創業融資の申請準備、その最終盤。あなたは今、日本政策金融公庫の「創業計画書」のある一つの空欄の前で固まっているかもしれません。
「7 必要な資金と調達方法」の中にある「日本政策金融公庫 国民生活事業からの借入」の欄。
ここに、あなたはあなたの事業の未来の運命を左右する、たった一つの「数字」を書き込まなければなりません。
「いくら借りるべきか…?」
この問いは、単なるあなたの「希望」を書くためのものでは決してありません。このたった一つの数字こそが、あなたの経営者としての資質の全て、すなわち「計画性」「リスク管理能力」「事業への解像度」を、金融機関の融資担当者に対して一瞬で丸裸にしてしまう、究極の「踏み絵」なのです。
この記事は、そのあまりにも多くの起業家が致命的な過ちを犯してしまう「希望額」の決定について、あなたに完璧な、そして論理的な答えを授けるための究極の戦略ガイドです。なぜ「少ない方が通りやすいだろう」という臆病な判断が、あなたの融資を一発で否決させるのか。なぜ「多ければ多いほど安心だ」という楽観的な判断が、あなたの経営者としての信用を地に落とすのか。
その全ての審査の舞台裏を、新宿で数えきれないほどの企業の最適な資金計画を設計してきた私たちが、徹底的に、そして具体的に解説していきます。
第1章:【致命的な誤解】「少ない方が通りやすい」という臆病な罠
多くの真面目な起業家ほどこの罠にはまります。「あまり大きな金額を要求すると審査が厳しくなるのではないか」「身の丈に合った控えめな金額にしておこう」。
その謙虚な姿勢は、一見すると美徳のように思えるかもしれません。しかし、金融機関のプロの審査官の目には、その「控えめな数字」は全く別の、そして極めてネガティブなメッセージとして映っています。
融資希望額が「少なすぎる」場合に担当者が抱く3つの深刻な疑念
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【計画性の欠如】「この人は、自分の事業に何が必要か分かっていない」
融資担当者は毎日何十という事業計画書を見ています。彼らは飲食店の開業にはおおよそいくらかかるか、Webサービスの開発には最低でもどれくらいの運転資金が必要かという「相場観」を知り尽くしています。あなたの希望額がその相場観から著しくかけ離れて低い場合。彼らはこう判断します。「この経営者は必要な経費の洗い出しができていない。事業計画が根本から甘い。この計画では融資を実行しても数ヶ月後には必ず資金がショートするだろう。」 -
【覚悟の不足】「この人は、本気でこの事業を成功させる気がない」
事業の成功には適切な「先行投資」が不可欠です。広告宣伝費をケチれば顧客は集まらず、質の低い中古の設備を導入すればすぐに故障し事業はストップします。必要最低限の資金さえ求めないという姿勢は、「この経営者は事業の成功に必要な投資を行う覚悟がない。単なる趣味の延長で考えているのではないか」という本気度への疑念を生みます。 -
【未来のリスク】「この人は、すぐに『追加融資』を求めてくるだろう」
金融機関が最も嫌うのは、計画性のない場当たり的な追加融資の申し込みです。最初に少なすぎる融資を実行し、案の定数ヶ月後に「すみません、お金が足りなくなりました。追加で貸してください」と泣きつかれる。これは担当者にとって最悪のシナリオです。彼らはそのような未来のリスクを最初から回避したいのです。
第2章:【もう一つの致命傷】「多ければ多いほど安心」という楽観的な罠
臆病さの罠とは正反対に、自らの計画への自信に満ち溢れる起業家が陥りがちなのが、この「過大な要求」という罠です。
「念のため予備費も含めて多めに借りておこう」「借りられるだけ借りておいた方が安心だ」。その気持ちは分かります。しかし、その根拠のない過大な数字もまた、あなたの経営者としての信用を地に落とすのです。
融資希望額が「多すぎる」場合に担当者が抱く3つの深刻な疑念
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【現実認識の欠如】「この人は、夢と現実の区別がついていない」
