【取締役の任期】役員変更登記を忘れると過料も!任期2年と10年の違いを税理士が解説

あなたの会社の、2回目の設立記念日が近づいてきたある日。あなたは、日々の事業に追われ、その重要な節目を、すっかり忘れていました。その数ヶ月後、裁判所から一通の通知書が届きます。表題は「過料決定」。理由の欄には、「登記懈怠(とうきけたい)」という、見慣れない法律用語が記されていました…。

これは、決して他人事ではありません。会社の経営者が、知らず知らずのうちに犯してしまう、最もポピュラーで、そして、手痛い金銭的ペナルティに繋がりかねない法的なミスのひとつ。それが、「取締役の任期満了に伴う、役員変更登記の失念」です。

「うちの会社は、役員は自分一人だし、ずっと続けるつもりだから関係ない」
「役員の任期なんて、会社設立の時に決めたきり、気にしたこともなかった…」

もし、あなたがそのように考えているとしたら、あなたの会社は、気づかぬうちに法律違反の状態に陥っているかもしれません。

この記事では、単に「取締役の任期は原則2年です」という事実を伝えるだけではありません。その法律の背景にある考え方、任期満了時に必ず行わなければならない法的な手続きの全貌、そして、あなたの会社の未来を左右する、戦略的な「任期の決め方(2年 vs 10年)」について、新宿で数多くの企業のコーポレートガバナンスを支えてきた私たちが、その全ての知識を、徹底的に解説していきます。

第1章:【法律の原則】取締役の任期、その基本ルールを理解する

まず、会社法で定められている、取締役の任期に関する、揺るぎない基本ルールから理解しましょう。

原則は「2年」。ただし、その正確な意味は?

会社法第332条において、株式会社の取締役の任期は、原則として「選任後2年以内に終了する事業年度のうち、最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」と、少々複雑に定められています。

これを分かりやすく言うと、「就任してから、2回目の決算を迎えた後の、定時株主総会が終わるまで」ということです。例えば、3月決算の会社で、2024年6月の株主総会で就任した取締役の任期は、2年後の2026年3月期の決算に対応する、2026年6月頃に開催される定時株主総会が終わった瞬間に、満了します。ぴったり2年間ではない、という点がポイントです。

中小企業の特権:任期を「最長10年」まで伸長できる条件

「毎回2年ごとに手続きするのは、面倒だ…」。そう考える経営者様のために、法律は、特定の条件を満たす会社に対して、この任期を、定款で定めることにより、最長で「10年」まで伸長することを認めています。

その特定の条件とは、「株式の譲渡制限に関する定めがある会社(非公開会社)」であることです。

これは、「当会社の株式を譲渡により取得するには、当会社の承認を要する」といった条文を、定款に定めている会社のことです。会社の乗っ取りを防ぐために、ほとんど全ての中小企業は、この定めを置いています。つまり、あなたの中小企業も、定款にその一文を記載することで、取締役の任期を、2年から10年までの間で、自由に設定することが可能になるのです。

たとえ同じ人が続ける場合でも、「重任」の手続きは必須

任期が満了した際、たとえ、オーナー社長が、そのまま社長を続ける場合であっても、法的には、一度任期満了で「退任」し、その直後に、再び同じポジションに「就任」するという手続きを踏んだ、と解釈されます。

この、同じ人が取締役を続けることを「重任(じゅうにん)」と呼びます。そして、この「重任」があったという事実を、法務局に届け出て、登記簿を更新する手続きこそが、次章で解説する「役員変更登記」なのです。

第2章:【義務と罰則】絶対に忘れてはいけない「役員変更登記」

たとえ役員の顔ぶれが一人も変わらなくても、任期が満了すれば、必ず行わなければならない、法律で定められた「義務」。それが「役員変更登記」です。

手続きの全体像と、 unforgivingな「2週間」の期限

役員変更登記は、以下の流れで進めます。

  1. 定時株主総会の開催:決算承認などと共に、「取締役選任の件」を議題とし、任期満了する取締役を、再度取締役に選任する決議を行います。
  2. 株主総会議事録の作成:その決議内容を、法的に有効な議事録として、正確に作成します。
  3. 法務局への登記申請:株主総会の日から、2週間以内に、本店所在地を管轄する法務局へ、役員変更登記の申請を行います。この「2週間」という期限は、法律で定められた、非常に厳しいものです。

登記申請に必要な書類と費用

  • 主な必要書類:変更登記申請書、株主総会議事録、株主リスト、再任される取締役の就任承諾書、委任状(専門家に依頼する場合)など。
  • 費用(登録免許税):法務局に納める税金として、10,000円(資本金が1億円を超える会社は30,000円)の収入印紙が必要です。これとは別に、手続きを司法書士に依頼する場合は、数万円の手数料がかかります。

【最大の恐怖】登記を忘れた場合に科せられる「登記懈怠」というペナルティ

もし、この2週間の期限を過ぎても、正当な理由なく登記申請を怠った場合、それは「登記懈怠(とうきけたい)」という、会社法の義務違反となります。そして、この違反には、明確な罰則が用意されています。

  • 過料(かりょう):代表者個人に対して、裁判所から、100万円以下の過料(行政上の罰金)が科せられる可能性があります。この金額は、登記を怠っていた期間の長さに比例して、高くなる傾向にあります。数年間忘れていた場合、10万円以上の過料通知が、ある日突然、自宅に届くことも珍しくありません。
  • みなし解散:これは、さらに恐ろしいペナルティです。株式会社が、最後の登記から12年間、一度も何の登記も行わなかった場合、法務局は、その会社を「すでに事業活動を行っていない、休眠会社である」とみなし、職権で「解散」の登記を入れてしまうことがあります。役員変更登記は、最長でも10年に一度は必ず発生するため、これを怠っている会社が、この「みなし解散」の対象となるのです。みなし解散となると、事業の継続には、複雑な「会社継続」の登記手続きが必要となり、多大なコストと時間がかかります。

第3章:【戦略的選択】「任期2年」と「任期10年」、あなたの会社に最適なのは?

