日本政策金融公庫の「創業計画書」。その一番最初の項目、「1 創業の動機」。
多くの起業家が、この欄をこれから始まる壮大な事業計画の単なる「前書き」程度に軽く考えてしまっています。「長年の夢でした」「社会に貢献したい」…。そんな漠然とした美しい言葉を数行書き連ねて。
しかし、もしあなたが本気で満額の創業融資を勝ち取りたいと願うなら。まず、その根本的な認識を180度改める必要があります。
「創業の動機」は「前書き」ではありません。
それは、あなたの事業計画書という一冊の「推理小説」における、
最も重要な「冒頭の一文」であり、そして読者(融資担当者)が
「この物語の結末(事業の成功)を最後まで信じて読み進めたい」
と思えるかどうかを決定づける、運命の一節なのです。
この記事は、その運命の一節をあなたが完璧に、そして戦略的に紡ぎ出すための究極の「ストーリーテリング・マニュアル」です。なぜこの項目があなたの融資の成否を左右するのか。なぜなら、審査官は「何をやるか(WHAT)」の前に「なぜあなたがやるのか(WHY)」を知りたがっているからです。
その「WHY」の強さこそが、あなたの事業が困難に直面したときに折れない「覚悟」の証明となります。その審査の舞台裏にある金融機関の「思考」を完全に解き明かし、担当者の心を動かし「この人になら賭けてみたい」と確信させるための具体的な物語の構成法と、絶対に書いてはいけない「NGな動機」の全てを、新宿で数えきれないほどの会社の「設計図」と「未来図」を描いてきた私たちが、徹底的に解説します。
第1章:【審査官の思考】彼らはあなたの「動機」から何を読み取ろうとしているのか?
まず、あなたの物語の唯一の読者である融資担当者が、この「創業の動機」の欄から必死に読み取ろうとしている3つの極めて重要な「評価基準」を理解しましょう。
「創業の動機」から読み取られる3つの評価基準
| 評価基準 | 審査官の視点(=あなたへの問い) |
|---|---|
| 1. 覚悟の深さ | あなたは本気か?(困難に直面した時、簡単に諦める一過性の情熱ではないか?) |
| 2. 事業成功への蓋然性 | あなたに勝算はあるか?(その動機は、あなたの経験や強みと論理的に結びついているか?) |
| 3. 人間としての信頼性 | あなたにお金を貸せるか?(その物語は誠実で、一貫性があり、共感・応援できるものか?) |
評価基準1:【事業への覚悟の深さ】― あなたは本気か?
審査官の心の声:「この人はなぜ安定した会社員の地位を捨ててまで、あるいは人生の貴重な時間を投じてまで、この茨の道を選んだのだろうか。その動機は一過性の思いつきの情熱ではないか?それとも人生を賭けるに値する揺るぎない覚悟に裏打ちされているのか?」
起業は計画通りにいかない困難の連続です。担当者は、あなたが最初の壁(例えば、売上が3ヶ月間計画通りにいかないなど)にぶつかった時に簡単に諦めてしまうような人物ではないか、という点を厳しく見極めようとしています。あなたの動機に個人的で深く、そして揺るぎない「必然性」があるかどうか。それがあなたの「覚悟」を測る最初のバロメーターとなるのです。
評価基準2:【事業成功への蓋然性】― あなたに勝算はあるか?
審査官の心の声:「その素晴らしい動機は分かった。しかし、その動機はこれから始める事業の成功確率とどのように論理的に結びついているのか?その動機はこの事業が単なる『趣味』や『自己満足』ではなく、きちんと『利益』を生み出すビジネスであることを証明しているか?」
担当者は慈善事業家ではありません。彼らの仕事は、あなたに「投資」し、その結果(=利息と元金)を回収することです。彼らは、あなたの動機の中に、その事業分野におけるあなたの圧倒的な「強み」や「経験」といった、成功への客観的な「蓋然性(がいぜんせい)」が示されているか。それを探しているのです。
評価基準3:【人間としての信頼性】― あなたにお金を貸せるか?
