消費税の「還付」を狙う!輸出ビジネスや、巨額投資がある会社の戦略的申告【完全版】

「消費税の納税額がゼロになる」 これだけでも経営者にとっては嬉しい話ですが、さらに上を行く話があります。

「税務署から、現金で数百万円が振り込まれる」

これが「消費税の還付(かんぷ)」です。 これは決して怪しい節税策でも裏ワザでもなく、消費税法の仕組み上、正当に認められた権利です。

特に、「海外への輸出ビジネス(越境ECなど)」を行っている会社や、「大きな設備投資(建物、機械、車両)」を行った会社は、本来払う必要のない税金を払っている(預けすぎている)可能性が高く、確定申告によってそのお金を取り戻すことができます。

しかし、還付を受けるためには、非常に高いハードルがあります。 それは「事前の手続き」「タイミング」です。

「決算が終わってから計算したら還付になりそうだった」では遅いのです。 1日でも手続きが遅れれば、数百万円の還付金は幻となり、消えてなくなります。

この記事では、消費税還付のメカニズムを解き明かし、どのような企業が対象になるのか、そして絶対にミスが許されない「届出の期限と手順」について、プロの税理士が徹底的に解説します。

【本記事の根拠となる主な法令】
  • 消費税法 第30条:仕入れに係る消費税額の控除(還付の基本)
  • 消費税法 第9条:課税事業者選択届出書(あえて課税事業者になる手続き)
  • 消費税法 第19条:課税期間の特例(3ヶ月・1ヶ月短縮)
  • 消費税法 第12条の4:高額特定資産を取得した場合の特例(3年縛り)

第1章:なぜ税金が戻ってくる?消費税還付のメカニズム

まずは、なぜ「税金を払う」のではなく「もらえる」のか、その仕組みを簡単に理解しましょう。

基本式:預かった税金 − 払った税金 = 納税額

消費税の計算は非常にシンプルです。

(お客様から預かった消費税) − (経費・仕入れで払った消費税) = 納税額

通常は「預かった税金」の方が多いので、差額を税務署に納めます。 しかし、もし「払った税金」の方が多かったら?

その差額は「払いすぎ」の状態になるため、確定申告をすることで現金で返してもらうことができます。これが還付です。

還付が発生する「2大パターン」

普通に商売をしていれば「売上>経費」となり、納税になるはずです。 しかし、以下の2つのケースでは逆転現象が起きます。

  1. 輸出ビジネス:売上の消費税が「0円(免税)」なのに、仕入れには消費税がかかっている。
  2. 巨額の設備投資:売上の消費税よりも、建物や機械を買った消費税の方が一時的に巨額になる。

第2章:【戦略A】輸出ビジネス(越境EC・貿易)の還付

輸出業は、消費税還付の「王道」です。利益が出ている黒字企業であっても、消費税は還付になります。

輸出売上は「消費税免税(0%)」

日本の消費税は「国内で消費されるもの」にかかる税金です。 外国に商品を売る場合、日本の消費税はかかりません(輸出免税)。つまり、海外のお客様からは消費税を預かりません。

しかし、仕入れには消費税がかかる

一方で、商品を日本国内のメーカーや問屋から仕入れる際には、当然10%の消費税を支払っています。 また、梱包資材、国内送料、事務所家賃などにも消費税がかかっています。

【輸出業者の計算例】
・海外売上:5,000万円(消費税 0円
・国内仕入:3,300万円(税抜3,000万円 + 消費税 300万円

計算:0円(預かり) − 300万円(支払い) = ▲300万円

条件を満たせば、概ね300万円程度の還付を受けられます。

この300万円は、本来なら「仕入コスト」として消えるはずだったお金です。還付申告をすることで、それがキャッシュとして手元に戻ってくるのです。 会計上は消費税の精算(仮払金等の回収)として処理されますが、実質的な手元資金が増える効果は絶大です。

第3章:【戦略B】設備投資(建物・機械・車両)の還付

こちらは、一時的な還付を狙うパターンです。

大きな買い物をした年はチャンス

例えば、IT企業が自社ビルを建てたり、運送会社がトラックを10台買ったり、製造業が高額な機械を導入したりする年。 売上で預かった消費税よりも、設備投資で支払った消費税の方が圧倒的に多くなることがあります。

【設備投資の計算例】
・年間売上:5,500万円(消費税 500万円
・通常の経費:2,200万円(消費税 200万円)
本社ビル建築:1億1,000万円(消費税 1,000万円)

計算:500万円 − (200万円 + 1,000万円) = ▲700万円

700万円が還付されます。

この700万円があれば、借入金の返済や次の投資に回せます。 大きな出費がある年は、決算前に必ず「消費税が還付になるか?」を試算する必要があります。

第4章:最大の落とし穴「免税事業者」は還付を受けられない

「よし、うちは輸出をしてるから還付申告しよう!」 そう思っても、多くの創業企業や個人事業主が門前払いを食らいます。 なぜなら、「免税事業者は、消費税の申告を行えないため、結果として還付を受けられない」からです。