客観的な見積書やデータによる裏付けもなく「内装工事に1,000万円」「広告宣伝費に500万円」といった過大な設備資金や運転資金を計上する。その計画書は、「この経営者は金銭感覚が麻痺している夢想家だ。事業の現実的なコスト感覚を全く持っていない」という致命的な烙印を押されます。 -
【返済能力への疑問】「その大きな借金を、本当に返せるのか?」
融資額が大きくなれば当然毎月の返済額も大きくなります。融資担当者はあなたの希望額を聞いた瞬間に頭の中で電卓を叩きます。「借入額1,500万円、返済期間7年だと毎月の返済は約20万円か…。この事業計画書の利益計画(月間利益30万円)では、社長の生活費を差し引いたら返済が成り立たないじゃないか」。あなたの過大な希望額が、あなたの事業計画書の収益計画の信憑性そのものを破壊するのです。 -
【自己資金比率の悪化】「他人のお金に頼りすぎていないか?」
創業資金の総額における自己資金の比率は、あなたの事業への「覚悟」を示す重要な指標です。
・必要な資金が500万円で、自己資金が100万円の場合 → 自己資金比率 20%
・必要な資金が1,000万円で、自己資金が100万円の場合 → 自己資金比率 10%
不必要に希望額を吊り上げる行為はあなたの自己資金比率を悪化させ、「この起業家は他人のお金で大きなリスクを取ろうとしている」というネガティブな印象を与えるのです。
「融資希望額」が不適切な場合の審査官の評価
| 希望額 | 審査官が抱く疑念(=あなたの資質) | 審査結果 |
|---|---|---|
| 少なすぎる | 「計画性の欠如」「覚悟の不足」 →(必要な経費を理解しておらず、すぐ資金ショートする) |
否決 |
| 多すぎる | 「現実認識の欠如」「返済能力への疑問」 →(どんぶり勘定で、返済計画が破綻している) |
否決 / 減額 |
| 妥当(積算根拠が明確) | 「計画性が高い」「コスト意識がある」「堅実」 →(この経営者なら安心して貸せる) |
満額承認 |
第3章:【黄金比の算出法】満額融資を勝ち取る「完璧な希望額」の作り方
では、少なすぎず多すぎず、金融機関が「これこそがこの事業に必要な最適な金額だ」と納得する「完璧な希望額」は、どのように算出すれば良いのでしょうか。
その答えは、あなたの「希望」を一度完全に脇に置き、以下の極めて論理的な方程式に従って数字を積み上げていくことです。
融資希望額 = [ ① 徹底的に積み上げた「設備資金」 ] + [ ② 臆病なまでに確保した「運転資金」 ] - [ ③ 誠実に証明した「自己資金」 ]
STEP 1:【設備資金】全ての「モノ」に客観的な「値札(見積書)」を付ける
まず、事業を開始するために必要な全ての「モノ」をリストアップし、その一つひとつに業者から取得した「見積書」という客観的な値札を付けていきます。
STEP 2:【運転資金】「死の谷」を乗り越えるための「6ヶ月分」の生命線を確保する
次に、あなたの会社の「血液」となる運転資金を算出します。多くの起業家が安易に「3ヶ月分」と設定しがちですが、私たちは「6ヶ月分」を確保することを強く推奨します。この「6ヶ月」という数字が、あなたの経営者としての高い「リスク管理能力」を証明します。
STEP 3:【自己資金】あなたの「覚悟」を通帳の「物語」で証明する
そして、この事業に必要な資金の総額に対して、あなたがどれだけの自己資金を準備してきたか。その「金額」と、それを計画的に貯めてきた「通帳の履歴」を提示します。
STEP 4:【結論】導き出された唯一無二の「融資希望額」
こうして、徹底的に積み上げられた「必要な資金の総額」からあなたの「自己資金」を差し引いた、その差額。
それこそが、あなたの事業計画にとって論理的に導き出された、唯一無二の、そして誰にも文句のつけようのない「完璧な融資希望額」なのです。
第4章:【FAQ】「融資希望額」に関する一歩進んだ疑問
最後に、融資希望額の決定について、さらに深く検討されている起業家の皆様から、私たちが特によくお受けする専門的なご質問とその回答をQ&A形式でまとめました。
Q1. 計算した融資希望額が自己資金の10倍近くになってしまいました。こんなに大きな額を借りられるのでしょうか?
