【創業融資】会社設立時の「役員報酬」、審査ではどう見られるか?

会社の設立準備が進み、あなたは今、人生を賭けた創業融資の「事業計画書」の作成に取り組んでいることでしょう。

「創業の動機」で情熱を語り、「事業の経験」で能力を証明し、「売上計画」で未来の可能性を示す。

しかし、その全てのロジックを完璧に積み上げた後、多くの起業家が最後の最後でペンが止まってしまう一つの項目があります。

「事業の見通し(収支計画)」の中にある「人件費(役員報酬)」の欄。

「いったい、自分の『給料』をいくらに設定すれば正解なんだ…?」

この問いは、あなたの事業計画書の中で最も個人的で、そして最もあなたの「本音」が透けて見えてしまう究極の質問です。

  • 高く設定しすぎれば:「この経営者は、まだ利益も出ていないのに、会社からお金を抜き取ることしか考えていないのか?」と「強欲」を疑われる。
  • 低く設定しすぎれば:「この金額でどうやって生活していくんだ?」「計画性がない素人か?」と「無能」の烙印を押される。

この記事は、そのあまりにも多くの起業家が正解を知らずに自爆していく、「役員報酬」という名の地雷原をあなたが完璧に踏破するための究極の「戦略マップ」です。

融資担当者は、あなたのそのたった一つの数字から、あなたの経営者としての何を読み取ろうとしているのか。その審査の深層心理と、あなたの会社の信用を最大化し、融資の成功を確実にする「黄金の設定額」の具体的な算出方法まで。その全ての答えをここに徹底的に公開します。

第1章:【審査官の思考】なぜ彼らは、あなたの「個人的な給与」にこれほど執着するのか?

まず、なぜ金融機関の担当者があなたの個人的な生活費にまで口を出すような真似をするのか。その審査の裏側にある3つの極めて合理的な理由を理解しましょう。

理由1:あなたの「生活」が破綻すれば、「事業」も破綻するから

創業期の中小企業において、経営者(あなた)と会社は法的には別人格でも、経済的にはまさに「一心同体」です。

もし、あなたが役員報酬を低く設定しすぎた結果、あなた個人の生活が立ち行かなくなったらどうなるでしょうか。あなたは結局、会社の金庫からお金を引き出し、生活費に充てるしかありません。

これは「公私混同」の始まりであり、会社のキャッシュフローを著しく悪化させます。あなたの生活が破綻することは、そのまま会社の倒産に直結するのです。

理由2:あなたの「返済能力」を測る、最もリアルな数字だから

融資担当者が本当に知りたいのは、会計上のテクニカルな「利益」ではありません。

彼らが知りたいのは、「全てのコストを支払った後に、本当に返済の原資が残るのか?」という一点です。

そして、あなたの「役員報酬(生活費)」は、その事業を継続する上で絶対に避けては通れない、最も重いコストの一つです。

この最も重いコストを計画書に計上せずに作られた「見せかけの利益」に何の意味もありません。担当者は、あなたの役員報酬を差し引いた、その先にある「本当の返済原資」を見ているのです。

理由3:あなたの「経営者としての資質」が丸裸になるから

この数字は、あなたの経営者としての「自己認識力」と「計画性」を丸裸にします。

「自分は毎月いくらあれば最低限生きていけるのか」という自己の財務状況を客観的に把握できているか。そして、それを事業のコストとして冷静に組み込む計数管理能力があるか。

役員報酬の設定とは、まさにあなたの「経営者としての資質」そのものを問う試験なのです。

第2章:【3つの破綻シナリオ】融資審査に落ちる最悪の「給与設定」

では、具体的にどのような設定があなたの融資を一発で否決に導くのでしょうか。

破綻シナリオ1:【殉教者タイプ】役員報酬「ゼロ」または「極端に低い」

起業家の主張:「私はこの事業に命を懸けています。事業が軌道に乗るまで1年間は給料ゼロでも構いません!この覚悟を見てください!」

審査官の本音:「…覚悟は分かった。しかし、この人はどうやって生活するつもりだ?魔法でも使うのか?貯金を切り崩す?その貯金(自己資金)は事業の運転資金に使うと言ったはずだ。言っていることが矛盾している。

十中八九、この人は生活が苦しくなり、計画外のお金を会社から引き出すだろう(=役員貸付金)。それは公私混同であり、会社のキャッシュを毀損する最悪の行為だ。この計画は非現実的で、破綻が目に見えている。

