「銀行から融資の提案があったけど、『保証料』だけで100万円も引かれている…」
「社長仲間が『うちはプロパーで借りている』と自慢していた。何が違うの？」

銀行融資には、明確に異なる「2つの種類」が存在します。 公的な機関がバックアップしてくれる「信用保証協会付き融資」と、銀行が単独でリスクを負う「プロパー融資」です。

日本の中小企業の9割以上は、前者の「保証協会付き」からスタートします。 借りやすい反面、金利とは別に「信用保証料」という高いコストがかかります。 しかし、この保証料の仕組み（算出ロジック）を正しく理解していれば、決算書の見せ方を少し工夫するだけで、支払額を大幅に減らすことが可能なのです。

この記事では、融資の種類の基礎知識から、保証料を決める「CRDスコア」の裏側、そして最終的なゴールである「プロパー融資」を勝ち取るための具体的なロードマップまで、資金調達に強い税理士が徹底的に解説します。

第1章：そもそも「信用保証協会」とは何か？

銀行がお金を貸す時、一番恐れているのは「貸した会社が潰れて、お金が返ってこないこと（貸倒れ）」です。 実績の乏しい中小企業に対して、銀行は怖くてプロパー（直接）では貸せません。 そこで登場するのが「信用保証協会（しんようほしょうきょうかい）」です。

公的な「保証人」としての役割

信用保証協会は、各都道府県にある公的機関です。 中小企業が銀行から借りる際、協会が銀行に対して「保証（公的な後ろ盾）」を行います。 万が一、会社が倒産して返せなくなったら、協会が原則として借入金の80%（一部制度では100%）を銀行へ代わりに返済し、銀行のリスクを分担します（これを「代位弁済」と言います）。

銀行にとっては「とりっぱぐれ」のリスクが減るため、安心して融資ができます。 その代わり、会社は協会に対して「保証してもらう手数料」として、信用保証料を支払う必要があります。

第2章：徹底比較！「保証協会付き」vs「プロパー」

それぞれの特徴を比較表で見てみましょう。

項目	保証協会付き融資	プロパー融資
審査難易度	低い（借りやすい）	高い（実績重視）
コスト	金利 ＋ 信用保証料	金利のみ（保証料ゼロ）
借入限度額	原則：無担保8,000万円 （有担保2億8,000万円） ※別枠制度あり	理論上、上限なし
審査期間	長い（銀行＋協会の2回審査）	早い（銀行のみ）※初回は時間かかる
返済期間	長めに設定可能（7年〜10年）	短め（運転資金なら1年〜5年）

まずは「保証協会」から始まる

創業から数年は、基本的に「保証協会付き」しか選べません。 まずはここで返済実績を積み、銀行からの信用を得てから、徐々に「プロパー」へ移行していくのが王道のステップです。

第3章：高すぎる！「信用保証料」が決まる仕組み

保証協会付き融資の最大のデメリットは、やはりコストです。 融資実行時に、数十万円〜数百万円が「保証料」として天引きされます。 この金額は、どうやって決まっているのでしょうか。

「9つの区分」と「CRDスコア」

保証料率は、一律ではありません。会社の財務状況に応じて9段階のランクに分けられています。
・財務が良い会社（リスク低）：料率が安い（0.45%など）
・財務が悪い会社（リスク高）：料率が高い（1.90%など）

このランクを決めるために参考にされているのが、「CRD（Credit Risk Database）」というスコアリングシステムです。 全国の中小企業の決算データを集約したデータベースに、あなたの会社の決算数値を入力し、倒産確率などを機械的に算出します。 つまり、「決算書の見た目（数値）」を良くすれば、スコアが上がり、保証料は安くなるのです。

第4章：【実務上よく使われる調整ポイント】CRDスコアを劇的に改善する「決算書の磨き方」

保証料を下げる（CRDスコアを上げる）には、決算書の「どの数字」を良くすればいいのでしょうか。 特に影響が大きい重要指標と、その改善の考え方を解説します。

1. 自己資本比率（安全性）

指標の意味：総資産のうち、返さなくていいお金（純資産）がどれくらいあるか。
改善の考え方：【役員借入金の資本化（DES）】
社長が会社に貸している「役員借入金」は、会計上は「負債」ですが、銀行評価では「実質自己資本」とみなされます。 これを注記でアピールするか、あるいは「DES（デット・エクイティ・スワップ）」という手法を使って正式に資本金に組み入れることで、自己資本比率が劇的に改善します。 これにより、ランク改善につながるケースが多く見られます。

