「人材派遣会社を設立したいけれど、何から手をつけていいか分からない…」
「通常の会社設立とは何が違うの?特別な要件があるって聞いたけど…」
このような疑問をお持ちの皆様へ。人材派遣業は、社会のニーズに応えるやりがいのあるビジネスですが、その設立には一般的な株式会社の設立に加えて、労働者派遣法に基づく特別な許可要件や準備が必要です。
この記事では、派遣会社設立を検討されている方が、スムーズかつ確実に事業を開始できるよう、厚生労働大臣の許可を得るための具体的な要件、必要な資金、準備期間、そして注意すべき落とし穴までを徹底的に解説します。さらに、複雑な手続きを効率的に進めるための専門家活用の重要性についても触れますので、ぜひ最後までお読みください。
---人材派遣会社設立の第一歩:事業形態と必要な許可
人材派遣会社を設立する際、まず理解すべきは、どのような形態の派遣事業を行うかによって、必要な許可の種類や要件が異なるという点です。
1. 一般労働者派遣事業(登録型・常用型)
一般的な人材派遣事業のほとんどがこの「一般労働者派遣事業」に該当します。これは、派遣元となる会社が雇用する労働者を、派遣先の企業に派遣する事業です。
その中でも、以下の2つの形態に分けられます。
- 登録型派遣:派遣会社に登録している派遣スタッフが、仕事がある時だけ派遣会社と雇用契約を結び、派遣先の企業で働く形態です。多くの人材派遣会社がこの形態を採用しています。
- 常用型派遣:派遣会社が派遣スタッフを正社員または契約社員として常用雇用し、派遣先の企業に派遣する形態です。派遣期間が終了しても、派遣会社との雇用契約は継続します。
この一般労働者派遣事業を行うためには、厚生労働大臣の許可が必須となります。許可なく事業を行うことは法律で禁じられており、違反した場合には重い罰則が科せられます。
2. 特定労働者派遣事業(旧制度)
かつては「特定労働者派遣事業」という、常用雇用される労働者のみを派遣する事業形態がありましたが、2015年の労働者派遣法改正により、この区分は廃止されました。現在は、すべての労働者派遣事業が「一般労働者派遣事業」として厚生労働大臣の許可の対象となっています。
したがって、これから人材派遣会社を設立する場合は、必ず「一般労働者派遣事業」の許可要件を満たす必要があります。
---厚生労働大臣の許可を得るための必須要件
人材派遣事業の許可を得るためには、通常の会社設立(法人登記)手続きに加え、労働者派遣法で定められた厳しい許可基準を満たす必要があります。主な要件を見ていきましょう。
1. 派遣元責任者の配置と講習受講
人材派遣事業を行う上で、「派遣元責任者」の配置は必須です。派遣元責任者は、派遣労働者の適切な就業を確保し、派遣先企業との調整を行うなど、派遣事業の中心的な役割を担います。
- 派遣元責任者講習の受講:許可申請を行う前に、派遣元責任者として選任される者は、厚生労働大臣が指定する機関が実施する「派遣元責任者講習」を受講しなければなりません。この講習は、労働者派遣事業に関する法令や実務知識を習得するためのものです。
- 雇用管理実務経験:講習を受講するためには、原則として雇用管理の実務経験を3年以上有していることが条件となります。これには、人事、労務、採用、教育訓練などの業務経験が含まれます。この経験が不足している場合は、許可を得ることができませんので、人材派遣会社の設立を検討する際には、この要件を満たす人材がいるかどうかの確認が非常に重要です。
2. 資産要件(基準資産額と現預金)
人材派遣会社には、派遣労働者の給与支払いや事業運営を安定させるため、厳格な資産要件が課せられています。
- 基準資産額:会社の基準資産額(資産総額から負債総額を差し引いた額)が2,000万円以上であることが求められます。これは、会社の財務基盤の安定性を示す重要な指標です。
