法務局での複雑な登記申請を終え、ついにあなたの会社の「設立登記」が完了した。
あなたは安堵のため息と共に、誇らしい気持ちで法務局の窓口へ向かい、あなたの会社の公式な「身分証明書」である「登記簿謄本(現在の正式名称は『履歴事項全部証明書』)」を取得します。
その時、窓口の担当者からこう聞かれます。
「証明書は、何通ご入用ですか?」
「さあ…?とりあえず創業融資の申し込みに1通あればいいだろう」
もしあなたがそのように答え、たった「1通」だけを手に法務局を後にしたとしたら。
おめでとうございます。あなたは創業期の経営者が陥る、最も典型的で、最も時間の無駄となる「最初の罠」に完璧にはまりました。
この記事は、そのあなたの会社の船出をいきなり停滞させる致命的な「事務手続きの罠」からあなたを救い出すためのものです。
その「登記簿謄本」という一枚の紙切れが、創業直後の混沌とした世界において、いかに多くの扉を開けるための「マスターキー」として機能するのか。
そして、そのキーを何本同時に用意しておくことが、あなたの貴重な「時間」という経営資源を守る最強の戦略となるのか。新宿で数えきれないほどの会社の「鍵」を準備してきた私たちが、その最適解と全理由を徹底的に解説します。
第1章:【結論】なぜ「3通~5通」が絶対に必要なのか?
まず、結論から申し上げます。
会社設立直後にあなたが取得すべき登記簿謄本の最低必要枚数は、
「3通」。そして、私たちが強く推奨する最適な枚数は「5通」です。
「なぜそんなに?コピーじゃダメなのか?」
その答えは、あなたの会社設立後、「1秒でも早く完了させなければならない手続き」が同時多発的に発生し、そしてそのほぼ全ての手続きがあなたの「登記簿謄本の『原本(コピー不可)』」を要求してくるからです。
第2章:【あなたの未来】登記簿謄本(原本)を要求する5人の「刺客」たち
登記が完了したその瞬間から、あなたの元には以下の5者の機関が一斉に「あなたの会社の身分証明書(登記簿謄本)を提出しなさい」と要求してきます。
【設立直後】登記簿謄本の提出先マスターリスト
| 提出先(刺客) | 目的 | 必要なもの | 優先度 |
|---|---|---|---|
| ① 金融機関 | 法人口座の開設 | 原本 | 最優先 |
| ② 日本政策金融公庫 | 創業融資の「契約」 | 原本 | 最優先 |
| ③ 年金事務所 | 社会保険の加入 | 原本 | 最優先 |
| ④ 税務署 | 法人設立届 | コピー | 高 |
| ⑤ 都道府県・市区町村 | 税務届出・許認可 | コピー(または原本) | 高 |
【刺客1】金融機関(銀行・信用金庫)―「法人口座が開設できません」
これが最優先かつ最大のハードルです。
あなたの会社が事業を始め、売上を入金し、経費を支払うための全ての土台となる「法人口座」。
銀行は、マネー・ローンダリング対策(AML)と本人確認(KYC)のため、あなたの会社が法的に実在することを確認するために、登記簿謄本の「原本」の提出を100%要求します。
そして、法人口座の開設審査には、登記完了後さらに2週間~1ヶ月もの時間がかかります。この手続きが遅れることは、あなたの事業のスタートがその分遅れることを意味します。
【刺客2】日本政策金融公庫(JFC)―「融資の契約ができません」
あなたの本題です。
創業融資の「申し込み(審査)」の段階では、登記簿謄本の「コピー」で受け付けてくれる場合もあります。
しかし、審査が無事に通過し、いよいよ最後の「融資契約」を結び、お金を借りるという最も重要な局面。
公庫は、契約の相手方であるあなたの会社の実在を最終確認するために、最新の「登記簿謄本(原本)」の提出を必須としています。
ここで「1通」しかない悲劇が起こります。
