【決算直前】駆け込み節税10選|法令・通達・判例に基づく「否認されない」対策とNG行動【完全版】

「今期は予想以上に利益が出た。このままだと法人税でガッポリ持っていかれる…」

決算月の足音が近づくにつれ、多くの経営者がこの悩みに直面します。 日本の法人税(実効税率)は、中小企業でも約30%〜34%(800万円超の部分)。1,000万円の利益が出れば、約300万円以上がキャッシュアウトします。

「なんとかして経費を積み増して、税金を減らしたい!」

その気持ちは痛いほど分かります。しかし、ここで焦って「いらない高級車を買う」「使わない備品を大量に買う」といった行動に出るのは、経営判断として最悪です。

なぜなら、「税金を減らすために、無駄な現金を使う」ことは、会社の手元資金(体力)を減らす行為そのものだからです。

真の節税とは、「会社の将来に役立つ投資」を行うか、あるいは「手元の現金を減らさずに税金だけを減らす(繰り延べる)」ことです。

この記事では、決算直前(残り1ヶ月〜数日)でも間に合う、効果的かつ合法的な節税テクニックを10個厳選して紹介します。

単なるテクニックの紹介にとどまらず、「租税特別措置法」や「法人税基本通達」、「過去の裁判例」などの法的根拠に基づき、税務調査で否認されないための「証拠の残し方」まで、プロの視点で徹底的に解説します。

第1章:節税を始める前の「大原則」

具体的なテクニックに入る前に、必ず理解しておいていただきたい「節税の基本構造」があります。これを間違うと、節税貧乏になります。

「課税の繰り延べ」と「永久節税」の違い

節税には大きく分けて2つの種類があります。

1. 課税の繰り延べ(時間のズレ)

「今年は経費になるけれど、将来お金が戻ってきた時に税金がかかる」もの。
例:倒産防止共済、生命保険
これはトータルで税金が減るわけではありませんが、「今」の税負担を先送りにし、資金繰りを楽にする効果があります。

2. 永久節税(本当の節税)

「使ったお金が経費になり、二度と課税されない」もの。
例:従業員への決算賞与、30万円未満の備品購入、交際費
これは税金そのものを減らしますが、同時に「現金」も出ていきます。無駄遣いをすれば本末転倒です。

今期の利益対策としてどちらを選択すべきか、会社の資金繰りと相談しながら選んでください。

第2章:【即効性高】今すぐできる駆け込み節税ベスト10

それでは、実務でよく使われる効果的な手法を10個紹介します。それぞれの「法的根拠」と「注意点」を必ず確認してください。

1. 30万円未満の備品購入(少額減価償却資産)

【効果:大 / 難易度:低】

通常、10万円以上の資産は減価償却が必要ですが、青色申告をしている中小企業者(資本金1億円以下、従業員1,000人以下)なら、「1個あたり30万円未満」の資産は、購入した年度に全額経費にできます(年間合計300万円まで)。

【根拠法令】
租税特別措置法 第28条の2、同施行令 第5条の5

具体例:パソコン(25万円)、応接セット、空気清浄機、パッケージソフトウェアなど。
注意点:
・「期末までに納品され、使い始めている(事業の用に供している)」ことが条件です。注文しただけでは経費になりません。
・クラウドサービス(SaaS)の利用料は「役務提供」であり「資産」ではないため、この特例の対象外となる場合があります(令和5年改正)。

2. 決算賞与の支給

【効果:特大 / 難易度:中】

従業員にボーナスを出すことで利益を圧縮します。これには「未払計上(決算後1ヶ月以内の支払い)」でも当期の経費にできるという特例があります。

【根拠通達:法人税基本通達9-2-43】
未払賞与の損金算入要件:
① 決算日までに支給額を各人別に決定していること(総枠のみは不可)
② 決算日までにその金額を「全従業員に通知」していること
③ 決算日の翌月から1ヶ月以内に支払うこと

【判例・裁決リスク】
国税不服審判所 平成28年2月24日裁決では、一部の従業員に通知が到達していなかったことを理由に、賞与全額の損金算入が否認されました。
通知は口頭ではなく、メールやビジネスチャット(LINE WORKS、Chatwork等)、あるいは書面で行い、「いつ通知し、全員がそれを見たか(既読)」の証拠を必ず残してください。

