【会社の決算期変更】手続き・費用と、節税に繋がる最適なタイミングを税理士が解説

会社の「決算期(事業年度)」。それは、あなたの会社の一年間の活動を締めくくり、成績表である「決算書」を作成し、国に税金を納めるための、会計上の「区切り」です。

多くの経営者様が、会社設立時に、何となく「3月決算」を選び、その区切りを、一度も疑うことなく、何年も、何十年も、続けています。

しかし、もし、その「区切り」を、
ほんの数ヶ月ずらすだけで、あなたの会社の手元に残るキャッシュが、
劇的に増えるとしたら…?

会社の事業年度は、一度決めたら変えられない、不変のルールではありません。それは、あなたの会社の成長戦略や、外部環境の変化に合わせて、いつでも、そして、何度でも、戦略的に変更することが可能な、「経営の武器」なのです。

この記事は、その、多くの経営者が見過ごしている、強力な武器の使い方を、あなたに伝授するための、完全マニュアルです。なぜ、決算期を変更するのかという戦略的な理由から、株主総会での決議、行政への届出といった、法的に完璧な手続きの全貌、そして、その際に潜む、思わぬ「落とし穴」まで。新宿で、数多くの企業の財務戦略を支えてきた私たちが、その全ての知識を、ここに公開します。

第1章:なぜ、決算期を変更するのか?― 4つの強力な戦略的動機

そもそも、なぜ、手間と費用をかけてまで、決算期を変更する必要があるのでしょうか。その決断の裏には、会社の利益を最大化し、リスクを最小化するための、明確な経営判断があります。

動機1:【キャッシュフローの最適化】会社の「繁忙期」と「決算期」を分離する

これが、決算期変更を検討する、最もポピュラーで、最も重要な理由です。決算作業と、それに続く税務申告は、たとえ専門家に依頼していても、経営者自身が、一年間の業績を深く振り返り、来期の戦略を練る、極めて重要な期間です。

もし、この決算作業期間(決算月の翌月~2ヶ月後)が、あなたの事業の、最も忙しい「繁忙期」と重なってしまったら、どうなるでしょうか。あなたは、目の前の売上を上げることに追われ、じっくりと決算に向き合う時間が取れず、不正確な業績把握や、納税資金の準備不足を招く可能性があります。

ケーススタディ:3月決算のアパレル小売店の場合
春物商戦が本格化する3月~4月は、一年で最も売上が見込める繁忙期。しかし、この会社は3月決算のため、申告期限である5月末に向けて、4月~5月は、決算作業と税務申告の準備に追われます。結果として、経営者は、最も力を注ぐべき、春物商戦の販売戦略や、在庫管理に集中できず、毎年、大きな機会損失を生んでいました。

解決策:
この会社は、私たちの助言に基づき、決算期を、比較的閑散期である「8月」に変更しました。これにより、経営者は、繁忙期である春と、年末商戦に、100%集中できるようになり、翌年度の売上は、前年比で15%も向上したのです。

動機2:【節税】大きな利益や損失の発生に合わせて、事業年度をコントロールする

決算期を変更し、事業年度の長さを意図的に調整することは、法人税の納税額をコントロールするための、高度な節税戦略となり得ます。

  • 大きな利益が見込まれる場合:例えば、通常3月決算の会社が、12月に、予想外の大きな利益(例えば、不動産の売却益など)を計上したとします。このまま3月まで事業を続けると、さらに利益が積み上がり、多額の法人税が課せられます。ここで、株主総会を開き、決算期を「12月末」に変更すれば、その事業年度は、4月~12月の9ヶ月間で終了します。これにより、それ以降の利益は、翌期の課税対象となり、当期の納税額を圧縮し、納税のタイミングを、先延ばしにすることができます。
  • 大きな損失が見込まれる場合:逆に、大規模な設備投資などで、今期、大きな赤字が出ることが確実な場合。もし、来期に、大きな黒字が見込まれるなら、あえて、決算期を延長し、事業年度を1年以上に設定する(ただし、最長1年6ヶ月まで)、という選択肢もあります。これにより、今期の大きな赤字と、来期の黒字を、同じ事業年度内で相殺し、トータルの税負担を軽減できる可能性があります。(ただし、この決算期の延長は、税務上、非常に複雑な論点を含むため、専門家との綿密な検討が不可欠です)

動機3:【グループ経営の効率化】親会社や、子会社の決算期と、統一する

あなたの会社が、他の会社の子会社になった場合(M&Aなど)、あるいは、あなたが、新たに子会社を設立した場合。親会社と子会社の決算期が異なると、連結決算の作成や、グループ全体の業績管理が、非常に煩雑になります。

グループ全体の経営効率を高め、正確な業績把握を、タイムリーに行うために、グループ会社の決算期を、親会社の決算期に、統一することは、ごく一般的に行われる経営判断です。

