会社設立の準備が大詰めを迎え、あなたは今、輝かしい船出のために必要な資金を計算していることでしょう。
店舗の保証金、オフィスの内装費、パソコンや什器、そして当面の運転資金――。
しかしそのリストの中に、決して忘れてはならない、そして創業期の貴重な自己資金から確実に25万円前後の現金を奪っていく重要な項目があります。
それが「会社設立費用」そのものです。
(定款認証手数料:約5万円 + 登録免許税:最低15万円 + 雑費)
多くの起業家は「これは事業を始めるための入場料のようなものだから当然自分の資金で払うものだ」と、何の疑いもなく支出しています。
しかしもし、その“当たり前”の支出が、あなたの会社の未来の生存確率を危険にさらしているとしたら――?
なぜなら会社は「資本金」で動くのではなく、「現金(キャッシュ)」で動くからです。
創業期の経営者が1円でも多く手元に残しておきたい虎の子の現金。その貴重な25万円を登記という一瞬の手続きで失う代わりに、その25万円も含めて「創業融資」で借りてしまうという選択肢があるのです。
この記事では、多くの経営者が見過ごしている「会社設立費用」そのものを創業融資の対象に組み込むという、高度でありながら知っていれば誰でも実行可能な究極の資金調達戦略を解説します。
具体的なロジックの組み方、事業計画書への落とし込み方、そしてその戦略的メリットのすべてを、新宿で数多くの企業のキャッシュフローを守ってきた私たちが徹底的に解説します。
第1章:【経営者の新常識】なぜ「手元の現金」は「資本金の額」よりも100倍重要なのか?
まずあなたのマインドセットをリセットする必要があります。「資本金が多い方が格好良い」という古い常識は一度捨ててください。
会社は「利益」では潰れない。「現金」が尽きた時に潰れる
創業期の経営者が直面する唯一にして最大の恐怖、それは「赤字」ではありません。「資金ショート(キャッシュが尽きること)」です。
たとえ会計上は黒字でも、取引先からの入金が遅れ、来月の家賃や給料を払う現金がなければ、その会社は倒産します(黒字倒産)。
あなたの会社の命をつなぐのは、登記簿謄本に記載された「資本金の額」という過去の数字ではなく、預金通帳に記載された「今この瞬間に使える現金の残高」だけです。
あなたのその「25万円」が持つ本当の価値
あなたが自己資金から支払ってしまうその「設立費用25万円」。その25万円は――
- 会社の1か月分の家賃になるかもしれません。
- 未来を切り拓くWeb広告費になるかもしれません。
- 売上が計画通りに立たなかった魔の3か月目を乗り切るための最後の生命線になるかもしれません。
この貴重な未来の運転資金を、登記という一瞬の過去の手続きのために消費してしまう。それこそが経営者として最初に避けるべき戦略的ミスです。
「では、どうすれば?」――答えはシンプルです。「会社設立費用」を事業を開始するための必要コストとして認識し、それも含めて創業融資で調達すれば良いのです。
第2章:【戦略の核心】「設立費用」を融資計画に完璧に組み込む2つの方法
日本政策金融公庫の創業融資では、事業開始に必要なお金であれば設立費用も融資の対象として認められます。
しかし重要なのは「タイミング」と「見せ方」です。あなたの状況によって、次の2つのパターンに分かれます。
パターンA:【王道】設立後に融資を申し込む場合(すでに費用を支払ってしまったケース)
最も一般的なケースです。自己資金から定款認証料や登録免許税、合計25万円を支払って会社を設立し、その直後に融資を申し込みます。
NGな考え方
「もう払ってしまった費用だから諦めよう。融資はこれから必要な運転資金だけにしておこう。」
プロの考え方(120点満点)
事業計画書の「7 必要な資金」の欄に次のように記載します。
- 設備資金:(内装費、PC購入費など)〇〇〇万円
- 運転資金:(家賃、仕入、人件費など)〇〇〇万円
- 創業諸費用(※):25万円(内訳:定款認証料5万円、登録免許税15万円、その他5万円)
根拠として、公証役場や法務局へ支払った領収書のコピーを添付します。
これにより融資担当者は「事業の総コストは〇〇〇万円で、そのうち25万円はすでに自己資金で支払い済み」と理解します。この支払済み25万円は自己資金の一部として高く評価され、融資額が上乗せされる可能性が高まります。
融資実行後、会社口座に入金された資金から立て替えた25万円を社長個人へ返済(役員借入金の返済)すれば、手元の現金は元通りになります。これを「自己資金の補填」と呼びます。
