「家賃収入は増えたけれど、税金を払ったら手元にほとんど残らない…」
「次の物件を買いたいが、個人の融資枠がいっぱいで借りられない…」
不動産投資家の多くが直面するこの悩み。解決策は一つしかありません。 「個人の財布」から「法人の財布」へシフトすること。すなわち、「プライベートカンパニー(資産管理会社)」の設立です。
日本の税制において、個人の所得税は「稼げば稼ぐほど税負担が重くなる(最高税率55%)」仕組みですが、法人税は「稼いでも一定(約23%〜33%)」に抑えられています。 この「税率のギャップ」を利用するだけで、キャッシュフローは劇的に改善します。
しかし、ただ会社を作ればいいわけではありません。 「どの方式(所有・サブリース・管理)にするか」だけでなく、「デッドクロス(黒字倒産)のリスク」や「消費税還付の可否」など、高度な税務知識がないと逆に損をする落とし穴もあります。 この記事では、不動産投資家が知っておくべき法人化の全知識と、具体的なシミュレーションを、専門税理士が徹底解説します。
- 個人の税率は最大55%。法人は実効税率約23%〜33%。この差が利益になる。
- 最強の節税は「建物所有方式」。土地だけ個人に残すのがミソ。
- 法人なら「赤字を10年繰り越せる」ため、大規模修繕も怖くない。
- 減価償却切れで起こる「デッドクロス」も、法人なら対策しやすい。
第1章:なぜ「法人化」で手取りが増えるのか?(税率の構造)
まずは、個人と法人の決定的な違いである「税率構造」を理解しましょう。
個人:累進課税の恐怖(最大55%)
個人の不動産所得は、給与所得などと合算され、所得が増えるほど税率が上がる「累進課税」です。 課税所得が900万円を超えると税率は33%(住民税込み43%)、4,000万円を超えると最大55%になります。 つまり、稼ぎの半分以上を国に没収されることになります。
法人:ほぼ一定の税率(最大約33%)
一方、法人の実効税率は、所得800万円以下なら約23%、それ以上でも約33%程度で頭打ちになります。
どれだけ儲かっても55%取られることはありません。
【損益分岐点】
一般的に、課税所得(利益)が900万円を超えたあたりから、法人の方が税率が低くなり、メリットが出始めます。
第2章:プライベートカンパニー「3つの形態」の選び方
一口に「不動産管理会社」と言っても、関わり方によって3つのパターンがあります。 節税効果が高い順に紹介します。
| 方式 | 仕組み | 節税効果 |
|---|---|---|
| 1. 不動産所有方式 (建物所有方式) |
法人が物件(建物)を所有する。 家賃は全額法人のもの。 |
特大 (所得分散・相続対策に最適) |
| 2. サブリース方式 (一括借り上げ) |
個人から法人が借り上げ、入居者に転貸。 差額(10〜15%)が法人の利益。 |
中 (所得移転に限界あり) |
| 3. 管理受託方式 | 法人が清掃・集金などを代行。 管理料(5%程度)が法人の利益。 |
小 (手間賃程度しか移せない) |
本気なら「1. 不動産所有方式」一択
これから物件を買うなら、迷わず「1. 不動産所有方式」を選んでください。
家賃収入の100%が法人に入り、経費もすべて法人で落とせるため、コントロールの幅が最大になります。
【土地はどうする?】
土地は個人で購入し、建物だけ法人名義にする方法もあります(借地権課税を回避するため、「土地の無償返還に関する届出書」を提出するのが一般的)。
これにより、将来土地を相続する際の評価額を下げられるテクニックが使えます。
第3章:法人化だけの特権!5つの強力な節税メリット
税率以外にも、法人には個人にはない強力な武器があります。
メリット1:所得分散(役員報酬)による税率ダウン
法人の利益を、社長一人だけでなく、配偶者や親族(役員)に「役員報酬」として分散して支払うことができます。 日本の税金は「一人で多く稼ぐと高い」ですが、「みんなで少しずつ稼げば安い」仕組みです。 家族全体の手取り額を最大化できます。
メリット2:経費の範囲が圧倒的に広い
・生命保険: 経営者向けの保険で退職金を積み立てられる。
・社宅: 社長の自宅を法人契約にすれば、家賃の大部分を経費にできる。
・日当: 物件視察などの出張手当を経費化(受取る個人は、社会通念上相当額まで非課税)。
メリット3:赤字の繰越が「10年間」可能
個人事業主の赤字繰越は3年ですが、法人は10年間繰り越せます。 大規模修繕などで大きな赤字が出ても、向こう10年間の黒字と相殺して税金をゼロにできるため、長期的なキャッシュフローが安定します。
