創業融資の申し込みを決意したあなた。その手には今、日本政策金融公庫から取り寄せた一枚の、しかしあなたの未来の全てが詰まった真っ白な用紙があるはずです。
その名は「創業計画書」。
それは単なる事業のアイデアを書き連ねるためのアンケート用紙ではありません。それは、あなたのこれまでの人生の「棚卸し」であり、未来への「設計図」であり、そして何よりも、金融機関という百戦錬磨のプロの投資家に対してあなたの事業の価値を初めて問う、人生最初で最も重要な「プレゼンテーション資料」なのです。
「このたった数枚の紙で、本当に自分の情熱が伝わるのだろうか?」
「融資担当者は、この計画書のいったいどこをどのように見ているのだろうか?」
この記事は、そのあなたの根源的な不安を確固たる自信へと変えるための、究極の「審査官ハックマニュアル」です。私たちは単に「書き方」を教えるだけではありません。融資担当者があなたの計画書を手に取ったその最初の30秒で何を考え、次にどの項目に目を移し、そして最終的に「この起業家になら貸せる」と判断するに至る、その「思考のプロセス」そのものを完全に解き明かしていきます。
新宿で数えきれないほどの創業計画書を融資成功へと導いてきた私たちが、その全てのノウハウと審査の舞台裏をここに徹底的に公開します。
第1章:【審査官の思考】彼らが探しているのは「夢」ではなく「返済の確実性」
まず最も重要な大原則を心に刻んでください。日本政策金融公庫の融資担当者の唯一の仕事は「素晴らしい夢を応援すること」ではありません。彼らの絶対的な使命は、「貸したお金(公的な資金)が、将来きちんと利息と共に返済されるかどうか、その『リスク』をあらゆる角度から徹底的に見極めること」です。
彼らは、あなたの創業計画書を以下の極めてシンプルな一つの問いを通して読んでいます。
「この計画は絵に描いた餅ではなく、本当に返済の原資となる『利益』を生み出すことができるのか?」
そして、その問いに答えるための最も重要な「3つの証拠」こそが、彼らがあなたの計画書の中で最も時間をかけて、そして最も鋭い視線で精査する最重要項目なのです。
第2章:【最重要3項目】審査の9割を決める運命のトライアングル
創業計画書には多くの項目がありますが、その中でも以下の3つの項目があなたの融資の成否を9割方決定づけると言っても過言ではありません。
審査の9割を決める「運命のトライアングル」
| 最重要項目 | 審査官が確認する「証拠」 |
|---|---|
| 1. 創業の動機 / 経営者の略歴 | 【経験】 → 「本当にこの事業を成功させられるか?」 |
| 2. 必要な資金と調達方法 | 【覚悟】 → 「自己資金(通帳)は本物か?計画性は十分か?」 |
| 3. 事業の見通し(収支計画) | 【返済能力】 → 「利益で生活費と返済を賄えるか?」 |
最重要項目①:「1 創業の動機」と「2 経営者の略歴等」― あなたは、この事業を成功させる資格があるか?
審査官の心の声:「なぜこの人はこの事業をやりたいのか?そして、もっと重要なのは、なぜこの人でなければならないのか?この事業を成功させるだけの『経験』と『能力』を本当に持っているのだろうか?」
創業融資は実績のない未来への投資です。その不確かな未来を担保する唯一の、そして最強の「資産」。それが経営者であるあなた自身の「過去(経験)」なのです。
素人が陥る罠
「長年の夢だったカフェを開きたい。お客様が笑顔になれる温かい空間を作りたい」といった情熱だけの抽象的な作文に終始してしまう。
プロが描く勝てるストーリー
「私は大手カフェチェーン『〇〇コーヒー』で10年間勤務してまいりました。最初の5年間は店舗スタッフとして接客と調理の基本を学び、後半の5年間は新宿エリアの旗艦店の店長として月商1,000万円の店舗のP/L管理を5年間担当。特にアルバイトスタッフの定着率をエリア平均の50%から80%へ改善し人件費率を2%削減した実績があります。またバリスタとして国際資格である〇〇を取得しており品質の高いコーヒーを提供する専門技術を有しています。この10年間の『経営管理能力』と『専門技術』の経験こそが、私がこの事業を成功へと導ける最大の根拠です。」
書くべきことのチェックリスト
- 事業との関連性:あなたの過去の職歴や経験が、これから始める事業といかに直接的に結びついているか。
- 具体的な実績:「頑張りました」ではなく、「売上を〇%向上させた」「コストを〇%削減した」「〇〇人のマネジメント経験がある」といった具体的な「数字」であなたの能力を証明する。
- 保有資格・スキル:事業に関連する全ての資格(例えば飲食店なら調理師免許・食品衛生責任者、不動産業なら宅建士など)を漏れなく記載する。
最重要項目②:「7 必要な資金と調達方法」― あなたの「計画性」と「覚悟」は本物か?
