【共同経営の創業融資】複数人での申込における注意点と、審査通過の秘訣

一人の天才よりも、強力なチーム。

互いの弱点を補い合い、それぞれの強みを掛け合わせることで「1+1」を「10」にも「100」にも変えることができる「共同経営」は、スタートアップの世界においてまさに成功への王道とも言える魅力的な選択肢です。

そして、その最強のチームで創業融資に臨む。それは一見すると、一人で申請するよりもはるかに心強く、そして有利であるように思えるかもしれません。

しかし、その「チーム」というあなたの最大の強みが、
たった一つの小さな「亀裂」によって、
融資審査官の目には事業の未来を根底から揺るがす
最も深刻な「リスク要因」と映ってしまうとしたら…?

この記事は、そのあまりにも多くの希望に満ちた創業チームが、知らず知らずのうちに陥ってしまう致命的な「罠」からあなたたちを完全に守るための、究極の戦略ガイドです。

なぜ金融機関は「友情」と「お金」が絡む共同経営を、特別な疑いの目で見るのか。なぜパートナーのたった一つの「過去の傷(信用情報)」が、チーム全体の未来を閉ざすのか。そして、なぜ友情の証であるはずの「50対50の株式比率」が、融資審査において最悪の「時限爆弾」となるのか。

新宿で数えきれないほどの「チーム」の資金調達を成功へと導いてきた私たちが、その全ての審査の舞台裏と勝利への方程式を、ここに徹底的に公開します。

第1章:【金融機関の視点】なぜ、彼らは「チーム」を厳しく評価するのか?

まず、なぜ融資担当者が共同経営という形に対して、一人の起業家を審査する時とは全く異なる、特別な、そしてより厳しい視線を向けるのか。その根本的な理由を理解しましょう。

「単一点障害」のリスクは低いが、「人間関係破綻」のリスクは高い

金融機関にとって、一人の創業者に100%依存するビジネスは、「その一人が倒れた瞬間に全てが終わる」という「単一点障害(Single Point of Failure)」のリスクを常に抱えています。

その点、互いのスキルを補完し合う強力な共同経営チームは、この「単一点障害」のリスクが低く、事業の「継続性」という観点からは非常に魅力的に映ります。

しかしその一方で、金融機関は過去の何千、何万という融資の事例から、もう一つの残酷な真実を知っています。それは、創業期の最も一般的な失敗の原因の一つが「共同創業者間の人間関係の破綻」であるという事実です。

事業が順調な時は良いのです。しかし、計画通りに進まず資金繰りが苦しくなった時、あるいは逆に事業が成功し「利益の分配」というお金が絡んだ時、創業時の美しい友情は驚くほど簡単にもつれ、破綻します。

彼らはあなたのチームを見ながら、常にこう自問しています。

「このチームは本当に一枚岩か?」
「事業が苦しくなった時、あるいは成功した時に仲間割れし、事業が空中分解するリスクはないか?」
「最終的な意思決定権者、つまりこの船の『船長』は一体誰なんだ?」

あなたの創業融資の申請は、この担当者が抱く根源的な「疑念」の全てに明確な「答え」を提示するプロセスなのです。

第2章:【5つの地雷】共同経営の融資審査で一発アウトとなる致命的なミス

では、具体的にどのような点が審査官の「疑念」を確信へと変えてしまうのでしょうか。

地雷1:【信用の伝染】パートナーの「信用情報」に傷がある

審査官の心の声:「代表者のAさんの信用情報は非常にクリーンだ。しかし、共同経営者である取締役Bさんの信用情報を取り寄せたところ、過去に消費者金融からの多額の借入とクレジットカードの長期延滞の記録がある…。このチームはお金に対して異なる価値観を持っている。Bさんが会社の資金繰りを悪化させるリスクが極めて高い。」