あなたがそのたった1通の原本を、「銀行(口座開設)」に提出してしまっている間。あなたは「公庫(融資契約)」の手続きを進めることができず、あなたの資金調達は完全にストップします。
【刺客3】税務署 ―「法人設立届」が受理されません
会社設立後2ヶ月以内に税務署へ提出が義務付けられている「法人設立届出書」。
この届出書には、添付書類として「定款のコピー」と「登記簿謄本のコピー(※)」が必要です。
(※厳密には、税務署は「登記簿謄本または登記申請書の受領書」としていますが、実務上は登記簿謄本のコピーを添付するのが最も確実です)
この届出と同時に「青色申告承認申請書」という、あなたの未来の税金を数百万円節約する可能性のある重要書類を提出する必要があります。原本が1通しかなく、銀行と公庫をたらい回しにされている間に、この重要な税務上の期限を逃してしまうリスクさえあるのです。
【刺客4】都道府県・市区町村 ―「税務の届出」と「許認可」
税務署(国税)だけでなく、あなたの会社は事業所がある都道府県(都税事務所など)と市区町村(新宿区役所など)にも「法人設立届出書」を提出する義務があります。
これらの届出にも、全て登記簿謄本のコピーが添付書類として必要です。
さらに、あなたの事業が「建設業」や「不動産業」「飲食店」といった「許認可」が必要な業種である場合。その許認可の申請においても、登記簿謄本の原本またはコピーの提出が求められます。
【刺客5】年金事務所 ―「社会保険」の加入手続き
会社を設立すれば、たとえ社長一人でも社会保険(健康保険・厚生年金)への加入は法律上の義務です。
設立から5日以内に年金事務所へ提出する「新規適用届」には、登記簿謄本の「原本」(コピー不可の場合が多い)が必要です。
【結論】なぜ「3通~5通」なのか?
もうお分かりですね。
登記が完了したその瞬間に、あなたは、
- 法人口座開設(銀行):原本 1通
- 融資契約(公庫):原本 1通
- 社会保険(年金事務所):原本 1通
という、最低でも「3通」の原本が同時に必要となる多面作戦を強いられるのです。
さらに、
- 税務署、都、区への届出:コピー 3通
- 許認可申請:原本またはコピー 1通
- 事務所の賃貸借契約:原本またはコピー 1通
といったコピーの需要にも応えなければなりません。
だからこそ、私たちは「原本として提出する3通」+「不測の事態に備える予備2通」=「合計 5通」を、設立当日にまとめて取得しておくことを、最強の「時短戦略」として強く推奨するのです。
第3章:【致命的な罠】その「登記簿謄本」はいつまで有効か?
「それなら、安心のために最初に10通取っておこう」。そう考えたあなた。それもまた無駄なコストを生む典型的な「罠」です。
「発行後3ヶ月以内」という暗黙のルール
あなたが登記簿謄本を提出する全ての相手方(金融機関、行政機関、不動産会社など)は、その証明書が「今現在の情報である」ことを求めます。
その「今現在」を担保するための暗黙の業界標準。それが「発行後3ヶ月以内」というルールです。
あなたが設立当日に取得した登記簿謄本は、3ヶ月を経過した瞬間から、その多くが「古い情報」として公的な手続きには使えなくなる可能性が高いのです。
だからこそ、設立直後に必要な「5通」をまず取得し、その後は必要になった都度新しいものを取得するというメリハリが重要なのです。
第4章:【FAQ】「登記簿謄本」に関する一歩進んだ疑問
最後に、この会社の「身分証明書」について、さらに深く検討されている起業家の皆様から、私たちが特によくお受けする専門的なご質問とその回答を、Q&A形式でまとめました。
Q1. 登記簿謄本には「履歴事項全部証明書」や「現在事項全部証明書」など種類がありますが、どれを取れば良いですか?