動機4:【専門家サービスの質の向上】税理士の「繁忙期」を避ける

これは、意外と見過ごされがちですが、非常に重要な視点です。日本の企業の、約20%は、3月決算であり、その申告期限である5月は、税理士事務所にとって、一年で最も忙しい時期です。

もし、あなたの会社が、この「ラッシュアワー」の渦中にいると、あなたの顧問税理士は、何十社という決算を、同時に抱えることになります。もちろん、プロとして、質の高いサービスを提供しますが、物理的に、あなた一社のためだけに、じっくりと時間をかけて、節税対策や、経営分析を行う余裕が、どうしても、限られてしまいます。

あえて、このラッシュアワーを避け、税理士事務所が、比較的落ち着いている時期(例えば、8月~10月頃)を決算月とすることで、あなたは、顧問税理士から、より手厚く、より質の高い、オーダーメイドのサービスを受けることが、可能になるのです。

第2章:【実践ガイド】決算期変更、3つのステップと、その詳細

では、実際に、決算期を変更するための、具体的な手順を、ステップバイステップで見ていきましょう。このプロセスは、会社法に則って、正確に行う必要があります。

STEP 1:株主総会での「特別決議」

事業年度は、会社の憲法である「定款」に、必ず記載されている(任意的記載事項)のが一般的です(例:「当会社の事業年度は、毎年4月1日から翌年3月31日までとする」)。そのため、事業年度を変更するには、まず、この定款の条文を変更する必要があります。

定款の変更は、会社の最重要事項にあたるため、株主総会での「特別決議」 が必要です。これは、議決権の過半数を持つ株主が出席し、その出席株主の議決権の3分の2以上の賛成を得なければならない、ハードルの高い決議です。あなた一人が株主100%の会社であれば、あなた自身の意思決定で、この要件はクリアできます。

STEP 2:株主総会議事録の作成

株主総会で事業年度の変更が決議されたら、その事実を、法的な証拠として残すための「株主総会議事録」を作成します。この議事録には、以下の内容を、正確に記録する必要があります。

  • 開催日時、開催場所
  • 出席した役員、株主の氏名と、その議決権数
  • 議長の氏名
  • 議案:「第1号議案 定款一部変更の件(事業年度の変更)」
  • 決議の内容:「定款第〇条の事業年度を、『毎年4月1日から翌年3月31日まで』から、『毎年1月1日から同年12月31日まで』に変更する」といった、具体的な変更内容。
  • 採決の結果(賛成〇株、反対〇株をもって、本議案は、原案通り可決確定した。)

作成した議事録には、議長および出席取締役が署名または記名押印し、会社で、10年間、厳重に保管する義務があります。この議事録が、次のステップで、行政機関へ届け出る際の、法的な証拠書類となります。

STEP 3:税務署などへの「異動届出書」の提出

事業年度の変更は、会社の登記事項ではないため、法務局への変更登記は不要です。これが、商号変更や本店移転といった他の定款変更と異なる、大きな特徴であり、費用が安く済む理由です。

しかし、税金の計算に直接影響するため、以下の行政機関へ「事業年度を変更しました」という届出を行う必要があります。

  • 所轄の税務署
  • 都道府県税事務所
  • 市区町村役場

この際に提出するのが「異動届出書」という、各行政庁所定の様式の書類です。提出期限は「変更後、遅滞なく」とされていますが、実務上は、変更後の最初の決算申告の提出期限までに提出すれば問題ありません。提出の際には、STEP 2で作成した株主総会議事録のコピーを、添付する必要があります。

第3章:【費用と、見えないリスク】変更時に、必ず知っておくべき注意点

費用は、ほぼゼロ?

事業年度の変更自体にかかる費用は、他の登記手続きに比べて非常に安価です。

  • 実費(法定費用):登録免許税は0円です。
  • 専門家への報酬:司法書士や税理士に、株主総会議事録の作成や、異動届出書の作成・提出代行を依頼した場合、2万円~5万円程度が一般的な報酬の相場となります。

注意点1:【変則決算】変更初年度の、複雑な税金計算

事業年度を変更した最初の期は、決算期間が12ヶ月より短く、あるいは長くなります(例:9ヶ月決算)。この変則的な決算年度では、税金の計算や、各種の特例の適用判定などが、通常と異なり、非常に複雑になります。

  • 減価償却費の月割計算:建物や機械などの減価償却費は、年額ではなく、事業年度の月数に応じて、月割りで計算する必要があります。
  • 交際費などの損金算入限度額:中小企業が使える、交際費の損金算入限度額(年間800万円)なども、事業年度の月数に応じて、按分計算されます。
  • 税額控除の適用:各種の税額控除の適用要件も、変則決算年度に合わせて、慎重に確認する必要があります。

注意点2:【役員の任期】意図せず、任期が短縮される罠

これは、多くの経営者が見落としがちな、非常に重要なポイントです。事業年度を変更すると、取締役や監査役の任期が、意図せず短縮されてしまう可能性があります。

役員の任期は「選任後〇年以内に終了する事業年度のうち、最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」と定められています。