これは共同経営における最も非情な現実です。創業融資の審査では、代表者だけでなく経営に実質的に関与する全ての共同経営者(代表取締役でない「取締役」も含む)の個人信用情報(CIC・JICC)が照会されます。

そして、そのうちのたった一人でも信用情報に致命的な「傷」(ブラックリスト)があれば、それはチーム全体の信用を汚染します。これは「チームの連鎖倒産リスク」と見なされ、融資は一発で否決、あるいは代表者Aさん単独での申請を促されることになります。あなたのチームは、その信用力において「最も弱い環(わ)」の強度でしか評価されないのです。

地雷2:【覚悟の格差】「自己資金」のアンバランスな負担

審査官の心の声:「創業資金1,000万円のうち、自己資金は300万円。その内訳を見ると、代表者のAさんが290万円を出しているのに対し、共同経営者のBさんはわずか10万円しか出していない。これは本当に対等なパートナーシップなのか?金銭的なリスク(出資)はAさんがほぼ100%負い、Bさんは『ノーリスク』でリターン(役員報酬や株式)だけを得ようとしている。事業が少し傾いたら簡単に見切りをつけて辞めてしまうのではないか?」

自己資金は事業への「覚悟」の証明です。その覚悟の大きさにパートナー間で極端なアンバランスがあれば、担当者はそのチームの結束力と継続性に強い疑念を抱きます。

地雷3:【権力の真空】「50対50の株式比率」という最悪の時限爆弾

審査官の心の声:「株式の保有比率が50%対50%。友情の証としては美しいかもしれない。しかし経営の観点からは最悪の設計だ。もし将来、二人の意見が真っ二つに割れたら、この会社は何も決められなくなる『デッドロック(膠着状態)』に陥る。会社法上、重要な意思決定(役員解任や事業譲渡など)には株主総会の『特別決議(3分の2以上の賛成)』が、最低でも『普通決議(過半数の賛成)』が必要だ。50対50では、どちらも満たせず会社は法的に身動きが取れなくなる。そんな危険な船にお金を貸せるわけがない。」

この50対50の株式比率は、共同経営において最も多く見られ、そして最も危険な時限爆弾です。それは金融機関に対して、「私たちは最終的な意思決定のルールを決めていません」と公言しているようなものなのです。

地雷4:【不協和音】面談での矛盾した発言

審査官の心の声:「代表者のAさんに3年後の売上目標を聞いたら『3億円』と答えた。しかしその後、技術担当のBさんにその根拠を尋ねたら『いや社長はああ言ってますが、現実的には1億円がやっとでしょう』と答えた。このチームは会社の最も基本的な目標さえも共有できていない。これでは一枚岩とは到底言えないし、どちらかが嘘をついている可能性さえある。」

面談には通常、共同経営者全員の出席が求められます。その場で事業の根幹に関わる質問に対してパートナー間で矛盾した、あるいは食い違う回答をしてしまう。これは「このチームは普段からコミュニケーションが不足している」という致命的な印象を与えます。

地雷5:【運命共同体】「連帯保証」の本当の重み

審査官の心の声:「融資の連帯保証人には代表者のAさんだけでなく、共同経営者のBさんにもなっていただきます。これはお二人で一心同体となってこの事業の全ての責任を負うという覚悟の証です。」

創業融資において、共同経営者は多くの場合、代表者と共に「連帯保証人」となることを求められます。(※近年は経営者保証を外す流れもありますが、その場合でもチーム全員の連帯責任という原則は変わりません)

「連帯保証人」とは、万が一会社が返済不能に陥った場合、会社の代わりに借金の全額を返済する義務を負うということです。そしてその義務は、「50%ずつ」といった按分ではありません。金融機関はAさんBさんのどちらか資力のある方に対して、100%の返済を請求する権利を持ちます。