ここまで見てきたように、取締役の任期は、会社の運営コストと、法的なリスクに直結します。では、あなたの会社は、原則通り「2年」とすべきか、それとも、定款を変更して「10年」に伸長すべきか。その戦略的な選択について、メリットとデメリットを徹底的に比較・検討しましょう。

「任期10年」を選択した場合のメリット・デメリット

メリット

  • コストと手間の大幅な削減:これが最大のメリットです。2年ごとに発生する、登録免許税(1万円)と、司法書士への手数料(数万円)が、10年に一度で済むようになります。10年間で、数十万円単位のコスト削減に繋がります。株主総会の開催や、議事録作成といった、煩雑な事務手続きの手間も、大幅に削減できます。
  • 経営の安定性:経営陣が長期間固定されるため、中長期的な視点での、安定した経営が可能になります。

デメリット

  • 経営の硬直化:もし、あなた以外に複数の取締役がいる場合、その中の一人が、経営方針に反対したり、能力が著しく低いことが判明したりしても、任期である10年間は、原則として、その地位が保証されてしまいます。その役員を任期途中で解任するには、株主総会の特別決議という、非常に高いハードルを越える必要があり、場合によっては、損害賠償請求などの泥沼の紛争に発展するリスクがあります。
  • 株主からの信頼性の問題:もし、あなた以外の株主(例えば、出資してくれた友人や投資家など)がいる場合、「10年間、経営陣は安泰」という状況は、「経営の緊張感が欠如している」「株主の意思が反映されにくい」と見なされ、ガバナンス上の問題として、信頼を損なう可能性があります。

「任期2年」(原則通り)を選択した場合のメリット・デメリット

メリット

  • 経営の柔軟性(フレキシビリティ):2年ごとに、会社の経営体制を見直す機会が、自動的にやってきます。事業のステージに合わせて、最適な布陣を再構築したり、期待した成果を出せない役員に、円満に退任してもらったり(再任しない)といった、柔軟な経営判断が可能になります。
  • ガバナンスと規律:2年ごとに、定時株主総会を適切に開催し、議事録を作成し、登記を行う、という一連の手続きを繰り返すことは、会社のコーポレートガバナンスが、健全に機能していることの証となります。この規律ある経営姿勢は、金融機関や取引先からの信頼を、大きく高めます。

デメリット

  • コストと手間の発生:前述の通り、2年ごとに、登録免許税と専門家への手数料が、継続的に発生します。
  • 登記懈怠のリスク:手続きの頻度が高まる分、うっかり忘れてしまい、「登記懈怠」として過料のペナルティを受けてしまうリスクも、相対的に高まります。

プロの結論:あなたの会社の「株主構成」が、すべてを決める

  • あなたが株主100%の「一人会社」や、家族経営の会社の場合:
    経営陣の対立といったリスクがほぼ無いため、コストと手間の削減を優先し、定款で任期を「10年」に伸長するのが、極めて合理的で、賢明な選択と言えるでしょう。
  • 友人同士など、複数人で起業した会社や、外部の株主がいる会社の場合:
    将来の意見対立や、経営方針の変更といった、あらゆる可能性に備えるため、原則通り「2年」という短い任期にしておくことが、会社の柔軟性を保ち、長期的なトラブルを防ぐための、最も安全な選択です。2年ごとのコストは、そのための「保険料」と考えるべきです。

結論:会社の「健康診断」を、忘れていませんか?

取締役の任期管理と、それに伴う役員変更登記は、会社の健康を維持するための、定期的な「健康診断」のようなものです。

それを怠れば、気づかぬうちに、法律違反という名の「病気」が進行し、ある日突然、過料という「痛み」や、みなし解散という「深刻な症状」となって、あなたの前に現れます。

私たち荒川会計事務所は、あなたの会社の税務・会計のパートナーであると同時に、あなたの会社の法的な健康を管理する「主治医」でもあります。私たちは、お客様一社一社の、役員の任期満了日を、システムで完璧に管理しています。そして、その時期が近づけば、必ず事前にお知らせし、提携する司法書士と共に、株主総会の運営から、議事録の作成、そして法務局への登記申請まで、全てのプロセスを、あなたが意識することなく、完璧に、そして滞りなく完了させます。

あなたは、面倒な手続きや、期限の管理に、貴重な経営資源を割く必要はありません。安心して、あなたの会社の未来を創るという、最も重要な仕事に、集中してください。

あなたの会社の「次の役員変更登記」、いつかご存知ですか?

「え、いつだっけ…?」と、少しでも不安に思ったなら、手遅れになる前に、私たちにご相談ください。
無料で、あなたの会社の「法務の健康診断」をいたします。

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