【資本金の払込証明書】正しい作り方と融資でNGな5つのミスを税理士が解説

会社の設立登記。その申請に必要な、数多くの書類の山の中で、ひときわ異彩を放つ、一枚の書類があります。

それは、あなたが、ご自身の銀行口座の通帳をコピーし、自ら製本し、そして、まだこの世に存在しない、未来のあなたの会社の印鑑を押すことで完成する、不思議な書類。

それが、「資本金の払込証明書」です。

多くの起業家が、「ただ、お金が入っていることを見せればいいだけだろう」と、この書類の持つ、本当の重みを、軽視してしまっています。しかし、この一枚の紙切れは、単なる手続き上の提出物ではありません。

それは、あなたの会社が、空っぽの財布で生まれてきたのではない、という
「最初の体力証明」であり、
あなたの事業への覚悟が、口先だけのものではない、という
「本気度の物証」なのです。

この書類の作り方を一つ間違えるだけで、設立登記がストップしてしまうだけでなく、その後の、会社の未来を左右する「創業融資」の審査において、あなたの信用は、回復不可能なダメージを受ける可能性があります。

この記事は、その重要で、しかし、あまりにも多くの人がつまずく「資本金の払込証明書」について、その法的な意味から、具体的な作成手順の全て、そして、融資担当者が一瞬で見抜く「致命的なミス」まで、日本で最も詳しく、そして、分かりやすく解説する、完全マニュアルです。

第1章:【本質理解】なぜ、この一枚の紙が、それほどまでに重要なのか?

具体的な作り方に入る前に、まず、なぜ法務局と金融機関が、この書類をこれほどまでに重視するのか、その本質的な理由を理解しましょう。

法務局にとっての重要性:「資本金」という、会社の財産的基礎の証明

会社の「資本金」は、その会社の、設立時点での財産的な基礎であり、事業活動を行うための、最初の元手です。そして、その会社の信用力を示す、重要な指標の一つでもあります。

法務局は、登記申請の際に、定款で定められた資本金が、単に紙の上の数字ではなく、「確かに、現実のお金として、存在している」という、客観的な証拠を求めます。「払込証明書」は、まさに、そのための、唯一無二の証明書なのです。この証明がなければ、会社の財産的基礎が確認できないため、登記は受理されません。

金融機関にとっての重要性:「自己資金」という、起業家の覚悟の証明

そして、こちらが、あなたの未来の資金調達において、さらに重要な意味を持ちます。創業融資の審査において、金融機関の担当者は、この払込証明書と、その元となる通帳のコピーを、虫眼鏡で見るように、厳しくチェックします。

彼らが見ているのは、単に「資本金〇〇円が入金されている」という事実だけではありません。彼らは、その通帳の、過去数ヶ月、あるいは、一年分の取引履歴を遡り、「その資本金が、どのようにして作られたのか」という、お金の「ストーリー」を読み取ろうとしているのです。

毎月の給与から、コツコツと貯められてきたお金なのか。それとも、申込の直前に、どこかからか、不自然に振り込まれたお金なのか。この「ストーリー」こそが、あなたの事業に対する「本気度」と「計画性」を、何よりも雄弁に物語る、客観的な証拠となります。払込証明書は、融資審査における、あなたの「自己資金」を証明する、最も重要なプレゼンテーション資料なのです。

第2章:【実践ガイド】完璧な「払込証明書」を作成する、5つのステップ

それでは、法務局と金融機関の両方から、完璧な評価を得るための、具体的な作成手順を、ステップバイステップで見ていきましょう。

STEP 1:【口座の準備】使用すべきは「発起人個人の」銀行口座

最初の、そして、最も多くの人が混乱するポイントです。資本金の払込みに使う口座は、まだ存在しない「会社の口座」ではありません。会社を創る人、すなわち「発起人」の、個人名義の、普通預金口座を使用します。

  • どの銀行でもOK:都市銀行、地方銀行、信用金庫、ネット銀行、ゆうちょ銀行など、どの金融機関の口座でも構いません。
  • 発起人代表の口座が一般的:発起人が複数人いる場合は、そのうちの代表者一人の口座を、払込先に指定するのが、最もシンプルで、一般的です。
  • 新品の口座である必要はない:普段、給与の振込などで使っている、既存の口座で全く問題ありません。むしろ、その方が、コツコツとお金を貯めてきた「ストーリー」を、示しやすくなります。

