あなたの情熱と緻密な分析が詰まった「事業計画書」。それはあなたの事業の輝かしい「未来の利益」を約束する設計図かもしれません。
しかし、金融機関の百戦錬磨の融資担当者が、その「利益計画」と同じくらい、あるいはそれ以上に冷徹な視線で注目しているもう一つの重要な書類があります。
それが「資金繰り表(しきんぐりひょう)」です。
「利益さえ出ていれば、お金は回るはずだろう?」
「事業の見通し(収支計画)と何が違うんだ?」
「こんな細かい数字の予測、本当に意味があるのか?」
もしあなたがそのように考えているとしたら。あなたは毎年数えきれないほどの有望なスタートアップが沈んでいく「黒字倒産」という恐ろしい深海へと、羅針盤なしで船出しようとしているのと同じことです。
この記事は、あなたのその危険な航海を未然に防ぐための究極の「航海図(チャート)」です。なぜ「利益」はあなたの会社を救ってくれないのか。そして「資金繰り表」こそが、あなたの会社の「命の残量(HP)」を示す唯一無二の生命維持装置であるという真実。
その生命維持装置の正しい作り方と読み解き方を、新宿で数えきれないほどの企業のキャッシュフローを守ってきた私たちが、あなたの融資成功とその先の事業存続のために徹底的に解説していきます。
第1章:【致命的な誤解】なぜ「利益(P/L)」はあなたの「返済能力」を証明できないのか?
創業融資の審査を成功させるために、まずあなたが融資担当者と共有しなければならない最も重要な大原則。それは、
「利益」と「現金(キャッシュ)」は全くの別物である
という冷徹な事実です。
あなたが事業計画書の「8 事業の見通し」で作成する「収支計画(損益計算書:P/L)」は、あくまで会計上の「利益」を計算するものです。しかし会社は利益がなくなっても倒産しません。会社は支払うべきお金(現金)が1円でも足りなくなった瞬間に倒産するのです。
そして「利益」と「現金」の間には、あなたの会社のキャッシュフローを狂わせる3つの巨大な「時差(タイムラグ)」と「ブラックホール」が存在します。
「利益」と「現金」を狂わせる3つのズレ
| ズレの種類 | 概要 | 資金繰りへの影響 |
|---|---|---|
| ① 入金の時差 | 売上は今月計上(利益↑)。 入金は2ヶ月後。 |
利益はあるのに現金がない(黒字倒産の元)。 |
| ② 支払の時差 | 仕入は今月計上(利益↓)。 支払は1ヶ月後。 |
利益はないのに現金が減らない(一時的)。 |
| ③ 会計上のブラックホール | 「借入金の元金返済」 =経費ではない(利益に無関係) |
利益が出ていても、元金返済のせいで現金が激減する。 |
違い3:【会計のブラックホール】「費用」ではないが「現金」は出ていく
そしてこれが融資審査において最も重要なポイントです。あなたの会社から現金が出ていく支出の中には、会計上「費用(経費)」として計上されないものが存在するのです。
その代表格こそが「借入金の元金返済」です。
あなたが金融機関に毎月支払う返済額のうち、「利息」の部分は経費になりますが、「元金」の部分は経費にはなりません。(ただ借りたものを返しているだけ、という扱いです)
つまり、あなたの損益計算書(P/L)がたとえギリギリ黒字(利益1万円)であったとしても、その裏で毎月10万円の「元金返済」が発生していれば、あなたの会社の「現金」は毎月確実に9万円ずつ減り続けていくのです。
融資担当者が本当に知りたいのは、あなたの会計上の「利益」ではありません。彼らが知りたいのは、「会計上の利益 +(プラス)会計上の費用だが現金は出ていかないもの(例:減価償却費) -(マイナス)会計上の費用ではないが現金は出ていくもの(例:元金返済)」という複雑な計算の末に、なおあなたの会社に返済を続けるだけの「現金」が残るのかどうか。その一点なのです。
そして、その一点を証明できる唯一無二の書類。それが「資金繰り表」なのです。
第2章:【実践ガイド】融資に勝つ「資金繰り表」の具体的な作り方
では実際に、融資担当者を納得させる「月次・年次」の資金繰り表(キャッシュフロー予測)を作成する手順を見ていきましょう。これはExcelやGoogleスプレッドシートで作成できます。
STEP 1:【フォーマットの準備】「3つのブロック」を理解する
まずシートの縦軸に、お金の出入りを示す3つの大きな「ブロック」を用意します。
資金繰り表の3つの構成要素
| キャッシュフロー (CF) | 何のお金の動きか? | 創業融資での主な項目 |
|---|---|---|
| 1. 営業CF | 本業の商売 | (収入)売上入金 (支出)仕入、人件費、家賃、利息 |