A1. あなたが取得すべきは常に、「履歴事項全部証明書(りれきじこうぜんぶしょうめいしょ)」です。これ一択だと覚えてください。
取得すべき謄本の種類
| 種類 | 内容 | 融資での利用 |
|---|---|---|
| 履歴事項全部証明書 | 「現在」+「過去の履歴」の全て | ◎ これが正解(設立日も確認可) |
| 現在事項全部証明書 | 「現在」の情報のみ(履歴は省略) | × NG(情報不足で受理されないリスク有) |
- 履歴事項全部証明書:
「現在」の登記情報に加えて、「過去(設立からの変更履歴)」も全て記載されたフルスペックの証明書です。金融機関や行政機関が「登記簿謄本」と言った場合、通常はこれを指します。 - 現在事項全部証明書:
過去の変更履歴が省略され、「今現在」の効力を持つ情報だけが記載された簡易版の証明書です。これでは「いつ会社が設立されたか」といった創業融資に不可欠な情報が抜け落ちる可能性があり、公的な手続きでは受理されないリスクがあります。
Q2. 登記簿謄本(原本)を提出したら、返してもらえますか?
A2. それは提出先によります。
- 返却される可能性が高い:金融機関(銀行、公庫)での手続き。
彼らは「原本を確認しました」というチェックが目的であることが多いため、その場でコピーを取った後、原本は返却してくれるケースが多いです。 - 返却されない(提出が必須):年金事務所への新規適用届など、一部の行政手続き。
これらの手続きでは原本(またはコピー)そのものの提出を求められ、返却されないことが前提となります。
プロの視点:
この「返却されるかどうか」が不確定であるというリスクそのものを回避するために、私たちは「最低3通の原本」を同時に確保し、それぞれの手続きを並行して進めるという戦略を取るのです。
Q3. 登記簿謄本はどこで取得できますか?安く取る方法は?
A3. 取得方法は主に3つあります。
登記簿謄本の取得方法 比較
| 取得方法 | 手数料(1通) | スピード | 備考 |
|---|---|---|---|
| ① 法務局の窓口 | 600円 | 最速 | 設立当日はコレ一択 |
| ② オンライン(郵送) | 500円 | 遅い(数日) | 急がない追加取得に |
| ③ オンライン(PDF) | 332円 | 最速 | ※公的証明書として使えない |
- 法務局の窓口で取得:
最も早く確実な方法です。全国どこの法務局でもあなたの会社の登記簿謄本を取得できます。手数料は1通600円です。 - オンライン(登記ねっと)で郵送請求:
法務局の「登記ねっと」というシステムを利用し、オンラインで請求します。証明書は後日郵送で送られてきます。手数料は1通500円と少し安くなりますが、時間がかかります。 - オンライン(登記ねっと)で電子データ(PDF)請求:
手数料は1通332円と最も安価です。しかし、これは公的な証明書としての効力は持たない「ただのデータ」です。金融機関などへの正式な提出には使えません。自分で内容を確認したい場合にのみ使えます。
結論:あなたの「時間」という最も高価な資産を守るために
登記簿謄本1通600円。
それをケチって1通しか取得しなかった結果、銀行の手続きと公庫の手続きがバッティングし、あなたの資金調達が1週間遅れたとしたら。
その1週間分の家賃、人件費、そして何よりもあなたの貴重な経営者としての時間。その機会損失は、果たして600円で償えるものでしょうか。
創業期の経営者が最も賢く使うべきは、お金ではありません。「時間」です。
私たち荒川会計事務所は、あなたのその最も貴重な「時間」を1秒たりとも無駄にさせません。
私たちは、設立登記が完了したその瞬間に、どの手続きに何通の原本が必要で、どの手続きにはコピーで十分かを完璧に把握し、その全てのタスクを並列で処理する最強の「プロジェクト・マネージャー」です。
あなたの「マスターキー」、何本用意しますか?
そのたった数通の準備不足が、あなたの会社の船出を遅らせます。
設立直後の混沌とした全ての手続きは、私たち専門家に丸投げして、あなたは本業に集中してください。
記事執筆監修者
荒川会計事務所(経営革新等支援機関(認定支援機関))代表税理士・登録政治資金監査人・行政書士の荒川 一磨です。
会社設立と創業融資を得意とし、何でも相談できる話しやすいパートナーであることを心掛けている事務所です。
事務所所在地 〒160-0022 東京都新宿区新宿2-5-16 霞ビル8F
電話番号 0120-016-356
所属 東京税理士会四谷支部・東京行政書士会新宿支部
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