3. 短期前払費用の活用(家賃・保険料の年払い)

【効果:中 / 難易度:低】

地代家賃や生命保険料など、契約に基づき継続的に役務提供を受ける費用を「向こう1年分、前払い」することで、その全額を当期の経費にできます。

【根拠通達:法人税基本通達 2-2-14(短期前払費用)】
支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係る費用は、支払った期の損金とすることができる。

注意点:継続適用の要件
この特例は「継続して適用している場合」に限り認められます。
平成25年11月12日の裁決事例等でも、利益が出た年だけ年払いにし、翌年は月払いに戻すといった恣意的な変更は「租税回避行為」とみなされ否認されています。一度年払いを始めたら、翌年以降も継続する資金体力が必要です。

4. 倒産防止共済(経営セーフティ共済)への加入・前納

【効果:大 / 難易度:低】

掛金(月額最大20万円)を全額経費にできます。さらに「1年分前納」を使えば、最大240万円を一気に経費化できます。

【根拠法令】
中小企業倒産防止共済法(制度の根拠)
租税特別措置法第66条の11(掛金の損金算入)

注意点:
・前納の手続きは中小機構の規程に基づき、決算日までに支払いを完了させる必要があります。
・40ヶ月以上加入しないと元本割れします。
令和6年度改正により、解約後の再加入制限(2年間は経費不可)ができたため、「解約してすぐ再加入」という短期的な節税スキームは封じられました。

5. 不良在庫の処分(廃棄損)

【効果:中 / 難易度:低】

売れる見込みのない在庫を処分すれば、その仕入原価を「商品廃棄損」として経費にできます。

【判例・通達:法人税基本通達 9-1-17、東京高裁 昭和57年12月24日判決】
単に帳簿から消すだけでは認められません。「廃棄した事実」を客観的に証明する必要があります。

実務ポイント:
業者委託の場合:マニフェスト(産業廃棄物管理票)や請求書が強力な証拠になります。
自己廃棄の場合:証明が難しいため、「廃棄する商品の写真(日付入り)」や「廃棄稟議書」を作成し、社内記録を徹底的に残すことが重要です。

6. 固定資産の除却(廃棄・有姿除却)

【効果:中 / 難易度:低】

使っていない古いパソコン、壊れた機械、リフォーム前の内装などを廃棄すれば、帳簿に残っている価値(未償却残高)を全額「固定資産除却損」として経費にできます。

【根拠通達:法人税基本通達 7-7-2(除却損の計上時期)】
除却損は、資産を物理的に廃棄・撤去した事業年度に計上します。

実務ポイント:有姿除却(ゆうしじょきゃく)
物理的に廃棄していなくても、今後使用する可能性がなく、廃棄されることが明らかな状態であれば、「有姿除却」として損金計上が認められる場合があります(法基通7-7-2)。ただし、国税不服審判所の裁決(平成27年4月30日)では、「現存していても価値がないこと」の証明が厳しく求められています。

7. 修繕費の前倒し

【効果:中 / 難易度:中】

来期に予定していたオフィスの壁紙張り替え、社用車の車検や修理、PCのメンテナンスなどを今期中に行います。

【根拠通達:法人税基本通達 7-8-1(修繕費と資本的支出の区分)】
「通常の維持管理、原状回復」のための費用は修繕費(経費)になりますが、資産の価値を高めたり耐久性を増すものは「資本的支出(資産)」として資産計上が必要になります。

注意点:
「期末までに工事が完了(役務提供が終了)」している必要があります。手付金を払っただけでは経費になりません。

8. 広告宣伝費の投入

【効果:中 / 難易度:中】

パンフレットの作成、求人広告の掲載、Webサイトの改修などを行います。ただし、ここは最も誤解が多いポイントです。

【根拠通達:法人税基本通達 2-2-14(貯蔵品)、7-1-2(役務提供)】

注意点:
パンフレット等の「モノ」:期末までに納品され、かつ「配布(使用)を開始」していないと経費になりません(未使用分は「貯蔵品(資産)」となります)。
Web広告など:掲載期間が終了している分のみが経費です。「来月分の広告費を先払い」しても、当期の経費にはなりません。

