会社設立という、長く、そして複雑な手続きの山。その中で、あなたは、一見すると非常にシンプルで、地味な一枚の書類に行き着きます。
その名は、「就任承諾書」。
多くの方が、「ただ、名前を書いて、ハンコを押すだけの、簡単な書類だろう」と、その重要性を見過ごしてしまいがちです。しかし、この一枚の紙切れは、あなたの会社の設立登記が、法務局で受理されるか、それとも、差し戻されるかを左右する、極めて重要な「法的な誓約書」なのです。
押すべき印鑑は、「実印」ですか?それとも「認印」ですか?
日付は、いつの日付を書けば良いのですか?
住所の書き方を、少しでも間違えたら、どうなりますか?
この書類の作成における、たった一つの、小さなミス。それが、あなたの会社の設立スケジュールを、何日も、あるいは、何週間も、遅延させる原因となり得ます。
この記事は、あなたが、その「たった一つのミス」を犯すことなく、完璧な就任承諾書を作成するための、日本で最も詳しい、完全マニュアルです。その法的な意味から、一字一句の正確な書き方、そして、専門家でなければ、まず間違いなく混乱する、「実印」と「認印」の、複雑な使い分けのルールまで。新宿で、数えきれないほどの会社の登記書類をチェックしてきた私たちが、その全ての知識と、実践的なノウハウを、ここに公開します。
第1章:【本質理解】なぜ、「就任承諾書」は、絶対に必要不可欠なのか?
具体的な書き方に入る前に、まず、なぜ、この書類が、会社設立登記において、絶対に必要なのか、その法的な理由を理解しましょう。
本人の「意思」を、法的に証明するための、唯一の証拠
会社の「取締役」という役職は、会社の経営を担う、非常に重い責任を伴う地位です。会社法は、誰かが、その人の知らないうちに、勝手に、会社の取締役にされてしまう、といった事態を防ぐために、「取締役に就任するためには、その本人が、明確に『就任することを、承諾した』という意思表示が必要である」と定めています。
そして、「就任承諾書」とは、まさに、その「私は、この会社の取締役に就任することを、確かに承諾しました」という、本人の自由な意思を、法務局に対して、客観的に証明するための、唯一無二の「証拠書類」なのです。
この書類がなければ、法務局は、「本当に、この人が、取締役になることを、承諾しているのか、確認できない」ため、登記申請を、受理することができません。それは、口約束だけでは、家を売買できないのと同じ、法治国家の、基本的なルールなのです。
第2章:【雛形付き】完璧な「就任承諾書」の書き方、完全ガイド
それでは、具体的な書き方を、そのまま使える雛形(テンプレート)と共に、解説していきます。
就任承諾書(雛形)
就 任 承 諾 書
私は、令和〇年〇月〇日開催の貴社設立時発起人会(または、設立時取締役の互選)において、貴社の設立時取締役(または、設立時代表取締役)に選定されましたので、その就任を承諾します。
令和〇年〇月〇日
(設立する会社の商号) 御中
(就任する人の住所)
(就任する人の氏名) ㊞
各項目の、一字一句の、正しい書き方
このシンプルな雛形には、それぞれ、厳格なルールが隠されています。
- タイトル「就任承諾書」:これは、このまま記載します。
-
本文:あなたが、いつ、どこで、どの役職に選ばれたかを、正確に記載します。
- 最初の空欄(選定された日):これは、定款で定められた日、あるいは、発起人会で、あなたが取締役に選ばれた日付を記載します。
- 役職名:あなたが就任する役職を、正確に記載します。平の「取締役」であれば「設立時取締役」、会社の代表者である「代表取締役」であれば「設立時代表取締役」となります。一人会社の場合、あなたは、通常「設立時取締役」であり、かつ「設立時代表取締役」となります。
- 日付(承諾した日):【最重要ポイント①】この日付は、あなたが「就任を承諾した日」を記載します。そして、この日付は、法律上、「あなたが取締役に選定された日(本文中の最初の日付)と、同じ日、あるいは、それよりも後の日付」でなければ、絶対にいけません。選ばれる前に、承諾することは、論理的にあり得ないからです。
- 宛名(会社の商号):あなたが設立する、会社の正式名称を、正確に記載します。「株式会社」が前か後かも、間違えないように。
- 住所・氏名:【最重要ポイント②】ここに記載する住所と氏名は、後述する、添付すべき「印鑑証明書」や「本人確認書類」の記載と、ハイフンや、旧漢字、マンションの部屋番号の表記に至るまで、一字一句、完全に、一致している必要があります。少しでも異なると、法務局は、両者が同一人物であると判断できず、補正(修正)の対象となります。
- ㊞(押印):そして、最後に、あなたの印鑑を押印します。この「どの印鑑を押すか」こそが、この書類における、最大の、そして、最も難解な論点です。
第3章:【最大の難関】「実印」か「認印」か?印鑑のルールを、世界一分かりやすく解説
あなたが押すべき印鑑の種類は、あなたの会社が、「取締役会」を設置するか、しないかによって、全く異なります。
ケース1:取締役会を「設置しない」会社の場合(ほとんどの、一人会社・中小企業が該当)
結論:設立時の取締役「全員」が、「実印」を押印し、「印鑑証明書」を添付する必要があります。
なぜか?