メリット4:融資期間の延長と信用力
個人の融資は「法定耐用年数」に縛られがちですが、法人の場合、事業性評価により耐用年数を超えた長期融資が引ける可能性があります。 また、法人実績を積むことで、次の物件購入時の融資審査が有利になります。
メリット5:相続税対策(株価圧縮)
不動産を個人のまま相続すると、分割が難しく(共有名義のトラブル)、登記費用もかかります。 法人所有にしておけば、相続するのは不動産ではなく「会社の株式」になります。 株式であれば、1株単位で妻や子供に生前贈与することが容易であり、会社の資産価値(株価)を意図的に下げる対策も打ちやすくなります。
第4章:【上級編】法人化の落とし穴「デッドクロス」と「消費税還付」
法人化は魔法ではありません。知識がないと陥る「2つの大きな罠」について解説します。
恐怖の「デッドクロス(黒字倒産)」とは
不動産投資を続けていると、ある時期から「減価償却費 < 元金返済額」という逆転現象が起きます。これをデッドクロスと呼びます。
・減価償却費(経費になるが、お金は出ていかない)が減る。
・元金返済(経費にならないが、お金が出ていく)は変わらない。
結果、「帳簿上は黒字(税金は高い)なのに、手元に現金がない」という黒字倒産状態に陥ります。
【法人での対策】
個人の場合、デッドクロスが起きたら打つ手が限られますが、法人なら対策が豊富です。
1. 役員報酬の調整: 報酬を増やして利益を圧縮する。
2. 生命保険の活用: 解約返戻金のある保険で利益を繰り延べる。
3. 新規物件の購入: 新たな減価償却費を作り出す。
4. 任意償却の活用: 償却費をあえて計上せず、黒字幅を調整する(※銀行対策)。
「消費税還付スキーム」はまだ使えるか?
かつて、「自動販売機を設置して課税売上を作り、建物購入時の巨額の消費税を還付してもらう」というスキームが流行しました。
しかし、度重なる税制改正により、居住用賃貸建物(住宅)に関する消費税還付は、現在はほぼ不可能です。
(※令和2年改正により、居住用建物の仕入税額控除が原則不可となりました)
ただし、「テナントビル」「倉庫」「店舗」などの事業用物件であれば、依然として消費税還付のチャンスはあります。 物件の種類によって税務戦略が全く異なるため、購入前に必ず税理士に相談してください。
第5章:シミュレーション|個人vs法人、どっちが得?
家賃収入2,000万円、経費・金利等1,000万円、利益(課税所得)1,000万円の場合で比較します。 ※概算値です。所得控除等は簡易計算。
【ケースA:個人所有】
・所得税+住民税(約33%〜43%):約280万円
・個人事業税:約40万円
➡ 税金合計:約320万円
➡ 手取り:約680万円
【ケースB:法人所有(社長報酬500万、妻報酬300万)】
利益1,000万円から報酬800万円を引く=法人利益200万円
1. 法人の税金
・法人税等(約23%):約46万円
2. 個人の税金(社長+妻)
・給与所得控除後の税金・社保:約120万円(2人分)
➡ 税金・社保合計:約166万円
➡ 手取り合計:約834万円
結論:法人化することで、年間約150万円も手取りが増えます。
10年間で1,500万円の差です。これが法人化の威力です。
第6章:法人化のデメリットと注意点
いいことずくめに見えますが、デメリットもあります。
1. 設立コストと維持費(ランニングコスト)
・設立費用:株式会社で約25万円、合同会社で約10万円。
・赤字でもかかる税金:法人住民税の均等割(年間約7万円)。
・税理士報酬:個人よりも高くなります(決算業務が複雑なため)。
2. 社会保険への加入義務
法人は、社長一人でも社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が強制されます。 保険料は給与の約30%(労使折半)。 ただし、これは「将来の年金が増える」「手厚い保障が得られる」というメリットの裏返しでもあります。
3. 長期譲渡所得の特例がない
個人なら、不動産を5年以上保有して売却すれば税率が約20%に下がります(長期譲渡所得)。 法人にはこの特例がなく、売却益に対して通常の法人税(約30%〜)がかかります。 「転売目的(キャピタルゲイン狙い)」の場合は、個人のままの方が有利なケースもあります。
第7章:【FAQ】プライベートカンパニーの実務Q&A(25選)
現場でよくある質問に、本音で回答します。
Q1. すでに個人で持っている物件を法人に移せますか?