ケーススタディ:
3月決算の会社で、2024年6月の株主総会で、任期2年の取締役Aさんが選任されたとします。Aさんの任期は、2年後の事業年度、すなわち「2026年3月期」に関する定時株主総会(2026年6月開催予定)の終結時までです。

しかし、もし、この会社が、2025年4月に、決算期を「12月末」に変更したとします。すると、Aさんの任期満了の基準となる「選任後2年以内に終了する事業年度」は、「2025年12月期」となります。そして、この事業年度に関する定時株主総会は、2026年2月~3月頃に開催されます。

結果として、Aさんの任期は、当初の予定よりも、約3ヶ月、早く満了してしまうのです。このタイミングで、役員変更(重任)登記を怠れば、「登記懈怠」として、過料(罰金)の対象となってしまいます。

第4章:【FAQ】「決算期変更」に関する、一歩進んだ疑問

最後に、決算期の変更を具体的に検討されている経営者の皆様から、私たちが特によくお受けする、専門的なご質問とその回答を、Q&A形式でまとめました。

Q1. 決算期の変更は、年に何回でもできますか?

A1. 法律上、決算期変更の回数に制限はありません。株主総会で特別決議さえ行えば、年に複数回変更することも、理論上は可能です。しかし、その都度、変則的な決算と申告が必要となり、経理処理が非常に煩雑になります。また、あまりに頻繁な決算期の変更は、金融機関や税務署から「利益操作を行っているのではないか?」といった、あらぬ疑念を抱かれる原因ともなりかねません。正当な経営上の理由なく、頻繁に変更することは、お勧めできません。

Q2. 事業年度を、1年以上に延長することはできますか?

A2. はい、可能です。会社法では、事業年度は1年を超えることができない、と定められていますが、定款を変更することで、例外的に、設立第1期目や、事業年度を変更した期に限り、最長で「1年6ヶ月」まで、事業年度を延長することができます。

これは、例えば、設立直後に大きな赤字が見込まれ、その後の黒字と相殺したい場合や、事務負担を軽減するために、最初の決算までの期間を、できるだけ長く取りたい、といった場合に有効な戦略です。ただし、この場合、消費税の免税期間の判定などが、通常と異なるため、専門家との慎重な検討が不可欠です。

Q3. 決算期を変更すると、消費税の免税期間に、何か影響はありますか?

A3. はい、影響があります。そして、これは非常に重要なポイントです。

新設法人の消費税の免税期間は、「設立第1期」と「設立第2期」です。もし、あなたが、決算期を変更し、設立第1期の事業年度を、7ヶ月以下にしてしまった場合。

第2期の納税義務の判定において、「特定期間(第1期の開始日から6ヶ月間)」の売上・給与での判定に加えて、「第1期(7ヶ月以下)の課税売上高」が1,000万円を超えているか、という、別の判定基準が適用されることになります。

つまり、設立直後から、急激に売上が伸びる事業の場合、安易に第1期を短く設定すると、本来であれば2年間受けられたはずの、消費税の免税メリットを、わずか1年で失ってしまう、という手痛い結果を招く可能性があるのです。

Q4. 決算期変更の届出を、税務署などに出し忘れると、どうなりますか?

A4. 決算期が変更されたという事実は、株主総会の特別決議によって、法的に確定します。したがって、たとえ税務署への届出が遅れたとしても、変更前の事業年度(例えば3月末)で、決算申告を行うことはできません。

もし、届出を忘れたまま、変更前の事業年度で申告書を提出してしまうと、税務署からは「申告期限が間違っています」と指摘されます。そして、本来の、変更後の決算期(例えば12月末)を基準として、申告期限(2月末)を過ぎていた場合、それは「期限後申告」となり、無申告加算税や、延滞税といった、厳しいペナルティが課せられる可能性があります。株主総会で決議したら、忘れずに、速やかに、異動届出書を提出することが、非常に重要です。

結論:会社の「リズム」は、専門家と共に、戦略的にデザインする

会社の決算期。それは、単なる会計上の区切りではありません。それは、あなたの会社の、一年間の「経営のリズム」そのものです。

そのリズムを、あなたの事業の、最も心地よく、最もパワフルなビートに合わせることで、あなたの会社は、無駄なエネルギーを消耗することなく、より高く、そして、より遠くへと、飛躍することができるのです。

そして、その、会社の未来を左右する、重要な「リズムチェンジ」は、法律、税務、そして、あなたの事業への、深い理解を持つ、プロの「指揮者」と共に、行うべきです。

あなたの会社の「決算期」、本当に、今のままで、ベストですか?

その「区切り」を変えるだけで、あなたの会社に、新たな成長の機会が生まれるかもしれません。
まずは無料相談で、あなたの会社にとっての「最適な決算期」を、私たちと一緒に、見つけましょう。

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