会社の商号、本店所在地、資本金、役員構成…これら全ての戦略的な決定を終え、いよいよあなたの会社を法的に誕生させる最終ステップ、それが「設立登記申請」です。この登記申請は、いわば行政に対する「会社の出生届」。この手続きが完了して初めて、あなたの会社は社会的に認められた存在となります。
しかし、この最終ステップは、数多くの専門的な書類を作成し、一分の隙もなく整える、非常に緻密な作業が求められます。登記申請は、パズルのピースを正確に組み合わせる最後の仕上げのようなもの。一つでもピースが欠けていたり、形が違っていたり(書類の不備、押印ミス、日付の矛盾など)すると、法務局は申請を受理してくれません。その結果、事業のスタートが遅れ、銀行口座の開設や融資の実行にも影響が及ぶ…といった事態になりかねません。
このページでは、新宿で数多くの会社設立に、その土台となる財務戦略の策定から携わってきた私達税理士が、提携する司法書士の専門的知見も交えながら、会社設立登記に必要な書類のすべてを、「なぜその書類が必要なのか」という目的から、「具体的な作成方法と注意点」まで、完全マニュアルとして徹底的に解説します。
第1章:登記申請の全体像と準備の心構え
個別の書類作成に入る前に、まずは登記申請の全体像と基本ルールを把握しましょう。
提出先はどこ?
設立する会社の本店所在地を管轄する「法務局」に提出します。新宿区に本店を置く場合は、「東京法務局 新宿出張所」が管轄となります。
誰が申請する?
申請を行うのは、設立される会社の「代表取締役」です。専門家(司法書士)に依頼する場合は、委任状を作成し、代理で申請してもらうことになります。
書類作成の基本ルール
- 用紙はA4サイズで、原則として片面印刷で作成します。
- パソコンで作成するのが一般的ですが、手書きでも問題ありません。
- 複数のページにわたる書類(登記申請書と収入印紙の台紙など)は、ホチキスで左側を綴じ、ページの間に会社の実印(代表印)で「契印(けいいん)」を押します。これは、書類が一体のものであることを証明するための重要な押印です。
第2章:【書類別】作成・準備方法の徹底解説(発起人設立・取締役会なしの場合)
ここでは、スタートアップで最も一般的な「発起人設立」かつ「取締役会を設置しない」シンプルな株式会社を前提に、必要書類を一つひとつ詳しく見ていきます。
1. 登記申請書
全ての申請書類の「表紙」となる、最も重要な書類です。法務局のウェブサイトにある雛形を参考に作成します。
- 記載内容:商号、本店所在地、登記の事由(「令和○年○月○日発起設立の手続終了」など)、登記すべき事項(※)、課税標準金額(資本金の額)、登録免許税額、添付書類の一覧などを記載します。
- 登記すべき事項:会社の目的、発行可能株式総数、役員の氏名など、登記簿に記載される内容を正確に記述します。この部分の記載方法は決まっており、間違いやすいポイントです。
- 押印:作成した会社の代表印(会社実印)を押印します。
2. 登録免許税の収入印紙を貼付した台紙
会社設立の「手数料」である登録免許税を納めるためのものです。
- 金額:株式会社の場合、資本金の額 × 0.7% です。ただし、この計算額が15万円に満たない場合は、一律で15万円となります。ほとんどのスタートアップは、最低額の15万円を納めることになります。
- 準備方法:A4の白紙を一枚用意し、それを「台紙」とします。郵便局や法務局内の印紙売り場で15万円分の収入印紙を購入し、この台紙の中央に貼り付けます。この収入印紙には、絶対に割印や消印をしてはいけません。
3. 定款
会社の憲法となる書類です。登記申請の段階では、すでに公証役場での認証手続きを終えている必要があります。
- 準備方法:公証役場で認証を受け、返却された「定款の謄本」を提出します。ご自身で作成しただけの定款では受理されません。
4. 発起人の決定書(または発起人会議事録)
定款で具体的な本店所在地(○番○号まで)を定めず、「東京都新宿区」のように最小行政区画までしか定めていない場合に、設立時までに発起人全員の同意で具体的な所在地を決定したことを証明するための書類です。
5. 設立時取締役の就任承諾書
取締役に選ばれた人が、その就任を確かに承諾したことを証明する書類です。