この「運命共同体」となる法的な重みをパートナー間で完全に理解し合意しているか。その覚悟の最終確認が審査の重要な一部となるのです。

第3章:【破綻回避】最強のチームを創るための具体的な解決策

では、どうすればこれらの全ての「地雷」を完全に回避し、あなたたちのチームの力を融資成功への最強の武器へと変えることができるのでしょうか。

  1. 解決策1:【透明性の確保】「信用情報」の事前開示
    事業計画を語り合う前に。まずお互いの「過去」を正直に共有しましょう。それぞれがCICなどから自身の信用情報を取り寄せお互いに開示し合います。もし万が一、軽微な延滞(Aマーク)などが見つかった場合は、再申請まで半年間、完璧な返済実績を積む(クレジットヒストリーを“磨く”)など、対策を講じます。
  2. 解決策2:【覚悟の共有】「自己資金」への公平な貢献
    出資額は必ずしも同額である必要はありません。しかしそれぞれの経済状況に応じて、双方が納得できる、そして金融機関に対しても説明できる公平な貢献の形を見出すべきです。例えば、金銭的な貢献が少ないパートナーは、その分、設立前の無報酬の準備期間においてより多くの時間的な貢献をする(例:サービス開発を一人で担う)などです。
  3. 解決策3:【権力の設計】「最終決定権者」の明確化
    安易な「50対50」は絶対に避けます。必ずどちらかが過半数の株式を保有し、最終的な意思決定の責任を負うという明確な権力構造を設計します。例えば、リーダーが67%(特別決議も単独で可能)を持ちパートナーが33%を持つ。あるいは、最低でもリーダーが51%を持ち、日常の経営判断(普通決議)を単独で通せるようにします。
  4. 解決策4:【意思の統一】徹底した「模擬面接」の実施
    事業計画書が完成したら、私たちのような専門家を審査官役に見立て、本番さながらの「模擬面接」を何度も繰り返します。事業のあらゆる側面(ビジョン、戦略、数値計画)について、パートナー間で完全に一貫した、そしてよどみのない回答ができるようになるまで徹底的に準備します。
  5. 解決策5:【最強のルールブック】「株主間契約」の締結
    そして、これら全ての口約束を法的な拘束力のある最強のルールブックへと昇華させる。それが「株主間契約(かぶぬしかんけいやく)」の締結です。この契約書の中に、「役割分担」「報酬のルール」「株式の譲渡制限」、そして万が一袂を分かつことになった場合の「離脱のルール(株式の買取方法など)」まで、全ての起こりうる未来をあらかじめ規定しておくのです。この一枚の契約書こそが、金融機関に対して「私たちは友情やノリで経営しているのではない。法務リスクまで管理するプロの経営チームだ」と証明する最高の武器となります。

第4章:【FAQ】「共同経営と融資」に関する一歩進んだ疑問

最後に、共同経営での資金調達を具体的に検討されている起業家の皆様から、私たちが特によくお受けする専門的なご質問とその回答をQ&A形式でまとめました。

Q1. 創業融資の申込書は、誰の名前で書けば良いですか?連名ですか?

A1. 日本政策金融公庫などの創業融資の申込書は、あくまで会社の「代表取締役」の名前で作成・提出します。連名で申し込むという形式はありません。

ただし実務上は、その代表取締役の欄にあなたの名前を書くと同時に、創業計画書の「経営者の略歴等」の欄には、あなたとパートナーの両方の経歴を詳細に記載します。

そして、金融機関は、その計画書に記載された共同経営者(特に「取締役」)全員に対して、信用情報の照会をかけ、面談への出席を求めてくるというのが一般的な流れです。申込人(代表者)は一人でも、実質的な審査は「チーム全体」に対して行われるのです。

Q2. パートナーは役員にはなるが出資はしません。この場合も融資審査に影響はありますか?

