【創業融資】定款の「事業目的」の書き方|その数行が、あなたの未来の資金調達を決めている

会社の憲法とも言える「定款(ていかん)」。その作成において、多くの起業家が頭を悩ませるのが「事業目的」の項目です。

「何を、どこまで、どのように書けばいいのだろう?」
「とりあえず同業他社の真似をしておけば大丈夫だろうか?」

もしあなたがそのように考えているとしたら、それは非常に危険なサインです。

定款の「事業目的」は、単なる手続き上の形式的な項目ではありません。それは、あなたの会社の法的な「活動範囲」を定義し、その会社の「DNA」を決定づける極めて重要な戦略的文書なのです。この「事業目的」の書き方一つで、銀行からの融資が否決されたり、必要な許認可が下りなかったり、将来の事業展開が法的に制限されてしまったりと、取り返しのつかない事態を招く可能性があります。

この記事では、単なる記載例の紹介に終わりません。まず事業目的を定める上での「法的な4大原則」を理解し、次にその記載が「融資」と「許認可」の成否にいかに直結するかを、具体的な事例と共に解説します。その上で、様々な業種で実際に使える、網羅的な記載例集をご提供します。

あなたの会社の未来を縛る「呪文」ではなく、未来の可能性を無限に広げる「設計図」を描くために。事業目的の全知識を、ここで手に入れてください。

第1章:【審査官の思考】なぜ銀行は、あなたの「定款」にこれほど執着するのか?

まず、なぜ融資担当者が、あなたの事業の「数字」よりも先にこの法的な「言葉」にこだわるのか。彼らがあなたの「事業目的」から読み取ろうとしている、3つの極めて重要な「リスク・シグナル」を理解しましょう。

シグナル1:【焦点の欠如】=「この経営者は、何がしたいのか分からない」

融資担当者の心の声:「事業計画書では『新宿でWeb制作事業を行いたい』と熱く語っている。しかし、登記簿謄本の目的欄には『1. 飲食店の経営、2. 介護事業、3. 不動産取引、4. アパレルの輸入販売、… 15. Web制作』と書かれている。

…この経営者は本当にWeb制作で起業するつもりなのだろうか?それとも、これは単なる思いつきの一つで、本命は別にあるのか?こんな節操のない計画では経営資源が分散し、どの事業も中途半端に終わる典型的な失敗パターンだ。この人物にお金は貸せない。」

「何でもできる」という目的は金融機関から見れば、「何一つ本気でやる気がない」という最悪のメッセージなのです。

シグナル2:【計画の不一致】=「言っていることと、やっていることが違う」

融資担当者の心の声:「創業計画書では『革新的なAIを活用したSaaSプロダクトの開発』のために500万円の融資を希望している。しかし、登記簿謄本の目的欄には『1. ITコンサルティング、2. システムの受託開発』としか書かれていない。

『SaaS』や『自社プロダクトの開発・運営』といった最も重要なキーワードが定款に一切記載されていない。これはどういうことだ?

もしかして、本当は受託開発のための運転資金が欲しいのを、SaaS開発と偽って申し込んでいるのではないか?あるいは自分の会社の憲法と、これからやろうとしている事業が食い違っていることにさえ気づいていない素人なのか?」

あなたが融資を申し込んでいる事業が、あなたの会社の定款で法的に許可されていない。この「計画の矛盾」は、あなたの信用を一瞬で失墜させます。

シグナル3:【違法のリスク】=「この会社、そもそも営業できないのでは?」

融資担当者の心の声:「『中古自動車の買取・販売事業』のために融資を申し込んできた。しかし、定款の目的欄には『自動車の販売』としか書かれていない。

『古物(中古品)』を取り扱うためには警察署の許可(古物商許可)が必要であり、その許可申請のためには定款の目的に『古物営業法に基づく古物の売買』という法律で定められた文言が、一字一句違わず入っていなければならないという常識を、この経営者は知らないのか。