- 現預金:上記基準資産額のうち、現金および預金の合計額が1,500万円以上であることが必要です。さらに、事業所の数に応じて必要な現預金額が増加する場合があります(例えば、複数の事業所を持つ場合は、各事業所に所定の現預金が必要)。
これらの資産要件は、会社の設立時だけでなく、事業を継続する上でも常に満たしている必要があります。特に、設立直後で自己資金が少ない場合や、現物出資を検討している場合は、この現預金要件を満たせるかどうかが大きなポイントとなります。
3. 事業所の要件
派遣事業を行う事業所にも、いくつかの要件が定められています。
- 面積:原則として、20㎡以上の面積を有していることが求められます。これは、派遣労働者の登録・面談スペースや、適切な執務スペースを確保するためです。
- 立地:事業所の周辺に、風俗営業法で規制される風俗営業店がないことが条件となります。これは、派遣労働者の健全な就業環境を保護するための規制です。
- 専用性:事業所は、労働者派遣事業を独立して行えるような形態である必要があります。自宅兼事務所の場合などは、明確に事業スペースを区切るなどの対応が求められることがあります。
- 情報管理:個人情報保護の観点から、登録者情報などを適切に管理できる施錠可能な設備やスペースの確保が必要です。
4. その他(会社の目的、社会保険等)
- 会社の目的:会社の定款および法人登記の目的に、「労働者派遣事業」が明確に含まれている必要があります。
- 社会保険・労働保険:派遣元となる会社は、派遣労働者を含む全ての従業員について、社会保険(健康保険・厚生年金保険)および労働保険(雇用保険・労災保険)への加入義務を適切に履行できる体制を整えている必要があります。
- 個人情報保護:派遣労働者の個人情報を適切に取り扱うための体制(プライバシーポリシーの策定、情報管理体制など)が求められます。
派遣会社設立の具体的な手続きと流れ
派遣会社の設立は、大きく分けて「法人設立手続き」と「労働者派遣事業許可申請」の二段階で進めます。
ステップ1:会社の設立(法人登記)
まずは、一般的な株式会社の設立手続きを行います。
- 基本事項の決定:会社名(商号)、所在地、資本金、役員構成、事業目的などを決定します。この際、事業目的に「労働者派遣事業」を必ず含めます。
- 定款の作成・認証:会社のルールブックである定款を作成し、公証役場で認証を受けます。
- 資本金の払い込み:発起人(設立者)が会社の銀行口座に資本金を払い込みます。
- 法人登記申請:必要書類を揃え、会社の所在地を管轄する法務局に設立登記を申請します。登記が完了すると、会社の法人格が成立します。
ステップ2:労働者派遣事業許可申請
法人登記が完了し、会社が正式に設立されたら、いよいよ厚生労働大臣への許可申請です。
- 許可要件の確認・準備:上記の基準資産額、現預金、事業所要件などを満たしていることを確認し、不足があれば準備します。派遣元責任者の選任と講習受講もこの段階までに完了させておく必要があります。
- 必要書類の作成・収集:労働者派遣事業許可申請には、膨大な量の書類が必要です。
- 労働者派遣事業計画書
- 財産に関する書類(貸借対照表、損益計算書など)
- 組織図、役員名簿
- 派遣元責任者講習受講証明書
- 事業所の図面、賃貸借契約書など
- 個人情報保護に関する書類
- その他、会社の状況に応じた書類
- 厚生労働省への申請:必要書類が全て揃ったら、会社の所在地を管轄する都道府県労働局を経由して、厚生労働大臣(実際には労働局が窓口)へ許可申請を行います。
- 審査と実地調査:申請後、労働局による書類の厳密な調査が行われます。さらに、申請した事業所への現地調査(実地調査)も行われ、事業所の広さ、設備、情報管理体制などが実際に確認されます。場合によっては、追加資料の提出や質疑応答が求められることもあります。