A. 可能ですが、「移転コスト」が高額になるため注意が必要です。
法人への売却扱いとなるため、登録免許税、不動産取得税がかかります。これらのコストを回収できるほど節税効果があるか、シミュレーションが必須です。基本は「新規取得」からの法人化です。
Q2. サラリーマン大家ですが、副業禁止規定に引っかかりませんか?
A. 法人名義であっても把握される可能性はあります。
代表取締役になると登記簿に名前が載ります。家族を代表にしてご自身は株主になる等の対策もありますが、就業規則の確認が必要です。
Q3. 株式会社と合同会社、どっちがいいですか?
A. 資産管理会社なら「合同会社」で十分です。
設立費用が安く(約14万円差)、決算公告義務もありません。対外的な信用(融資など)も、不動産賃貸業においては大きな差はありません。
Q4. 家族に給料を払う条件は?
A. 「実態」があることが必須です。
ただの名義貸しは脱税です。物件の清掃、帳簿付け、リフォーム立会いなど、実際の業務を行わせ、その対価として妥当な金額を設定する必要があります。
Q5. 法人のお金は自由に使えますか?
A. 使えません。あくまで会社のお金です。
個人が会社のお金を勝手に使うと「役員貸付金」となり、銀行融資でマイナス評価を受けます。役員報酬として正式に受け取ってから使いましょう。
Q6. 自宅を社宅にするにはどうすればいいですか?
A. 法人名義で契約し、個人から一定の賃料を徴収します。
個人契約のままではダメです。法人契約に切り替え、個人は「賃料相当額(家賃の10〜20%程度)」を会社に払うことで、残りを経費にできます。
Q7. インボイス登録は必要ですか?
A. 住宅用賃貸のみなら不要、テナント・駐車場なら必要です。
住宅家賃は非課税なのでインボイスは関係ありません。店舗や事務所、駐車場収入がある場合は登録を検討する必要があります。
Q8. 売却益(キャピタルゲイン)狙いなら個人?法人?
A. 5年超保有するなら個人の方が税率が低いケースが多いです。
個人の長期譲渡所得(約20%)に対し、法人は約30%〜。ただし、法人は他の赤字と相殺できるメリットもあります。
Q9. 生命保険で節税できますか?
A. 以前より効果は薄れましたが、退職金準備としては有効です。
「全額損金」の保険はほぼなくなりましたが、長期平準定期保険などを活用し、出口(解約時)に退職金を支払うことで利益を相殺するスキームは健在です。
Q10. 資本金はいくらにすべきですか?
A. 消費税免税を狙うなら1,000万円未満です。
融資の審査上も、極端に少額(1円など)でなければ問題ありません。100万円〜300万円程度が一般的です。※ただし、特定期間の課税売上やインボイス登録状況によっては初年度から課税事業者になる場合があります。
Q11. 法人化のタイミングは?
A. 「次の物件を買う直前」がベストです。
物件取得前に法人を作っておき、法人名義で買付・融資申し込みを行うのが最もスムーズです。
Q12. 減価償却費の扱いは個人と法人で違いますか?
A. はい。法人は「任意償却」が可能です。
個人は強制償却ですが、法人は「償却しない」ことも選べます。黒字を出して銀行評価を上げたい時に調整できるのが強みです。
Q13. 相続税対策として、建物だけ法人に移すのはあり?
