「売上は過去最高なのに、通帳にお金が残っていない…」
「決算直前に大量に商品を仕入れたのに、税金が安くならなかった…」
Amazon、楽天市場、Shopifyなどで物販を行うEC事業者にとって、大きな課題となるのが「在庫(Inventory)」と「消費税」です。 ECビジネスは、現金の回収サイクルと支払いのサイクル、そして税金の発生タイミングが複雑にズレるため、会計上の利益と手元のキャッシュが一致しないリスクが潜んでいます。
特に重要なのが、「売上をいつ計上するか(出荷基準 vs 検収基準)」というルールの選択と、「在庫の評価方法」です。 ここを戦略的に設定するか、適当に処理するかで、納税額と事務負担は大きく変わります。
この記事では、EC事業者が資金繰りを安定させ、手元資金を守るために知っておくべき「会計と税務の基本」を、EC業界に精通した税理士が解説します。
- 在庫は「買った時」には経費にならず、「売れた時」に経費になる。
- 「出荷基準」は管理が楽だが、「検収基準」は期末の調整に有効な場合がある。
- 消費税は「仕入れた時」に控除できるため、キャッシュフローへの影響が大きい。
- Amazon等の入金サイクル(2週間後など)を考慮した資金管理が必須。
第1章:EC経営者が陥りやすい「在庫と経費」の誤解
基本中の基本ですが、勘違いしやすい点です。 「利益が出そうだから、期末に在庫を大量に仕入れて節税しよう」というのは、法人税(所得税)においては効果がありません。
売上原価の仕組み
税金の計算において、経費になるのは「仕入れた金額」ではなく「売上原価」です。
売上原価 = 期首在庫 + 当期仕入 − 期末在庫
つまり、期末に大量に仕入れても、それが売れずに倉庫に残っている限り(期末在庫)、それは「資産」として計上され、経費(売上原価)からはマイナスされます。 結果、「現金は減ったのに、税金は安くならない」という資金繰りの悪化を招く恐れがあります。
第2章:売上計上基準の選び方「出荷基準 vs 検収基準」
ECにおいて「いつ売上としてカウントするか」は、以下の2つの基準が主流です。 一度採用した基準は継続して適用する必要があります(継続性の原則)。
| 基準 | タイミング | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| 出荷基準 (Shipping Basis) |
商品を倉庫から出荷した日 | ・管理が簡単 ・配送データと連携しやすい |
・売上が早く計上される (税金の支払いが早まる) |
| 検収基準 (引渡基準) |
お客様に届いた日 (配達完了日) |
・売上計上が遅くなる (期末の調整効果あり) ・法的責任の移転と一致 |
・着荷確認の手間がかかる ・システム対応が必要 |
EC事業者の実務的な選択
実務上は「出荷基準」を採用するケースが多いです。 Amazonや楽天などのプラットフォームは、基本的に「出荷ベース」で売上データが確定するため、管理コストを考えると合理的だからです。
【期末の未着品調整について】
期中(毎月)は出荷基準で処理しつつ、決算日(期末)の前後だけ厳密に「未着品(出荷したけどまだ届いていないもの)」を洗い出し、翌期の売上とする処理を行うこともあります。
※ただし、この処理は実態に即し、かつ毎期継続して適用していることが前提であり、利益調整のための恣意的な変更は認められません。税理士と相談の上で慎重に運用してください。
第3章:消費税の仕組みと「資金繰り」への影響
第1章で「在庫は法人税の節税にならない」と言いましたが、「消費税」に関しては扱いが異なります。
消費税は「仕入れた時」に控除できる
原則課税制度を選択している場合、消費税の納税額は「預かった消費税 − 支払った消費税」で計算します。 この「支払った消費税(仕入税額控除)」は、商品が売れた時ではなく、商品を仕入れた時(納品された時)に計上できます。
つまり、決算直前に商品を仕入れると:
・法人税の利益:減らない(在庫になるから)。
・消費税の納税額:減る(仕入税額控除が増えるから)。
「来期に確実に売れる定番商品」であれば、期末に仕入れておくことで、当期の消費税納税額を抑え、キャッシュフローを調整することが可能です。 ※ただし、資金が出ていくことには変わりないので、資金繰りとのバランスが重要です。
第4章:不良在庫の処理と「評価損」
ECには「売れ残り(デッドストック)」がつきものです。 これらを放置すると倉庫代などのコストがかさむだけでなく、資産として税金がかかり続けます。
「低価法」の検討(要届出)
在庫の評価方法として、事前に税務署に届け出ることで「低価法」を選べます。 これは、「取得原価」と「期末時価(今の売値)」を比べて、低い方で評価できるルールです。 流行遅れで値崩れした商品の価値を下げ、その差額を「評価損(経費)」として計上できるため、アパレルや家電などのECでは有効な手段となります。
廃棄損の計上
どうしても売れない商品は、廃棄することで、その商品の仕入原価全額を「廃棄損」として経費にできます。
【注意点】
税務調査で「本当に廃棄したのか」を確認されることがあります。廃棄業者のマニフェスト(証明書)や、廃棄した商品の写真を必ず保存するなど、証拠を残す運用が重要です。
第5章:EC特有の「入金サイクル」と「インボイス特例」
ECビジネスで注意が必要なのは、「売上計上」と「入金」のタイムラグです。
プラットフォームの入金サイクルリスク
Amazonなどのプラットフォームでは、売上金の一部が「引当金」として一定期間留保されることや、入金サイクルが「出荷から2週間後」などになるケースが一般的です。 一方、仕入れ代金の支払いや経費の引き落としは先にやってきます。 「黒字なのに資金が足りない」という事態を防ぐために、少なくとも「月商の2〜3ヶ月分」の運転資金を確保しておくことが推奨されます。
古物商(せどり)向けの「インボイス特例」
インボイス制度では、原則として「適格請求書」がないと消費税控除ができません。 しかし、中古品を扱うEC事業者(リユース・せどり)には「古物商特例」という措置があります。 一定の要件(古物商許可、帳簿への記載など)を満たせば、一般個人から買い取った商品でも消費税の控除が可能です。 リユース事業を行う場合は、必ずこの要件を確認しましょう。
第6章:経理効率化の鍵「クラウド会計連携」
取引数が膨大になるECにおいて、freeeやマネーフォワードなどのクラウド会計と、ECモールのAPI連携は非常に有効ですが、注意点もあります。
自動連携の「重複」に注意
よくあるミスが、以下の二重計上です。
A. 「Amazon」とのAPI連携で売上を取り込む。
B. 売上が入金された「銀行口座」の明細も売上として取り込む。
これでは売上が2倍になってしまいます。銀行入金分は「売掛金の回収」として処理するなど、重複を防ぐ設定が必要です。
手数料の「総額表示」
ECモールの入金額は、「売上」から「手数料・送料」が引かれた後の『純額』であることが多いです。 これをそのまま売上として計上するのではなく、「売上(総額)」と「手数料(経費)」を分けて計上する(総額主義)のが原則です。 消費税の計算や、売上1,000万円判定にも関わるため、正しい処理を行う必要があります。
第7章:【FAQ】EC事業者の税務Q&A(厳選15問)
EC事業者からよくある質問をまとめました。
Q1. Amazon FBAの在庫はいつ売上計上ですか?
A. 「出荷基準」ならAmazonが出荷した日です。
Amazonのレポートで確認できる出荷日を基準にします。入金日(2週間後)ではないので注意してください。
Q2. 海外へ輸出(eBay等)していますが、消費税はどうなりますか?
A. 輸出売上は消費税免税(0%)です。
国内仕入れにかかった消費税は控除でき、売上の消費税は預かっていないため、「払いすぎた消費税」が戻ってくる(還付)ケースがあります。
Q3. 輸入仕入れの場合、消費税はかかりますか?