- 許可の取得:審査と実地調査を通過すれば、無事に厚生労働大臣の許可が下ります。これで、人材派遣事業を開始できるようになります。
派遣会社設立にかかる期間と費用、そして専門家の活用
設立にかかる期間
人材派遣会社の設立には、かなりの時間と労力を要します。
- 会社設立(法人登記):準備期間を含め、通常1ヶ月〜2ヶ月程度。
- 労働者派遣事業許可申請:書類提出後、許可が下りるまでに最低でも3ヶ月程度かかります。これは、労働局による厳密な審査や実地調査に時間を要するためです。
これらを合わせると、**準備期間を含めると半年以上**かかることも珍しくありません。特に、許可要件を満たすための資金調達や、雇用管理の実務経験を持つ人材の確保に時間がかかる場合があります。
設立にかかる費用
一般的な会社設立にかかる費用に加え、人材派遣事業特有の費用も発生します。
- 会社設立費用:約25万円程度(登録免許税、定款認証手数料など)
- 基準資産額・現預金:許可要件として最低2,000万円の基準資産額と1,500万円の現預金が必要です。これは費用ではなく、会社の財務基盤として準備すべき資金です。
- 派遣元責任者講習受講料:数万円程度。
- 社会保険・労働保険の初期費用:従業員を雇用するための保険料。
- 事務所の賃料・設備費:20㎡以上の事務所を確保するための費用。
- 専門家への依頼費用:行政書士、社会保険労務士、税理士などへの報酬。後述しますが、この費用はスムーズな設立のために必要不可欠な投資と言えます。
専門家活用の重要性
人材派遣会社の設立は、その許可要件の厳しさ、膨大な書類の作成、そして複雑な審査プロセスから、非常に難易度の高い手続きと言えます。
- 行政書士:会社設立の登記手続き(定款作成・認証)のサポートに加え、労働者派遣事業許可申請に必要な書類(事業計画書、組織図など)の作成を専門に行います。許可要件のチェックや、労働局との事前相談の代理なども依頼できます。
- 社会保険労務士:社会保険・労働保険の加入手続きや、就業規則の作成、労務管理体制の構築など、派遣事業に必要な労務関連の専門家です。
- 税理士:資金計画の策定、基準資産額や現預金要件を満たすためのアドバイス、税務申告など、財務・税務面からサポートします。
これらの専門家と連携することで、
- 書類作成のミスや漏れを防ぐ:複雑な申請書類を正確に作成し、許可申請がスムーズに進みます。
- 審査期間の短縮:要件を確実に満たし、不備なく申請することで、審査期間の長期化を防げます。
- 法改正への対応:労働者派遣法は改正が多く、専門家から常に最新の情報とアドバイスを得られます。
- 事業に集中できる:煩雑な手続きを専門家に任せることで、事業計画の策定や人材募集など、本業に集中できます。
まとめ:派遣会社の設立は計画的に、そして専門家とともに
人材派遣会社の設立は、単に会社を登記するだけでは始まりません。厚生労働大臣の厳しい許可基準を満たし、膨大な書類を正確に作成・提出し、労働局の審査と実地調査をクリアする必要があります。特に、2,000万円以上の基準資産額や1,500万円以上の現預金、そして3年以上の雇用管理実務経験を持つ派遣元責任者の存在は、乗り越えるべき大きな壁となるでしょう。
これらの要件を満たし、スムーズに許可を取得するためには、**設立の準備段階から専門家(行政書士、社会保険労務士、税理士など)の支援を受けることが、成功への最も確実な道**です。綿密な計画と、適切なサポートを得ることで、あなたの目指す人材派遣事業を確実にスタートさせることができるでしょう。
当事務所では、人材派遣会社の設立に関するご相談を幅広く承っております。複雑な手続きを分かりやすくサポートし、お客様の事業の成功を後押しいたします。ぜひお気軽にお問い合わせください。