- 記載内容:「私は、貴社の設立時取締役に就任することを承諾します。」という文言と共に、日付、本人の住所・氏名を記載し、押印します。
- 押印:押印する印鑑は、市区町村に登録している「個人の実印」である必要があります。100円ショップの認印などでは認められません。
6. 設立時代表取締役の就任承諾書
代表取締役に選ばれた人が、その就任を承諾したことを証明します。ただし、取締役が1名のみの場合は、その人が自動的に代表取締役となるため、この書類は不要です。
7. 取締役全員の印鑑証明書
就任承諾書に押された印鑑が、本人の実印であることを証明するために添付します。
- 注意点:発行後3ヶ月以内のものである必要があります。期限切れに注意しましょう。
8. 資本金の払込証明書
定款で定めた資本金が、実際に発起人から払い込まれたことを証明する、非常に重要な書類です。
- 作成方法:
- 「払込証明書」という表題の書類を作成し、商号、払込総額、日付などを記載し、会社の代表印を押印します。
- 発起人代表の個人通帳の、①表紙、②見開き1ページ目(支店名や口座名義人がわかるページ)、③各発起人からの振込履歴が記帳されているページ、の3点をコピーします。
- 1で作成した払込証明書と、2でコピーした通帳のページをホチキスで綴じ、各ページの間に会社代表印で契印を押します。
- 注意点:振込日は、定款の作成日以降である必要があります。また、残高証明書では認められず、「誰からいくら振り込まれたか」という履歴がわかるページが必要です。
9. 印鑑届書
法務局に、会社の実印(代表印)を登録するための書類です。この届出をすることで、会社の「印鑑証明書」が発行できるようになります。
- 記載・押印:届出書には、登録する会社の実印と、届出人である代表取締役の個人の実印を押印します。個人の印鑑証明書(3ヶ月以内)の添付も必要です。
10. 登記すべき事項を保存したCD-Rまたはオンライン申請
登記簿に記載される内容(商号、本店、目的、資本金、役員など)を、法務局がデータとして取り込めるように、テキストファイルで提出する必要があります。
- 作成方法:法務局指定のフォーマットに従い、メモ帳などのテキストエディタでデータを作成し、CD-RやDVD-Rに書き込んで提出します。
- オンライン申請という選択肢:この作業は非常に手間がかかり、フォーマットを間違えやすいポイントです。近年は、法務省の「登記・供託オンライン申請システム」を利用したオンライン申請も可能になっており、専門家に依頼する場合は、通常こちらの方法で行います。
第3章:専門家への依頼という選択肢 – 税理士と司法書士の役割
餅は餅屋。登記手続きの専門家は「司法書士」です
ここまで解説してきた登記申請書類の作成と提出は、法律で定められた「司法書士」の専門業務です。彼らは、登記に関する法務のプロフェッショナルであり、書類の作成から申請までを完璧に代行してくれます。
では、私達「税理士」の役割は何か?それは、登記申請の「前段階」と「後」にあります。会社の目的や資本金の額といった登記内容そのものが、将来の税務や融資にどう影響するかをアドバイスし、登記完了後には、税務署や年金事務所への各種届出を迅速に行い、会計の仕組みを構築することです。
信頼できる税理士は、必ず優秀な司法書士との連携体制を築いています。お客様を「司令塔」として、司法書士と密に連携し、戦略的な会社設計から、ミスのない登記申請、そして設立後の財務基盤構築までを、ワンストップでシームレスにサポートする。それが、私達の提供する価値です。
終章:完璧な書類準備で、スムーズな船出を
会社設立登記は、あなたのビジネスが法的に誕生する、いわば神聖な儀式です。その大切な手続きで、書類の不備という思わぬトラブルに時間を取られてはなりません。登記の遅れは、事業のスタートの遅れに直結します。
一つひとつの書類の意味を理解し、丁寧に準備を進めることが、スムーズな船出の第一歩です。そして、その複雑なプロセスを専門家に任せることは、あなたの最も貴重な資源である「時間」を、本来注力すべき事業そのものに投資するための、賢明な経営判断と言えるでしょう。
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