9. 社員旅行の実施

【効果:大 / 難易度:高】

福利厚生費として認められる範囲内で社員旅行を実施します。

【根拠通達:所得税基本通達 36-30、法人税基本通達 9-7-19】

要件:
① 旅行期間が4泊5日以内(海外の場合は現地滞在日数)
② 参加者が全従業員の50%以上
③ 会社負担額が少額(社会通念上妥当、一般に10万円程度まで)

注意点:
「役員だけで行く旅行」や「不参加者に現金を渡す」ケースは、福利厚生費ではなく給与(賞与)課税されます。

10. 未払費用の計上(締め後の経費)

【効果:小〜中 / 難易度:低】

「今月使ったけど、請求書が来月来て、支払いは再来月」という経費を、漏れなく「未払金」として今期の経費に入れます。

【根拠法令:法人税法第22条第3項(発生主義)、法人税法施行令71条】

実務ポイント:
クレジットカード利用分は、「口座引落日」ではなく「利用日(決済日)」の属する事業年度の経費になります。期末ギリギリのカード決済も、未払計上すれば当期の節税になります。

第3章:絶対にやってはいけないNG行動(脱税・無駄遣い)

節税と脱税は紙一重です。焦るあまり、以下の行動を取ると税務調査で「重加算税」の対象となります。

NG1:領収書・請求書の日付改ざん(バックデート)

決算が終わってから、「先月の日付で請求書を作り直してくれ」と外注先に頼む行為。
→ 完全な脱税(仮装隠蔽)です。
(根拠:国税通則法第68条 重加算税)
税務署はメールの送信履歴や銀行の振込日を確認するため、簡単にバレます。東京地裁 平成21年3月24日判決(架空外注費事件)でも、架空請求や日付改ざんは重加算税の要件を満たすと判断されています。

NG2:納品されていないのに請求書だけもらう(架空計上)

「来月納品だけど、今月納品したことにして請求書だけ先に送って」
→ これも脱税です。
費用収益対応の原則に反します。モノやサービスの提供が完了していない費用は、「前払金」であり経費になりません。

NG3:不要な高級車の購入

「税金を払うくらいならベンツを買おう」
→ 資金繰りを悪化させる愚策です。
全額キャッシュで買ったとしても、減価償却により数年かけて経費になるため、初年度の節税効果は限定的です(※4年落ち中古車を除く)。手元の現金が減るデメリットの方が大きいです。

第4章:【上級編】「投資促進税制」で税額そのものを減らす

ここまでは「利益を減らす(経費を増やす)」方法でしたが、国の政策を利用して「税金そのものを減らす(税額控除)」方法もあります。

中小企業投資促進税制

青色申告をしている中小企業者が、一定の機械装置やソフトウェアなどを購入した場合、取得価額の「30%の特別償却(経費の前倒し)」か、「7%の税額控除(税金から直接引く)」のどちらかを選べます(※資本金3,000万円以下などの要件あり)。

【対象となる資産と取得価額要件】
  • 機械装置:1台または1基の取得価額が160万円以上
  • ソフトウェア:1つの取得価額が70万円以上、または複数合計で70万円以上
  • 貨物自動車(トラック等):車両総重量3.5t以上

【ポイント】
特に「税額控除(7%)」は、経費を増やさずに税金だけを減らせる(利益を減らさないため銀行評価も下がらない)ため、現金を残す効果が非常に高いです。大型の設備投資やシステム導入を考えているなら、この制度が使えるか必ず確認してください。

第5章:税務調査で見られるポイント(専門家チェックリスト)

最後に、節税を実行した際に税務調査でチェックされるポイントを整理します。

  • 納品日 vs 支払日:請求書の日付だけでなく、納品書や検収書の「受領日」が期末までか。
  • サービス提供完了日:コンサル料などは、期末までに役務提供が完了しているか。
  • 契約書の有効性:日付のバックデートや、印紙の貼り忘れがないか。
  • 帳簿の整合性:仕訳の日付と、実際の振込日や証憑の日付に不自然なズレがないか。

第6章:【FAQ】駆け込み節税に関するQ&A(10選)

最後に、決算直前の経営者からよくある質問に回答します。

Q1. クレジットカードで買いました。引き落としは来月ですが、今期の経費になりますか?

