「創業時に借りた1,000万円。1年は持つ計画だったのに、半年でもう底をつきそうだ…」
「予想以上に売上が伸びて仕入れ資金が足りない。でも、まだ創業したばかりで追加なんて無理?」
創業期の資金繰りは、計画通りにいかないことの方が一般的です。 しかし、手元の現金(キャッシュ)が尽きれば、たとえ黒字であっても会社は倒産します。
多くの経営者が抱く疑問。 「一度借りたら、返済実績を作るまで(1年くらい)は次は借りられないのでは?」
結論から言えば、それは「半分正解で、半分間違い」です。 何の実績もなく、ただ「計画が甘くて金がなくなりました」と言えば門前払いですが、「正当な理由(売上増など)」と「修正計画」があれば、創業から数ヶ月であっても追加融資は可能です。
この記事では、創業融資を使い切ってしまった際の正しい初動対応、銀行が追加融資を認める「2つのパターン」、そして審査を突破するための資料作成術まで、資金調達に強い税理士が徹底的に解説します。
- 追加融資の目安は「一つの基準として決算書1期分」または「返済実績30%」。
- ただし、「売上急増(前向き)」なら時期を問わず借りられる可能性大。
- 「赤字補填(後ろ向き)」の場合は、経営改善計画書が必須。
- 日本政策金融公庫だけでなく、信用金庫との「協調融資」を狙え。
第1章:原則ルール「追加融資」はいつから頼める?
まず、銀行業界の「常識的な基準」を知っておきましょう。 これを知らずに申し込むと、「常識知らずの経営者」と思われてしまいます。
目安1:最初の決算(1期目)が終わってから
銀行は「実績」を重視します。創業融資は「計画(夢)」に対して貸しましたが、追加融資は「実績(現実)」を見て判断したいと考えます。 したがって、最低でも「最初の決算書」が出来上がったタイミングが、最初の追加融資のチャンスとなります。
目安2:借入金の「3割」を返済してから
これは「折り返し融資」の基準です。 例えば1,000万円借りて、300万円返済し、残高が700万円になった頃。 「300万円返済した実績があるので、また300万円貸して(残高を1,000万円に戻して)」というのは、非常に通りやすい案件です。 期間で言うと、およそ創業から2年〜3年後のイメージです。
【例外】半年以内でも借りられるケース
上記はあくまで原則です。
創業から半年足らずで資金が尽きそうな場合でも、以下の条件を満たせばテーブルに乗ります。
① 売上が計画以上に伸びている(嬉しい悲鳴)
② 突発的な環境変化があった(コロナ級の災害、資材高騰など)
第2章:その資金不足は「前向き」か「後ろ向き」か?
銀行審査の合否を分けるのは、資金が必要な「理由」です。 あなたの資金不足は、以下のどちらでしょうか?
パターンA:前向きな資金(増加運転資金)→ 借りやすい
「予想以上に注文が殺到し、仕入れ代金や外注費の支払いが先行して現金が足りない」 これは「増加運転資金」と呼ばれ、銀行が最も喜ぶ融資案件です。 売上が上がっている証拠(試算表・受注明細)を見せれば、創業直後であっても「商機を逃さないため」として追加融資が認められやすいです。
パターンB:後ろ向きな資金(赤字補填資金)→ 非常に厳しい
「売上が計画通りいかず、経費ばかりかかって現金が減った」 これは単なる「赤字の穴埋め」です。 銀行からすれば、「貸してもまた溶かされるだけ(焼け石に水)」と考えます。 この場合、単に「貸して」と言うだけでは100%断られます。 「なぜ計画が狂ったのか」「どうやって立て直すのか(改善計画)」をセットで提示しなければなりません。
銀行窓口で「運転資金が足りません」とだけ言うのはやめましょう。
「売上増加に伴う仕入資金です(前向き)」なのか「事業計画修正のためのつなぎ資金です(後ろ向き)」なのか、言葉を明確に選んでください。
第3章:審査を突破する「3種の神器」の作り方
追加融資の審査では、創業時のような「熱意」よりも、「数字の整合性」が問われます。 以下の3つの資料が命綱になります。
1. 直近までの「試算表」(鮮度が命)