還付を受けるための絶対条件

消費税の還付を受けるためには、以下の2つの条件を満たす必要があります。

  1. 課税事業者であること(消費税を申告する義務がある人)
  2. 本則課税(原則課税)を選んでいること(簡易課税や2割特例ではないこと)

「あえて課税事業者になる」手続きが必要

売上が1,000万円以下の事業者や、設立1〜2年目の法人は、通常「免税事業者」です。 免税事業者は、消費税を納める義務がない代わりに、還付を受ける権利もありません。

還付を受けるためには、自ら進んで税務署に「消費税課税事業者選択届出書」を提出し、「私は売上が少ないですが、あえて消費税の申告をします!」と宣言しなければなりません。

【期限に注意!!】
この届出書は、原則として「適用を受けようとする期間の開始日の前日」までに提出しなければなりません。
つまり、期が始まってから「今年は輸出が伸びたから還付申告したい」と思っても手遅れなのです。
(※新設法人の場合は、設立した期の期末までに提出すればOKという特例があります)

第5章:キャッシュフローを加速させる「課税期間の短縮」

消費税の還付は、通常「1年に1回(確定申告時)」です。 しかし、輸出業などで毎月多額の消費税を払っている場合、「1年も待てない!早く返してくれ!」となりますよね。

そこで使えるのが「課税期間の短縮特例」です。

「3ヶ月ごと」や「1ヶ月ごと」に還付をもらう

届出(消費税課税期間特例選択・変更届出書)を出すことで、申告の回数を増やすことができます。

  • 3ヶ月特例:年4回申告。3ヶ月ごとに還付金が入る。
  • 1ヶ月特例:年12回申告。毎月還付金が入る。

メリット:資金繰りが圧倒的に良くなります。仕入れで払った消費税がすぐ戻ってくるので、その現金を次の仕入れに回せます。
デメリット:申告の手間と税理士報酬が増えます。毎月決算を組むようなものなので、経理体制が整っていないとパンクします。

第6章:不動産投資(居住用マンション)の還付は不可能?

かつて、「自動販売機スキーム」や「金地金スキーム」を使って、居住用マンションの建築費にかかる消費税を還付してもらう節税策が流行しました。 しかし、現在は度重なる法改正により、居住用賃貸建物の消費税還付はほぼ不可能になっています。

令和2年改正:「居住用賃貸建物」は仕入税額控除不可

現在、居住用賃貸建物については、原則として建物取得に係る消費税は控除できません(還付されません)。 どんなに本則課税を選んでも、課税売上割合が高くてもダメです(消費税法第30条第10項)。

※店舗や事務所用の物件(テナントビル)であれば、現在でも還付の可能性があります。

「高額特定資産」の3年縛り

税抜1,000万円以上の資産(高額特定資産)を取得して仕入税額控除を受けた場合、「取得した課税期間と、その後2課税期間(いわゆる3年縛り)」は、
・免税事業者に戻れない
・簡易課税を選べない
という制限がかかります。 「還付を受けた翌年に免税事業者に戻って逃げ切る」という手法は封じられています。

第7章:【FAQ】消費税還付に関する実務Q&A(20選)

最後に、還付申告に関するよくある質問とリスクについて解説します。

Q1. インボイス制度の「2割特例」と還付は併用できますか?

A. できません。

2割特例は「納税額を減らす」制度であり、計算結果がマイナス(還付)になることはありません。還付を受けたい場合は、あえて「本則課税」を選ぶ必要があります。

Q2. 簡易課税を選んでいますが、還付を受けられますか?

A. 受けられません。

簡易課税は「売上」だけで計算するため、どんなに経費を払っても還付にはなりません。還付を受けるには、事前に「簡易課税制度選択不適用届出書」を出して、本則課税に戻る必要があります(※2年縛りに注意)。

Q3. 還付申告をすると税務調査が来やすいですか?

A. はい、確率はかなり高まります。

税務署にとって還付は「現金を渡す」行為なので、審査が厳格になります。特に初回還付や、金額が大きい場合、不正がないか確認するための「還付保留通知」が届いたり、電話調査や実地調査が入ったりすることが多いです。

Q4. 還付金はいつ振り込まれますか?

A. 申告から1ヶ月〜1ヶ月半後が目安です。

e-Taxで申告した場合は比較的早いですが、書面提出の場合や、税務署からの確認事項がある場合は2〜3ヶ月かかることもあります。

Q5. 輸出売上はどうやって証明しますか?

