【共同経営の創業融資】「連名」申し込みはNG?審査の本当のポイントと成功戦略

起業という孤独で険しい山。その登山に、もしあなたの背中を預けられる信頼できるパートナーがいたらどうでしょうか。

一人は卓越した技術を持ち、一人は天性の営業力を持つ。その二人がタッグを組めば、「1+1」が「10」にも「100」にもなる。

「共同経営」はスタートアップの世界において、まさに成功への最強のフォーメーションの一つです。

そして、その最強のチームで創業融資に臨む。当然、あなたはこう考えるかもしれません。

「二人で申し込むのだから、『連名』で申請するのが筋だろう」
「その方が熱意も伝わるし、審査にも有利に違いない」

しかし、もしそのあなたの「連名で」という発想そのものが、創業融資の審査の本質を全く理解していない「致命的な誤解」だとしたら…?

この記事は、そのあまりにも多くの希望に満ちた共同経営チームが最初につまずく、「申込書の真実」とその裏側に隠された金融機関の「冷徹な視線」を完全に解き明かすための究極の「戦略ガイド」です。

なぜ創業融資に「連名」申し込みは存在しないのか。なぜあなたの「最強のパートナー」が審査官の目には「最大のリスク要因」と映るのか。そして、その全ての疑念を払拭し、あなたたちのチームを融資成功への最強の武器へと変えるための具体的な戦術の全てを、ここに徹底的に公開します。

第1章:【残酷な真実】創業融資に「連名」申し込みは存在しない

まず、あなたのその最初の前提から修正しなければなりません。

日本政策金融公庫であれ、信用保証協会(制度融資)であれ、創業融資の公式な申込書を見てください。

そこには、申込人の名前を書く欄はたった一箇所しかありません。

融資は「法人格(あるいは個人事業主)」という一つの人格に対して行われる

金融機関がお金を貸す相手は、「チーム」という漠然とした集団ではありません。

彼らがお金を貸すのは、法務局に登記された「株式会社〇〇」というたった一つの「法人格(あるいは代表者個人)」だけです。

したがって、創業融資の申込人は、その法人を代表する「代表取締役」ただ一人。これが法律上の絶対的なルールです。「連名」で申し込むという概念そのものが法的に存在しないのです。

では、「共同経営者」は審査に関係ないのか?

「なんだ、じゃあ結局、代表者である自分一人の問題じゃないか」。

そう思ったとしたら、それは第二の、そしてさらに致命的な誤解です。

あなたの問いは、「連名で申し込むべきか?」ではありませんでした。あなたの本当の問いは、こう言い換えるべきなのです。

「申込人は私一人だが、金融機関は私のパートナー(共同経営者)のことを、どのように審査するのか?」

その答えこそが、共同経営での創業融資の全ての鍵を握っています。

第2章:【金融機関の思考】なぜ彼らは「チーム」を最大のリスクと見なすのか?

申込人はあなた一人。しかし融資担当者は、あなたの事業計画書に「共同経営者:B氏」という文字を見つけた瞬間、あなた一人の時とは全く異なる厳格な「審査モード」に入ります。

なぜなら、金融機関は過去の膨大な倒産データから、「創業期の失敗の最大の原因は『人間関係の破綻』である」という冷徹な事実を知り尽くしているからです。

彼らは、あなたの「最強のチーム」を、以下の「3つの時限爆弾」が埋まっていないかという疑いの目で徹底的に解剖します。

金融機関が警戒する「共同経営」3つの地雷

リスク(地雷) 審査官の視点 結末
1. 信用の伝染 パートナーB氏の信用情報に「傷」(延滞など)がある。 チーム全体が「お金にだらしない」と判断され否決。
2. 覚悟の格差 自己資金300万円をA氏が全額出資し、B氏は0円。 リスクを負わないB氏は「離脱が容易」と見なされ、結束力を疑われる。
3. 権力の真空 株式比率が「50%対50%」で、最終決定者がいない。 意見対立時に「デッドロック」に陥るリスクを嫌気され否決。

地雷1:【信用の伝染】―「パートナーの過去」があなたの未来を壊す

審査官の心の声:「代表者のAさん(あなた)の信用情報はクリーンだ。しかし、共同経営者として取締役になるB氏の信用情報(CIC)を取り寄せたところ…なんだこれは。3年前に消費者金融で長期の延滞、『異動』情報(ブラックリスト)が付いているじゃないか。」