「決算書はまだできていません」は通用しません。 創業月から先月までの「月次試算表」を必ず提出してください。 これが翌月20日頃までに作成できているかどうかが、「管理能力のある経営者か」の最初のテストになります。 (※試算表が2ヶ月以上遅れている会社には、銀行は怖くて貸せません)
2. 向こう1年の「資金繰り表」(融資の根拠)
「なんとなく足りない」ではなく、「いつ、いくら足りなくなるか」を可視化した表です。 「〇月に現金が底をつきます。今回〇〇万円借りられれば、×月には回収が進み、資金が回り始めます」 というストーリーを、数字で証明する資料です。これがない追加融資申請は、地図を持たずに航海に出るようなものです。
3. 「経営改善計画書」(赤字の場合)
当初計画と実績のズレ(予実差異)の原因を分析し、リカバリー策をまとめた資料です。 ・なぜ売上が未達なのか?(集客不足?成約率低下?) ・経費の無駄遣いはなかったか? ・今後どうやって黒字化するのか?(値上げ?コスト削減?) これらをA4用紙1〜2枚で論理的に説明します。
第4章:どこに申し込む?公庫だけじゃない選択肢
創業融資=日本政策金融公庫(公庫)というイメージが強いですが、追加融資では別のルートも検討すべきです。
1. 日本政策金融公庫(2回目の利用)
最も金利が低く、ハードルも比較的低いです。 ただし、公庫単独での支援には限界があります。創業時に満額借りている場合、「これ以上は民間(銀行)と一緒に支えたい」と言われることが多いです。
2. 信用金庫・信用組合(保証協会付き融資)
追加融資の主戦場はこちらです。 地元の信用金庫に口座を開き、「信用保証協会」の保証付き融資を申し込みます。 保証協会が「保証(借金の肩代わり約束)」をしてくれれば、銀行は安心して貸せます。創業時に公庫しか使っていなかった場合、ここが新たな資金調達源(別枠)になります。
3. 協調融資(公庫 + 信金)
「公庫で300万、信金で300万、あわせて600万」というように、リスクを分担して貸す方法です。 公庫にとっても「民間も貸すなら安心だ」となり、審査が通りやすくなります。 税理士を通じて、公庫と信金の担当者を調整してもらうのがスムーズです。
第5章:どうしても借りられない時の「最終防衛ライン」
努力しても融資が断られた場合、会社を存続させるための次善の策を講じる必要があります。
1. リスケ(返済条件変更)を頼む
「新しいお金」が入ってこないなら、「出ていくお金」を止めるしかありません。 銀行(公庫)にお願いして、「1年間、元本返済をストップ(利息のみ払い)」にしてもらいます。 これにより、毎月のキャッシュアウトが減り、資金繰りが楽になります。 ただし、リスケ中は「新規融資」がほぼ絶望的になるため、あくまで延命措置としての最終手段です。
2. 役員借入金(社長個人の貯金投入)
社長個人の貯金を会社に入れる、または親族から借りて会社に入れる方法です。 銀行と違い審査はありませんが、個人の生活資金まで使い果たすと「共倒れ」になるリスクがあります。
3. 資産の現金化・コスト削減
・保険の解約 ・不要な車両、在庫の売却 ・役員報酬の減額(※期中の減額は税務上の制限があるため注意が必要ですが、背に腹は代えられません) これらを徹底的に行い、現金を捻出します。
第6章:【FAQ】追加融資の実務Q&A(25選)
創業期の資金不足に悩む経営者からの質問に回答します。
Q1. 創業計画書と実績が大きくズレています。怒られますか?
A. 怒られませんが、原因説明は必須です。
計画通りいかないのは銀行も織り込み済みです。重要なのは「なぜズレたか」を分析できているかどうかです。「なんとなく」が一番評価を下げます。
Q2. 税金(消費税・源泉税)を滞納しています。借りられますか?
A. 原則として無理です。
税金の滞納がある状態では、原則として融資は下りません(納税証明書が出せません)。まずは何としても税金を完納してから申し込んでください。
Q3. ノンバンク(ビジネスローン)借りてもいいですか?
A. 絶対におすすめしません。
高金利(10%以上)の借入履歴がつくと、公庫や銀行は「もう後がない会社」と判断し、まともな融資をしてくれなくなります。順序が逆です。
Q4. 「創業融資」の枠はいつまで使えますか?
