【新規開業資金 vs 新創業融資制度】その決定的な違いと、賢い「組み合わせ方」を税理士が徹底解説

日本政策金融公庫の創業融資を調べ始めたあなたが必ず直面する、2つの似て非なるキーワード。

「新規開業資金」「新創業融資制度」

「いったい、この2つは何がどう違うんだ?」
「どっちの制度に申し込むのが、自分にとって一番有利なんだろうか?」

この創業融資における最大の「謎」とも言える問い。その答えを知っているかいないかで、あなたが受けられる融資の「条件(特に担保や保証人)」は天と地ほどに変わってしまいます。

この記事は、そのあまりにも多くの起業家を混乱させてきた複雑な「制度のパズル」を完璧に解き明かすための究極の「解説書」です。

まず、衝撃の結論からお伝えします。

「新規開業資金」と「新創業融資制度」は、
競合する2つの別々の融資制度ではありません。

「新規開業資金」が融資の土台となる「OS(基本ソフト)」であり、
「新創業融資制度」は、そのOSに「無担保・無保証」という強力な機能を追加する「拡張機能(プラグイン)」なのです。

この本当の関係性を理解すること。それこそが、あなたの創業融資戦略を最適化するための最初で最も重要な一歩です。この記事では、2024年4月の最新の制度改正の内容も踏まえ、この複雑なパズルの全てのピースをあなたにお渡しします。

第1章:【制度の変遷】なぜ、これほどまでに分かりにくいのか?

まず、なぜこれほどまでに多くの人が混乱しているのか。その歴史的な背景からご説明します。

2024年3月まで:
かつて「新創業融資制度」は、「新規開業資金」などとは独立した一つの融資制度として存在していました。しかしその実態は、昔から「新規開業資金」などの他の制度と組み合わせて「無担保・無保証」の特例を適用するための制度として運用されていました。

2024年4月1日~:制度の大改正
この分かりにくかった実態を法律が正式に追認しました。2024年4月1日の制度改正により、「新創業融資制度」という単独の制度の名称は廃止されました。

そして、その「無担保・無保証」で借りられるという最も重要な機能だけが抜き出され、「新規開業資金」や「中小企業経営力強化資金」といったベースとなる融資制度の「特例措置」として正式に組み込まれたのです。

つまり現在、私たちが俗に「新創業融資制度」と呼んでいるものは、正確には「新規開業資金(などのベース制度)に付帯する『新創業融資の特例』」のことを指しているのです。

第2章:【徹底解剖】「新規開業資金(OS)」と「新創業融資の特例(拡張機能)」

それでは、この「OS」と「拡張機能」のそれぞれのスペックと役割を詳しく見ていきましょう。

「OS」と「拡張機能」のスペック比較

① 新規開業資金 (OS) ② 新創業融資の特例 (拡張機能)
役割 融資制度の「本体」。
限度額や期間を定める。
OSに「無担保・無保証」の機能を追加する。
担保・保証人 原則として必要 原則として不要
必須要件 創業7年以内であること 等 「自己資金10分の1」が必須
(※2024年改正で「2期目」まで対象拡大)
融資限度額 7,200万円 (特例適用時は 3,000万円

①「新規開業資金」― 全ての基本となる「OS」

これは国が新たに事業を始める人や始めて間もない人を幅広く支援するためのベースとなる融資制度本体です。

「OS」の基本スペック

  • 対象者:新たに事業を始める方、または事業開始後おおむね7年以内の方。
  • 融資限度額:7,200万円(うち運転資金は4,800万円)。
  • 返済期間:設備資金 20年以内、運転資金 7年以内(据置期間最大2年)。
  • 金利:日本政策金融公庫が定める「基準利率」が適用される。
  • 担保・保証人:これが最も重要です。この「OS」単体では、原則としてあなたの返済能力や財務状況に応じて「担保」や「代表者個人の連帯保証」が求められます。

②「新創業融資の特例」― 最強の「拡張機能(プラグイン)」

そして、この「担保・保証人が原則必要」というOSのデフォルト設定を上書きし無力化するための最強の「拡張機能」が、この「新創業融資の特例」です。

「拡張機能」の効果
この特例を適用することで、あなたは「無担保」かつ「無保証人(代表者個人の連帯保証が不要)」という、起業家にとって最も安全で有利な条件で融資を受けることが可能になります。

この「拡張機能」をインストールするための追加要件
ただし、この強力な拡張機能は誰でも使えるわけではありません。以下の3つの追加要件を全て満たす必要があります。

  1. 創業要件:新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を2期終えていない方であること。
  2. 自己資金要件:これが最大のハードルです。創業時において創業資金総額の「10分の1以上」の自己資金を、通帳の履歴などで客観的に確認できること。
  3. 融資限度額:この特例を適用する場合、融資の上限額はベース制度の7,200万円ではなく、「3,000万円(うち運転資金は1,500万円)」へと引き下げられます。

第3章:【戦略的選択】あなたの進むべき「ルート」はどれか?