結末:「計画性ゼロ」の烙印を押され、否決。

破綻シナリオ2:【王様タイプ】役員報酬が「高すぎる」

起業家の主張:「前職の年収が1,000万円だった。生活レベルは落とせない。だから役員報酬は月額80万円は必要だ」

審査官の本音:「…正気か?創業初年度から月商150万円の計画に対して、経費の大半が社長の給料(80万円)じゃないか。これでは利益が残るわけがない。

この経営者は、事業を成長させることよりも自分の生活水準を維持することを優先している。私たちが貸した公的な資金が、この社長の高い給料に消えていくのか。こんな経営者に未来はない」

結末:「経営者としてのモラル欠如」と見なされ、否決。

破綻シナリオ3:【夢想家タイプ】役員報酬が「空欄」または「利益が出たら取る」

起業家の主張:「役員報酬は利益の中から取るものです。だから、まだ計画の段階では決められません。空欄にしておきます」

審査官の本音:「…この人は会計と経営の基本を何も理解していない。役員報酬は事業を運営するための最も重要な『固定費』だ。その最大のコストを計算に入れずに作った『利益計画』などただの妄想だ。

この計画書は、もはや審査の土俵にさえ上がっていない。

結末:「経営能力皆無」として、即否決。

第3章:【黄金比の算出法】融資に勝つ「完璧な役員報酬額」の設定術

では、一体いくらに設定すれば、これら全ての罠を回避し、担当者を納得させられるのでしょうか。

その黄金比は、あなたの「夢」から算出するのではありません。あなたの「現実」から算出するのです。

STEP 1:あなたの「個人」の最低生存コストを算出する

まず、事業計画書とは別の紙に、あなた「個人」が事業に集中するために最低限必要な1ヶ月の生活費(=手取り額)を徹底的に洗い出してください。

  • 住居費:(家賃、住宅ローン)… 100,000円
  • 水道光熱費:… 20,000円
  • 通信費:(スマホ代など)… 10,000円
  • 食費:… 60,000円
  • 保険料:(生命保険、学資保険など)… 30,000円
  • 個人の借入返済:(奨学金、自動車ローンなど)… 20,000円
  • その他雑費:… 10,000円

【最低生存コスト(手取り) 合計: 250,000円 / 月】

※この計算は非常に重要です。なぜなら、面談で「役員報酬を30万円に設定した根拠は?」と聞かれた際に、このリストこそがあなたの論理的な回答の根拠となるからです。

STEP 2:「手取り額」を、税金・社会保険込みの「総支給額」へ引き戻す

あなたが手取りで25万円を受け取るためには、会社はそれよりも多くの金額を支払う必要があります。なぜなら、そこから「所得税」「住民税」「社会保険料の個人負担分」が天引きされるからです。

非常に大雑把な計算ですが、手取り25万円を確保するための総支給額(額面)は、

月額 300,000円 ~ 320,000円 程度

が、一つの目安となります。

STEP 3:この「総支給額」こそが、あなたの「役員報酬」の最適解である

この「月額 30万円」という数字。

これこそが、

  • 「高すぎない」(前職の給与や贅沢のための金額ではない)
  • 「低すぎない」(経営者が最低限生存できる金額である)

という、金融機関が最も納得する「論理的な根拠のある黄金の数字」なのです。

あなたは、この「月額 30万円」を、事業計画書の「人件費(役員報酬)」の欄に堂々と記載します。

第4章:【最強の応用戦略】「融資で自分の給料を借りる」という発想

この戦略の真の価値は、ここから始まります。

「月額 30万円」の役員報酬を事業のコストとして確定させたあなた。

次に、あなたはこれを創業融資の「運転資金」に組み込むのです。

事業計画書「7 必要な資金」への完璧な落とし込み

【運転資金】の内訳

  • 地代家賃(月20万円 × 6ヶ月分):1,200,000円
  • 人件費(役員報酬 月30万円 × 6ヶ月分):1,800,000円
  • 広告宣伝費(月10万円 × 6ヶ月分):600,000円
  • その他経費(月5万円 × 6ヶ月分):300,000円
  • 運転資金 合計:3,900,000円

これが何を意味するか?
あなたは金融機関に対して、「私の事業が軌道に乗り、売上が安定的に入金されるまでの最初の6ヶ月間。その間の私の最低限の生活費(180万円)も含めて融資をしてください」と、論理的に、そして堂々と要求しているのです。

これは、あなたの事業の生存確率を最大化する、極めて堅実で合理的な計画です。金融機関は、この計画を高く評価し、あなたの当面の生活費まで含めた潤沢な運転資金を融資することに何の躊躇もありません。

「役員報酬を低くして融資額を減らす」という素人の戦略とは真逆の、「役員報酬を適切に計上し、その分まで融資額を増やす」というプロの戦略。

これこそが、あなたの手元のキャッシュを最大化し、創業期の「死の谷」を生き残るための究極の秘訣なのです。

第5章:【FAQ】「役員報酬」と「創業融資」に関する一歩進んだ疑問

最後に、役員報酬の設定についてさらに深く検討されている起業家の皆様から、私たちが特によくお受けする専門的なご質問とその回答を、Q&A形式でまとめました。

Q1. 妻(夫)も役員にします。その配偶者の役員報酬も運転資金として借りられますか?