このままでは許可が下りず、営業ができない。そんな違法状態のリスクがある事業にお金を貸せるはずがない。」

「許認可」が必要な事業において、事業目的の記載ミスは即「否決」に直結する致命的な地雷です。

第2章:【勝利の方程式】融資に勝つ、「最強の事業目的」3階層設計術

では、これらの全ての地雷を回避し、融資担当者に「この経営者は本物だ」と確信させる事業目的は、どのように設計すれば良いのでしょうか。

その答えが、私たち専門家が実践する「3階層設計術」です。

それはあなたの事業の「今(Core)」と「未来(Future)」、そして「法律(Legal)」の全てを網羅する戦略的な設計です。

【第1階層】あなたの「核」となる事業(The Core)

まず、事業目的の1番目(筆頭)に、あなたが今回創業融資を受けて「今すぐに始める核となる事業」を、具体的かつ明確に記載します。

  • NG例:「コンサルティング業」
  • OK例:「中小企業に対する経営合理化及びIT化に関するコンサルティング業務」

この第1階層が、あなたの創業計画書と100%完全に一致していることが絶対条件です。

【第2階層】「許認可」をクリアする魔法の文言(The Legal)

次に、あなたのその核となる事業、あるいは将来行う可能性のある事業に「許認可」が必要かどうかを徹底的に調査し、その申請に必要な「魔法の文言」を、一字一句正確に埋め込みます。

  • 飲食業なら:「飲食店の経営」
  • 中古品売買なら:「古物営業法に基づく古物の売買」
  • 人材派遣業なら:「労働者派遣事業」
  • 不動産業なら:「宅地建物取引業」
  • 建設業なら:「建設工事業」

この第2階層の存在こそが、あなたの法律遵守意識と準備の周到さを証明します。

【第3階層】「未来の可能性」を示す論理的な布石(The Future)

最後に、あなたの事業が成長した2年後、3年後に論理的に展開する可能性のある「関連事業」を、3~5個程度追加します。

これは「何でも屋」を目指すためではありません。これは、「この経営者は未来へのビジョンと成長戦略を持っている」という、あなたの「経営者としての視座の高さ」をアピールするために行うのです。

ケーススタディ:ITコンサルティング会社の場合

  1. 中小企業に対するIT化に関するコンサルティング業務(=第1階層:核)
  2. Webサイト及びECサイトの企画、制作、運営、保守(=第3階層:関連事業)
  3. 自社Webサービスの企画、開発、運営(=第3階層:未来の布石)
  4. IT人材の教育、研修及びセミナーの開催(=第3階層:未来の布石)
  5. 前各号に附帯又は関連する一切の事業(=最後のお守り)

この最後の「附帯関連業務」の一文は、あなたの事業目的の柔軟性を担保する重要なお守りとして、必ず末尾に記載してください。

第3章:【FAQ】「事業目的」と「創業融資」に関する一歩進んだ疑問

最後に、この戦略的な定款設計について、さらに深く検討されている起業家の皆様から、私たちが特によくお受けする専門的なご質問とその回答を、Q&A形式でまとめました。

Q1. 事業目的は、具体的に何個くらいが適切ですか?多すぎると本当に不利ですか?

A1. 法律上、事業目的の数に上限はありません。しかし、融資審査という観点では、明確に「最適な数」が存在します。

私たちは「5個 ~ 15個」の範囲内を強く推奨します。

  • 少なすぎる(1~3個):事業への熱意は伝わりますが、「将来のビジョンが狭い」「事業が失敗した時のBプランがない」と見なされ、事業の継続性を不安視される可能性があります。
  • 多すぎる(20個以上):まさに第1章で解説した「何でも屋」の典型です。「焦点が定まっていない」「本気度が疑わしい」と判断され、ほぼ間違いなくマイナス評価となります。

重要なのは、数ではなく、「核となる事業」から「論理的な一貫性」を持って展開されているか、どうか。そのストーリーの美しさです。

Q2. 事業目的の「順番」は、審査に影響しますか?

A2. はい、絶大な影響があります。

登記簿謄本はあなたの会社の公式なプロフィールです。そして、事業目的の一番最初(筆頭)に書かれている項目こそが、あなたの会社の「本業(メイン事業)」であると、金融機関、税務署、取引先、社会の全てが認識します。

もしあなたが「飲食店の開業資金」の融資を申し込むのに、事業目的の筆頭が「不動産コンサルティング」になっており、「飲食店の経営」が10番目に書かれていたらどうでしょうか。

担当者は、「この会社、本業は不動産屋なのか?飲食は片手間か?」と強烈な不信感を抱きます。

必ず、創業計画書でメインとして語る事業を、定款の事業目的の一番最初に記載してください。

Q3. 登記が完了した後から、目的を追加・変更することはできますか?

