会社の設立準備を進めるあなたが、インターネットや専門書で必ず目にする一つの「黄金律」。
「資本金は1,000万円未満に設定すべし」
なぜなら、そうすることで設立から最大2年間、「消費税の納税義務が免除される」という、創業者にとってあまりにも甘美なメリットを享受できるからです。これは年間数十万、数百万円のキャッシュがそのまま手元に残ることを意味し、99%の起業家にとって疑いようのない「正解」です。
しかし、もしその「黄金律」をあえて自ら破り、
資本金「1,000万円以上」で会社を設立し、設立初日から堂々と「消費税の課税事業者」になる、
という、一見すると狂気の沙汰としか思えない、しかし一部の賢明な経営者だけが知る高度な「財務戦略」が存在するとしたら、どうでしょうか?
この記事は、その99%の常識の裏側に隠された、1%の上級者のための「逆張り戦略」の完全な解読書です。
なぜ彼らは、目先の数百万円の免税メリットを自らドブに捨てるのか。その行動の裏に隠された「消費税の還付」という、さらに大きな果実と、「金融機関からの絶対的な信用」を同時に手に入れるための緻密な計算。
そのあまりにも強力で、しかし一歩間違えれば自らを破滅させる「諸刃の剣」の正しい使い方を、新宿で数多くの企業の資本政策を設計してきた私たちが徹底的に解説していきます。
第1章:【99%の正解】なぜ資本金は「1,000万円未満」が常識なのか?
まず、この戦略の異常性を理解するために、改めて「常識(黄金律)」のおさらいをしましょう。
「消費税の免税メリット」という最強のボーナス
消費税は原則として、その会社の「2期前の課税売上高」が1,000万円を超えているかどうかで、納税義務の有無が判定されます。
新しく設立された会社には「2期前」という過去は存在しないため、原則として設立第1期目と第2期目は自動的に「免税事業者」となります。
これが法人成りや新規設立が持つ、極めて強力な税務上のアドバンテージです。
しかし、この強力なボーナスには一つの「例外(罠)」があります。それが、「設立時の資本金の額が1,000万円以上である場合、設立第1期目から強制的に課税事業者となる」というルールです。
だからこそ99%の起業家は、「資本金1,000万円」というラインを絶対に超えないよう、「999万円」や「900万円」といった金額で資本金を設定し、この2年間の免税メリットを確実に享受しようとするのです。
では、なぜこの数百万円のメリットをあえて捨てるという選択があり得るのでしょうか。
第2章:【1%の逆張り戦略】「あえて課税事業者になる」3つの真の狙い
その答えは、「消費税」と「融資」という2つの全く異なる視点に隠されています。
狙い1:【最大の狙い】「消費税の還付」という隠されたボーナスを手に入れる
これがこの戦略の最大の核心です。
消費税の納税額は、
(売上で顧客から預かった消費税) - (仕入や経費で支払った消費税)
という計算式で決まります。
もしあなたが「免税事業者」であった場合。たとえ仕入や経費で支払った消費税(例:50万円)が、売上で預かった消費税(例:20万円)よりも多かったとしても、その差額(30万円)はあなたの元には戻ってきません。
しかし、もしあなたがあえて「課税事業者」を選択していたら、どうなるでしょうか。
(預かった消費税 20万円) - (支払った消費税 500万円) = マイナス 480万円
このマイナスとなった480万円は、国に対して「消費税の還付(かんぷ)」として返還を請求することができるのです。(※ケーススタディを修正しました)
この戦略が突き刺さる業種とは?