2. 債務償還年数（返済能力）

指標の意味：借金を、今の利益（キャッシュフロー）で何年かかって返せるか。
改善の考え方：【利益の確保】
税金を払いたくないからといって、利益を圧縮しすぎると、この指標が悪化します。 「減価償却費」を正しく計上した上で、営業利益をしっかり出すことが重要です。 また、不要な借入金を「手元現金」で返済して借入総額を減らすのも有効です。

3. インタレスト・カバレッジ・レシオ（金利負担能力）

指標の意味：稼いだ利益が、支払利息の何倍あるか。
改善の考え方：【特別損失の活用】
営業外費用（支払利息など）の段階で黒字を維持することが重要です。 もし赤字になりそうなら、本業の経費ではなく「特別損失（固定資産売却損など）」として計上し、経常利益の段階では黒字をキープする考え方が有効な場合があります。 ※もちろん、実態に即した正当な会計処理が前提です。

第5章：その他に保証料を安くするテクニック

決算書の数字以外にも、制度を活用して安くする方法があります。

テクニック1：自治体の「制度融資」を活用する

都道府県や市区町村が斡旋する「制度融資」を使うと、自治体が保証料の一部（または全額）を補助してくれる場合があります。 例えば「〇〇市創業支援融資」などでは、保証料率が大幅に優遇されています。 銀行窓口で漫然と申し込むのではなく、「使える制度融資はありませんか？」と必ず聞いてください。

テクニック2：不要な資産を処分して「スリム化」する

不良在庫や、使っていない固定資産を決算前に処分（除却）します。 一時的に損失は出ますが、総資産が減ることで「総資産経常利益率（ROA）」などの効率性指標が改善し、スコアアップに寄与します。

第6章：プロパー審査の壁を突破する「定性評価」の正体

CRDスコア（定量評価）が良くても、それだけでプロパー融資が通るわけではありません。 銀行は数字以外の部分、いわゆる「定性評価（ていせいひょうか）」も重視します。 ここがプロパーの合否を分ける最後の壁です。

1. 経営者の資質（人柄・熱意・計数感覚）

「社長が自社の数字（売上・利益・資金繰り）をそらで言えるか？」 これは非常に重要です。試算表を見ないと答えられない社長には、銀行は怖くてプロパーを貸せません。 また、過去に返済遅延がないか、約束を守る人物かどうかも厳しく見られます。

2. 市場の将来性とビジネスモデル

「この業界は今後伸びるか？」「この会社の強み（差別化）は何か？」 銀行員は業界のプロではありません。だからこそ、社長自身が自社の強みを分かりやすく説明し、納得させる必要があります。 事業計画書や、自社商品のパンフレットなどでアピールしてください。

3. 後継者の有無（事業承継）

特に社長が高齢の場合、「社長に万が一のことがあったら、誰が返済するのか？」を銀行は心配します。 後継者が決まっている、あるいは組織として経営体制ができていることは、長期のプロパー融資を受ける上で大きな加点要素になります。

第7章：目指せプロパー！銀行からの「卒業試験」

保証料の節約も重要ですが、最終ゴールは「保証料ゼロ」のプロパー融資を獲得することです。 いつ、どうやって切り替えればいいのでしょうか。

プロパー移行の目安

一般的に、以下の条件が整った時がチャンスです。
・創業から3期以上経過している。
・直近2期が黒字である。
・保証協会付き融資の返済実績がある。
・債務超過ではない。

交渉の切り出し方

「そろそろ保証協会の枠（8,000万円）がいっぱいになりそうです。次の融資はプロパーで検討していただけませんか？」 あるいは 「業績も安定してきたので、一部をプロパーに借り換えたいのですが」 と担当者に打診します。 最初は「協調融資（保証協会付き ＋ プロパー）」という合わせ技で実績を作るのがスムーズです。

第8章：【FAQ】保証協会とプロパーの実務Q&A（25選）

現場でよくある質問に、本音で回答します。

まとめ：保証協会は「卒業」するためにある

信用保証協会付き融資は、実績のない中小企業にとってありがたい「補助輪」です。 しかし、いつまでも補助輪をつけていては、スピードも出ませんし、コスト（保証料）もかかり続けます。

経営者の目標は、いつか補助輪を外し、プロパー融資という「一本立ち」を果たすことです。 そのために、今の決算書が銀行からどう見られているか、どうすればCRDスコアを上げられるか、一度専門家と一緒に見直してみませんか？

「うちの保証料率は高すぎる気がする」「将来的にプロパー融資を目指したい」

そのようなお悩みがあれば、ぜひ荒川会計事務所にご相談ください。 財務のプロフェッショナルとして、無駄なコストを削減し、強い財務体質を作るお手伝いをいたします。