これが共同経営の最も恐ろしい罠です。

融資審査では、代表取締役だけでなく経営に実質的に関与する全ての共同経営者(取締役など)の個人信用情報が照会されます。

そして、そのチームの中のたった一人でも信用情報に致命的な「傷」があった場合。それはあたかもウィルスのようにチーム全体に伝染し、「この経営チームは、お金にだらしない人物を中枢に置いている極めて危険な組織だ」と判断され、融資は一発で否決されます。

地雷2:【覚悟の格差】―「自己資金」の不均衡

審査官の心の声:「自己資金は合計300万円。しかし、その内訳は代表のAさんが全額の300万円を出資し、パートナーのB氏は1円も出していない。これは本当の共同経営と言えるのか?金銭的なリスクを一切負っていないB氏は、事業が苦しくなれば真っ先に逃げ出すのではないか?」

自己資金は事業への「覚悟」の証です。その覚悟の大きさに極端なアンバランスがあれば、担当者はそのチームの結束力を強く疑います。

地雷3:【権力の真空】―「50対50」の株式比率

審査官の心の声:「株式比率が50%対50%。友情の証としては美しい。しかし経営としては最悪だ。もし二人の意見が割れたら、この会社は何も決められない『デッドロック』に陥る。そんな船長が二人いる危険な船に大切なお金を貸せるわけがない。」

この、「船長が誰だか分からない」という状態こそが、金融機関が最も嫌う経営体制なのです。

第3章:【戦略的正解】「共同経営」を最強の「武器」に変える5つの戦術

では、どうすればこれらの全ての「地雷」を完全に回避し、あなたたちのチームの力を融資成功への最強の武器へと変えることができるのでしょうか。

その答えは「申込書」にあるのではありません。その前段階の「事業計画書」と「面談」、そして「法務設計」にあります。

戦術1:【透明性の確保】「信用情報」の事前開示

事業計画を語り合う前に。まずお互いの「過去」を正直に共有しましょう。それぞれがCICなどから自身の信用情報を取り寄せ、お互いに開示し合うのです。もしそこに問題があれば、その問題をどう乗り越えるかを最初に話し合う。この勇気ある透明性の確保が信頼の第一歩です。

戦術2:【権力の設計】「最終決定権者」の明確化

安易な「50対50」は絶対に避けます。たとえ1株の差でも良い。必ずどちらかが過半数の株式を保有し、最終的な意思決定の責任を負うという明確な権力構造を設計します。例えば「60対40」や「51対49」といった比率です。

戦術3:【最強の武器】「株主間契約」を締結する

そして、その株式比率や役割分担、報酬ルール、そして万が一袂を分かつことになった場合の「離脱のルール(株式の買取方法など)」まで、全ての起こりうる未来をあらかじめ規定した「株主間契約(そうぎょうしゃかんけいやく)」を締結します。

プロの視点:
創業融資の面談の場で、この専門家(弁護士や税理士)が関与した法的な契約書を提示すること。それこそが、「私たちは単なる仲良しグループではない。破綻リスクまでを想定し、その対策を講じているプロの経営チームです」という、何よりも強力な証明となるのです。

戦術4:【覚悟の共有】「連帯保証」の意思を示す

日本政策金融公庫の創業融資は、条件を満たせば代表者個人の保証さえ不要(新創業融資の特例)にできます。

しかし、共同経営の場合、金融機関から「パートナーの方にも連帯保証人になっていただきたい」と打診されるケースは非常に多いです。

その際、パートナーが「え、私はそこまでの責任は負いたくない…」と難色を示せば、そのチームはその場で崩壊です。

「私たちは二人で一つの運命共同体です。当然二人とも連帯保証人になります」。この揺るぎない覚悟を最初から示せるかどうかが試されます。

戦術5:【面談の共演】「全員で」完璧なプレゼンを行う

申込書は代表者一人でも、面談には必ず共同経営者全員で出席します。

そして、あらかじめ完璧に役割分担を決めておくのです。

  • 「事業のビジョンと収益計画については、CEOの私からご説明します」
  • 「その収益計画を支える技術的な優位性と開発スケジュールについては、CTOのBからご説明します」

この一糸乱れぬ完璧なプレゼンテーションこそが、「このチームは本物だ」と審査官を確信させる最後の一押しとなるのです。

第4章:【FAQ】「共同経営と融資」に関する一歩進んだ疑問

最後に、共同経営での資金調達を具体的に検討されている起業家の皆様から、私たちが特によくお受けする専門的なご質問とその回答を、Q&A形式でまとめました。

Q1. 創業計画書の「経営者の略歴」の欄は、どう書けば良いですか?