審査官の心の声:「この人の語る物語は誠実か?矛盾はないか?そして何よりも、一人の人間として『応援したい』と思えるか?」
最終的に融資の決裁書にハンコを押すのは一人の人間です。創業計画書という無機質な書類の中で、唯一あなたの「人となり」や「人間性」が垣間見えるのがこの「創業の動機」の欄です。ここで誠実で一貫性のある、そして共感を呼ぶ物語を語れるかどうかは、審査官との人間的な信頼関係を築く上で計り知れない影響を及ぼすのです。
第2章:【勝利の方程式】担当者の心を動かす「最強のストーリー」4部構成
では、これらの厳しい評価基準を完璧にクリアし、担当者に「この人になら貸せる」と確信させるための「最強の創業動機」はどのように構成すれば良いのでしょうか。その答えが以下の4部構成のストーリーテリングです。
担当者を「応援したい」と思わせる4部構成
| 構成要素 | 伝えるべき核心 | 審査官に与える印象 |
|---|---|---|
| ① 原体験 (WHY) | なぜ、私はこの「課題」に出会ったのか? | 「本気度」と「覚悟」の証明 |
| ② 経験と実績 (CAN) | なぜ、「私」がその課題を解決できるのか? | 「事業成功の蓋然性」の証明 |
| ③ 事業のビジョン (WHAT) | この事業は社会に何をもたらすのか? | 「人間的な信頼性」と「応援する大義名分」 |
| ④ 融資の必要性 (HOW) | なぜ、今あなたの「お金」が必要なのか? | 「計画性」と「論理性」の証明 |
【構成要素①】原体験:なぜ私はこの「課題」に出会ったのか? (WHY)
物語の始まりです。あなたがこれから解決しようとしている社会や顧客の「課題(ペイン)」に、あなた自身がどのように出会い、そしてなぜそれを他人事ではなく「自分ごと」として深く捉えるようになったのか。その個人的な「原体験」を語ります。この「原体験」こそが、あなたの事業が単なる思いつきではないことの何よりの証拠です。
NGな書き出し:「カフェ業界は今後成長が見込まれるため、起業しようと思いました。」
OKな書き出し:「私は前職のIT企業で毎日深夜まで働き、心身のバランスを崩しかけた経験があります。その時私を救ってくれたのが一杯の本当に美味しいスペシャルティコーヒーでした。しかし私が住むこの新宿エリアには大手チェーン店は数多くあれど、仕事の合間に本当に心から安らげるそのような一杯を提供してくれる個人のカフェがあまりにも少ない。この私自身が切実に感じた『課題』こそが本事業の出発点です。」
【構成要素②】経験と実績:なぜ「私」がその課題を解決できるのか? (CAN)
物語の核心です。そのあなたが発見した「課題」を、なぜ他の誰でもなく「あなた」が解決できるのか。その絶対的な「根拠」をあなたのこれまでの「職歴(経験と実績)」と結びつけて論理的に証明します。ここは創業計画書の「2 経営者の略歴等」の欄と完璧にリンクしている必要があります。**「動機(WHY)」と「経験(CAN)」がここで初めて結びつき、あなたの計画に「蓋然性(成功の可能性)」が生まれるのです。**
NGな展開:「美味しいコーヒーが好きなので、きっと良い店が作れると思います。」
OKな展開:「その想いを実現するため、私は週末を利用し3年間、都内の有名ロースター『〇〇珈琲』でバリスタとしての修行を積んでまいりました。そこでコーヒー豆の選定、焙煎技術、そして何よりも顧客との対話の技術を徹底的に学びました。また前職のIT企業ではプロジェクトマネージャーとして5人チームの予算管理とスケジュール管理を3年間担当した経験があり、店舗運営に必要な計数管理能力も有しております。」
【構成要素③】事業のビジョン:この事業は社会に何をもたらすのか? (WHAT)