| 2. 投資CF | 設備投資 | (支出)店舗保証金、内装費、PC購入費 |
| 3. 財務CF | 資金調達と返済 | (収入)自己資金、創業融資の借入 (支出)借入金の元金返済 |
そして横軸には、「開業月」「1ヶ月目」「2ヶ月目」…と、最低でも1年間(12ヶ月分)の月次の予測を立てていきます。
STEP 2:【最重要】「営業キャッシュフロー」を予測する
ここがあなたの事業の実力を示す心臓部です。
収入の部(現金が入るタイミング)
- 現金売上:(飲食店や小売店など)その日のうちに入金される売上。
- 売掛金の入金:(BtoB取引やクレジットカード決済など)売上が発生したその1ヶ月後、あるいは2ヶ月後に実際に入金される金額を正確に予測し、該当する月へ計上します。
支出の部(現金が出るタイミング)
- 仕入代金の支払:「現金仕入」なのか、「月末締め、翌月末払い(買掛金)」なのか。その支払のタイミングを正確に反映させます。
- 人件費の支払:社長への役員報酬、従業員への給与。そして絶対に忘れてはならないのが、それらの支払いの翌月末に発生する「社会保険料の会社負担分」です。
- 家賃、水道光熱費、通信費など:これらも通常、当月分を翌月末に支払うなどズレが発生します。
STEP 3:【投資・財務CF】の大きなお金の動きを記入する
次に、本業の日々の出入りとは別の大きなお金の動きを記入します。
- 投資キャッシュフロー(支出):「開業月」に集中します。店舗の保証金、内装工事費、厨房機器、PCの購入費など、あなたの事業計画書の「設備資金」の内訳をここに転記します。
- 財務キャッシュフロー(収入):「開業月」にあなたが準備した「自己資金(資本金)」と、今回まさに申し込んでいる「日本政策金融公庫からの借入金」を大きな収入として計上します。
- 財務キャッシュフロー(支出):【最重要】あなたの融資の返済計画に基づき、「毎月の元金返済額」を該当する月から支出として計上し始めます。(※もし据置期間を設定するなら、その期間は利息(営業CFの支出)のみを計上し、元金の返済はゼロとします)
STEP 4:【真実の数字】「月末の現金残高」を導き出す
最後に、全ての計算を行います。
(前月の繰越残高) + (今月の営業CF) + (今月の投資CF) + (今月の財務CF) = 【今月末の現金残高】
この一番下の行に並ぶ12ヶ月分の「今月末の現金残高」。
この数字こそが、あなたの事業の未来の生命線です。
第3章:【戦略的活用術】「資金繰り表」が融資担当者を動かす3つの力
完璧に作成された資金繰り表は、あなたの融資成功の確率を劇的に高めます。
①「返済能力」の絶対的な証明
融資担当者は、あなたの資金繰り表の「営業キャッシュフロー」と「財務キャッシュフロー(元金返済額)」を見比べます。そして全ての月において、「営業CF」が「元金返済額」を安定的に上回っていることを確認します。これが「この会社は本業で稼ぎ出した現金で問題なく返済を続けていける」という何よりも強力な証明となります。
②「融資希望額」の論理的な根拠
「なぜ1,000万円の融資が必要なのか?」その答えもこの資金繰り表が示します。
「もし融資額が800万円だったと仮定すると、このシミュレーションの開業6ヶ月目で月末の現金残高がマイナス(資金ショート)に陥ってしまいます。しかし1,000万円の融資を受けることができれば、最も資金繰りが厳しいこの6ヶ月目を〇〇円の残高で乗り越え、その後は黒字化と共に残高が安定的に増加していく軌道に乗ることができます。だから私には1,000万円が必要なのです」。
この論理的な説明は、あなたの希望額が単なる「希望」ではなく、「事業の存続に不可欠な必要額」であるという説得力を生み出します。
③「据置期間」の客観的な必要性の提示
「なぜ半年の据置期間が欲しいのか?」その答えも資金繰り表にあります。
「このシミュレーションの通り、私の事業は最初の5ヶ月間は営業キャッシュフローが赤字(マイナス)となる見込みです。この計画的な赤字期間において元金の返済負担が発生すると会社の体力が持たない可能性があります。しかし6ヶ月目からは確実に黒字化を達成します。どうかこの最初の5ヶ月間を乗り越えるための据置期間をお認めください。」
この客観的なデータに基づく要求は、単なる「お願い」ではなく合理的な「経営判断」として担当者に受け入れられるのです。
第4章:【FAQ】「資金繰り表」に関する一歩進んだ疑問
最後に、資金繰り表の作成で悩まれている起業家の皆様から、私たちが特によくお受けする専門的なご質問とその回答をQ&A形式でまとめました。
Q1. 創業計画書(事業の見通し)と資金繰り表、両方作るのですか?何が違うのですか?