STEP 2:【払込みの実行】「いつ」「誰が」「どうやって」お金を入れるか

次に、その口座へ、資本金を振り込みます。この時の、「タイミング」と「方法」が、極めて重要です。

  • タイミング:資本金の払込みは、必ず、「定款の作成日」以降、そして、「登記申請日」より前の日付で行わなければなりません。特に、定款の作成日よりも前に振り込んでしまうと、その払込みは、法的に無効と見なされ、登記が受理されない、という致命的なミスに繋がります。
  • 方法:「預入れ(現金入金)」ではなく、「振込」がベスト

    もちろん、ATMや窓口で、現金を入金(預入れ)しても、手続き上は問題ありません。しかし、特に融資を考えている場合、私たちは、必ず「振込」という方法を取ることを、強く推奨します。なぜなら、振込であれば、通帳に「振込人」の名前が明確に記録として残るからです。

    ケーススタディ:発起人が3人(A, B, C)で、資本金300万円の場合

    悪い例(現金入金):代表者Aさんが、BさんCさんから現金で100万円ずつ預かり、自分の口座に、現金で300万円を入金する。
    → 通帳には「お預り 3,000,000円」としか記載されず、このお金が、本当にBさんCさんから来たものなのか、客観的に証明できません。

    良い例(振込):発起人BさんとCさんが、それぞれ、自分の銀行口座から、代表者Aさんの口座へ、「カ)シンジュクショウジ ホッキニン スズキタロウ」といった形で、会社名と、自身の名前が分かるように、100万円ずつ振り込む。
    → 通帳には、誰から、いくら振り込まれたかが、明確に記録として残ります。これが、各発起人が、確かに出資義務を果たしたことの、動かぬ証拠となるのです。

STEP 3:【通帳のコピー】3つの必須ページを、正確に

資本金の払込みが記帳されたら、その通帳の、以下の3つの部分を、A4用紙に、鮮明にコピーします。

  1. 通帳の表紙:銀行名、支店名、口座種別、口座番号、そして、口座名義人(あなた)の名前が記載されている、一番外側のページ。
  2. 通帳を開いた1ページ目(表紙の裏):支店名、口座番号、そして、口座名義人の名前が、カタカナで記載されているページ。
  3. 払込みが記帳されたページ:払込みの「日付」「振込人名」「金額」が、はっきりと分かるようにコピーします。もし、払込みが複数ページにまたがっている場合は、全てのページが必要です。
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    STEP 4:【証明書の作成】法的な要件を満たす、表紙を作る

    STEP 3で作成した通帳のコピーと、A4の白紙を1枚用意します。この白紙が、証明書の「表紙」となります。この表紙には、以下の内容を記載します。

    払込証明書(記載例)

    払込みがあった金銭の総額  金 3,000,000 円

    払込みがあった株数     300 株

    1株の払込金額       金 10,000 円

    日付 令和〇年〇月〇日

    上記のとおり、払込みがあったことを証明します。

    東京都新宿区新宿〇丁目〇番〇号
    株式会社 新宿商事
    代表取締役 鈴木 太郎 (ここに、作成した会社の実印を押印)

    この「払込証明書」と、STEP 3でコピーした通帳の3ページ(以上)を、順番に重ねます。

    STEP 5:【製本と押印】完璧な証明書を、完成させる

    最後に、STEP 4で重ねた書類を、ホチキスで左側2箇所を留め、製本します。そして、その各ページの綴じ目に、またがるように、会社の「代表者印(法人実印)」を、鮮明に押印します(これを「契印」と呼びます)。

    これで、法的に有効な、「資本金の払込証明書」の完成です。

    第3章:【融資で一発アウト!】絶対にやってはいけない、5つの致命的なミス

    手続き上は、上記の方法で証明書は作成できます。しかし、その「中身」に、以下の問題が潜んでいる場合、あなたの会社の信用は、設立初日から、地に落ちることになります。

    ミス1:【見せ金】融資担当者が、最も嫌悪する行為

    具体例:自己資金がほとんどないAさんが、設立登記のためだけに、知人から300万円を一時的に借り、自分の口座に入金。払込証明書を作成し、登記が完了した数日後に、その300万円を、知人に返済する。