A. 制度によりますが、公庫なら概ね7年以内です。
「新創業融資制度」などの優遇枠は一定期間使えます。ただし、「創業時の甘い審査」が適用されるのは最初の一回だけと思った方が良いです。2回目は実力(実績)勝負です。
Q5. 試算表は税理士印が必要ですか?
A. 必須ではありませんが、信頼度が上がります。
自社作成のエクセル試算表よりも、会計ソフトから出力し、税理士のチェックが入った試算表の方が、銀行の心証は圧倒的に良いです。
Q6. リスケをするとブラックリストに載りますか?
A. 信用情報機関には載りませんが、銀行内格付は下がります。
他行にバレることは原則ありませんが、リスケをした銀行からの追加融資は当面の間(正常化するまで)ストップします。
Q7. 「協調融資」をお願いすると時間がかかりますか?
A. はい、単独より時間がかかります。
公庫と信金の両方で審査を行うため、1.5ヶ月〜2ヶ月程度見ておく必要があります。資金ショート寸前で申し込んでも間に合いません。
Q8. 社長の個人カードローンで借りて会社に入れるのは?
A. 一時しのぎにはなりますが、評価は下がります。
会社決算書の「役員借入金」が増えること自体は悪くありませんが、社長個人の信用情報に借入過多の記録が残ると、将来的に社長保証付きの融資審査で不利になる可能性があります。
Q9. 追加融資の金利は創業時より高くなりますか?
A. 業績が悪ければ高くなります。
赤字での追加融資の場合、信用リスクが高いと判断され、金利が上がるのが一般的です。逆に業績絶好調なら下がることもあります。
Q10. 面談で「絶対に返せます」と言えば通りますか?
A. 根性論は通用しません。根拠(数字)が必要です。
「頑張ります」ではなく「〇〇という施策で、客単価が〇〇円上がるため、利益が〇〇円出ます」というロジックが必要です。
Q11. 資金使途が「生活費」でも借りられますか?
A. 絶対に借りられません。
事業融資は事業のためにしか使えません。「役員報酬を払う資金」なら通る可能性がありますが、個人的な借金返済や生活費補填のためと言えば即却下です。
Q12. セーフティネット保証などの制度融資は使えますか?
A. 売上が減少しているなら使える可能性があります。
売上減少要件(前年比マイナスなど)を満たせば、保証協会の別枠保証や保証料減免が受けられます。区役所や市役所の商工課で認定書をもらう必要があります。
Q13. 飛び込みで銀行に行ってもいいですか?
A. お勧めしません。紹介か電話予約をすべきです。
飛び込み客は「他で断られた怪しい客」と見られがちです。税理士の紹介や、事前に電話で概要を伝えてから訪問するのがマナーです。
Q14. 赤字でも「減価償却前」なら黒字です。評価されますか?
A. されます。「実質黒字」として扱われます。
銀行はキャッシュフローを見ます。減価償却費を足し戻してプラス(簡易キャッシュフローがプラス)なら、返済能力ありと判断される可能性が高いです。
Q15. 「資本性ローン」は追加融資で使えますか?
A. ハードルは高いですが、挑戦する価値はあります。
公庫の「挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)」は、負債ではなく資本とみなされる有利な融資ですが、高度な事業計画と四半期ごとの報告義務があり、審査は厳しいです。
Q16. 借入申込み金額はいくらにすべき?
A. 「資金繰り表で不足する金額」ピッタリにしてください。
「とりあえず1,000万」といった丼勘定は嫌われます。「向こう半年の資金繰りで500万不足するので、500万お願いします」という整合性が必要です。
Q17. 通帳は見られますか?
A. 隅々まで見られます。
公庫も銀行も、通帳の原本(またはコピー)を必ずチェックします。使途不明な出金、ノンバンクへの支払い、公共料金の引き落とし不能履歴などがないか確認されます。
Q18. 税理士に追加融資のサポートを頼むといくらかかりますか?
A. 成功報酬で融資額の3%〜5%が相場です。
着手金がある場合もあります。顧問契約を結んでいる場合は安くなることもあります。
Q19. 一度断られたら、もう二度と借りられませんか?