A1. はい、全く性質の異なる書類として両方作成します。そして両者をセットで提出することがあなたの評価を最大化します。
役割の決定的な違い
「収支計画(P/L)」と「資金繰り表(C/F)」の役割
| 書類 | 目的(=何を証明するか) | 弱点 |
|---|---|---|
| ① 事業の見通し (P/L) | 事業の「収益性(利益)」 | 元金返済や入金ズレを無視するため、返済能力は証明できない。 |
| ② 資金繰り表 (C/F) | 会社の「存続力(現金)」と「返済能力」 | これこそが融資審査の核心。 |
「利益計画(P/L)」と「現金計画(C/F)」の両方を提出して初めて、融資担当者は「この経営者は利益と現金を完全に理解しているプロだ」と確信するのです。
Q2. 資金繰り表は何か月分作成すれば十分ですか?
A2. 創業融資の申し込みにおいて最低限求められるのは、「最低でも1年(12ヶ月)分の『月次』資金繰り表」です。
なぜなら、融資担当者は開業直後の数ヶ月間の最も資金繰りが厳しくなる「死の谷」のシミュレーションと、あなたの事業が黒字化し軌道に乗るまでのプロセスを月単位で詳細に確認したいからです。
プロのテクニック:『2段階』での作成
私たちがお客様の満額融資を勝ち取るために作成するのは、以下の2種類の資金繰り表です。
- 【1年目】詳細な「月次」資金繰り表:開業直後の詳細なキャッシュの動きをシミュレーションします。
- 【2年目~5年目】概要の「年次」資金繰り表:融資の全返済期間(例えば5年)を見通し、1年目以降売上が安定的に成長し、利益と現金が年々積み上がっていくという長期的な安定性と将来性をアピールします。
この「短期(月次)」と「長期(年次)」の両方の視点を提示することで、あなたの計画の信頼性は盤石なものとなります。
Q3. 資金繰り表の予測の「精度」はどれくらい求められますか?計画と実績がズレたら後で怒られますか?
A3. これは非常に良いご質問です。結論から言うと、金融機関はあなたの予測が「100%当たる」ことなど一切期待していません。事業が計画通りに進まないことなど彼らが一番よく知っています。
彼らが見ているのは、「予測の精度」ではなく「予測の論理性」です。
彼らが見ているのは、「その売上予測や経費予測がどのような客観的な根拠(市場調査、見積書、過去の経験など)に基づいて積み上げられているか」という、その思考の「プロセス」です。
実績がズレた時の正しい対応
そして融資が実行された後、もし計画と実績がズレた場合。あなたが取るべき行動は隠すことではありません。
「計画では売上100万円の見込みでしたが結果は80万円でした。その理由は〇〇であり、現在その対策として△△を実行しています。その結果、来月の見通しは…」
このように、計画と実績の差異(ズレ)を自ら分析し、その対策を自分の言葉で語れること。それこそが金融機関があなたに求める本当の「経営管理能力」であり、次の追加融資へと繋がる信頼関係の源泉となるのです。
結論:あなたの「会社のコックピット」を私たちと一緒に作りませんか?
資金繰り表。それはあなたの会社の未来のフライトプランであり、コックピットの計器盤です。
その計器盤なしで事業という未知の大空へ飛び立つことはあまりにも無謀です。
しかし、この複雑でしかし生命線とも言える計器盤を、あなたがたった一人で完璧に作り上げることは至難の業です。
私たち荒川会計事務所は、あなたのそのコックピットを共に作り上げる経験豊富な「副操縦士」です。
私たちはあなたの事業計画を深く理解し、金融機関が120%納得する完璧な資金繰り表をあなたと共に作成します。そして融資が実行されたその後も、毎月あなたの隣でその計器盤を見つめ続け、あなたの航海が決して道を踏み外すことがないようナビゲートし続けます。
あなたの「資金繰り」、本当に見えていますか?
そのどんぶり勘定が、あなたの夢の墜落に繋がる前に。
まずは無料相談で、あなたの会社の「生命線」を私たちプロの目で診断させてください。
記事執筆監修者
荒川会計事務所(経営革新等支援機関(認定支援機関))代表税理士・登録政治資金監査人・行政書士の荒川 一磨です。
会社設立と創業融資を得意とし、何でも相談できる話しやすいパートナーであることを心掛けている事務所です。
事務所所在地 〒160-0022 東京都新宿区新宿2-5-16 霞ビル8F
電話番号 0120-016-356
所属 東京税理士会四谷支部・東京行政書士会新宿支部
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