条の7)」などの特例を使い、売却益の課税を繰り延べることができる場合があります。
出口3:赤字の穴埋め
業績が悪化した期に売却します。本業の赤字と車両の売却益を相殺することで、キャッシュを確保しつつ税金を抑えることができます。まさに「経営のセーフティネット(埋蔵金)」としての機能です。
第5章:【FAQ】中古車節税に関するQ&A(15選)
最後に、このスキームについてよくある質問に、実務的な観点から回答します。
Q1. 3年10ヶ月落ち(4年未満)の場合はどうなりますか?
A. 3年10ヶ月以上なら「2年償却」になります。
計算式上、経過月数が46ヶ月(3年10ヶ月)であれば、計算結果が2.0年(正確には1.9年等の端数処理後)を超えるため、耐用年数は2年となります。厳密に48ヶ月(4年)経過していなくても、耐用年数2年=定率法償却率1.0の対象になります。
Q2. 個人事業主でも同じように節税できますか?
A. できません。個人は「定額法」が原則です。
個人の場合、原則として「定額法(毎年均等に経費化)」しか使えません。2年償却でも、初年度は50%しか経費になりません。個人が定率法を使うには税務署への事前の届出が必要ですが、合理的な理由がなければ認められにくいのが実情です。このスキームは基本的に法人向けです。
Q3. 30万円未満の車なら、年式に関係なく一括経費ですか?
A. はい、そうです(少額減価償却資産)。
青色申告の中小企業であれば、30万円未満の資産は、新車・中古車を問わず、購入した年に全額経費にできます(年間合計300万円まで)。ボロボロの営業車を数台買う場合などに使えます。
Q4. ローンで買っても一括経費になりますか?
A. はい、なります。これが最大のメリットです。
キャッシュアウト(現金の支払い)はローンの分割払いで抑えつつ、経費計上(減価償却)は初年度に大きく計上できる。この「資金繰りと節税のズレ」を利用できるのが、融資を使った資産購入の強みです。
Q5. ナンバープレートは会社の管轄地域でなければダメですか?
A. 原則は本店所在地の管轄になります。
会社名義で登録する場合、使用の本拠の位置は本店所在地(または支店)となります。社長の自宅を車庫証明にする場合でも、ナンバーは会社の住所地になります。
Q6. 売却時、個人(社長)に売ることはできますか?
A. 可能ですが、「適正価格(時価)」でなければなりません。
会社から社長へ、簿価1円だからといって「1万円」などの不当に安い価格で譲ると、時価との差額が「役員賞与」とみなされ、法人税・所得税がかかります。必ず買取専門店の査定などを取り、市場価格で売買する必要があります(法人税法22条2項)。
Q7. 自動車税や保険料も経費になりますか?
A. もちろんなります。
車両本体だけでなく、購入時の登録費用、自動車税、重量税、自賠責保険、任意保険、ガソリン代、車検代、駐車場代、これら全てが法人の経費になります。
Q8. カーリースと中古車購入、どちらが得ですか?
A. 「利益圧縮(節税)」目的なら中古車購入が圧倒的に有利です。
リースは毎月のリース料が経費になるだけで、初年度に大きな経費を作ることはできません。また、契約終了後に車が手元に残らない(資産にならない)ケースも多いです。資産形成と即時償却を狙うなら購入一択です。
Q9. キャンピングカーやクルーザーも同じスキームが使えますか?
A. 計算式は同じですが、否認リスクが跳ね上がります。
「福利厚生用」として主張する場合が多いですが、実際に全従業員が利用できる状態にあるか、利用実績があるかなどを厳しく見られます(東京地裁平成17年7月14日判決等)。社長の私物化とみなされると全額否認されるため、安易な導入は危険です。
Q10. 4年落ちベンツは故障しませんか?
A. リスクはありますが、認定中古車なら安心です。
輸入車は故障時の修理費が高額になりがちです。目先の安さで選ぶのではなく、ディーラーの認定中古車など、保証がついている車両を選ぶのが賢明です。修理費がかさんで節税効果以上にお金が出ていっては意味がありません。
Q11. 決算月に買っても全額経費になりますか?
A. なりません。月割り計算です。
減価償却は「事業の用に供した日」からの月割り計算です。決算月に買ったら1ヶ月分(1/12)しか経費になりません。即時償却の効果を最大化するなら、期首に買う必要があります。
Q12. 5年落ち、6年落ちではダメですか?
A. ダメではありませんが、償却期間は同じ「2年」です。
法定耐用年数を過ぎた資産(6年落ち以上)の耐用年数は「法定耐用年数×20%」=1.2年→2年となります。つまり、4年落ちでも10年落ちでも、償却期間は同じ2年です。それなら、少しでも新しく、リセールバリューが残りやすい4年落ち〜5年落ちあたりが狙い目とされています。
Q13. 赤字の年に買っても意味がありますか?
A. 節税メリットはありませんが、将来への繰越は可能です。
赤字であれば法人税はゼロなので、減価償却費を計上する節税メリットはありません。ただし、赤字(欠損金)は10年間繰り越せるため、将来黒字になった時の税金を減らす効果はあります。資金繰りが許せば、「安い時期に買っておく」という投資判断はあり得ます。
Q14. 高級車を買うと税務調査が来やすくなりますか?
A. 確率は上がると言われています。
決算書の「車両運搬具」の数字が急増したり、特定の車種(ポルシェ等)が記載されていたりすると、税務署は「私的流用ではないか?」と関心を持ちます。だからこそ、運転記録などの証拠作りが重要なのです。
Q15. 結局、一番節税になる車種は何ですか?
A. 「メルセデス・ベンツ Gクラス」や「トヨタ アルファード/ランドクルーザー」です。
これらは中古市場での値落ちが極めて少なく(時には値上がりし)、換金性が高いため、節税(課税の繰り延べ)という目的において最強のツールと言われています。
まとめ:車は「乗るもの」であると同時に「金融商品」である
経営者にとって、車は単なる移動手段ではありません。
それは、利益が出すぎた時の「緊急避難先」であり、いざという時に現金を産む「貯金箱」であり、税金をコントロールするための「金融商品」としての側面を持っています。
「4年落ちベンツ」は、その最も完成されたスキームの一つです。
しかし、出口戦略のない購入は、将来の資金繰りを圧迫する時限爆弾にもなり得ます。「いつ買って、いつ売るか」。この全体像を描けて初めて、この節税策は成功します。
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その車、本当に経費で落とせますか?
購入前の最終チェック。税務リスクと資金繰りへの影響をプロが診断します。
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記事執筆監修者
荒川会計事務所(経営革新等支援機関(認定支援機関))代表税理士・登録政治資金監査人・行政書士の荒川 一磨です。
会社設立と創業融資を得意とし、何でも相談できる話しやすいパートナーであることを心掛けている事務所です。
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