A3. はい、いつでも可能です。しかし、それには相応の「手間」と「コスト」がかかります。

手続き

  1. 株主総会での「特別決議」:定款の変更となるため、株主総会での3分の2以上の賛成が必要です。
  2. 株主総会議事録の作成:法務局に提出するための法的に完璧な議事録を作成します。
  3. 法務局への「目的変更登記申請」:決議から2週間以内に申請します。

コスト

  • 登録免許税:30,000円(法務局に支払う国税)
  • 専門家(司法書士)への報酬:数万円

プロの視点:
だからこそ、「設立時」にどれだけ未来を見据えた設計ができるかが勝負なのです。設立時にあと数行書き加えておくだけで、将来支払うはずだったこの数万円のコストと数週間の手間を、全てゼロにできるのです。

Q4. 創業融資の審査では、「事業目的」と「経営者の過去の経歴」のどちらがより重要視されますか?

A4. 素晴らしいご質問です。結論から言うと、「両方が完璧に一致していること」が最も重要です。

融資担当者が見ているのは、その2つの要素の「一貫性」です。

最高のパターン
経歴:「イタリアンレストランで10年間、店長として勤務」
事業目的の筆頭:「飲食店の経営」
審査官の評価:「完璧だ。この人物は自らが最も得意とする分野で勝負しようとしている。成功確率が極めて高い。」

最悪のパターン
経歴:「ITエンジニアとして15年間勤務」
事業目的の筆頭:「飲食店の経営」
審査官の評価:「なぜだ?なぜ全く経験のない飲食業界に飛び込むんだ?これは単なる趣味の延長か?失敗のリスクが高すぎる。」

あなたの「事業目的」は、あなたの「過去の経験」という土壌から論理的に生えてきた「必然の果実」でなければなりません。

Q5. 「前各号に附帯又は関連する一切の事業」の一文は、本当に万能ですか?これさえあれば、許認可も大丈夫ですか?

A5. いいえ、全く万能ではありません。これは法律家の間で「バスケット条項」と呼ばれる便利な一文ですが、その効力は限定的です。

この一文がカバーできる範囲
あくまで「主たる事業に附帯する小さな業務」に限られます。例えば、「Web制作業」を目的に掲げている会社が、そのクライアント向けに「Webマーケティングの小規模なセミナー」を開催するといったレベルです。

この一文が絶対にカバーできない範囲
「Web制作業」の会社がこの一文を根拠に「不動産取引業」の免許を申請したり、「飲食店の経営」を始めたりすることは絶対にできません。

特に第2章で解説した「許認可」が必要な事業は、この「附帯事業」の解釈には決して含まれません。必ずその許認可に必要な文言を個別に記載する必要があります。

結論:あなたの「憲法」は、あなたの「未来」そのもの

定款の「事業目的」。

それは単なる法務局への提出書類ではありません。

それは、あなたの会社の「法的な活動範囲」を定義し、

あなたの「経営者としての資質」を金融機関に示し、

そしてあなたの会社の「未来の成長の可能性」をあらかじめ設計する、

というあなたの会社の「魂の設計図」なのです。

その最も重要で最も神聖な設計図を、インターネットの無料テンプレートの丸写しで済ませて、本当に良いのですか?

あなたの「事業目的」、融資に落ちる目的になっていませんか?

そのたった数行の言葉が、あなたの融資の未来を閉ざしているかもしれません。
まずは無料相談で、あなたの事業の可能性を最大化する「最強の定款」を、私たちプロと一緒に設計しましょう。

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記事執筆監修者

荒川会計事務所(経営革新等支援機関(認定支援機関))代表税理士・登録政治資金監査人・行政書士の荒川 一磨です。

    

会社設立と創業融資を得意とし、何でも相談できる話しやすいパートナーであることを心掛けている事務所です。

事務所所在地 〒160-0022 東京都新宿区新宿2-5-16 霞ビル8F

電話番号 0120-016-356

所属 東京税理士会四谷支部・東京行政書士会新宿支部

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