A1. はい、可能ですが、それには極めて慎重な説明が必要です。

金融機関が最も警戒するのは「実態のない家族への給与支払い」です。これは、会社の資金を不当に流出させ、利益を隠蔽するための典型的な粉飾(節税)と見なされるからです。

もし、あなたが配偶者の役員報酬を運転資金として計上するのであれば、

  1. 「勤務実態」の明確化:その配偶者が具体的にどのような業務(例:「経理・総務を週5日、フルタイムで担当する」)を担うのか。
  2. 「能力」の証明:その業務を遂行するだけの客観的な能力(例:「前職で10年間、経理事務を担当した経験がある」)があるか。
  3. 「報酬の妥当性」:その業務内容と能力に対して設定した報酬額(例:月額20万円)が世間の相場と比較して妥当であるか。

これら全ての問いに完璧に答えられる場合に限り、配偶者の役員報酬も正当な運転資金として認められます。

Q2. 創業1年目は役員報酬を低く設定し、2年目から上げるという計画はどうですか?

A2. はい、それは非常に堅実で現実的な、優れた戦略です。

創業期はまず、会社の利益を最大化し、キャッシュフローを安定させることが最優先です。

プロの事業計画書
「事業の見通し」の収支計画において、

  • 1期目(創業期):役員報酬をあなたの最低生存コストである「月額30万円」に設定。まずは確実に営業黒字を達成し、会社に利益(内部留保)を蓄積させる。
  • 2期目(成長期):売上の成長(例:150%UP)に伴い、役員報酬を「月額40万円」へと引き上げる。

このように会社の成長とあなたの報酬を連動させる計画は、融資担当者に対して「この経営者は私利私欲に走らず、会社の成長を第一に考える長期的な視点を持った人物だ」という、最高の信頼感を与えるのです。

Q3. 役員報酬は一度決めたら1年間変えられないと聞きました。融資審査と関係ありますか?

A3. はい、その通りです。これは税務上の非常に重要なルールであり、あなたの資金繰り計画の前提ともなる知識です。

法人税法上、役員報酬は「定期同額給与」といって、事業年度の開始から3ヶ月以内に決定した金額を、その事業年度が終わるまで毎月同額で支払い続けなければ原則として経費(損金)として認められません。

「今月は利益が出たから報酬を上げよう」「今月は苦しいからゼロにしよう」といった柔軟な変更はできないのです。

融資審査への影響
だからこそ、創業融資の事業計画書で設定する役員報酬の月額は、「利益が出たらこれくらい欲しいな」という希望額であってはなりません。

それは「たとえ売上が計画の半分でも、絶対に支払い続けなければならない重い固定費」なのです。

この法的かつ財務的な重みを深く理解した上で、あなたの会社が絶対に耐えられる最低限かつ合理的な金額を設定する。その緊張感こそが審査官に伝わるのです。

結論:あなたの「給与」は、あなたの「経営戦略」

創業融資の申請書に記載する「役員報酬」の額。

それはあなたの個人的な希望額ではありません。

それは、

  • あなたの経営者としての「計数管理能力」を示す通信簿であり、
  • あなたの事業の「損益分岐点」を決定する重要なコストであり、
  • そして、あなたの会社の「生存確率」を左右する資金繰り計画の根幹なのです。

この最も重要で最も専門的な数字の設計を、決してあなた一人で悩まないでください。

あなたの「役員報酬」、いくらが正解か知っていますか?

そのたった一つの数字の設定ミスが、あなたの融資を否決させ、あなたの事業を破綻に導くかもしれません。
まずは無料相談で、あなたの事業計画に最適な「役員報酬」と「資金計画」を私たちプロと一緒に設計しましょう。

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記事執筆監修者

荒川会計事務所(経営革新等支援機関(認定支援機関))代表税理士・登録政治資金監査人・行政書士の荒川 一磨です。

    

会社設立と創業融資を得意とし、何でも相談できる話しやすいパートナーであることを心掛けている事務所です。

事務所所在地 〒160-0022 東京都新宿区新宿2-5-16 霞ビル8F

電話番号 0120-016-356

所属 東京税理士会四谷支部・東京行政書士会新宿支部

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