このOSと拡張機能の関係性を理解したあなたは、今、自らの状況に応じて3つの異なる「融資戦略ルート」を選択することができます。

あなたの状況別「融資戦略」3つのルート

ルート 組み合わせ 必須条件 メリット / デメリット
A (王道) 新規開業資金 + 特例 自己資金 1/10 【◎】無担保・無保証
B (実力行使) 新規開業資金 のみ (自己資金要件なし) 【×】代表者保証が必須
C (専門家) 経営力強化資金 + 特例 認定支援機関の関与 【◎】自己資金要件が撤廃
【◎】さらに低金利

ルートA:【王道】「新規開業資金」+「新創業融資の特例」で申し込む

概要:「新規開業資金」をベース制度として申し込み、かつ「新創業融資の特例」の全ての要件を満たすことで、「無担保・無保証」を勝ち取る最も標準的で王道と言えるルートです。

  • メリット:経営者個人のリスクをゼロにできる。
  • 必須条件:「自己資金10分の1」の壁を通帳の履歴などで完璧に証明できること。
  • 向いている人:計画的に自己資金を準備してきた全ての堅実な創業者。

ルートB:【実力行使】「新規開業資金」のみ(特例なし)で申し込む

概要:「自己資金の準備は少し足りない。あるいは通帳の履歴で証明するのが難しい。しかし私にはそれを補って余りある強みがある」。そう考えるあなたが、あえて「新創業融資の特例」を使わずにベースの「新規開業資金」のみで勝負するルートです。

  • メリット:「自己資金10分の1」という厳格な要件が適用されない。(※ただし自己資金がゼロで通るという意味では決してありません。あくまで総合判断となります)
  • デメリット(覚悟すべきこと):原則通り「担保」または「代表者個人の連帯保証」が必須となります。あなたは会社の借金を個人として背負うというリスクを受け入れることになります。
  • 向いている人:自己資金は不足気味だが、それを補うだけの「圧倒的な事業経験」がある(例えば同業種で10年以上の役員経験があるなど)。あるいは「物的担保(不動産など)」を提供できるシニア起業家など。

ルートC:【専門家】「中小企業経営力強化資金」+「新創業融資の特例」で申し込む

概要:ベースのOSを「新規開業資金」よりもさらに強力な「中小企業経営力強化資金」に切り替え、それに「新創業融資の特例」を組み合わせるプロフェッショナルなルートです。

  • メリット:
    1. 自己資金要件が撤廃される:この制度を利用する場合、「自己資金10分の1」という新創業融資の特例の要件が適用されなくなります。(ただし自己資金が全く不要という意味ではなく、審査における重要な評価項目であることには変わりません)
    2. 金利がさらに低くなる:「新規開業資金」の特別利率よりもさらに一段階低い金利が適用されます。
  • 必須条件:この制度を利用するためには、国から認定を受けた「認定経営革新等支援機関」(私たち荒川会計事務所もその一つです)があなたの事業計画の策定を支援し、その計画書に署名押印することが絶対条件となります。
  • 向いている人:自己資金の見せ方に不安がある、あるいはとにかく最高の金利条件を勝ち取りたいと考える戦略的な起業家。

第4章:【FAQ】「公庫融資制度」に関する一歩進んだ疑問

最後に、これらの制度の組み合わせについてさらに深く検討されている起業家の皆様から、私たちが特によくお受けする専門的なご質問とその回答をQ&A形式でまとめました。

Q1. 結局、創業計画書の様式(フォーマット)はどれを使えば良いですか?

A1. どのルートで申し込む場合でも、使用する創業計画書の様式は基本的には同じです。日本政策金融公庫のウェブサイトで「国民生活事業」の「創業」の様式として公開されている標準のフォーマットを使用します。

あなたが作成したその一枚の事業計画書を審査官が読み解き、「この申請者は『新規開業資金』の要件を満たし、かつ『新創業融資の特例』の要件(自己資金など)も満たしているな」と判断すれば、自動的にその組み合わせが適用されるという流れになります。

Q2. 「10分の1」の自己資金がどうしても足りません。本当に、もう無理ですか?