A. はい、なります。

クレジットカードは「利用した日(決済日)」の経費になります。引き落とし日は関係ありません。期末日までにカードを切っていれば、未払金として計上し、経費にできます。

Q2. 社長にボーナスを出して利益を消せますか?

A. 「事前確定届出給与」の届出がない限り、原則できません。

役員へのボーナスは、あらかじめ税務署に「いつ・いくら払う」と届け出ていない限り、経費(損金)になりません。思いつきで払っても損金不算入(法人税がかかる)となります。 ただし、「定期同額給与」と「事前確定届出給与」は併用可能ですので、来期に向けて、毎月の報酬とは別にボーナスを設定し、あらかじめ届け出ておくことは有効な節税策となります。

Q3. 商品券を大量に買って経費にできますか?

A. 配布した事実がないと否認されます。

買っただけでは経費にならず「貯蔵品(資産)」です。期末までに取引先に配り、そのリスト(受領証など)があって初めて交際費になります。手元に残っていれば経費になりません。

Q4. Webサイトのリニューアル費用は一括経費ですか?

A. 内容によります。

単なる更新やデザイン変更なら広告宣伝費(一括経費)ですが、EC機能や予約システムなどの「プログラム」を組み込んだ場合、その部分は無形固定資産(ソフトウェア)として5年償却になる可能性があります。

Q5. 消耗品を大量に買いだめしてもいいですか?

A. 常識的な範囲ならOKですが、使いすぎはNGです。

パンフレットや事務用品など、毎年経常的に使うものであれば、購入時に経費にできる特例があります(短期特例)。ただし、数年分をまとめて買うなど異常な量は「貯蔵品」として資産計上を求められます。

Q6. オフィスの家賃を年払いできますか?

A. 契約書を変更すれば可能です。

大家さんと合意し、「年払い契約」に変更する覚書などを交わせば、短期前払費用として処理可能です。ただし、翌年以降も年払いを続ける資金力が必要です。

Q7. 赤字でも節税対策は必要ですか?

A. 税金を減らす必要はありませんが、来期以降のために考えるべきです。

赤字なら法人税はかからないので、無理に経費を作る必要はありません。むしろ、赤字幅を減らして銀行評価を良くすることを優先すべきです。ただし、少額減価償却資産などは赤字でも適用して、将来の黒字と相殺する繰越欠損金を増やす戦略はあり得ます。

Q8. 申告期限を延長して、その間に節税策を考えられますか?

A. いいえ、決算日(期末日)で締め切られています。

申告期限の延長はあくまで「書類作成の猶予」であり、経費になる・ならないの判定日は「期末日」です。期末を過ぎてから打てる対策はありません。

Q9. 友人との飲み代を経費に混ぜてもバレませんか?

A. バレます。絶対にやめましょう。

税務調査では、交際費の相手先や内容を厳しくチェックされます。事業関連性のない支出は否認され、悪質なら重加算税の対象になります。

Q10. 決算対策はいつから始めるべきですか?

A. 決算の3ヶ月前がベストです。

3ヶ月あれば、利益予測の精度が高まり、倒産防止共済の加入や設備投資の検討など、余裕を持って対策を打てます。残り1ヶ月だと選択肢が限られます。

まとめ:税金よりも「キャッシュ」を守れ

節税は重要ですが、あくまで「手段」です。目的は「会社にお金を残し、事業を永続させること」です。

「税金を払いたくない」という一心で、無駄な保険に入ったり、不要な物を買ったりして資金繰りを悪化させては意味がありません。

真に強い会社は、適切に税金を払い、堂々と銀行融資を受け、さらに事業を拡大していきます。

「今の利益だと税金はいくら?」「どの節税策がウチに合っている?」

迷っている方は、ぜひ決算前にご相談ください。私たち荒川会計事務所が、あなたの会社の状況に合わせた最適な着地戦略をシミュレーションいたします。

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記事執筆監修者

荒川会計事務所(経営革新等支援機関(認定支援機関))代表税理士・登録政治資金監査人・行政書士の荒川 一磨です。

    

会社設立と創業融資を得意とし、何でも相談できる話しやすいパートナーであることを心掛けている事務所です。

事務所所在地 〒160-0022 東京都新宿区新宿2-5-16 霞ビル8F

電話番号 0120-016-356

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