取締役会を設置しない会社では、設立時の「代表取締役」は、以下のいずれかの方法で選ばれます。
① 定款で、直接、代表取締役を定める。
② 発起人(創業者)の互選(話し合い)で、定める。
③ 設立時の取締役の互選で、定める。
どの場合においても、その会社の「代表者」を決めるという、極めて重要な意思決定に、設立時の取締役全員が、直接的、あるいは、間接的に関与することになります。
そのため、法務局は、その重要な意思決定を行った、設立時の取締役「全員」が、確かに、その本人であることを、厳格に確認する必要があるのです。そして、その本人確認のための、最も確実な方法が、「個人の実印」の押印と、市区町村が発行する「印鑑証明書」の提出、という組み合わせなのです。
ケース2:取締役会を「設置する」会社の場合
結論:「代表取締役」に選ばれた人だけが、「実印」を押印し、「印鑑証明書」を添付します。それ以外の、平の取締役は、「認印」でOKです。
なぜか?
取締役会を設置する会社(取締役が3名以上必要)では、設立時の「代表取締役」は、設立時の取締役たちが集まって開く「設立時取締役会」の決議によって、選定されます。
この場合、法務局が、本人確認を最も厳格に行うべき対象は、会社の最終的な代表権を持つ「代表取締役」一人に、絞られます。そのため、代表取締役に選ばれた人については、実印と印鑑証明書による、厳格な本人確認が求められますが、それ以外の取締役については、そこまでの厳格な確認は不要とされ、認印での押印が認められているのです。
プロの視点:代表取締役は、2つの役職を兼ねる
「代表取締役」に選ばれたあなたは、「平の取締役」であり、かつ、「会社の代表者」という、2つの地位を兼ねることになります。
そのため、実務上は、
- 「設立時取締役」としての就任承諾書
- 「設立時代表取締役」としての就任承諾書
という、2通の書類が必要になるように思えます。しかし、通常は、これを1通にまとめ、「私は、…設立時取締役に選定されましたので、その就任を承諾します。また、同会において、設立時代表取締役に選定されましたので、その就任を承諾します。」といった形で、一枚の書類で済ませることが一般的です。
第4章:【失敗回避】登記でNGとなる、5つの致命的なミス
最後に、私たちが、ご自身で設立された方の書類を拝見する際に、よく見かける、登記申請で「補正(修正)」の対象となってしまう、典型的なミスをご紹介します。
- ミス1:日付の矛盾
承諾した日付が、取締役に選任された日付よりも「前」になっている。 - ミス2:住所・氏名の不一致
印鑑証明書の住所は「東京都新宿区新宿一丁目2番3号」なのに、就任承諾書には「東京都新宿区新宿1-2-3」と、ハイフンで略して書いてしまっている。 - ミス3:印鑑の間違い
取締役会を設置しない会社なのに、取締役の一人が、実印ではなく、認印を押してしまっている。 - ミス4:印鑑証明書の期限切れ
添付した印鑑証明書が、発行後3ヶ月を、一日でも過ぎてしまっている。 - ミス5:就任承諾書の「援用」の誤解
実は、定款の末尾に、「設立時の役員は、以下の者とする」と記載し、その横に、本人が実印を押印することで、就任承諾書そのものを、省略する「援用」というテクニックがあります。しかし、この方法は、法的な要件が非常に厳格であり、少しでも記載を誤ると、承諾の事実が認められず、結局、後から、就任承諾書を、作り直す羽目になります。安全を期すなら、必ず、別の書類として、就任承諾書を作成することをお勧めします。
結論:その一枚の紙に、あなたの会社の「信頼」が宿る
「就任承諾書」。それは、あなたの会社の、最初の、そして、最も重要な、人事に関する「公式文書」です。
この一枚の紙を、法律のルールに則って、完璧に作成できるかどうか。それは、あなたが、会社の代表として、法的な義務を、きちんと果たせる、信頼に足る人物であるかどうかを、法務局という国の機関が、最初にテストする、小さな、しかし、重要な「試験」なのです。
私たち荒川会計事務所は、提携する司法書士と共に、この、あなたの会社の「最初の試験」を、あなたが、満点で、そして、何のストレスもなく、クリアするためのお手伝いをします。
あなたは、複雑な法律のルールを、一つひとつ、覚える必要はありません。あなたは、ただ、あなたの事業の成功という、最も重要な目標に、集中してください。
会社の設立、面倒な書類仕事で、つまずいていませんか?
その一枚の書類の不備が、あなたの会社の船出を、遅らせてしまいます。
専門家と一緒に、完璧な準備で、最高のスタートを切りましょう。
免責事項
当サイトに掲載されている情報の正確性については万全を期しておりますが、その内容の完全性、正確性、有用性、安全性を保証するものではありません。税法、会社法、各種制度は法改正や行政の解釈変更等により、コンテンツ作成日時点の情報から変更されている可能性があります。最新の情報については、必ず関係省庁の公式情報をご確認いただくか、専門家にご相談ください。
当サイトに掲載されている内容は、あくまで一般的・抽象的な情報提供を目的としたものであり、特定の個人・法人の状況に即した税務上、法律上、経営上の助言を行うものではありません。具体的な意思決定や行動に際しては、必ず顧問税理士や弁護士等の専門家にご相談のうえ、適切な助言を受けてください。
当サイトの情報を利用したことにより、利用者様に何らかの直接的または間接的な損害が生じた場合であっても、当事務所は一切の責任を負いかねます。当サイトの情報の利用は、利用者様ご自身の判断と責任において行っていただきますようお願い申し上げます。
当サイトに掲載されている文章、画像、その他全てのコンテンツの著作権は、当事務所または正当な権利者に帰属します。法律で認められる範囲を超えて、無断で複製、転用、販売等の二次利用を行うことを固く禁じます。
当サイトからリンクやバナーによって外部サイトに移動された場合、移動先サイトで提供される情報・サービス等について、当事務所は一切の責任を負いません。