もうお分かりですね。この戦略は、「設立第1期目に売上があまり立たない一方で、巨額の設備投資が発生する」ような業種において、絶大な威力を発揮します。
ケーススタディ:最新の医療機器を導入するクリニックの開業
・開業の初年度に医療機器や内装工事費で5,000万円の設備投資が発生した。
・この設備投資に含まれる消費税は10%として500万円。
・一方、開業初年度の売上(診療報酬)はまだ少なく1,000万円。預かった消費税は100万円。(※医療の多くは非課税売上ですが、ここでは分かりやすさのため、課税売上と仮定します)
もし資本金900万円で「免税事業者」として開業していたら…
支払った500万円の消費税は戻ってきません。
もしあえて資本金1,000万円で「課税事業者」として開業していたら…
(預かった消費税 100万円) - (支払った消費税 500万円) = マイナス 400万円
この400万円が税務署からあなたの会社の口座に還付金として振り込まれるのです。
「2年間の免税メリット」という不確定な未来の利益よりも、「設立初年度の確実な400万円のキャッシュバック」を取りに行く。これこそが、この戦略の本質なのです。
狙い2:【融資への効果】「自己資金の本気度」を証明し、融資枠を最大化する
あなたの会社の登記簿謄本に刻まれた、「資本金 1,000万円」という数字。
それは日本政策金融公庫や銀行の融資担当者に対して、創業融資の審査で最も重要な2つの要素を雄弁に物語ります。
- 圧倒的な「自己資金(覚悟)」の証明
自己資金はあなたの事業への「覚悟」の証です。「100万円」の自己資金しか用意できなかった起業家と、「1,000万円」の自己資金を準備してきた起業家。担当者がどちらの未来により大きな信頼を寄せるか、言うまでもありません。 - 融資希望額の上限枠の拡大
創業融資の目安は、「自己資金の2倍~3倍程度」と言われています。- 自己資金が100万円なら、融資の上限は200~300万円程度。
- 自己資金が1,000万円なら、融資の上限は2,000~3,000万円が視野に入ってきます。
狙い3:【BtoB取引の信用】インボイス制度への即時対応
2023年10月から開始されたインボイス制度により、状況は一変しました。
もしあなたの主要な取引先が、大企業(課税事業者)である場合。彼らはあなたに必ず「インボイス(適格請求書)」の発行を求めてきます。
インボイスを発行できるのは「課税事業者」だけです。
つまり、たとえ免税のメリットがあったとしても、BtoBの取引がメインの事業であれば、どのみち設立初年度から「課税事業者」になる選択を迫られるのです。
であるならば、「どうせ課税事業者になるのなら、いっそのこと資本金も1,000万円以上入れて、金融機関からの信用も同時に取りに行こう」という、極めて合理的な経営判断が成り立つのです。
第3章:【致命的な罠】この戦略が「自殺行為」となるケース
しかし、この強力な戦略は、一歩間違えればあなたの会社を破滅に導く「劇薬」でもあります。
罠1:【最大の禁じ手】その1,000万円はどこから来たのか?―「見せ金」の恐怖
これが最も致命的な罠です。
融資担当者は、登記簿謄本の「資本金1,000万円」という文字を見た瞬間、あなたの個人の通帳の履歴(最低過去1年分)を徹底的に調査します。
その1,000万円があなたの給与や退職金から計画的に準備されたクリーンなお金であれば、それは最高の自己資金です。
しかし、もしその1,000万円が、
- 設立の直前に親族や知人から一時的に借りてきたお金(見せ金)であったり、
- 出所が全く不明なタンス預金が一度に入金されたものであったり、
した場合。その瞬間にあなたの信用はゼロ、いやマイナスに転落します。「この経営者は私たちを騙そうとしている」。そう判断され、融資は100%否決されます。
罠2:【還付がない事業】IT・コンサル業が絶対にやってはいけない理由
この戦略の最大のメリットは、「消費税の還付」でした。
しかし、あなたの事業がITコンサルティングやWebデザイン、プログラミングといった「仕入」や「設備投資」がほとんど発生しないサービス業であったら、どうなるでしょうか。
あなたの会社は、
- 還付される消費税はほとんどないにも関わらず、
- 設立初年度から売上の10%を消費税として納税するという「義務」だけを背負う、
という「免税メリットだけを完璧に失った最悪の状態」に陥ります。これは毎年数十万円の現金をドブに捨てているのと同じ愚策です。
第4章:【プロの診断】あなたの事業はどちらの道が正解か?
「資本金1,000万円」戦略。それはあなたの事業モデルを徹底的に分析した上で選択すべき、高度な専門家の領域です。
【結論】この戦略を取るべき起業家
あなたが以下の3つの条件を全て満たす稀有な起業家であるならば、この戦略はあなたの事業を劇的に加速させます。
- (必須)自己資金の源泉が完璧にクリーンである:1,000万円以上の自己資金をコツコツと貯めてきた通帳の履歴がある。あるいは退職金など出所が明確に証明できる。
- (必須)巨額の設備投資がある:設立初年度に売上を遥かに上回る高額な設備投資(内装、機械、車両など)が発生する事業モデル(飲食店、製造業、建設業、医療、運送業など)である。
- (尚良)BtoB取引がメインである:設立初日からインボイス発行事業者(課税事業者)になる必要性が高い。
【結論】99%の起業家が取るべき王道
もしあなたが上記の条件を満たさないIT、コンサル、Web制作、小規模な小売・飲食、その他ほとんどのサービス業であるならば。
あなたの取るべき最適な戦略は、「資本金1,000万円未満(例:999万円)」で会社を設立し、
- 消費税の免税メリットを2年間最大限に享受し、
- 融資の審査では、「資本金」の額ではなく、「自己資金の通帳の履歴」そのものを見せることで、あなたの「覚悟」と「計画性」を証明する。
という、最も堅実で最もキャッシュが残る王道を歩むべきです。
第5章:【FAQ】「資本金1,000万円」戦略に関する一歩進んだ疑問
最後に、この高度な資本政策についてさらに深く検討されている起業家の皆様から、私たちが特によくお受けする専門的なご質問とその回答を、Q&A形式でまとめました。
Q1. 資本金1,000万円「未満」ではなく、「ジャスト1,000万円」でも課税事業者になりますか?