物語の未来です。あなたの個人的な動機と経験が、この事業を通じてどのように社会的な「価値」へと昇華していくのか。その少し大きな「ビジョン」を語ります。**利益を出すことは当然として、その先にある「社会的な価値」を示すことで、担当者はあなたを「応援」する大義名分を得ることができます。**
NGな結び:「自分の店を持って儲けたいです。」
OKな結び:「私はこのカフェを通じて単にコーヒーを売るだけではありません。私と同じように都会の喧騒の中で日々戦っているビジネスパーソンたちに、一杯のコーヒーがもたらすほんの少しの、しかし、かけがえのない『安らぎ』と『明日への活力』を提供したい。この店がこの新宿という街の小さな『オアシス』となること。それが私の事業の最終的な目標です。」
【構成要素④】融資の必要性:なぜ今あなたの「お金」が必要なのか? (HOW)
物語の締めくくりです。なぜこの素晴らしい物語を実現するために金融機関からの融資という「力」が不可欠なのか。その論理的な結論を述べます。**ここで物語は「事業計画書」の具体的な数字(必要な資金)と結びつきます。**
NGな締め方:「お金が足りないので貸してください。」
OKな締め方:「この最高の空間と体験をお客様に提供するためには、〇〇社製の最新エスプレッソマシン(〇〇円)とお客様が心からリラックスできる内装の実現(〇〇円)が不可欠です。私の自己資金〇〇円と貴庫からのご融資〇〇円が組み合わさって初めてこの事業計画は実現可能となります。何卒私のこの事業への想いをご理解いただき、ご支援いただけますようお願い申し上げます。」
第3章:【絶対に書くな!】あなたの評価を一瞬で地に落とす「NGな動機」
一方で、どんなに美しくても担当者の心を一瞬で氷点下まで冷たくさせてしまう「NGな動機」も存在します。
審査に落ちる「NG創業動機」ワースト4
| NG動機 | 審査官の評価(=なぜNGか) |
|---|---|
| 1.「儲かりそうだから」 | 【他責】流行が終われば撤退する。覚悟が浅い。 |
| 2.「会社が嫌になったから」 | 【ネガティブ】ストレス耐性が低い。経営の困難から逃げ出す。 |
| 3.「自由になりたいから」 | 【自己中心的】経営の現実(不自由と責任)を理解していない。 |
| 4.「社会貢献がしたいから」 | 【ボランティア】利益を度外視している。返済能力に疑問。 |
第4章:【FAQ】「創業の動機」の語り方に関する一歩進んだ疑問
最後に、創業の動機をさらに磨き上げようとされている意欲的な起業家の皆様から、私たちが特によくお受けする専門的なご質問とその回答をQ&A形式でまとめました。
Q1. 私の原体験はそれほどドラマティックではありません。平凡な動機でも大丈夫でしょうか?
A1. はい、全く問題ありません。むしろ、「平凡」で「ありふれた」課題の中にこそ、ビジネスの最大のチャンスは眠っています。
融資担当者が求めているのは、映画のようなドラマティックな物語ではありません。彼らが確認したいのは、
- あなたが解決しようとしている課題が、多くの人が共感できる現実的なものかどうか。
- そして、あなたがその課題に対して、誰よりも深い当事者としての理解を持っているかどうか。
という2点です。
「派手な成功体験」よりも、「地味な失敗体験」や「日常の不満」の方が、時にはるかに強力な動機となり得ます。「前職で非効率なこの事務作業に毎日何時間も費やしていました。私と同じように、この無駄な時間に苦しんでいる日本中の中小企業を救いたい」。この具体的で共感を呼ぶ身近な「課題意識」こそが、あなたの事業の揺るぎない土台となるのです。
Q2. 「創業の動機」の欄はどのくらいの長さで書くのが適切ですか?