    なぜ、バレるのか?:融資担当者は、払込みがあったページだけでなく、その前後、数ヶ月分の通帳の履歴を、必ずチェックします。申込直前に、不自然な大金が入金され、登記後すぐに、そのお金が引き出されている。この動きは、あまりにも不自然であり、プロの目から見れば、一目瞭然です。

    もたらす結末:これは、金融機関を騙そうとする、極めて悪質な行為と見なされます。その融資が否決されるだけでなく、あなたは「信用できない人物」として、その金融機関のブラックリストに載り、将来にわたって、資金調達の道が、ほぼ完全に閉ざされます。

    ミス2:【タイミングエラー】定款作成日より「前」に、振り込んでしまう

    具体例:やる気に満ちたBさんが、定款の内容を固める前の、5月10日に、資本金となる100万円を、自分の口座に振り込んでしまった。その後、5月15日に、公証役場で、定款の認証を受けた。

    なぜ、ダメなのか?:法律上、資本金の払込みは、「定款で、会社のルールが確定した後に、そのルールに基づいて行われる」必要があります。定款の作成日(認証日)よりも前の払込みは、法的に、その会社の資本金としての払込みとは、認めてもらえません。

    もたらす結末:法務局で、登記申請が受理されず、「もう一度、定款認証日以降の日付で、資本金を払い込み直し、証明書を作り直してください」という、補正指示を受けることになります。

    ミス3:【名義不一致】通帳の名義と、発起人の名前が違う

    具体例:発起人である「鈴木 花子」さんが、結婚前の旧姓である「佐藤 花子」名義の、古い銀行口座を、そのまま払込先に指定してしまった。

    なぜ、ダメなのか?:法務局は、印鑑証明書に記載された「鈴木 花子」と、通帳の名義人である「佐藤 花子」が、同一人物であることを、客観的に判断できません。

    もたらす結末:登記申請の際に、補正を求められます。戸籍謄本など、両者が同一人物であることを証明する、追加の書類を提出する必要があります。

    ミス4:【残高不足】払込み後の口座残高が、資本金額を下回っている

    具体例:資本金100万円を振り込んだ後、登記申請までの間に、その口座から、公共料金などが引き落とされ、コピーを取った時点での口座残高が、99万円になってしまっていた。

    なぜ、ダメなのか?:払込みがあったという事実だけでなく、「その資本金が、確かに、口座内に存在している」という事実も、証明する必要があります。

    もたらす結末:登記申請の際に、補正を求められます。再度、資本金額以上の残高がある状態で、通帳を記帳し直し、コピーを取り直す必要があります。

    ミス5:【書類の不備】コピーが不鮮明、ページが足りない

    具体例:コピー機の調子が悪く、通帳の支店名や、振込人の名前が、かすれて読めない。あるいは、必要な3ページのうち、表紙のコピーを忘れてしまった。

    もたらす結末:軽微なミスですが、これも、補正の対象となります。平日の日中に、法務局へ、再度、足を運ぶ手間が発生します。

    結論:会社の「最初の産声」を、完璧なものにするために

    「資本金の払込証明書」。それは、あなたの会社が、この世に生まれる、まさにその瞬間の、財務的な健全性を証明する、「最初の産声」です。

    その産声が、弱々しく、不確かで、疑念を抱かせるものであってはなりません。

    私たち荒川会計事務所は、あなたの会社の設立において、この最も重要で、そして、最もミスが許されないプロセスを、完璧にナビゲートします。

    私たちは、単に、書類の作り方をお教えするだけではありません。あなたの会社の、未来の資金調達戦略までを完全に見据え、金融機関から、最高の評価を得るための、「自己資金のストーリー作り」の段階から、あなたと共に、計画を立てます。

    あなたの会社の、輝かしい未来への、最初の第一歩。どうか、その最も重要な瞬間を、私たち専門家にお任せください。

    その「払込証明書」、あなたの会社の信用を、損なっていませんか?

    設立登記で、そして、その先の融資で、つまずかないために。
    まずは無料相談で、あなたの会社の、完璧なスタートを、私たちと一緒に設計しましょう。

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