パターンB:【上級編】設立前に融資を申し込む場合
より計画的な上級者向けの戦略です。会社を設立する前に、個人事業主(発起人)として日本政策金融公庫に融資を申し込みます。
事業計画書の「7 必要な資金」の欄に次のように記載します。
(仮)会社設立費用 250,000円
担当者は「会社設立にかかる法定費用まで含めた完璧な資金計画だ」と評価します。
融資が内諾された後の流れは次の通りです。
- 内諾後に安心して会社を設立し、設立費用25万円を支払う。
- 設立後、法人口座開設のタイミングで融資が実行される。
- 融資額には設立費用25万円分も含まれている。
これにより最もスムーズで合理的な流れを作ることができます。
第3章:【書き方実例】創業融資の事業計画書に「設立費用」を自然に盛り込む方法
実務的に重要なのは「どう書くか」です。公庫の融資担当者が一読して「この経営者はしっかり準備している」と感じるような書き方を意識します。
事業計画書の該当欄:「7 必要な資金」
以下のように、自然な形で組み込みます。
【設備資金】 内装工事費 1,200,000円 什器・備品費 500,000円 【運転資金】 家賃・広告費等 800,000円 【創業諸費用】 会社設立費用(定款認証・登録免許税・雑費) 250,000円
こう書くことで、単なる「登記手数料」ではなく「創業準備に必要な投資」であることを明確に示せます。
補足書類で信頼度を高める
- 定款認証の領収書(公証役場)
- 登録免許税の領収書(法務局)
- 司法書士・行政書士への報酬領収書(あれば)
これらを添付することで、支出の妥当性と信頼性が補強されます。
第4章:【融資後の実務処理】会社設立費用の会計処理と資金の戻し方
1. 設立費用の会計処理
設立費用は「創立費」(繰延資産)として処理します。仕訳例は以下の通りです。
(借方)創立費 250,000円 / (貸方)現金 250,000円
この創立費は、会社法上も税務上も5年以内の任意償却が認められています(法人税法施行令第14条第1項第3号)。したがって、毎期任意の額を費用化できます。
2. 社長が立て替えた場合
社長個人が設立費用を負担していた場合、会社設立後に次の仕訳を行います。
(借方)創立費 250,000円 / (貸方)役員借入金 250,000円
その後、融資実行後に会社口座から役員へ返済すれば、個人資金は回復します。
(借方)役員借入金 250,000円 / (貸方)現金 250,000円
これが、会社設立費用を創業融資で実質的に「借りた」形になります。
第5章:【まとめ】設立費用を融資に組み込むことは、経営者としての「戦略的思考」
会社設立費用を創業融資に含めることは、単なる節約テクニックではありません。これは、経営者が「限られたキャッシュをどう戦略的に配置するか」という意思決定の問題です。
- 設立費用25万円を「固定費」として支出するか
- それとも「融資」で調達し、現金を温存して戦うか
創業初期においてこの25万円が会社の生死を分けることは珍しくありません。
資金繰りに余裕があれば、あなたはより冷静に営業活動を行い、好条件で人材を採用し、マーケティングに投資できます。逆に現金が尽きれば、すべての判断が「今日をどう乗り切るか」に偏り、経営の自由度を失います。
その意味で、「設立費用を融資で賄う」という行為は単なるテクニックではなく、“キャッシュを支配する経営者”としての第一歩なのです。
創業時に最も大切なのは「潰れない仕組み」を先に作ること。
そのための第一歩は、会社設立費用という小さな支出を「戦略的に処理する」ことから始まります。
【無料相談】あなたの設立・融資計画をプロがチェックします
荒川会計事務所では、日本政策金融公庫・保証協会を活用した 創業融資サポートを多数手がけており、 設立費用の資金計画を含めたトータル設計を行っています。
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記事執筆監修者
荒川会計事務所(経営革新等支援機関(認定支援機関))代表税理士・登録政治資金監査人・行政書士の荒川 一磨です。
会社設立と創業融資を得意とし、何でも相談できる話しやすいパートナーであることを心掛けている事務所です。
事務所所在地 〒160-0022 東京都新宿区新宿2-5-16 霞ビル8F
電話番号 0120-016-356
所属 東京税理士会四谷支部・東京行政書士会新宿支部
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