A. 半年あけて、状況が改善すれば再申請可能です。
一度否決されると、履歴が残るため直後の再申請は無理ですが、半年(6ヶ月)経過し、決算書や試算表の内容が良くなれば再チャレンジ可能です。
Q20. ファクタリングを利用していますが、審査に影響しますか?
A. マイナスに影響します。
ファクタリング(請求書買取)を利用していることは、決算書や通帳を見れば分かります。「資金繰りが自転車操業である」証拠と見なされ、銀行融資の審査は厳しくなります。
Q21. メインバンクを変えた方が借りやすいですか?
A. 基本的には既存取引行の方が有利です。
新規の銀行は、実績のない会社へのプロパー融資はしません。まずは現在取引のある銀行(または公庫)に相談するのが筋です。
Q22. 売掛金担保融資(ABL)とは何ですか?
A. 売掛金や在庫を担保にお金を借りる方法です。
不動産がなくても借りられる手法ですが、手続きが煩雑で、対応できる銀行が限られます。
Q23. 経営者保証ガイドラインで保証人を外せますか?
A. 追加融資ではハードルが高いですが、交渉の余地はあります。
黒字経営で、法人個人の資産分離ができているなら可能性はあります。ただし、赤字補填の融資では保証を求められるのが一般的です。
Q24. 従業員の解雇を条件に融資されることはありますか?
A. 明示的な条件にはなりませんが、リストラ計画が必要な場合はあります。
人件費が経営を圧迫している場合、改善計画の中に人員整理が含まれていないと「実現可能性が低い」として融資が通らないことはあります。
Q25. 結局、一番大事なのは何ですか?
A. 「現金が尽きる前に動くこと」です。
残高がゼロになってからでは遅すぎます。残高が「月商の1ヶ月分」を切る前に、銀行へ相談に行ってください。
まとめ:諦める前に「資料」を持って相談を
創業融資を使い切ったからといって、道が閉ざされたわけではありません。 銀行は「貸したくない」のではなく、「貸すための理由(根拠)」を求めているのです。
その理由となるのが、正確な試算表であり、緻密な資金繰り表であり、説得力のある経営改善計画書です。 これらを独力で作るのが難しい場合は、専門家の力を借りてください。
「資金繰り表の作り方がわからない」「銀行への説明に同行してほしい」
そのようなお悩みがあれば、ぜひ荒川会計事務所にご相談ください。 創業期の苦しい時期を乗り越え、成長軌道に乗せるための資金調達を全力でサポートいたします。
記事執筆監修者
荒川会計事務所(経営革新等支援機関(認定支援機関))代表税理士・登録政治資金監査人・行政書士の荒川 一磨です。
会社設立と創業融資を得意とし、何でも相談できる話しやすいパートナーであることを心掛けている事務所です。
事務所所在地 〒160-0022 東京都新宿区新宿2-5-16 霞ビル8F
電話番号 0120-016-356
所属 東京税理士会四谷支部・東京行政書士会新宿支部
免責事項
当サイトに掲載されている情報の正確性については万全を期しておりますが、その内容の完全性、正確性、有用性、安全性を保証するものではありません。税法、会社法、各種制度は法改正や行政の解釈変更等により、コンテンツ作成日時点の情報から変更されている可能性があります。最新の情報については、必ず関係省庁の公式情報をご確認いただくか、専門家にご相談ください。
当サイトに掲載されている内容は、あくまで一般的・抽象的な情報提供を目的としたものであり、特定の個人・法人の状況に即した税務上、法律上、経営上の助言を行うものではありません。具体的な意思決定や行動に際しては、必ず顧問税理士や弁護士等の専門家にご相談のうえ、適切な助言を受けてください。
当サイトの情報を利用したことにより、利用者様に何らかの直接的または間接的な損害が生じた場合であっても、当事務所は一切の責任を負いかねます。当サイトの情報の利用は、利用者様ご自身の判断と責任において行っていただきますようお願い申し上げます。
当サイトに掲載されている文章、画像、その他全てのコンテンツの著作権は、当事務所または正当な権利者に帰属します。法律で認められる範囲を超えて、無断で複製、転用、販売等の二次利用を行うことを固く禁じます。
当サイトからリンクやバナーによって外部サイトに移動された場合、移動先サイトで提供される情報・サービス等について、当事務所は一切の責任を負いません。