A2. はい、影響はあります。そしてこれは、非常に慎重な説明が求められるケースです。

パートナーが出資をしないということは、会社の「所有権」を持たないということです。つまり法的には株主ではなく、「従業員に近い役員」という位置づけになります。

この場合、金融機関の担当者は以下のような懸念を抱きます。

  • コミットメントの低さ:「このパートナーは金銭的なリスクを一切負っていない。事業がうまくいかなくなった場合、簡単に見切りをつけて辞めてしまうのではないか?」
  • チームの不安定さ:「なぜ共同経営者なのに出資しないのか?何かこのチームには我々には見えない内部的な不均衡や問題があるのではないか?」

プロの視点:
この懸念を払拭するには、そのパートナーが金銭以外のどのようなかけがえのない「価値」をこの事業にもたらすのかを事業計画書の中で徹底的にアピールする必要があります。

例えば、「CTO(最高技術責任者)であるBは出資は行いませんが、本事業の核となる特許技術の発明者であり、彼なくしてこの事業は成り立ちません。そのため、彼には株式の代わりにストックオプション(新株予約権)を付与し、事業の成功に対する強力なインセンティブ設計を共有しております」といった、金銭出資に代わる「圧倒的な価値貢献」と「インセンティブ設計」を論理的に説明する必要があります。

Q3. 3人で起業します。株式比率はどのように分けるのがベストですか?

A3. これも非常に重要な資本政策の設計です。安易な「3分の1ずつ」は、50対50と同様、将来の「デッドロック」を招く危険な選択です。

会社の最も重要な意思決定(定款の変更や役員の解任など)は、「株主総会の特別決議」、すなわち議決権の3分の2(約66.7%)以上の賛成が必要です。この「3分の2」という数字を常に意識して設計する必要があります。

  • 理想的なパターン:その事業の中心人物であり最終的な意思決定の責任を負うリーダー(CEO)が、単独で67%以上(=2/3超)の株式を保有する。これにより、会社はいかなる緊急時においても迅速な意思決定(特別決議)が可能となります。
  • 次善のパターン:リーダーが過半数(51%以上)を保有し、残りの2人のパートナーがそれぞれ24.5%ずつを保有する。この場合、リーダーは日常的な経営判断(普通決議)は単独で行えますが、最も重要な特別決議は必ずパートナーのうち最低でも一人の賛同を得なければ通せません。これはリーダーの独断専行を防ぐという牽制機能が働くバランス型の構成です。

結論:あなたの「友情」を、本物の「パートナーシップ」へ

共同経営は結婚に似ています。

そして、創業融資の審査とは、その結婚を社会的に祝福してもらうための最初の儀式です。

その神聖な儀式の場で、「私たちはただ愛し合っているだけです」と情熱だけを語っても、誰も祝福はしてくれません。

彼らが見たいのは、お互いの過去と現在を正直に共有し、未来に起こりうる全ての困難を想定し、それを乗り越えるための具体的な法的な「ルール(株主間契約)」を二人で作り上げたという、成熟した大人としての「覚悟」なのです。

私たち荒川会計事務所は、あなたのその「ビジネス・マリッジ」の最高の立会人です。私たちは、提携する弁護士と共に、あなたのチームが単なる「友情」を超えた、金融機関が安心して未来を託せる最強の「ビジネス・パートナーシップ」となるための、法務・税務・財務の全ての設計をお手伝いします。

その「パートナーシップ」、本当に「最強のチーム」ですか?

融資審査で友情が弱点に変わる前に。
まずは無料相談で、あなたの「共同経営」の形について私たち専門家にご相談ください。

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記事執筆監修者

荒川会計事務所(経営革新等支援機関(認定支援機関))代表税理士・登録政治資金監査人・行政書士の荒川 一磨です。

    

会社設立と創業融資を得意とし、何でも相談できる話しやすいパートナーであることを心掛けている事務所です。

事務所所在地 〒160-0022 東京都新宿区新宿2-5-16 霞ビル8F

電話番号 0120-016-356

所属 東京税理士会四谷支部・東京行政書士会新宿支部

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