審査官の心の声:「この事業を始めるのに一体何にいくら必要なのか正確に把握できているか?そして、そのうちどれだけを自らの『リスク』で準備してきたのか?」
この項目は、あなたの経営者としての「計数管理能力」と事業への「本気度」を同時に測るための極めて重要なリトマス試験紙です。
「必要な資金(左側)」で見られていること
ここは「どんぶり勘定」が最も許されない場所です。
- 設備資金:店舗の保証金、内装工事費、厨房機器、PC、事業用車両など。全ての項目について、その金額の客観的な根拠となる「見積書」を必ず添付しなければなりません。
- 運転資金:「開業当初の売上が安定するまでの会社の体力を維持するためのお金」です。家賃、人件費、仕入費、広告宣伝費、水道光熱費といった月々の経費を正確に算出し、その最低でも「3ヶ月分」、堅実な経営者なら「6ヶ月分」を計上します。なぜその期間が必要なのか、論理的に説明できる必要があります。
「調達の方法(右側)」で見られていること
左側で算出した必要な資金の合計額を、どのようなお金で賄うのか。その内訳です。
- 自己資金:ここが最重要です。あなたの事業への「覚悟」を示す金額です。多ければ多いほど評価は高まります。そして、そのお金の「出所」を、前述の通りコツコツと貯めてきたことが分かる「通帳の履歴」で完璧に証明する必要があります。
- 親、兄弟、知人等からの借入:もしここがあるのであれば、そのお金が返済義務のある「借金」なのか返済不要の「贈与」なのかを明確にする必要があります。「贈与」であれば、それを証明する「贈与契約書」の添付が不可欠です。
- 日本政策金融公庫からの借入:ここがあなたの「融資希望額」となります。この金額は「必要な資金の合計額」から「自己資金」などを差し引いた差額となるのが論理的です。
最重要項目③:「8 事業の見通し」― あなたは本当に借金を返せるのか?
審査官の心の声:「素晴らしい計画だ。しかしこの計画で本当に利益は出るのか?そして、その利益は社長自身の生活費と私たちの融資への返済額を十分に賄えるだけの大きさがあるのか?」
ここがあなたの事業計画の心臓部であり、審査官が最終的な「GO/NO-GO」を判断するクライマックスです。
「売上高」とその「根拠」
「希望的観測」は一発で見抜かれます。「客単価 × 席数 × 回転数 × 稼働率 × 営業日数」といった具体的な計算式でロジカルに、そして少し保守的に算出します。なぜその客単価が設定できるのか。なぜその稼働率が見込めるのか。その全ての数字の「根拠」を市場調査や競合分析のデータと共に明確に記述する必要があります。
「売上原価(仕入高)」と「経費」
飲食店の食材原価率や小売店の仕入原価率など、業界の標準的な数値を参考にしながら現実的な数値を設定します。人件費、家賃、水道光熱費、広告宣伝費、そして融資の支払利息まで、全ての経費を漏れなく計上します。
「利益」― 返済の唯一の源泉
そして「売上高 - 売上原価 - 経費」で算出された最終的な「利益」。この数字こそがあなたの返済能力を示す唯一の、そして絶対的な指標です。
審査官は頭の中で簡単な計算をします。
「この利益で、社長自身の最低限の生活費(役員報酬)を賄った上で、さらに毎月の融資の返済額(元金+利息)を余裕をもって支払うことができるか?」
この最後の問いに、あなたの事業計画書が明確な「YES」を数字で示せていなければ、あなたの融資は決して承認されることはないのです。
第3章:【脇役たちの重要性】物語に深みと一貫性を持たせる
上記の3項目が主役であることは間違いありません。しかし、脇を固める他の項目が杜撰であれば、物語全体の信頼性が揺らぎます。
- 3 取扱商品・サービス:あなたの商品・サービスの「強み」と「弱み」を客観的に分析できていますか?「セールスポイント」の欄に、競合他社にはない明確な「差別化要因」を具体的に書けていますか?
- 4 取引先・取引関係等:あなたの「販売先」や「仕入先」は具体的ですか?もしすでに取引の約束や内諾を得ている企業があれば、その名前を具体的に記載することで計画の実現可能性は飛躍的に高まります。
- 5 従業員:従業員の雇用計画はありますか?その採用計画と人件費の見積もりは事業の見通しと整合性が取れていますか?
- 6 お借入の状況:あなた個人の住宅ローンや自動車ローンなどの既存の借入状況を正直に記載していますか?ここで虚偽の記載をすれば、信用情報との照会で一発でバレます。
第4章:【FAQ】「創業計画書」作成に関する一歩進んだ疑問
最後に、創業計画書の作成で多くの起業家が悩む、より具体的な疑問とその回答をQ&A形式でまとめました。
Q1. 「事業の見通し」の売上計画は強気で書くべきですか?それとも控えめに書くべきですか?