A1. これは非常に重要なご質問です。日本政策金融公庫の「新創業融資の特例」では、自己資金の要件として「創業資金総額の10分の1以上」と定められています。これを逆に言えば、「自己資金の9倍までが融資額の一つの目安」となります。
もしあなたの論理的に算出した希望額がこの目安を大幅に超えてしまっている場合。それは、あなたの事業計画そのものが「あなたの現在の自己資金の規模に見合っていない過大な計画である」という危険なシグナルです。
「自己資金1/10要件」から見る融資枠の目安
| あなたの自己資金 | 創業資金総額(目安) | 融資希望額(目安) |
|---|---|---|
| 100万円 | 最大 1,000万円 | 最大 900万円 |
| 300万円 | 最大 3,000万円 | 最大 2,700万円 |
取るべき戦略的行動
この場合、取るべき道は2つです。
- 事業計画のダウンサイジング:高額な内装工事を見直す。新品の設備を中古品やリースに切り替える。店舗の規模を少し小さくする。といった形で、事業計画そのものをあなたの自己資金の規模に見合った、より堅実なものへと見直します。
- 自己資金の追加投入:もしどうしても当初の事業計画が譲れないのであれば、融資を申し込む前に、親族からの「贈与」を受けるなどして自己資金そのものを増強し、自己資金比率を改善する必要があります。
Q2. 融資希望額が減額されて承認された場合はどうすれば良いですか?
A2. まず、最もやってはいけないことは、「減額されたまま安易に融資を受け入れ、そのままの事業計画で見切り発車してしまう」ことです。それは計画当初から資金がショートすることが確定している自殺行為です。
減額での承認ということは、金融機関があなたの資金計画のどこかの部分を「過大である」あるいは「必要性が低い」と判断したということです。
「減額承認」された場合の正しい対応
| 対応 | 行動 | 結末 |
|---|---|---|
| 最悪の対応 (NG) | 減額されたまま融資を受け、当初の計画で見切り発車する。 | 資金不足が確定しており、高確率で数ヶ月後に資金ショート。 |
| 正しい対応 (OK) | 担当者に減額理由を確認し、事業計画を再構築(ダウンサイジング)する。 | 減額後の金額で実行可能な、身の丈に合った堅実なスタートが切れる。 |
正しい対処法
まず、担当者に可能な範囲で減額の理由をヒアリングします。その上で、減額された金額分、あなたの設備資金あるいは運転資金の計画を見直し、「減額後の融資額で実行可能な新しい事業計画」を再構築します。そして、その修正された計画で事業をスタートさせる。それが唯一の賢明な選択です。
Q3. 自分の役員報酬(生活費)も運転資金として融資希望額に含めて良いのですか?
A3. はい、含めるべきです。そしてこれは、IT・Webサービス事業のような大きな設備投資が不要な知識労働型のビジネスにおいて、特に重要なポイントとなります。
融資担当者は、「この経営者は融資が実行された後、事業が軌道に乗り売上が安定的に入金されるまでの数ヶ月間、どうやって生活していくのだろうか?」という極めて現実的な疑問を抱きます。
もしあなたがこのご自身の生活費を運転資金として見込んでいなければ、「この人は生活費のプレッシャーから目先の短期的な売上に走ってしまい、長期的な事業の成長を疎かにするのではないか」と懸念されてしまいます。
プロのテクニック
私たちは事業計画書を作成する際に、必ずあなた個人の「家計の収支表」を作成します。そして、あなたが最低限生活していくために必要な月々の金額(例えば25万円)を算出します。そして、その金額を基に「社長への役員報酬として月額25万円」を会社の最も重要な「固定費」として運転資金の見積もりに計上するのです。
そして、その最低でも6ヶ月分、理想を言えば1年分(25万円 × 12ヶ月 = 300万円)を運転資金として融資希望額に含める。このロジカルで現実的な人件費計画こそが、担当者に「この経営者は自分自身の生活設計まで含めて堅実な資金計画を立てている」という絶対的な安心感を与えるのです。
結論:あなたの「希望額」は、あなたの「経営能力」の通信簿
創業融資の希望額。それは、あなたの単なる「希望」ではありません。
それは、あなたの、
- 事業の隅々までを見通す「解像度」
- 起こりうる最悪の事態を想定する「リスク管理能力」
- そして、その全てを客観的な「数字」で語ることができる「計数管理能力」
といった、経営者としての全ての「能力」が凝縮された、あなたの「通信簿」なのです。
あなたの「通信簿」、最高の評価を受けたくありませんか?
そのたった一つの数字の説得力が、あなたの夢の実現を左右します。
まずは無料相談で、あなたの事業計画に最適な「融資希望額」を私たちと一緒に算出しませんか?
記事執筆監修者
荒川会計事務所(経営革新等支援機関(認定支援機関))代表税理士・登録政治資金監査人・行政書士の荒川 一磨です。
会社設立と創業融資を得意とし、何でも相談できる話しやすいパートナーであることを心掛けている事務所です。
事務所所在地 〒160-0022 東京都新宿区新宿2-5-16 霞ビル8F
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所属 東京税理士会四谷支部・東京行政書士会新宿支部
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