A1. 創業計画書のあの小さなスペースに二人の経歴を書くのは不可能です。

正しい書き方

  1. 計画書本体:代表取締役であるあなたの略歴を簡潔に記載します。
  2. 補足資料(必須):A4一枚で、あなたとパートナーの両方の「詳細な職務経歴書」を作成し添付します。その際、それぞれの「役割分担」と「いかに二人のスキルが補完し合っているか」を明確にアピールする一文を加えます。

Q2. パートナーは役員にはなるが、出資はしません(株式は持たない)。この場合、審査はどうなりますか?

A2. これは地雷2(覚悟の格差)に直結する、非常に注意が必要なパターンです。

金融機関からは、「なぜ経営の中枢に入るのに金銭的なリスクを負わないのか?コミットメントが低いのではないか?」と強く疑われます。

唯一の突破口
そのパートナーが金銭の代わりに「金銭では測れない圧倒的な価値」を提供していることを証明するしかありません。

例えば、「CTOであるBは出資は行いませんが、本事業の核となる特許技術の発明者であり、彼なくしてこの事業は成り立ちません。そのため、彼には株式の代わりにストックオプションを付与し…」といった高度な説明が必要です。

Q3. パートナーが「取締役」ではなく、「従業員」の場合はどうなりますか?

A3. その場合、金融機関の扱いは全く変わります。

そのパートナーはもはや「共同経営者」ではなく、あなたの会社の「重要なキーマン(従業員)」という扱いです。

パートナーの立場の違いによる審査への影響

審査項目 ① 共同経営者 (取締役) ② キーマン (従業員)
信用情報の照会 対象になる 原則、対象外
連帯保証の要求 可能性が「高い」 原則、不要
審査上の位置づけ 経営チームの「リスク」要因
(3つの地雷を審査)
代表者の弱点を補う「資産」
(プラス評価の材料)

審査への影響

  • 信用情報の照会:原則として行われません。(あなたの信用情報だけが審査されます)
  • 連帯保証:原則として求められません。
  • アピールポイント:「経営者の略歴」ではなく「事業計画書」の中で、「私には経験がありませんが、その分野のプロである〇〇氏を従業員として雇用することが内定しています(証拠:雇用契約書(案))」といった形で、あなたの弱点を補うポジティブな材料としてアピールします。

結論:あなたの「友情」を本物の「パートナーシップ」へ

共同経営は結婚に似ています。

そして、創業融資の審査とは、その結婚を社会的に祝福してもらうための最初の儀式です。

その神聖な儀式の場で、「私たちはただ愛し合っているだけです」と情熱だけを語っても、誰も祝福はしてくれません。

彼らが見たいのは、お互いの過去と現在を正直に共有し、未来に起こりうる全ての困難を想定し、それを乗り越えるための具体的な「ルール(株主間契約)」を二人で作り上げたという、成熟した大人としての「覚悟」なのです。

私たち荒川会計事務所は、あなたのその「ビジネス・マリッジ」の最高の立会人です。私たちは、提携する弁護士と共に、あなたのチームが単なる「友情」を超えた、金融機関が安心して未来を託せる最強の「パートナーシップ」となるための、法務・税務・財務の全ての設計をお手伝いします。

その「パートナーシップ」、本当に「最強のチーム」ですか?

融資審査で友情が弱点に変わる前に。
まずは無料相談で、あなたの「共同経営」の形について私たち専門家にご相談ください。

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記事執筆監修者

荒川会計事務所(経営革新等支援機関(認定支援機関))代表税理士・登録政治資金監査人・行政書士の荒川 一磨です。

    

会社設立と創業融資を得意とし、何でも相談できる話しやすいパートナーであることを心掛けている事務所です。

事務所所在地 〒160-0022 東京都新宿区新宿2-5-16 霞ビル8F

電話番号 0120-016-356

所属 東京税理士会四谷支部・東京行政書士会新宿支部

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