【定款の事業目的】記載例60選|融資と許認可で失敗しない書き方を税理士が解説

会社の憲法とも呼ばれる「定款」。その作成において、多くの起業家が頭を悩ませるのが、「事業目的」の項目です。

「何を、どこまで、どのように書けばいいのだろう?」
「とりあえず、同業他社の真似をしておけば大丈夫だろうか?」

もし、あなたがそのように考えているとしたら、それは非常に危険なサインです。

定款の「事業目的」は、単なる手続き上の形式的な項目ではありません。それは、あなたの会社の法的な「活動範囲」を定義し、その会社の「DNA」を決定づける、極めて重要な戦略的文書なのです。この「事業目的」の書き方一つで、銀行からの融資が否決されたり、必要な許認可が下りなかったり、将来の事業展開が法的に制限されてしまったりと、取り返しのつかない事態を招く可能性があります。

この記事では、新宿で数えきれないほどの会社設立をサポートしてきた私たちが、単なる記載例の紹介に終わりません。まず、事業目的を定める上での「法的な4大原則」を理解し、次に、その記載が「融資」と「許認可」の成否にいかに直結するかを、具体的な事例と共に解説します。その上で、様々な業種で実際に使える、網羅的な記載例集をご提供します。

あなたの会社の未来を縛る「呪文」ではなく、未来の可能性を無限に広げる「設計図」を描くために。事業目的の全知識を、ここで手に入れてください。

第1章:事業目的を定める上での「4つの絶対原則」

記載例を見る前に、まず、法律が求める事業目的の基本的なルールを理解しましょう。この原則から外れた目的は、そもそも登記申請が受理されません。

原則1:適法性(法律に違反していないか)

当然のことながら、事業目的は、法律や公序良俗に反するものであってはなりません。例えば、「賭博場の経営」や「麻薬の密輸」といった目的は、登記できません。

原則2:営利性(利益を上げる目的があるか)

株式会社や合同会社は、事業を通じて利益を上げ、それを株主(出資者)に分配することを目的とした「営利法人」です。そのため、「ボランティア活動」や「寄付活動」だけを事業目的とすることはできません。ただし、事業の一環として、あるいはCSR活動として、利益を度外視した活動を行うことは問題ありません。

原則3:明確性(誰が読んでも理解できるか)

事業目的は、専門家でなくても、一般の人が読んで、その会社が何をやっているのかを、ある程度具体的に理解できる言葉で書かれている必要があります。専門的すぎる用語や、曖昧で、解釈が分かれるような表現は避けるべきです。法務局の登記官が「この目的では、何をやっている会社か判断できない」と判断した場合、修正を求められます。

原則4:具体性(事業内容が特定できるか)

明確性と似ていますが、事業内容がある程度、具体的に特定できる必要があります。例えば、「商業」や「サービス業」といった、あまりに漠然とした表現だけでは登記できません。「衣料品の販売」「飲食店の経営」「経営コンサルティング」といったレベルの具体性が求められます。

第2章:【戦略的視点】事業目的が、あなたの会社の「未来」を決める

上記の4大原則は、あくまで「登記が受理される」ための最低ラインです。しかし、本当に重要なのは、その先。あなたの会社の「成長」を左右する、戦略的な視点です。

①「許認可」の成否は、事業目的の「魔法の言葉」で決まる

特定の事業を始めるためには、国や都道府県から「許認可」を得る必要があります。そして、その許認可を申請する際、行政は、あなたの会社の定款に、法律で定められた特定の文言が、一字一句違わずに記載されているかを、厳しくチェックします。

もし、この「魔法の言葉」が一つでも欠けていれば、許認可は絶対に下りません。その場合、株主総会を開き、数万円の費用をかけて定款変更の登記を行い、再度申請するという、多大な時間と費用のロスが発生します。

許認可を要する事業の例 事業目的に記載すべき「魔法の言葉」の例
中古品の売買(古物商) 古物営業法に基づく古物の売買及び委託販売
人材派遣業(労働者派遣事業) 労働者派遣事業法に基づく労働者派遣事業
不動産業(宅地建物取引業) 宅地建物取引業法に基づく宅地建物取引業
介護事業 介護保険法に基づく居宅サービス事業
建設業 土木工事業、建築工事業、大工工事業、左官工事業、…(許可を取りたい業種を具体的に列挙)

②「融資」の成否は、事業目的の「一貫性」で決まる

金融機関の融資担当者は、あなたの事業計画書と、定款の事業目的を、必ず見比べます。彼らが見ているのは、「この会社は、何で稼ぐ専門家なのか?」という、事業の核となる専門性と、経営者の「集中力」です。

もし、事業目的の欄に、「ITコンサルティング」「飲食店の経営」「アパレルの輸入販売」「不動産賃貸業」…といったように、関連性のない事業が何十個も羅列されていたら、担当者はどう思うでしょうか?「この経営者は、一体何がやりたいんだ?」「事業が分散しすぎて、どれも中途半端に終わるのではないか?」と、強い懸念を抱くでしょう。

事業目的は、あなたの事業計画の「要約」です。そこに、明確で、一貫性のあるストーリーがなければ、融資という名の、あなたの未来への投資を、勝ち取ることはできません。

③「将来性」は、事業目的の「拡張性」で決まる

では、事業目的は、今やる事業だけを、できるだけ絞って書くべきなのでしょうか?答えは「ノー」です。会社の事業目的は、そう簡単に変更できるものではありません。将来、少しでも展開する可能性のある事業は、設立の段階で、あらかじめ記載しておくべきです。

例えば、現在はWebサイト制作だけを行っていても、将来的にWebマーケティングのコンサルティングや、自社メディアの運営を行う可能性があるなら、それらも目的として記載しておきます。