A. 輸出許可通知書や郵便局の発送控えが必要です。

「本当に輸出したのか?」を証明する書類(インボイス、EMS控え、輸出許可証など)の保存が必須です。これがないと輸出免税が否認され、国内売上(課税)として扱われるリスクがあります。

Q6. 赤字の会社ですが、還付申告できますか?

A. もちろんです。

赤字かどうか(法人税)と、消費税の還付は関係ありません。赤字であっても、預かり消費税より支払い消費税が多ければ還付されます。

Q7. インボイス未登録業者への支払いも、還付の対象経費になりますか?

A. 経過措置(80%)分だけ対象になります。

登録業者への支払いは全額対象ですが、未登録業者への支払いは80%分しか控除対象になりません(令和8年9月まで)。還付額が減る要因になります。

Q8. 課税事業者になったら、2年間はやめられないのですか?

A. あえて選択した場合は「2年縛り」があります。

「課税事業者選択届出書」を提出して課税事業者になった場合、原則として2年間は免税事業者に戻れません。還付を受けた翌年にすぐ免税に戻ることはできないので、2年トータルで損得を計算する必要があります。

Q9. 輸出と国内販売の両方をやっています。還付されますか?

A. 全体のバランスによります。

「輸出の還付額」と「国内売上の納税額」を相殺して、結果がマイナスなら還付、プラスなら納税です。

Q10. 還付金に税金はかかりますか?

A. 原則として還付金自体は益金ではありませんが、「還付加算金(利息)」は雑収入になります。

消費税の還付金(元本)は、払いすぎた税金が戻ってくるだけなので利益(益金)ではありません(※税抜経理の場合。税込経理の場合は雑収入処理しますが、同額の租税公課が減るため損益は中立)。 ただし、還付が遅れた際につく利息(還付加算金)は、雑収入として法人税の課税対象になります。

Q11. 途中で「3ヶ月特例」をやめることはできますか?

A. 2年間は継続が必要です。

課税期間の短縮特例を選択すると、2年間は元(年1回)に戻せません。事務負担に耐えられるかよく検討してください。

Q12. 輸入ビジネスですが、還付はありますか?

A. 基本的にはありません(納税になります)。

輸入時には通関で消費税を払いますが、国内で販売する際に消費税を預かるため、通常は「預かり>支払い」となり納税になります。

Q13. 従業員の給与は還付計算に入りますか?

A. 入れません(不課税です)。

給与には消費税がかかっていないため、どれだけ払っても還付の対象(課税仕入れ)にはなりません。外注費は対象になります。

Q14. 太陽光発電投資は還付を受けられますか?

A. 現在は非常に厳しい規制があります。

かつては還付スキームの定番でしたが、高額特定資産の3年縛りや、売電収入の減少により、メリットが出にくくなっています。慎重なシミュレーションが必要です。

Q15. 還付申告を税理士に頼むと報酬は高いですか?

A. 通常の申告より高くなる傾向があります。

消費税の集計が複雑になることや、税務調査リスクへの対応が含まれるため、通常の決算料とは別に「還付成功報酬」などが設定される場合があります。

Q16. 輸出証明書がない場合(ハンドキャリー等)はどうなりますか?

A. 輸出免税が認められず、課税売上(10%)とみなされます。

旅行客に店頭で販売した場合などは、パスポート情報などの免税手続きをしていない限り、国内売上と同じ扱いになります。

Q17. Airbnb(民泊)は還付対象になりますか?

A. 旅館業としての許可があれば可能性があります。

居住用賃貸ではなく「旅館業・簡易宿所」としての貸付(滞在期間1ヶ月未満など)であれば、建物にかかる消費税の還付を受けられる可能性があります。

Q18. 課税期間の短縮をした場合、法人税の申告も年4回になるのですか?

A. いいえ、消費税だけです。

法人税の申告は年1回のままです。消費税の申告だけ回数が増えます。※ただし、経理処理の負担は増えるため、体制が整っていることが前提となります。

Q19. 還付加算金(利息)はつきますか?

A. つきます。

還付が決定してから支払いまでにかかった期間に応じて、利息相当分(還付加算金)が上乗せされます。これは雑収入(課税対象)です。

Q20. 自分で還付申告できますか?

A. お勧めしません。

還付申告は税務署のチェックが非常に厳しく、計算ミスや書類不備があると否認されるだけでなく、過少申告加算税などのペナルティを受けるリスクがあります。プロに任せるのが安全です。

まとめ:還付は「時間」との勝負

消費税の還付は、ビジネスの利益を大きく底上げする強力な武器です。 しかし、その権利を手にするためには、「課税期間が始まる前」に動かなければなりません。

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記事執筆監修者

荒川会計事務所(経営革新等支援機関(認定支援機関))代表税理士・登録政治資金監査人・行政書士の荒川 一磨です。

    

会社設立と創業融資を得意とし、何でも相談できる話しやすいパートナーであることを心掛けている事務所です。

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