A2. 日本政策金融公庫の公式のフォーマットを見ると、「創業の動機」の欄はわずか4行程度しかありません。
これは、あなたに「この狭いスペースの中であなたの物語の最も重要な『要点』を、簡潔にそして論理的にまとめなさい」というメッセージを送っているのです。
プロのテクニック:『別紙参照』という武器
この限られたスペースで全てを語り尽くすことは不可能です。そこで私たちは以下の二段構えの戦略を強く推奨します。
- 計画書本体の欄には「結論」を凝縮して書く:「前職での〇〇という経験を通じて△△という社会的な課題を痛感しました。この課題を私の□□という専門知識を活かして解決するため本事業を創業いたします。」といった形で、4部構成のエッセンスを3~4行で完璧に要約します。
- 補足資料として「創業の動機(詳細)」を添付する:そしてその要約の末尾に「(詳細は別紙資料1をご参照ください)」と一文を書き加えます。そして、A4一枚程度の別紙に、第2章で解説した4部構成の詳細なストーリーをあなたの熱い想いと共に存分に綴るのです。
この方法により、あなたは多忙な担当者の審査効率に最大限配慮できる思慮深い人物であるという印象を与えつつ、あなたの物語の深い魅力を余すところなく伝えることができるのです。
Q3. 複数の事業を同時に立ち上げたいと考えています。動機はどのように書けば良いですか?
A3. これは非常に危険なシグナルです。創業融資の審査において、「事業の選択と集中ができていない」という印象を与えることは致命的です。これは「経営資源の分散」を意味し、創業期の最もやってはいけない戦略ミスです。担当者は「どの事業も中途半端に終わる」と確信します。
たとえあなたの中にいくつかの素晴らしいアイデアがあったとしても、創業計画書で語るべきは、その中で最も成功確率が高く、最もあなたの経験と直結しているたった一つのコア事業に絞り込むべきです。
「創業の動機」も、もちろんそのコア事業に対する動機に一点集中させます。
もし他の事業の可能性にも触れたいのであれば、それは「事業の見通し」の将来の展望の欄で、「本事業が軌道に乗った後、3年後を目処にそのノウハウを活かし、関連事業である〇〇への展開も視野に入れております」といった形で、あくまで将来の一つの可能性として軽く触れる程度に留めておくのが賢明な戦略です。
結論:あなたの「物語」を、専門家と共に最高の「戦略」へ
創業の動機。それは、あなたの心の最も深い場所から湧き出てくる、個人的でそして情熱的な物語です。
しかし、その生の磨かれていない「原石」をそのまま金融機関に提示しても、その本当の価値は決して伝わりません。
私たち創業支援の専門家(税理士)の仕事は、そのあなた唯一無二の「原石」を預かり、金融機関という百戦錬磨の鑑定士が最高の評価を下す、「完璧なカットが施された宝石(ビジネスプラン)」へと磨き上げることです。
私たちは、あなたの物語の中から、
- あなたの「覚悟」を最も象徴するエピソードを見つけ出し、
- あなたの「経験」が事業の成功と論理的に結びつく最高の「文脈」を与え、
- そしてあなたの「情熱」が、金融機関の心と理性の両方を揺さぶる最も力強い「言葉」へと翻訳します。
あなたの「物語」、最高の形で語りませんか?
その一度きりの重要なプレゼンテーションを、私たち「最高の脚本家」に任せてください。
まずは無料相談で、あなたの「創業の動機」を私たちにお聞かせください。
記事執筆監修者
荒川会計事務所(経営革新等支援機関(認定支援機関))代表税理士・登録政治資金監査人・行政書士の荒川 一磨です。
会社設立と創業融資を得意とし、何でも相談できる話しやすいパートナーであることを心掛けている事務所です。
事務所所在地 〒160-0022 東京都新宿区新宿2-5-16 霞ビル8F
電話番号 0120-016-356
所属 東京税理士会四谷支部・東京行政書士会新宿支部
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