プロの視点:
効果的な事業目的のリストは、以下のように構成します。
1. 現在行う、最も核となる事業を、具体的に記載する。
2. 将来、1~3年以内に展開する可能性の高い、関連事業を記載する。
3. 最後に、「前各号に附帯又は関連する一切の事業」という、魔法の言葉を必ず入れる。

この最後の「附帯関連事業」の一文が、目的として具体的に記載していない細かな業務(例えば、主事業に関するセミナーの開催や、書籍の執筆など)を行う際の、法的な根拠となり、あなたの会社の活動の自由度を担保してくれるのです。

第3章:【業種別】そのまま使える!定款・事業目的の記載例60選

これらの原則と戦略を踏まえた上で、様々な業種で実際に使える、具体的な記載例をご紹介します。これらを参考に、ご自身の事業に合わせて、組み合わせてみてください。

IT・Webサービス関連

  1. コンピュータソフトウェアの企画、開発、設計、製造、販売及び保守
  2. ウェブサイト、ウェブコンテンツ及びデジタルコンテンツの企画、制作、配信、運営及び管理
  3. インターネットを利用した各種情報提供サービス
  4. インターネット広告代理店業
  5. 企業の経営及び情報技術に関するコンサルティング
  6. 情報通信システムに関するコンサルティング及び監査
  7. サーバー、ネットワークの設計、構築、運用及び保守
  8. 各種アプリケーションソフトの企画、開発、制作、販売及び保守
  9. EC(電子商取引)サイトの企画、制作、販売、運営及び管理
  10. キャラクターの企画、開発、デザイン及び著作権の管理

コンサルティング関連

  1. 経営コンサルティング業
  2. 企業の営業及びマーケティングに関するコンサルティング及び支援
  3. 人材の採用、育成及び能力開発に関するコンサルティング
  4. 各種セミナー、講演会、研修等の企画、立案、運営及び実施
  5. 市場調査、分析及び各種情報の収集、分析、提供

飲食関連

  1. 飲食店の経営
  2. 喫茶店の経営
  3. 食料品、飲料品の企画、製造、加工及び販売
  4. 弁当、惣菜の製造、加工及び販売
  5. ケータリングサービス業

小売・卸売関連

  1. 衣料品、服飾雑貨、アクセサリーの企画、製造、販売及び輸出入
  2. 日用品雑貨、家具、室内装飾品の企画、製造、販売及び輸出入
  3. 古物営業法に基づく古物の売買
  4. 通信販売業務
  5. 各種商品の卸売業

不動産・建設関連

  1. 不動産の売買、賃貸、仲介、管理及び鑑定
  2. 宅地建物取引業
  3. 建築工事、土木工事、内装仕上工事の設計、施工、管理及び請負
  4. リフォーム工事の設計、施工及び請負
  5. 建築物及び室内空間のデザイン企画

クリエイティブ・イベント関連

  1. グラフィックデザイン、イラストレーションの企画及び制作
  2. 映像、動画コンテンツの企画、撮影、編集及び制作
  3. 各種イベント、興行の企画、制作、運営及び管理
  4. 書籍、雑誌その他印刷物の企画、編集、制作及び出版
  5. 写真の撮影、現像及び販売
  6. タレント、アーティスト、モデルのマネジメント及びプロモート
  7. 広告代理店業及び各種広告宣伝に関する業務
  8. 企業のCI、VIの企画及び制作
  9. 店舗、商業施設等の空間デザイン、プロデュース
  10. 音楽原盤の企画、制作及び著作権の管理

教育・人材・支援関連

  1. 学習塾、予備校、セミナーの企画及び運営
  2. 語学教室の経営
  3. 教材の企画、開発、制作及び販売
  4. 留学に関する情報提供、コンサルティング及び手続き代行
  5. 労働者派遣事業
  6. 有料職業紹介事業
  7. キャリアカウンセリング及びキャリア開発支援
  8. ベビーシッター、保育事業
  9. 介護保険法に基づく居宅サービス事業
  10. 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく障害福祉サービス事業

美容・健康関連

  1. 美容院、理容院の経営
  2. エステティックサロン、ネイルサロンの経営
  3. リラクゼーションサロンの経営
  4. 化粧品、美容機器の企画、製造、販売及び輸出入
  5. 健康食品、サプリメントの企画、製造、販売及び輸出入

その他

  1. 旅行業法に基づく旅行業
  2. 倉庫業
  3. 警備業法に基づく警備業
  4. 損害保険代理店業及び生命保険の募集に関する業務
  5. 前各号に附帯又は関連する一切の事業

結論:会社の「DNA」の設計は、専門家と共に

定款の「事業目的」は、あなたの会社の「DNA」です。それは、設立時の現在地を定めるだけでなく、将来、あなたの会社がどのような姿に成長していくかの可能性を、法的に決定づける、極めて重要な設計図なのです。

この最も重要な設計図を、インターネットからダウンロードした、誰が作ったかも分からないテンプレートで済ませてしまう。その行為が、あなたの会社の未来に、どれほど大きなリスクをもたらすか、もうお分かりいただけたかと思います。

私たち荒川会計事務所は、テンプレートを一切使いません。あなたの事業内容と、あなたが描く3年後、5年後、10年後の未来のビジョンを、深く、そして丁寧にヒアリングします。その上で、あなたの会社の成長を縛ることなく、かつ、融資や許認可で最大限の力を発揮する、あなただけの「事業目的」を、司法書士などの専門家と連携しながら、オーダーメイドで設計します。

あなたの会社の「DNA」、間違った設計になっていませんか?

定款を完成させてしまう、その前に。
まずは無料相談で、あなたの事業計画に最適な「事業目的」を、私たちと一緒に考えましょう。

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