A. 通関時(輸入時)に消費税を払います。
税関を通る際に消費税を納付します。この納付書(輸入許可通知書)が、消費税控除の証明書になるので保管が必要です。
Q4. 簡易課税制度を使ったほうが得ですか?
A. 利益率やビジネスモデルによります。
小売業(第2種)はみなし仕入率80%です。粗利率が高いECなら簡易課税が有利な場合もありますが、輸出メイン(還付狙い)なら原則課税を選択する必要があります。
Q5. クレジットカード決済の手数料はいつ経費ですか?
A. 売上が計上された日に対応して計上するのが原則です。
売上計上と同時に未払金計上することで、期間対応を正しく行うことができます。
Q6. ポイント付与(モール負担・店舗負担)の処理は?
A. 店舗負担分は「販売促進費」などの経費になります。
プラットフォーム負担のポイントは売上に影響しませんが、店舗が負担した分は経費として計上します。
Q7. 在庫管理ソフトの導入費用は経費になりますか?
A. 30万円未満なら一括経費(少額減価償却資産)にできる特例があります。
青色申告を行っている中小企業者等の場合です。クラウド型の月額利用料は、毎月の経費になります。
Q8. 期末に予約販売で代金だけ受け取りました。売上ですか?
A. まだ出荷していないなら「前受金」です。
商品はまだ引き渡していないため、売上にはなりません。
Q9. 無在庫転売の売上計上時期は?
A. 原則は顧客への納品時ですが、発注時とするケースもあります。
実態に合わせて基準を決め、継続することが重要です。
Q10. 返品があった場合の処理は?
A. 「売上のマイナス」として処理します。
返品された日の属する月の売上から減額するのが一般的です。
Q11. 自社サイトとモールで売上基準を変えてもいいですか?
A. 合理的な理由があれば可能です。
データの取得状況などが異なる場合、それぞれに合理的な基準(出荷基準と検収基準の使い分けなど)を採用することは認められる傾向にあります。
Q12. 棚卸しは実地(数えること)が必要ですか?
A. 必須です。データ上の在庫と実在庫はズレることが多いです。
紛失や破損を経費にするためにも、決算期末には必ず実地棚卸を行ってください。
Q13. 自宅を在庫置き場にしている場合、家賃を経費にできますか?
A. 事業に使用している部分(面積など)で按分して経費にできます。
プライベートスペースと明確に区分し、合理的な割合で計算する必要があります。
Q14. 法人化のタイミング(売上目安)は?
A. 利益が安定して出るようになった時や、消費税課税事業者になるタイミングです。
売上1,000万円を超えると消費税の納税義務が生じるため、その前に法人化を検討する方が多いです。
Q15. 税務調査でECが見られるポイントは?
A. 「期ズレ」「在庫の計上漏れ」「プライベート費用の混入」です。
特に決算期末前後の売上と在庫の整合性は重点的にチェックされます。
まとめ:ECの利益は「データ」と「タイミング」で守る
ECビジネスは、売る力と同じくらい、守る力(在庫・税務管理)が重要です。 売上計上基準の選定や、期末の在庫管理、消費税の仕組みを理解することで、手元の資金を最大化することができます。
どんぶり勘定で突き進むと、売上が伸びた瞬間に税金と在庫で資金繰りが苦しくなるリスクがあります。 正しい会計知識を武器に、盤石なEC経営を行ってください。
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記事執筆監修者
荒川会計事務所(経営革新等支援機関(認定支援機関))代表税理士・登録政治資金監査人・行政書士の荒川 一磨です。
会社設立と創業融資を得意とし、何でも相談できる話しやすいパートナーであることを心掛けている事務所です。
事務所所在地 〒160-0022 東京都新宿区新宿2-5-16 霞ビル8F
電話番号 0120-016-356
所属 東京税理士会四谷支部・東京行政書士会新宿支部
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