A2. いいえ、諦めるのはまだ早いです。そのための解決策が2つあります。

  1. ルートB(実力行使ルート)を選ぶ:自己資金の不足を補って余りある圧倒的な「事業経験」や「担保」を提供し、「新創業融資の特例(無担保・無保証)」を使わずにあえて「代表者保証」を差し入れることで融資の承認を勝ち取る。
  2. ルートC(専門家ルート)を選ぶ:私たち認定支援機関とタッグを組み、「中小企業経営力強化資金」として申し込むことで、この厳格な「自己資金10分の1」要件の適用そのものを回避する。

どちらの戦略を取るべきか。それはあなたの現在の手持ちのカード(経験、資金、専門家との繋がり)によって変わってきます。

Q3. 「新創業融資の特例」の融資限度額は3,000万円とありますが、本当にそんなに借りられるのですか?

A3. 3,000万円はあくまで制度上の理論的な「上限枠」です。創業期の起業家が最初からこの上限額満額の融資を引き出すことは極めて稀です。

現実的な融資実行額は、あなたの「自己資金の額」「必要な資金(設備資金+運転資金)の合計額」によって大きく左右されます。

一般的に、創業融資の一つの目安は「自己資金の2倍~3倍程度」と言われています。もしあなたが300万円の自己資金を準備しているのであれば、600万円~900万円が、一つの現実的な融資目標額となってくるでしょう。

Q4. 2024年4月の改正で、結局創業者にとって何が一番変わったのですか?

A4. 非常に重要なご質問です。今回の改正で創業者にとって最も大きな変更点は、「新創業融資の特例」の適用対象が拡大されたことです。

改正前は、「新創業融資制度」は原則として、「新たに事業を始める方」または「事業開始後、税務申告を1期終えていない方」が対象でした。

しかし改正後は、「新創業融資の特例」としてその対象が「事業開始後、税務申告を2期終えていない方」へと拡大されました。

これは何を意味するのでしょうか。

【朗報】2024年4月改正の最大のポイント

制度(特例) 2024年3月まで 2024年4月以降
「無担保・無保証」
の対象期間
創業前 ~ 1期目申告完了まで 創業前 ~ 2期目申告完了まで
戦略的メリット - 設立2年目の企業も「追加融資」で無保証特例を使いやすくなった。

プロの視点:
これは設立2期目の決算を終えたばかりのスタートアップ企業にとって非常に大きな朗報です。

改正前は、2期目の決算書(申告書)を提出した瞬間、あなたはもう「新創業融資制度」を利用できなくなり、次の追加融資のハードルが一気に上がっていました。

しかし改正後は、2期目の決算申告を終え、その2期分の実績(たとえそれがまだ赤字であったとしても)を携えた上で、改めて「新創業融資の特例」を活用した無担保・無保証の追加融資に挑戦できるという新しい道が開かれたのです。

これは、事業が軌道に乗るまでの「死の谷」を乗り越えるための支援期間が実質的に1年間延長されたという極めてポジティブな変更なのです。

結論:あなたの「融資戦略」は、単なる「制度選び」ではない

「新規開業資金」と「新創業融資の特例」。

この複雑なパズルを解き明かしたあなたは、もうお分かりのはずです。

創業融資とは、単に一つの制度を選ぶという単純な作業ではありません。

それは、

  • あなたの現在の「自己資金」というカード
  • あなたの過去の「事業経験」というカード
  • そして、「専門家(認定支援機関)」という最強のジョーカー

といった、あなたの手持ちのカードをどのように組み合わせて金融機関の審査官に対して最も勝率の高い役(やく)を作り上げ提示するかという、極めて高度な「戦略設計」なのです。

私たち荒川会計事務所は、そのあなたの手持ちのカードを正確に読み解き、あなたの会社の未来にとって最高の勝利の方程式を導き出す戦略パートナーです。

あなたの最強の「融資戦略」、私たちと一緒に設計しませんか?

その複雑な制度のパズルを解き明かし、あなたの未来を切り拓く最高の一手を見つけましょう。
まずは無料相談で、あなたの手持ちのカードを私たちに見せてください。

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記事執筆監修者

荒川会計事務所(経営革新等支援機関(認定支援機関))代表税理士・登録政治資金監査人・行政書士の荒川 一磨です。

    

会社設立と創業融資を得意とし、何でも相談できる話しやすいパートナーであることを心掛けている事務所です。

事務所所在地 〒160-0022 東京都新宿区新宿2-5-16 霞ビル8F

電話番号 0120-016-356

所属 東京税理士会四谷支部・東京行政書士会新宿支部

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