A1. はい、「1,000万円以上」ですので、資本金がピッタリ1,000万円の場合も、設立第1期目から強制的に消費税の課税事業者となります。
免税メリットを享受したいのであれば、資本金は9,999,999円以下、実務上はキリの良い「999万円」や「900万円」といった金額に設定するのが一般的です。
Q2. 資本金1,000万円以上で設立した場合、「法人住民税」も高くなると聞きました。
A2. はい、その通りです。これは消費税とはまた別の、見落としがちな「コスト増」の要因です。
会社の利益がたとえ赤字であったとしても、会社が存在するだけで支払わなければならない税金、それが「法人住民税の均等割」です。
この均等割の金額は、「資本金の額」と「従業員数」によって階段状に高くなります。
東京都23区内(従業員50人以下)の場合
- 資本金が1,000万円**以下**の場合:年額 70,000円
- 資本金が1,000万円**超**の場合:年額 180,000円
つまり、資本金を1,000万円「以上」に設定した瞬間に、あなたの会社はたとえ赤字でも毎年11万円余計に税金を払い続けなければならないという義務が発生します。
この継続的なコスト増(年間11万円)と、設立初年度の消費税還付のメリットを天秤にかけ、どちらがあなたの会社にとって本当に有利かを冷静に判断する必要があります。
Q3. 資本金は900万円で設立し、後から「消費税課税事業者選択届出書」を提出して還付を受けるという方法はダメですか?
A3. 素晴らしいご質問です。それこそがこの戦略の本質を理解したプロの発想です。
結論から言えば、「理論上は可能であり、それこそが最強の手法の一つ」です。
あえて資本金を1,000万円以上にする理由は、
- 消費税の課税事業者になること
- 登記簿謄本上の資本金を大きく見せ、金融機関の信用を得ること
の2つでした。
このうち、①の「課税事業者になる」という目的だけなら、資本金がたとえ100万円でも、「消費税課税事業者選択届出書」という書類を設立第1期の終了までに税務署に提出すれば達成できます。
では、なぜあえて資本金1,000万円を選ぶのか?
それは、②の「金融機関の信用を得る」という目的を、消費税の還付以上に重視しているからです。
プロの最終結論(ベストな戦略)
もしあなたの自己資金が1,000万円あるのであれば、
- 資本金はあえて**990万円**で設立する。(→ これで法人住民税の均等割が年間7万円に抑えられる)
- そして、設立第1期の終了までに**「消費税課税事業者選択届出書」**を提出する。(→ これで第1期から課税事業者となり、消費税の還付を受ける権利を得る)
- 融資の審査では、登記簿謄本上の資本金(990万円)とあなたの手元の残りの自己資金(10万円)の両方を提示し、「実質的な自己資金は1,000万円です」と堂々と主張する。
これこそが、法人住民税のコストを抑え、消費税の還付を受け、かつ金融機関からの信用も最大化するという、全てのメリットを享受する究極の資本政策なのです。
結論:あなたの「資本政策」はあなたの「事業戦略」そのもの
資本金をいくらにするか。
それは単なる登記上の手続きではありません。
それは、あなたの会社の設立初年度のキャッシュフローを最大化し、金融機関との信頼関係を設計し、そしてあなたの事業の成長の角度を決定づける、あなたの最初の、そして最も重要な「経営戦略」なのです。
その一度決めたら容易には後戻りできない重要な戦略決定を、決してあなた一人で下してはいけません。
あなたの会社、どちらの「戦略」でスタートしますか?
その最初の一手で、未来のキャッシュフローが数百万円変わります。
まずは無料相談で、あなたの事業モデルに最適な「資本金の額」と「消費税戦略」を私たちプロに診断させてください。
記事執筆監修者
荒川会計事務所(経営革新等支援機関(認定支援機関))代表税理士・登録政治資金監査人・行政書士の荒川 一磨です。
会社設立と創業融資を得意とし、何でも相談できる話しやすいパートナーであることを心掛けている事務所です。
事務所所在地 〒160-0022 東京都新宿区新宿2-5-16 霞ビル8F
電話番号 0120-016-356
所属 東京税理士会四谷支部・東京行政書士会新宿支部
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