A. 非常に有効です。
建物は法人、土地は個人(親)とし、法人が地代を払う形にします。借地権割合などの計算で土地の相続税評価額を下げられます。
Q14. 小規模企業共済は入れますか?
A. 法人の役員になれば加入できます。
個人の節税(所得控除)と退職金準備の最強ツールです。ぜひ加入しましょう。
Q15. 税理士は誰でもいいですか?
A. 「資産税(不動産)」に強い税理士を選んでください。
普通の税理士は法人税は詳しいですが、不動産特有の論点(消費税還付、土地評価、譲渡特例など)に疎い場合があります。専門特化型が安心です。
Q16. 海外不動産の減価償却節税はまだできますか?
A. 個人の場合は封じられましたが、法人ならまだ可能です。
個人の海外中古不動産の損益通算は令和3年の改正でできなくなりましたが、法人は対象外です。利益が出過ぎた法人の節税策として有効です。
Q17. サブリース方式の賃料設定(10〜15%)は適当でいい?
A. 適正相場でないと「寄付金」として課税されます。
個人から法人へ極端に安く貸したり高く貸したりすると、税務署に否認されます。近隣相場や空室リスクを考慮した合理的な設定が必要です。
Q18. 法人の決算期はいつにすべきですか?
A. 「固定資産税の精算」や「消費税免税」を考慮して決めます。
物件購入月の前月に設定して初年度を長くする、あるいは繁忙期を避けるなど、戦略的に決められます。
Q19. 法人化すると、個人の住宅ローンは借りにくくなりますか?
A. 基本的には影響しませんが、法人の連帯保証人になっている場合は考慮されます。
法人が赤字だと、連帯保証人である個人の信用力も下がると見なされる場合があります。
Q20. 管理会社を作ると、相続税評価額は下がりますか?
A. 株式の評価方法によりますが、下がる可能性が高いです。
不動産を株式に変えることで、純資産価額方式や類似業種比準方式などを使い、評価額を圧縮できます。
Q21. 小規模宅地の特例は法人化しても使えますか?
A. 所有方式だと使えませんが、貸付事業用宅地としては使える場合があります。
「同族会社への貸付」という要件を満たせば、土地(個人所有)に対して特例(評価額50%減)を使える可能性があります。
Q22. 物件管理(清掃など)を外注してもいいですか?
A. OKですが、管理受託方式の場合は「中抜き」にならないよう注意。
法人が管理料をもらっているのに、業務をすべて外部に丸投げしていると、実態がないとして管理料を否認されるリスクがあります。
Q23. 法人名義の車を経費にする条件は?
A. 業務使用の実態と記録(運行日誌)が必要です。
物件の見回りや管理会社との打ち合わせに使用していれば経費になりますが、高級スポーツカーなどは否認されやすいです。
Q24. 銀行はプロパー融資とアパートローン、どっちがいい?
A. 規模拡大を目指すならプロパー融資です。
アパートローン(パッケージ型)は審査が早いですが、総額に上限があります。プロパー(事業性融資)は上限がないため、資産規模を無制限に拡大できます。
Q25. 結局、法人化の最大の成功要因は何ですか?
A. 「良い税理士」と「良い銀行」を見つけることです。
不動産経営はチーム戦です。自分一人で抱え込まず、専門家を味方につけることが成功への近道です。
まとめ:不動産投資のゴールは「法人化」にある
不動産投資で成功し、規模を拡大していくと、必ず「個人の税金の限界」にぶつかります。 その壁を乗り越え、資産を次世代に守り継ぐための器が「プライベートカンパニー」です。
法人化は、単なる節税テクニックではなく、あなたが「個人投資家」から「賃貸業の経営者」へと進化するためのステップです。 最初はコストや手間に戸惑うかもしれませんが、長期的に見ればその恩恵は計り知れません。
「自分の規模で法人化すべきかシミュレーションしてほしい」「設立から融資までサポートしてほしい」
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個人vs法人の納税額シミュレーションから、最適な設立スキームの提案まで。
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記事執筆監修者
荒川会計事務所(経営革新等支援機関(認定支援機関))代表税理士・登録政治資金監査人・行政書士の荒川 一磨です。
会社設立と創業融資を得意とし、何でも相談できる話しやすいパートナーであることを心掛けている事務所です。
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