A1. 答えは、「希望的観測を排除した、達成可能な現実的な計画(ベースプラン)をまず立てる。その上で、ストレッチな(挑戦的な)目標(アップサイドプラン)を別枠で語る」です。
計画書の「月平均の売上高」の欄には、具体的な根拠に基づいた、誰が見ても「これなら達成できそうだ」と思える堅実な数字を記載すべきです。ここで根拠のない過大な数字を書いてしまうと計画全体の信頼性が失われます。
売上計画の「2段階」アピール術
| 計画 | 目的 | 記載場所 |
|---|---|---|
| ① ベースプラン | 「堅実性」「リスク管理能力」をアピール | 計画書本体(8. 事業の見通し) |
| ② ストレッチプラン | 「将来性」「大きなビジョン」をアピール | 補足資料(別紙) |
この「堅実な現実主義者」としての一面と「大きな夢を追う情熱的な起業家」としての一面の両方を使い分けることで、あなたの評価は最大化されます。
Q2. 創業計画書は手書きとパソコン作成、どちらが良いですか?
A2. 結論から言うと、どちらでも審査の有利不利に直接的な影響はありません。重要なのはその「中身」です。
ただし、現代のビジネス環境を考えれば、私たちはパソコンでの作成を強く推奨します。その理由は以下の通りです。
- 修正が容易:事業計画は一度で完成するものではありません。何度も数値のシミュレーションを繰り返したり、文章を推敲したりする必要があります。パソコン(ExcelやWord)であればこれらの修正が極めて容易です。
- プロフェッショナルな印象:整然とレイアウトされ誤字脱字のないパソコンで作成された書類は、それ自体があなたのビジネスパーソンとしての基本的な能力と丁寧な仕事ぶりを示します。
- 補足資料の添付:グラフや市場調査のデータ、店舗のレイアウト図といった視覚的な補足資料を簡単に作成し、計画書本体と統一感のある形で添付することができます。
Q3. 計画書は何ページくらいが適切ですか?分厚い方がやる気が伝わりますか?
A3. いいえ、全くそんなことはありません。むしろ逆効果になる可能性さえあります。
融資担当者は毎日何件もの膨大な量の書類に目を通しています。彼らにとって要点がまとまっておらず冗長で分厚いだけの計画書は単なる「苦痛」でしかありません。
重要なのは「量」ではなく「質」と「分かりやすさ」です。
日本政策金融公庫が用意している公式の「創業計画書」のフォーマットはわずか2ページです。まずはこの2ページの中にあなたの計画の全ての要点を簡潔に、しかし説得力をもって凝縮させることに全力を注いでください。
そして、その根拠となる詳細なデータ(見積書、市場調査レポート、資金繰り表など)は全て「補足資料」として別冊で整理して添付する。この「結論ファースト、詳細は別添」という構成が、多忙な担当者に対する最高の思いやりであり、最も賢いプレゼンテーション手法なのです。
Q4. 「6 お借入の状況」に住宅ローンを書くと不利になりますか?
A4. いいえ、正直に記載すれば不利になることはほとんどありません。むしろそれを隠そうとすることの方がはるかに大きなリスクです。
融資担当者はあなたの個人信用情報を照会するため、あなたがどこからいくら借りているかはすでに全て把握しています。ここで虚偽の申告をすれば、あなたは「信頼できない人物」として一発で信用を失います。
重要なのは、その住宅ローンをこれまで一度も遅延することなく計画的に返済し続けてきたという「事実」です。その長年にわたる誠実な「返済実績」は、むしろ「この人は借金に対して真摯に向き合える信頼できる人物だ」という極めてポジティブな評価に繋がるのです。
「個人の借入」審査への影響
| 借入の種類 | 審査への影響 |
|---|---|
| 住宅ローン、自動車ローン | ◎ プラス評価(正常な返済実績は「信用」の証) |
| カードローン、消費者金融 | × マイナス評価(計画性のなさ、資金繰りの悪化懸念) |
| 申告漏れ(隠す) | 一発アウト(「不誠実な人物」として信用ゼロ) |
結論:あなたの「情熱」を、金融機関が唯一理解できる「言語」へ
創業計画書。それはあなたの事業への熱い「情熱」を、金融機関という極めて論理的で保守的な組織が唯一理解できる「言語」、すなわち「客観的な数字」と「矛盾のないロジック」へと翻訳する作業です。
その高度な「翻訳作業」を、あなたがたった一人で完璧に行うことは非常に困難です。
私たち荒川会計事務所は、あなたのその「情熱の言語」の最高の「翻訳家」です。
私たちはあなたのほとばしるアイデアと情熱を、金融機関の心を動かし、そして理性を納得させる完璧な「ビジネスの言語」へと昇華させます。
あなたの「創業計画書」、本当に審査官の心を動かせますか?
そのたった数枚の紙が、あなたの夢の実現を左右します。
まずは無料相談で、あなたの計画書を私たち「融資のプロ」に診断させてください。
記事執筆監修者
荒川会計事務所(経営革新等支援機関(認定支援機関))代表税理士・登録政治資金監査人・行政書士の荒川 一磨です。
会社設立と創業融資を得意とし、何でも相談できる話しやすいパートナーであることを心掛けている事務所です。
事務所所在地 〒160-0022 東京都新宿区新宿2-5-16 霞ビル8F
電話番号 0120-016-356
所属 東京税理士会四谷支部・東京行政書士会新宿支部
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